3人目の男子が転入、ISの実施訓練、波乱のランチタイムと濃厚な1日となったシャルル・デュノアの学園生活初日。
その夜、噂の男子3人が1つの部屋に集まって雑談をしていた。一夏曰く、親睦会のようなものであると。今日は転校生であるシャルルに質問と包囲が引っ切り無しに続き、元々面倒見の良い一夏は勿論、世話役を任された戦兎も珍しくそれを捌いていた。日中は落ち着いて話すことも満足に叶わなかったので、こうして緑茶を用意してゆったりと会話出来るのは有難い時間だった。特に一夏にとっては。
「どうした一夏。そんな老人みたいな顔つきして」
「……いやあ、こうしてゆっくり出来るのっていいもんだな」
「?まぁそうだな」
「……男同士って、いいよな」
「男同士……えっ?えっ?」
一夏の誤解されかねない際どい発言にシャルルが思わずたじろいでしまう。勿論、発言者にはそっちのケは無いのだが、纏う雰囲気と表情のせいで本気のように見えてしまうから困る。
ちなみに彼の友人に問えば『そう言われてもおかしくないよな、あいつ。あ、俺はノーマルだから、俺はノーマルだから!』と返してくれるだろう。
「そういえば、戦兎に聞きたいことがあるんだけどさ」
「ん?」
「ほら、戦兎がビルドに変身する時に……ベストマッチ?だったっけ、そんなのが偶にあるだろ?それってなんなんだろうなって」
「よぉくぞ聞いてくれた!」
「うおっ、ビックリした!」
急に立ち上がったので驚く一夏であったが、お構い無しで嬉しそうに言葉を続ける戦兎。
「俺が変身の時に使ってるフルボトル、これには相性が存在するんだよ。例えば……」
そう言うと戦兎は懐からビルドドライバーとフルボトルを取り出す。今回は変身しないので、ドライバーは巻かずに手に持ったままである。
「このラビットフルボトルとタンクフルボトルをこれに装填すると……」
≪ラビット!≫≪タンク!≫
≪ベストマッチ!≫
「……となる」
ドライバーがそれぞれのフルボトルに伴った音声と発光を行いつつ、最高の相性であることを示す。
その反応を見て、一夏とシャルルは揃って『おぉ』と声を零す。
「当然、ベストマッチにならない組み合わせだと……」
≪忍者!≫≪掃除機!≫
「……という感じで、音声は出てもベストマッチによる特別な反応は起きない」
先程とは異なるドライバーの反応に、『ふむふむ』と相槌を打つ一夏とシャルル。
「本来、こいつは単に変身する為だけの道具に過ぎなかったんだけど【パンドラボックス】のメカニズムが一部解析出来たことによって、ベストマッチの検査機にもなるように改良したんだ」
「せんせー、質問がありまーす」
「はいどうぞ、一夏問題児」
「誰が問題児だ。えっと、今さっき言ったパンドラボックスってなんだ?初めて聞いたんだけど」
ふむ、と一呼吸入れてから戦兎は彼の質問に答え始める。
「パンドラボックスっていうのは、束さんが火星で発見した詳細不明の箱だ。外装はフルボトルを挿し込めるスロットが10個備わった【パンドラパネル】といって、6面あるから計60個のフルボトルが挿入できるようになってる。箱の内部には核エネルギーよりも遥かに強大な力が眠ってる、らしい」
「……はっ?」
「核よりも強力って……それってとんでもない力なんじゃないの……?」
「まぁ、下手すれば地球は軽く滅ぼせるな」
「「いやいやいやいや!!」」
あまりにも軽い戦兎の反応に、思わず立ち上がってツッコミを入れる2人。
「なんだよその危険物!?なんでそんな物が存在してるんだよ?」
「処分しよっ、ねっ?宇宙にでも放り捨ててしまおっ、ねっ?」
「まぁまぁ落ち着けって。今はパネルがバラバラになってるし、フルボトルが揃って無ければ只のオブジェみたいなもんだから、そんな怖がる心配無いって」
「そ、そうか。なら安心……いや待った。戦兎、お前そのフルボトル集めてるんだよな?」
「おう」
「やっぱ捨てろぉ!現在進行形で鍵集めてるんじゃねーかお前!」
「ち、地球が……地球が滅びる」
安堵出来るかと思いきや、目の前にいる男が地球崩壊を助長させかねない行動をしていることに気付いて一夏は唱え、シャルルは震える。
もしこのまま戦兎がフルボトルを60本全て揃え、パネルも集まってしまえばパンドラボックスが完成して核より危険な物体となってしまう。そんなの御免被りたい。
「だから落ち着けって。俺がいつ地球を滅ぼそうとか人間同士の共食いで地球は滅びるとか言ったんだよ」
「いや言ってなかったけど、たった今物騒なこと言ったぞ!?」
「共食いって何!?どんな発想したの!?」
「兎に角、パンドラパネルが集まっていない以上はそんな事態にはまず陥らないから問題無しってことだ。今こいつらを集めたところで、どうにかなるわけじゃない」
安心すべきなのかどうか危ういところだが、この戦兎を説得するのは多分無理だろうと賢明な判断を下した一夏達はそれで一先ず納得することにした。
ただシャルルにも一夏にも、どうにも引っ掛かる部分があった。
「ねぇ、どうして戦兎はそんなにフルボトルを集めたいの?」
「それは勿論、まだ見ぬフルボトルの能力・性質を100%解明する為……そうしなきゃいけないんだよ」
「いけないって、どういうことだ?」
いつもの戦兎らしくない言葉選び。
『しなければいけない』など、それではまるで『使命』のようではないか。普段の彼ならば、自分がそうしたいから行動するというのに。
「いや、俺としてもやりたいって願望はあるよ?でもそれだけじゃなくて、心のどこかで集めなきゃならないっていう風にも感じてるんだよ何故か」
「ふーん……あれか、シリーズ物のフィギュアを全種類集めなきゃとかそういうのか?」
「俺はフルボトルマニアか何かか」
急に雰囲気が可愛くなったなぁ、とシャルロットが内心で思うような名称である。ヤベーイものを集めていることに変わりは無いが。
そんな風に喋っていると、時計を一瞥した一夏が『ゲッ』と都合が悪そうな声を零した。
「やべぇ、俺この後ちょっと用事があるんだった……」
「用事?」
「鈴に呼ばれてるんだよ、なんか手伝って欲しいことがあるんだとさ」
そう言いながらいそいそと身支度を整える一夏。短気な鈴のことだ、遅刻などしてしまえば不機嫌になって居心地が悪くなるのは目に見えている。
「悪いけどいつになるか分かんないから、シャルルは先にシャワー使ってくれ」
「あ、うん。分かったよ」
「んじゃ、俺もそろそろ部屋に戻ろうかね。帰ってライオンクリーナーのデータでも整理しときたいし」
「戦兎も悪いな、俺から呼び出しておいて」
「フルボトルに関する説明をするのは嫌いじゃないからな、気にするな。んじゃ、シャルルも明日な」
「うん、お休み戦兎」
戦兎は一夏と共に部屋から出ると、目的地が別なので互いに異なる方向へ進み始める。
その道中、戦兎はフルボトルを片手に考え事をしていた。
それは、一夏に先程言われたこと。
何故自分はフルボトルを集めなければならないと思っているのか?自ら言っていたが、自分がまだ出会っていないフルボトルの力を徹底的に解明したいという願望と同時に使命感のようなものも抱いている。
「そもそも、俺が拘ってるのは……」
フルボトルだけではない。
真に望んでいるのは、パンドラボックスを――。
「……あれ?」
服の中の違和感を察知し、戦兎は足を止めてポケットの類を万遍無く探り始める。そして、大事なことに気付く。
「……忍者フルボトルが無い」
道中で落としたとは考え難い。
考えられるのは1つ。一夏達の部屋へ置き忘れたのだろう。実を言うと今回使った4つのボトル以外にも数種類取り出してテーブルに出していたのだが、その時に回収漏れが生じたのだろう。加えてその後もパンドラボックスの解説をしていたので、気が緩んでいたのかもしれない。
「仕方ない、戻るか」
踵を返して再び一夏達の部屋へ。
鍵が掛かっている可能性も考えられるのだが、気にせず戦兎は一直線に部屋へと向かっていく。
部屋の前に辿り着き、ノックを行う戦兎。しかし扉の向こうからは反応が無い。
「あ、そういえばシャルルがシャワー使ってるんだっけか」
先程の一夏とシャルルのやり取りを思い出した戦兎は、反応が無いことに納得しつつ、そのまま部屋へ入る。
ちなみに鍵が掛かっていないのは、部屋に残っているシャルルがここが女子寮だからつい無防備になってしまったことと、一夏が外出しているので態々鍵を掛けなくてもいいかと判断してしまったからだ。お家から下された使命に積極的でない分、その辺の管理はガバガバである。
部屋に入って先程談話していたテーブルの辺りに目を配ると、机上に目的のボトルがポツンと置かれてあった。部屋主も気付いたのか、変に動かさず分かりやすい場所に配置してくれている。
フルボトルを無事に回収し、戦兎は再び部屋から出ようとした時、ふと思い出したことがあった。
「っと、シャルルに明日からのアリーナの使用可能箇所を伝えとくんだったな」
今日の午後の実習で着替え終った後に副担任の真耶から伝えられ、その場にいなかったシャルルにも後で伝えるようにとのお達しを受けていた戦兎。事情で一夏達と一緒に着替えるわけにはいかなかったシャルルはその時立ち会うことが出来なかったのだ。
で、どうせ近くにいるんだから明日会う時でなく今伝えてしまおうと思い至った戦兎である。
シャルルは現在シャワーを利用しているようで、今もルームの方から水の流れる音が発している。
戦兎はシャワールームの方に足を進める。いい時に思い出したと我ながら感心しつつ。
と、その途中で前方から『ガチャリ』と音がする。ドアの開閉の音だ。
「お、ちょうどいい時に終わったみたいだな」
そう言いつつ戦兎はシャワールーム前の脱衣所の扉のドアノブに手をつけ、扉を開く。
「シャルルー。ちょっと伝えておくことがあるんだけど」
「……えっ?」
キョトンとした様子でこちらを振り向くシャルル。
しかし、そこにいたのは『男子のシャルル・デュノア』ではなく、『女子のシャルロット・デュノア』だった。
濡れたブロンドの髪が水を滴らせる。
普段の学生生活ではサラシを巻いていて分からなかった胸の膨らみが明らかとなっている。平均よりも若干大きなその胸は細い腰のくびれと相まって更に大きく見えている。足も細く、男子と言い張るには身体の線が女性的で何より肌がきめ細やかだ。
シャワーを浴びたばかりの彼女は全裸である。もう一度言おう、全裸である。
「……っ!きゃぁっ!」
戦兎が現れたことに理解が追いつかなかったシャルル――シャルロットだが、今の状況に理解を終えると咄嗟にしゃがみ込んで自らの身体を抱くようにして局部を隠す。
羞恥で顔を真っ赤にしながら、シャルロットは戦兎の方を見ずに口を開く。
「な、なんで戦兎がここにいるの!?」
「いやぁ、俺としたことがフルボトルを置き忘れちゃってさ……あ、それと明日からのアリーナの使用箇所を伝えとくよう言われてたの思い出したから、伝えてしまうぞー」
「へ、部屋っ!部屋で待っててっ!そこで聞くから!」
「今じゃダメなのか?」
「僕がダメなのぉっ!いいから早く出てってよぉ!」
「あ、はい」
事情がよく分からない戦兎は彼女の勢いに押され、それに従って脱衣所の扉を閉めた。
何故急に追い出されたのか不思議に思うまま、戦兎は言われた通り部屋で待つべくベッドに腰掛ける。
「うーん、シャルルのやつ急にどうしたんだ……?」
先程までのシャルルの対応が妙だと思い、戦兎は思考する。
身体に酷い傷跡があって、それを見られたくなかったのかと言われるとそうではない筈だ。戦兎が記憶している限り、シャルルの身体は傷一つ無い綺麗な姿であった。
せいぜい気になるところといえば、あの制服時と比べて異様に膨らんだ胸。あれ程の膨らみは男性ではなく女性に当て嵌まる筈――。
「……あれ、でもシャルルって男だよな?」
だが、現実におけるあの胸の膨らみは否定出来ない。錯覚とかそういう類でも無いだろう。
胸があるというのも重要だが、それとは別で無いものもあった。男にある筈の『アレ』が――。
ガチャリ。
戦兎が危ういところにまで思考を深めようとした時、脱衣所の扉が開かれる。
「…………」
ジャージ姿のシャルロット。
しかしその胸部は制服の時と異なり、胸による膨らみが出来ていた。サラシを用いていないからだ。
「……戦兎」
「うん?」
「もう気付いちゃってるだろうけど……僕、男じゃないんだ」
少し身体をモジモジさせていたシャルロットであったが、意を決したような、諦めたような顔をしながら告白する。
「僕、本当は…………女なんだ」
「あぁ、だから胸が大きかったり――」
「戦兎のえっちぃっ!!」
―――続く―――