INFINITE・BUILD-無限創造-   作:たいお

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第13話 変える決意=変わらない想い

 

 クラス代表対抗戦、およびゴーレム襲撃から数日後。

 当日に起こった出来事は学園関係者全員に箝口令が敷かれ、以降も外部に漏れることは無かった。もし部外者に知られた暁にはバラした方もバラされた方も厳しい制約が課せられるので、誰も好き好んで言い触らそうとは思わない。

 

 また、対抗戦はそのまま中止ということで話が纏まることとなり、優勝賞品であった学食デザートフリーパス半年分は夢幻の存在となった。

 その事実を聞いて、学園で最もショックを受けている人物は今……。

 

「はぁ~……もぐもぐ……最悪だ……もぐもぐ」

 

 食堂で盛大な溜め息を吐きながら、クッキーを黙々と食べ進める戦兎。

 クッキーだけではない、彼の周りにはチョコやらケーキやら和菓子やら甘い物が大量に置かれており、一種のバリケードのようになっていた。

 普通の人が見たら胸焼けしそうな量のお菓子を戦兎が食べている理由は、ただのやけ食い。無償で学食のデザートにありつけるチャンスを失ったショックは戦兎にとって大きかったらしく、それを埋める為にこうして甘い物を食べ続けているのだ。

 

 彼に同席している鈴音は、その食べっぷりを見て頬を引き攣らせていた。

 

「あ、あんた……よくこんな量を食べるわね。しかもさっきから全然ペース落ちてないし」

「もぐもぐ、折角さ……もぐもぐ、浮く予定のお金と……もぐもぐ……買おうと思ってた研究用……もぐもぐ、備品とか計画してたのに……むしゃむしゃ」

「あぁもう、もぐもぐもぐもぐうっさい!食ってる時に喋るんじゃないわよ!食うか喋るかどっちかにしなさい!」

「むぅ……」

 

 鈴音に注意されて、戦兎は食べる方に専念し始める。

 頬がお菓子で膨らむくらいに食べていく彼を前にしつつ、鈴音も話を進める。

 

「まぁ確かに、対抗戦が中止になったせいであたしも一夏との勝負がナアナアになっちゃったし……なーんか不完全燃焼っていうか、収まりが悪いのよねぇ」

「むぐむぐ……」

「可愛げの無いリスね……あーあ、なんかライバルも増えてるっぽいし、あたしもなんとかしなきゃなぁ」

 

 背もたれに体重を駆けながら、後頭部で手を重ねる鈴音。

 男子と女子の比率が1:9以上のこの学園における、一夏の競争率が非常に高い。彼自身のルックスが良いこと、織斑 千冬の弟であるということ等から人気が高く、彼とお近づき以上の関係になろうと考えている女子生徒は数多い。

 特に鈴音が要注意している人物は2名。一夏のファースト幼馴染である篠ノ之 箒とイギリスの代表候補生セシリア・オルコット、彼女達は一夏の傍にいる比率が他の女子達よりも高いのだ。ボヤボヤしていたら彼女達に先手を取られてしまうだろう。昔の約束が通用しなくなった今、鈴音は彼女達を無視するわけにはいかなかった。

 

「っていうか、あんたも学園での評判をなんとかしなさいよ。あんたいつの間にかまた評価落ちてるじゃない。何したのよ」

「もぐ……いや、何もしてないけど?」

 

 戦兎はあっけからんと答えてみせる。

 

 何かしたから評価が落ちたのではなく、実は何もしなかったから評価が落ちたのだ。

 ゴーレム襲撃の際にアリーナ内の扉がロックされた際、観客席にいた女子生徒達は逃げ場を失ってその場で立ち往生する羽目になった。アリーナの方ではゴーレムと一夏達が戦っている中、その巻き添えに遭わないかと酷く怯える者も少なからずいた。

 そんな中で、誰かが戦兎に期待を抱いたのだ。ビルドである彼なら、きっと自分達を助けてくれる筈だと。

 

 しかし戦兎は脱出を望んでいた生徒達を余所に、アリーナの舞台に入ってゴーレムとの戦闘に移行したのだ。その行動に、彼女達を助けようという気どころか避難させるという気すら感じられなかった。

 結果的に戦兎はゴーレムを撃破し、一般生徒が巻き添えを食うことなく事件は解決した。が、やはり直接助けてくれなかったという周囲の不満から、彼の評価は更に下がることとなった。

 

「今はまだギリギリ大丈夫みたいだけど、1組と2組の子の中にもあんたに対して微妙な反応する子が出てきかねないわよ?もうちょっと危機感抱いたら?」

「っていっても、俺は特に困りはしないし……あぁでも、実験に使えそうなネタ提供してくれなくなるか……」

「……駄目ねこれは」

 

 周りの目を気にしない彼に何を言っても暖簾に腕押し馬の耳に念仏。

 鈴音はこの場でどうこう言うのを諦めた。とはいえ、彼には特訓に付き合ってもらった借りもある。フリーパスが無効となった以上、その辺りでフォローを入れていく形で帳消しにしていこうと心に留めておくのであった。

 

「んじゃ、あたしはちょっと用事があるから行くわね。やけ食いも程々にしなさいよ」

「へーきへーき、前に通りすがりのお兄さんに勧められたプレーンシュガー30個くらい食べれたし、これくらいは余裕だって」

「食える食えないの話じゃないっての!……これで細身なんだから女の敵だわ」

 

 そう吐き捨てながら鈴音は退室する。

 

 そのまま戦兎は食事を再開しようとした時、彼に新たな訪問が。

 

「よ、よう。戦兎」

「ん?あぁ一夏か」

 

 手を軽く上げながら戦兎の方へ近付いてきた一夏。しかしその表情は少し緊張気味だ。

 実を言うと、一夏は彼に話しかけるのに気まずさを感じていた。ここ最近はずっと彼のことを避けていたので、急に自分から話し掛けるとなると変な緊張感が湧いてしまうのだ。数日前の事件の間は普通に会話出来ていたのだが、あれは状況が状況だったために緊張する暇が無かったのである。

 

「えっと、今少しだけいいか?」

「いいぞ。あ、俺は普通にお菓子食べてるから」

「あぁそれは別にいいけど……めっちゃ量あるな」

 

 山積みであるが、それでも減った方であることを一夏は知らない。

 戦兎の隣に座ろうか、それとも正面に座ろうか少しだけ逡巡する彼であったが、最終的に立ったまま彼と話を続けた。

 

「その、ごめん。最近お前のこと避けてて」

「もぐ……いや、別に気にしてないけど。というかなんで避けてたんだ?」

「……今日話し掛けたのは、それもちょっと関係がある」

 

 そう言う一夏の表情は、僅かな緊張を残しつつも真剣な面持ちとなる。

 

「前に聞いたよな。人助けと自分の研究、どっちが大事だって」

「んー……あぁ聞かれた聞かれた」

「あの時、迷わずに言ったお前が……正直に言って、許せなかった。ビルドはスマッシュから人々を守るヒーローだって前から評判があったから、俺もそうだと思ってた……だからお前がビルドだって知った時、実はすげぇ嬉しかったんだよ」

「嬉しかった?」

「だって皆を守る噂のヒーローが近くにいるんだぜ?俺さ、千冬姉に守られて生きてきたからそういうのに憧れてるんだ。誰かを守るってことや、そういう他人の為に頑張れる生き方に」

 

 そう語る一夏の表情は、一回り若い子供のように輝いていた。好きなことを楽しそうに語るそのそぶりも言葉も誇張は無い、ありのままの姿であった。

 

「けど、ビルドであるお前はそれを否定した。誰かの為じゃなくて、あくまで自分の為にビルドをやってるんだって」

「って言ってもなぁ……それが普通じゃない?一夏だって自分の行動全部が誰かの為ってわけじゃないだろ?仮に誰かの為に何かしたとしても、そういうことに憧れている以上は結果的に自分の為にもなる、と俺は思う」

「それはっ!」

 

 違う、とは言えなかった。一夏は自らの唇が重く感じ、その先を言うことが出来なかった。

 戦兎の言葉を真に受け取るならば、確かに一夏が誰かの為に行動してもそれは彼の憧れに基づいた上での行動にも繋がる。ひいては彼自身の行動とも捉えることが出来てしまうのだ。

 

「……確かに、お前の言う通りだよ」

 

 けどな、と一夏は続ける。

 

「たとえそうだとしても俺は……俺は、お前にも誰かを助ける喜びを知ってもらいたい。誰かの為に何かを成してくれる奴になってもらいたいんだ。その為に、俺はこれからお前と向き合っていくから」

 

 それが、ここに来た一夏が彼に伝えようと決めていた言葉であった。同時に今後の彼との向き合い方の方針でもある。

 一夏は人助けよりも自身の研究を優先する戦兎の在り方が認められなかった。しかし鈴音から諭されて、そのまま認めないままではいつまで経っても変わらないことに気付いた。

 例え自分のエゴだとしても、誰かの為に尽くせる尊さを彼に教えたい。それが、一夏が最終的に見つけた答えであった。

 

「だから戦兎……これからよろしくな」

「ん?おう、よろしく。あっ、俺はそうそう考えを改める気は無いからそのつもりでな」

 

 変えられるならどうぞといった思惑でそう言ってみせる戦兎だが、対する一夏は表情を崩さないどころか、ニヤリと不敵に笑ってみせた。

 

「分かってるさ。攻略が難しいのはもう十分にな」

 

 こうして、拗れていた2人の関係は元に戻るのであった。

 

「男の友情……いい!」

「」

 

 周りの彼女達が戦兎をどう評価しているかは知らないが、現在繰り広げられている光景は大好物だった模様。(ボーイズ)ラブアンドピース提唱者。

 

 すると、戦兎のビルドフォンに着信が掛かる。

 

「おっ、電話だ……もしもし?」

『はぁーいせんちゃーん!皆大好き束さんだよー!』

「あぁ束さん、どうかしたか?」

『むむむ、そこはせんちゃんもノってハイテンションになるところだよー!?ちょっとノリが悪いんじゃなーい?』

「残念ながら俺は今無料でスイーツにありつけるチャンスを失ってやさぐれてるのさ……どうせ俺なんか……」

『やさぐるま兄貴乙。そうそう、せんちゃんが喜ぶお知らせがあるんだよね~』

「ふっ、今の俺を喜ばせる話なんてそうそうあるわけ――」

『またこっちでフルボトルが出来上がったから、そっちに送ろうと思――』

「今夜は焼肉っしょー!!」

 

 鬱陶しいぐらいのハイテンションになる戦兎。一夏や周りの女子が引いているが、彼はお構いなしである。

 

「すぐに送って束さん!あ、この間のやつだと織斑先生にまた怒られるから静かなやつにしといて」

『合点承知の助!あぁせんちゃん、今度の日曜日にマスターのところでご飯食べようよー』

「日曜日か……うん、いいぞ。フルボトルの解析もその日には終わるだろうし」

『約束だよ!それじゃあ今からそっちに送るねー!』

「うーい!」

 

 通話終了。

 

「こうしちゃいられないな、早速部屋に戻って新しく出来たフルボトルのデータも集めないと!じゃあな一夏!」

「あ、おい!まだお菓子余ってるんだけど!?」

「残りはお前にやる!」

「いや、俺こんなに甘い物食べられ……行っちまったよ」

 

 残された一夏の目の前には、山積みに積まれたお菓子が。

 

 チラリ。

 

「うぅ……流石にあの量は……」

 

 チラリ。

 

「お腹周りがぁ……脂肪がぁ……」

 

 周りの少女達は完全にお菓子の山に気圧されている。甘い物は好きだし噂の人物である一夏と一緒にお菓子を食べられるという魅力は捨てがたいが、体重が対価となると中々に踏み込めない。無理に食べなくてもいいと思うのだが、そこはついついやめられない止まらない。

 

 この場における救援は望めないと判断した一夏は、戦兎が座っていた椅子に座って手近にあったチョコチップココアクッキーを一口。

 

「あっま!甘過ぎだろこれ」

「お前にはデリカシーってもんがねえのかっ?」

「一体俺は何を以て怒られたの!?」

 

 

 

――――――――――

 

 同刻、フランスのパリにて。

 市街の中に建っているIS関連企業【デュノア社】の社長室で2人の人物が対面していた。

 

 1人はデュノア社の社長を務めている男性――アルベール・デュノア。高級スーツに身を包み、顎鬚を生やしたその姿は厳しさを醸し出している。

 

「……以上が、IS学園転入とそれに伴うお前の任務だ」

「はい、分かりました」

 

 そんな厳つい顔つきの男性を前に物怖じ1つしていないのが、アルベールの実の娘でありデュノア社の非公式パイロットである少女【シャルロット・デュノア】。

 彼女は6月初頭に日本に設営されたIS学園へ転入する手筈となっている。この部屋にいるのも、父親である社長からその話を聞く為である。

 しかし、その内容は耳を疑いたくなるほどに酷い内容だった。

 

「学園へは【シャルロット・デュノア】としてではなく、織斑 一夏以外でISを動かせる男【シャルル・デュノア】として転入、そして彼の専用機である白式のデータを盗み出す……デュノア社存続はお前の手に掛かっていることを肝に銘じておけ」

「はい」

 

 その内容は、男装を行っての転入。

 世界でISを動かせるのは一夏のみ。戦兎は束の方針によって特例でIS学園に編入という形をとっており、実はISも動かせるがビルドの一機能でISを模倣し、それで収まっている。

 そんな彼らに次いでデュノア社の者が男性として世に名前を出せば、会社も大きく注目される。

 第3世代機への開発が難航しているデュノア社の苦し紛れの一手、成功確率が非常に低く、失敗すれば大きな痛手になる大博打。

 

 そしてその広告塔に選ばれたのが、シャルロットである。

 

「……随分と簡単に了承するのだな」

「それがあなたの下した命令でしょう?」

「……用件は以上だ。もう下がってもいい」

「……失礼します」

 

 淡々としたやり取りの後に、シャルロットは一礼をしてから部屋を出る。

 ふぅ、と一息吐いた彼女は携帯を取り出して巷で噂の記事を確認する。それはここ最近の彼女がずっと気になっていた内容であった。

 

『スマッシュを倒す正義の味方、ビルドは現在IS学園に!?』

 

 ISを動かせる2人目の男、赤星 戦兎がビルドであることは彼が学園で変身したことによって既に世間に知れ渡っている。こうしてネットでも話題になっており、学園に取材しに来る記者も現れている。

 

「こんな形でIS学園に行くことになっちゃったけど……漸く会えるんだね」

 

 携帯を握る手にもう片方の手をそっと重ね、胸に抱き寄せるシャルロット。肉親と会っていた時よりもずっと感情的で柔らかな笑みがそこには浮かんでいた。

 彼女がそんな笑顔を浮かべているのは、ビルドに会いたいがため。

 

 今から約1年前のことである。

 2年前にシャルロットは母親を病で失い、その後にデュノア社の部下に連れられて非公式パイロットを務めることになって、忙しくも色の無い日々を彼女は送り続けてきた。ISの適性が高かったがために自分の意志を聞かずに勝手に決めて勝手に仕事を持ち込んでくる大人達に辟易しながら、ただ言われるがままに仕事をこなしてきた。

 そんな彼女が仕事を終えて別邸に戻る最中に、スマッシュが現れたのだ。

 

 いつも1人で帰っているシャルロットはその時は専用機を持っておらず、恐怖で身体が金縛りのように張り詰み、怪物がジリジリと迫ってくるのを見ていることしか出来なかった。

 

≪鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イエェーイ!≫

 

 そんな時に、ビルドは彼女の前に現れたのだ。

 ビルドは颯爽とスマッシュに向かって攻撃し、手早く追い詰め、そして撃破してみせた。シャルロットに降りかかった脅威を払ってみせたのだ。

 

 そんなビルドの戦う姿を、シャルロットは呆けた表情で見ていた。

 突然怪物が現れたかと思うと今度は赤と青の格好をした戦士が現れ、戦い始める。現実離れした出来事に彼女の頭は整理が追いつかなかった。

 そしてビルドによってスマッシュが倒された時、シャルロットは今の自分の境遇を見つめ直した。

 

 まさに、悪者に襲われているヒロインをヒーローが助けに来てくれるお伽噺のような。

 

 そう意識した瞬間、母親を失くしてから鈍色の景色ばかりに見えていたシャルロットの視界に、鮮やかな色が戻った。

 

「あの時のビルド、カッコ良かったなぁ……」

 

 これが、1年前のシャルロットに起こった出来事。

 シャルロットはあの時のことをただ一点だけ悔いており、それは彼にお礼を言えなかったこと。お礼を言おうとする前に彼は物凄い跳躍を発揮しながらその場を去ってしまったのだ。

 だから彼の噂を聞き、学園にいると知った時はどうしたものかと思っていたが、転入の話を聞いて歓喜した。これならば彼に会える、と。

 

「待っててね、ビルド!」

 

 決意を固くし、シャルロットは準備に取り掛かる。最早会社からの指示とビルドに会うことのどちらが主目的なのか分からないが、今の彼女はやる気に満ち溢れていた。

 

 

 

 

 

「……あっ、向こうで会ったら男装してるのバレちゃうんじゃ……」

 

 やっと気づいたシャルロットであった。

 

 

 

―――続く―――

 




ビルド最終話見逃してしまった……ちょっと絶望してファントム生み出してきます。
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