INFINITE・BUILD-無限創造-   作:たいお

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第14話 日曜日=てんっさいはカフェにいる

 

 6月初頭の日曜日。

 

 戦兎は以前の約束通り、束やクロエと共に石動 惣一ことマスターが経営している喫茶店に居座っていた。

 お茶をする時間帯の筈だが、喫茶店には彼ら以外の客はいない。これがこの店の平常運転である。閑古鳥が鳴き続けている経営状態だが、どうやって継続しているのかは不明。

 

「いやぁ、こうして皆揃うのは久しぶりだねぇ!」

「確かにそうだよな。戦兎がIS学園に入学するまではスマッシュが世界各地に出現して、お前達はそれを追いかけっぱなしだったもんな」

「クロエ、砂糖いる?」

「いえ、私は缶コーヒーなので……」

 

 束とマスターの懐かしむ言葉をバックに、戦兎はクロエに砂糖を勧めるが断られてしまう。

 束と戦兎がマスターの淹れたコーヒーを飲んでいる中、クロエは近場の自販機で買った缶コーヒーを手にしていた。喫茶店なのに。

 

「クロエちゃん、そっちじゃなくて俺の淹れたコーヒー飲んでみない?前に会った時よりもレベルアップしてる筈だからさぁ」

「束様、お味の方はいかがでしょうか?」

「うん、前よりも強烈な味わいになったね!」

「申し訳ありませんが、私はこれで十分です」

「とほほ……」

 

 バッサリと切り捨てられ、大袈裟に泣き崩れるマスター。

 ちなみに、彼の手元にはクロエと同じ缶コーヒーがちゃっかり置かれていた。自分で淹れたコーヒーを飲めない模様。もう駄目なんじゃないかなこの店。

 

 そんな傍らで、戦兎はコーヒーに砂糖を大量投入していた。1杯や2杯どころではない、2桁目に突入しそうな回数をこなしている。

 

「お前さぁ、それは最早コーヒーとは言わなくない?砂糖水に近いコーヒーか何かだよそれ。もう俺のオリジナルブレンドの面影ないじゃん」

「まぁまぁ、試しに飲んでみなって。こうすると更に美味いから」

「またまたぁ、その程度の小細工で俺のコーヒーが改善されるとでも……あっまぁ!?」

 

 想像以上の甘さに悶絶するマスター。いつもなら自分のコーヒーが不味くて同じリアクションを取るのだが、今回は想像を絶する甘ったるさにやられてしまったのだ。下に残る甘さを水道水で漱いでいる始末である。

 

 そんなマスターを余所に、美味いのに……とぼやきながら戦兎は撃甘コーヒーを一口。そしてほっこり。

 

「ったく、こいつの甘党は規格外だな」

「戦兎様、それほどの糖分摂取は身体に悪いと散々口を酸っぱくして言いましたのに……」

「あははっ、クーちゃんがママみたいになってるー!あ、ママポジションは束さんが徹底キープしてるから奪っちゃやーよ☆」

「何を張り合ってんだか……」

 

 4人で談笑していると、入り口のドアが開く。

 マスターが客かと思って入り口の方に顔を向けると、入ってきたのは客ではなく、自分の娘であった。

 

「ただいまー」

 

 少女――石動 美空はマスターである惣一の1人娘。どこにでもいる普通の中学3年生だ。

 

「あぁもう、外あっつ……あれ、皆が来てる!」

「おっす美空」

「みーたんやっほー」

 

 戦兎と束から気楽に挨拶される美空。

 彼女も惣一と同様で戦兎達とは面識があり、

 

「美空はどこかへ行っていたのですか?」

「そう、お父さんにお使い頼まれてさぁ……自分で行けばいいのにね?」

「いやいや、俺は仕事があるから日中に店離れるわけにはいかないんだって。ほら、こうしてお客様をおもてなししてるだろ?」

「戦兎達以外のお客さんなんて滅多に無いし……」

 

 そう言いながら美空は買い物袋をカウンター席にいる惣一の前に置く。

 

「まぁまぁ、ちゃんと余ったお金はお小遣いにしていいって約束だろ?それで何か好きな物買っておけって」

「好きな物かぁ……あ、それじゃあクーちゃん、一緒にカラオケ行こうよ!」

「私、ですか?」

 

 急に名指しされたクロエは、自分を指差しながら困惑する。しかしこちらを見ている美空の顔が冗談ではないと悟る。

 

「うん。クーちゃんと一緒に遊ぶ機会って中々無かったから、歳も近いしもっと仲良くなりたいなーって思ってたし……迷惑だった?」

「い、いえ。迷惑だとかそういうのではないのですが……」

 

 こういう時、どういう対応をしたらいいか分からないクロエは他の3人に助けを求める。

 そんな中で彼女に救いの手を差し伸べたのは、マスターであった。他のてんっさい2人は何故テレビの方に視線を向けている。

 

「クロエちゃん、美空と遊んでやってくれないか?こいつも学校の友達は沢山いるけど、校外の友達ってなるとやっぱりクロエちゃんの存在は貴重だし、何よりこいつが嬉しいだろうからさ」

「ちょっとお父さん!そういうことは態々言わなくていいってば!」

 

 カウンター越しにマスターをどつく美空、その顔は赤らんで恥ずかしそうにしている。しかしマスターの反応は面白そうに笑うだけで、ますます居心地が悪そうに振る舞う。

 

 そんな2人のやり取りを見ていたクロエは、おかしくなって微笑を浮かべる。

 それに自分が束や戦兎以外の誰かに求められているということを意識し、嬉しくも感じていた。

 

「分かりました。美空と一緒にからおけ、というところに行ってきます。ただ、その、初めて行くのでどうすればいいのか……」

「大丈夫大丈夫!あたしが教えてあげるから!」

「ありがとうございます、美空。束様、戦兎様、私の方で勝手に決めてしまいましたがよろしかったでしょうか?」

「はーい、夕飯までには帰って来るんだよー」

「車に気を付けろよー」

「お前らは休日に娘が出掛けるのを軽く見送る夫婦か何か?」

 

 てんっさい2人のノリにツッコまざるを得なかったマスターである。

 

「それじゃあ行こっか!」

「はい。それでは皆様、行って参ります」

 

 少女2人は仲良く店から出て行った。

 残されたのはてんっさい2人と喫茶店のオーナー48歳、一気に華が無くなってしまった。

 

「んで、お前らはさっきから何見てるわけ?」

「んー?いやさ、俺と一夏の特集がテレビでやってたのよ」

「マジで?」

 

 マスターがズイッとテレビの画面を食い入るように見始めると、確かにテレビには一夏が白式を装着して空を駆けている映像と、ビルドに変身する戦兎の映像が流れていた。

 

「マジだわ。っていうかこれいつの間に撮ったの?隠し撮りとかヤバくなぁい?なくなくなぁい?」

「って言ってもなぁ、別に撮影を禁止したわけじゃないし別にいいんじゃない?」

「いいんじゃない?ってお前……束ちゃんは保護者としてこれはいいわけ?」

「いいも何も、寧ろ束さんが報道するならお好きにどうぞって言ったんだよん」

「まさかの公認だったよ」

 

 ヒエッと大袈裟に身じろぐマスター。

 戦兎に対して甘いところが多い束のことだから報道の規制を行うかと思いきや、そうではなかったのだから驚きである。

 

「ところでせんちゃん、ビルドのデータ収集は順調かにゃー?」

「おう、お陰様で実戦ではないとはいえ戦う機会も増えてるからな。ボトルも色々と増えたし」

 

 そう言うと戦兎は机上に手持ちのフルボトルの一部を並べる。それらはIS学園に入ってから彼が手に入れたラインナップであった。

 消防車、コミック、そして鈴音がスマッシュになった際に採取した成分によって完成した万丈色……ではなく群青色のフルボトル【ドラゴンフルボトル】。

 それ以外にも、もう2種類のフルボトルが置かれていた。

 色は青緑色とガンメタル。青緑色にはトゲが吸引中の掃除機が、ガンメタルにはアナログな機械人形がそれぞれデザイリングされている。

 

「おりょ?そっちのフルボトルは初めて見る!」

「俺はどれも初めてだけどな。それで戦兎、それはなんのフルボトルなんだ?」

「こっちの青緑色の方は【掃除機フルボトル】、束さんがこの間送ってくれたんだよ。んでこっちの方が【ロボットフルボトル】。この間のゴーレムとの戦いで採取したんだ」

「ゴウラム?」

「ネクロム?」

「どっちもちげーよ」

 

 2つ目に至ってはムしか合っていない始末。

 

「それでそれで、ベストマッチは見つかった?」

「ふふーん」

 

 自信気に戦兎はビルドドライバーを取り出すと、ドライバーと一緒に取り出したライオンフルボトルを掃除機フルボトルと共にそこへ装填する。

 

≪ライオン!≫≪掃除機!≫

≪ベストマッチ!≫

 

 検査機を兼ねるドライバーからベストマッチを示す反応が起こり、束とマスターはおぉー、と声を揃えて感嘆の声を上げる。

 

 しかし戦兎はもう片方のロボットフルボトルはドライバーに挿し込もうとはしなかった。

 

「あれ、そっちは?」

「掃除機の方はベストマッチがあった。けどロボットの方は残念ながら該当無しだ」

「あちゃー」

「アッチャー!」

「なんで気合の入った残念の仕方になってんの。……しかーし!」

 

 ドラゴンフルボトルを手にした戦兎は、懐から取り出したロックフルボトルと共にドライバーに装填。

 

≪ドラゴン!≫≪ロック!≫

≪ベストマッチ!≫

 

 2つのボトルがベストマッチを引き起こし、束とマスターが(ry。

 

 ともあれ、これで現時点における戦兎が変身可能なベストマッチは6つ。フルボトルもベストマッチも順調に揃いつつある。

 しかし、まだまだ足りない。全てのフルボトル回収もベストマッチ発見もこの程度では終わらない。

 

「全部集めるまで、あと40本以上もあるのか……先は長いな」

「寧ろ、それくらいあった方が科学者としては探究心に燃えるんだよ。あぁ、この先どんなフルボトルが待ってるんだろうなぁ~」

 

 戦兎は実に楽しそうに笑いながらそう言う。やはり彼はフルボトルに関わる時が一番活き活きしている。

 

「ったく、学園でもちゃんとこれくらい楽しそうにしてるのかねぇ」

「そーそー学園といえばせんちゃん、そっちの方はどう?何か変わったことはある?」

 

 ズイズイ、と身を乗り出して興味深そうに尋ねる束。

 

「変わったことねぇ……大体は授業と研究と開発とデータ収集が続いてるだけだし。あ、なんか学校での俺の評判が悪いって聞いた気が」

「はぁ?なんでまたそんなことに。お前、周りに嫌われるようなことでもしたの?」

「特にしてないんだけどなぁ……あぁ、前に俺が人助けじゃなくて研究を優先してるって一夏に言ったらあいつ俺のこと避け始めたんだけどさ、それとなーんか似てるんだよな、雰囲気が」

「つまりお前のそういう姿勢が周りの評価に繋がってる、ってことか?」

「よく分からんけど、多分そうなんじゃない?」

 

 マスターの出した答えが正解であるが、誰かに確認をとったわけでは無い戦兎は曖昧そうにそう告げる。

 

 しかしそんな彼らに対して、束は朗らかな様子で告げた。

 

「別にいーじゃんどうでもいい奴らのことなんて。見ず知らずの他人を助けるよりも、せんちゃんには大好きで大事なことがあるじゃん?」

「出たよ、束ちゃんのスーパードライな一面……で、戦兎はどうしたいのよ?」

「俺から何かするつもりは無い。一夏がどうしてくるかってとこかな」

「いっくん?いっくんがどうかしたの?」

「あいつが俺に教えてやるんだとさ。人助けとかそういう、心?みたいなことを」

 

 そこまで言うと戦兎は乾いた喉を潤す為にコーヒーを口にし始める。

 

「へぇ、今時にしては中々熱い少年がいるじゃないの」

 

 戦兎の話を聞いていたマスターは、感心した様子を示している。この場にはいない最初の男性IS操縦者に、少しばかり興味を抱いた。

 

 そして一方、束はというと……。

 

「ふぅん……いっくんが、ねぇ」

 

 声色はいつも通りであったが、直後に戦兎と同様にコーヒーを飲むことで口元が隠され、イマイチ表情が読み取れなくなる。

 少なくとも、戦兎にもマスターにも今の束の心境は察せない。

 

「……あっ、そういえば思い出した。俺ちょっと新しいブレンドに挑戦してみたんだよ。2人とも、試飲よろしく!」

「おりょ、マスター今度はどんな刺激的なコーヒーに仕上げたのっ!」

「俺がデンジャラスなコーヒーにしてるみたいな言い方やめてくんない?っていうか戦兎はまだ砂糖いれるのやめろぉ!まずはブラックの感想を伝えろ!」

「へいへい、こっちの方が好きなのに……」

 

 微妙な雰囲気だった店内に、再び騒がしさが訪れる。先程までの空気はもうどこにも無かった。

 

 そんなこんなで、見知った顔ぶれと休日を過ごす戦兎であった。

 

 

 

―――続く―――

 

 





■石動 惣一(いするぎ そういち)
 カフェ【nascita】のオーナーを務めている男性。48歳。
 元宇宙飛行士で、中学生の束が発表した論文(IS)を聞いて興味を抱いてから彼女に協力する機会が度々あり、今でもその縁が続いている。ビルドの協力者として彼女から選ばれ、その経緯で戦兎とも知り合うようになる。
 【スマッシュがいまっしゅ!】というサイトを管理しており、そのサイトで取得したスマッシュの目撃情報を学園生活で忙しい戦兎に送る役割を担っている。また顔が広く、有益な情報を彼に齎すことも。
 コーヒーを淹れる腕前は致命的で、戦兎と束以外は惣一本人も含めてまともに飲むことが出来ない。逆に紅茶は非常に美味しく淹れられるのだが、本人がそれに気付くのはずっと先の話。

■石動 美空(いするぎ みそら)
 惣一の娘で、現在は近場の中学校に通っている3年生。14歳。
 惣一の娘ということで束とも面識があり、戦兎やクロエとも後に知り合うようになる。特にクロエとは同性で歳が近いこともあって彼女を慕っており、仲良くしたいとも思っている。
 ややアンニュイなところがあるが根は優しく、学校での友達も多い。ネットアイドルはやっていないし、火星の王妃も憑りついていないので平凡で充実した学校生活を送っている。進学先はIS学園ではなく、家に近い高校を志望中。
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