INFINITE・BUILD-無限創造-   作:たいお

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第20話 少女への救いの手=パンダとライトと

「いやぁ悪い悪い。まさかそんなに怒るとは思わなくてさ」

「……戦兎のバカ、えっち」

「失礼な。バカじゃなくててんっさいだから俺は」

「いやえっちも否定しようよ」

 

 その後、落ち着いて話す雰囲気にまで戻った。といっても戦兎がいつも通りのマイペースで、それを見たシャルロットが呆れて肩の力が抜けてしまったという経緯だが。戦兎でなく一夏だったらこうはいかなかっただろう、なお褒め言葉ではない。

 

「で、なんで態々性別を装って転入を?」

「……会社の、父親の指示だよ」

「会社の?」

 

 シャルロットの姓はデュノア。第2世代IS量産機シェア世界第3位を誇るラファール・リヴァイヴを開発したIS企業デュノア社と同名であり、そこを経営するのは彼女の実父であるアルベール・デュノア。

 第3世代機の開発が各国で進められている昨今、圧倒的なデータ不足により開発が難航しており、経営不振に陥っているこの頃。フランス内のIS企業トップに立っている会社がその状態とあって、欧州連合の統合防衛計画【イグニッション・プラン】からフランスは除名されている。

 早急な第3世代機開発が政府から通達され、これが達成されない場合は予算全面カットに加えてIS開発許可の剥奪が言い渡される。つまりその時点でデュノア社はIS業界において完全に再起不能となる。

 

 デュノア社と周辺のIS事情をシャルロットから聞かされた戦兎は、キリの良いところでふむふむと相槌を打つ。

 

「成程。つまりシャルル……あぁ、シャルロットだったな。シャルロットは会社の広告塔であると同時に一夏本人とISのデータを盗み出す怪盗ルパンレンジャーってことか」

「ルパ……?ルパなんとかはよく分かんないけど、その通りだよ」

 

 先程からシャルロットに覇気が感じられない。

 それもそうだろう。元々乗り気でなかったこの指令、普通の女の子らしく可愛いものが好きなシャルロットとしては男装なんて好きではないし、今日知り合った一夏は好青年で、そんな彼からデータを盗み出すなんて真似も負い目を感じる。

 もうこれで誰かを騙す必要も無い。

 もうこれで自分の人生も終わる。牢屋に入れられて独り寂しく心を摩耗して、孤独死してしまうかもしれない。

 そう思うとシャルロットの目頭が熱くなり、ジワリと涙が浮かび始める。こうなることは覚悟の上だったが、いざ訪れると心が不安でざわついてしまうのだ。

 

「……ねぇっ、戦兎」

「ん?」

「僕ね……昔、戦兎に助けてもらったことがあるの……1年前に、フランスで」

「あれ、やっぱ気の所為とかじゃなかったのか。えっと、1年前のフランスだろ……」

「なんか、ダイヤモンドがキラキラしてて、スマッシュを倒してた」

「ダイヤモンド……あぁー!思い出した!ゴリラモンドで倒したなそういえば!」

 

 当時の記憶を思い返し、大袈裟に声を発す戦兎。

 1年前のフランス郊外にて、確かに戦兎はスマッシュと戦闘したことがある。後半にゴリラモンドフォームへとビルドアップし、ボルテックフィニッシュを決めた記憶が彼の中に残っていた。

 スマッシュから成分を採取し終えた時、駆けつけた時にスマッシュに襲われそうになっていた少女から『あの……!』と声を掛けられて戦兎はそちらを振り向いたが、一連の衝撃が強くて上手く言葉が出て来なかった少女の次の言葉を待たず、そのまま去っていった。

 その少女が、シャルロットだったのだ。

 

「……ホントは男装して、データを盗むなんてことしたくなかった。だけどっ、どうしてもここに来たかった……!」

「なんで?」

「……君に、『ありがとう』って言いたかったから」

「……えっ?」

 

 思わず戦兎は聞き返す。

 シャルロットがここに来た理由。それは過去に救ってくれた戦兎にお礼を言う為。男装なデータを盗むことを嫌っていた以上、彼女の立場こそあれどその背中を押したのはそれだけであった。

 

 以前、戦兎は一夏に宣言された。誰かの為に動ける心を持ってほしい、そして俺がその大切さを教えてやる……と。その時は抽象的な表現でイメージが思い付き辛かったので、戦兎は軽く流し気味で『まぁやれるものなら頑張れ』と答えていた。

 だが、今回は実にシンプルで分かりやすい。だからこそ戦兎は、失敗の時のリスクが大きすぎるシャルロットの任務に対する、彼女の動機があまりにも突拍子が無さすぎて呆気に取られてしまったのだ。

 それ、メリット全然無いじゃん、と。

 

 しかし、シャルロットにとって損得など関係無かった。

 あの時、親の言いなりになるだけの空っぽだった自分の命を見捨てずに救ってくれた彼に言えなかったことを告げる。只それだけの為にこの学園に訪れた。例え素性がバレて本国に強制変換され、牢屋に入れられようとも言わなければならないことがあった。

 

「あの時、君に言えなかったから……ちゃんと、お礼を伝えたかったの」

「……」

「これが最後になるだろうから、今度こそ言うね……」

 

 涙を零すのを堪える表情を改める為に、ふぅ、と大きく息を吐くシャルロット。

 無理矢理作った笑みを浮かべながら、彼女は告げる。

 

 ありがとう、と。

 

 そんな彼女の儚い姿を見て、戦兎は…………。

 

 

 

――――――――――

 

「というわけで、どうすればいいですかねパトレンジャー」

「誰がパトレンジャーだ。というかそれだと私があいつを逮捕せねばならんだろう」

「いやいや共闘ルートもありますって」

 

 宿直室にて。

 あの後、戦兎はシャルロットに『俺の部屋でちょっと待っといて』と言って彼女を自身の部屋に待機させてから、学園寮の寮長である千冬のいるこの部屋に訪れた。

 彼がこの部屋に訪れた理由は、シャルロットも把握している。彼女の正体についてと、今後の方針についてだ。

 

「というか、学園は気付いてたんですか?シャルロットが男装してたってこと」

「当たり前だろう。ガキ共は兎も角、大人があんな稚拙な変装に騙されると思うなよ。学園も承知したうえであいつの転入を許している」

「じゃあ、なんでそんなことを?」

 

 それについて問われると、千冬は『あー』と迷ったように言葉を浮かせながら逡巡する。

 

「……本来ならば学生に聞かせる話ではないのだが、お前は少々特殊だしな」

「そりゃあまぁ、本来なら周りのペースに合わせて勉学する必要の無いてんっさ――」

「あいつを転入させたのは、学園長の意向だ」

「えぇ……」

 

 問答無用で台詞をぶった切られた戦兎は情けない声をあげる。

 そんな彼にお構い無しで、千冬の言葉が続く。

 

「この学園に転入するに当たって試験や所属国の推薦が必要になるのだが、男のお前や男装していたデュノアは都合で免除されている。しかし入学前に学園長と面談をした筈だ」

「あぁ、あの女の人ですか」

「そうだ。その時点でデュノア社の経営危機を把握しており、デュノアの男装からデュノア社の魂胆を見抜いた学園長は、諸事情を度外視してあいつの人間性を評価したうえでこの学園への転入を許可した。あいつがデータを盗むつもりが無いことも評価の理由に含めてな」

 

 『大人の政略社会に巻き込まれた子供に罪を被せるべきではない』

 それが急な男装指導によって作り上げられた【シャルル・デュノア】の裏にいる少女への学園長の感想であり、転入許可という采配だった。彼女の人間性が概ね満足のいくものであったからこそ、

 ちなみに戦兎やシャルロットが会った女性の学園長だが、その実務を務めている本当の学園長が秘密裏に控えており、今回の決定はその2人によるものである。

 

「そしてその後にデュノア社の調査が行われたのだがな……どうやらグループ内部で不穏な動きがあったらしい」

「不穏な動き?」

「暗殺だ」

 

 暗殺、という言葉を聞いて『物騒だなぁ』という感想を心中で呟く戦兎。

 学園の伝手で調べた情報によると、どうやらデュノア社内でシャルロットを暗殺する動きがあったらしく、その脅威から逃がす為にこの学園に転入させたらしい。学園の特記事項の一節によると、IS学園に属している生徒は本人の了承が無い限り外部からの干渉を受けずに済むという決まりがあるらしい。加えて、シャルロットは専用機を所持していて自己防衛能力に長けている。

 これにより、フランスで危惧されていた暗殺からは遠ざけることに成功したのだ。

 

「で、もうシャルロットは完全に安全になりましたか?」

「……いや、そうとも限らない。暗殺を企てる者がまだ捕まっていない以上、暗殺の手がデュノア社長の方に回るか……日本の、この学園にやってくる可能性も捨て切れない」

 

 もしそうだとすれば、相当に執念深いことだ。

 暗殺の理由は不明だが、現時点ではアルベール・デュノアを社長の座から引き摺り下ろす為という線が高く懸念されている。尤も、あくまで目的が不明瞭であることに変わりは無いが。

 兎に角、ここIS学園まで逃れたからといってシャルロットの身が100%保障されたかと言われれば、そうとは言い切れない。近い都市へ外出するとなれば日本人ではない彼女の端麗な容姿は少なからず市井の注目を集め話題となり、暗殺者が潜伏していれば情報と暗殺のチャンスを与えることになる。

 加えて最近の学園は、イレギュラーな存在に対して2度の侵入を許している。謎の無人機ゴーレムと、スマッシュだ。その混乱に乗じて乗り込むという周到な計画が出来るかは非常に困難と言えるが、万が一ということもある。

 

「そこでだ戦兎。お前に学園の方で依頼が入っている」

「頼み?」

「あいつの……デュノアの護衛だ。我々学園の方で暗殺に対する情報収集と対策を講じる間、お前の実力ならば代表候補生の訓練を受けているあいつのフォローに回れるだろう。余計な混乱を招かぬよう、事を落ち着かせるまではあいつの正体を隠しておく必要があるしな」

「うーん……まぁ命令なら立場上従うしかないですけど」

 

 戦兎は腕を組んで喉を唸らせつつ、渋い返答を行う。

 戦兎としては、頼みの内容自体はそう難しい話ではない。暗殺の手口は不明だが、毒物でもない限りは自身の身体能力や智謀、ビルドの力で大体の対策は取れる。

 しかし『気が乗らない』というのが今の彼の思うところである。デュノアの世話係を命じられた時も教師である千冬の指名に仕方なく従っただけで、今回の件も首を突っこむにしては戦兎自身に美味しい話が無い。

 シャルロットの件の直後ということもあり、今の戦兎はメリットデメリットに関して少し気にかけている節がある。ただ彼女を守るだけではその食指は動かないのだ。

 

「ちなみに聞くが、これが命令でなければどうする?」

「んー……まぁ断りますかね。俺に得がありませんし」

「……そうか」

 

 そんな素っ気ない対応に落胆するべきか、それとも少しだけでも考えてくれたのを感心すべきか。千冬は微妙な顔つきを浮かべつつ、そう呟く。

 とはいえ、現状彼以外に適任は見当たらない。今回の件に通じている『学園最強』はその調査で学園から離れなければならないし、教師陣から人員を割くのは違和感が生じるうえにシャルロット本人がやり辛いだろう。

 

「(……やれやれ。早速あいつからの切り札を使わざるを得ないとな)」

 

 千冬が脳裏に浮かべるのは、この間の日曜日の夜の出来事。

 明日の授業の確認をするべく、部屋で1人手帳を流し読んでいる時に『彼女』は現れた。

 

 千冬の唯一の親友にして現在国際指名手配されている天災……篠ノ之 束が。

 

 彼女はいつも通りのテンションで千冬にスキンシップを取ろうとした(いずれも失敗に終わる)後、千冬にある物を手渡して颯爽と去っていった。まるで嵐のような存在は窓から抜け出し、強い風を室内に齎していった。元々散らかっている汚部屋に強風で被害を受ける物は無いけど。

 

 

 

―――もし、ちーちゃんがどぉ~~しても!せんちゃんに頼みたいことがあったら、これを使うといいよ☆

 

 

 

 そう言いながら彼女が渡した物を、千冬は戦兎に見せるように携えた。

 

「それは……!」

 

 フルボトル。

 それも1つではなく、2つ。

 

 何故、千冬がフルボトルを持っているのか?

 そんな疑問を戦兎が口にする前に、千冬は口を開いた。

 

「これはいざという時にと、束から渡されていた物だ。お前が今回の件を引き受けてくれるというのであれば、これを報酬とするが……どうする?」

「成程……そういうことでしたら勿論引き受けますよ。そいつが掛かってるというのであればね」

 

 先程までの反応とは一変して、戦兎の表情は活き活きとしていた。やはり報酬があるのと無いのとでは一目瞭然で、やる気に満ち溢れている。

 これがもし一夏ならばフルボトルは関係無しに人の情を以て引き受けるのだろうが、今の戦兎にはまだ至らない領域ということである。

 

「決まりだな……そら」

「おう?」

 

 千冬は2つあるフルボトルの内の1本を彼に投げ渡した。 もう一方の薄黄色のフルボトルはそのまま千冬の手元に収められている。

 

 戦兎は向かってくるフルボトルをキャッチし、その外装を観察する。

 色は白色で、デザインは動物が彫り込まれていてそれに合わせた丸みがある。色が統一されていて分かり辛いが、どうやら動物はパンダのようだ。

 

「そいつは前払いという奴だ。もう片方は今回の件が片付いたら渡そう」

「へぇ、気前がいいですね」

「言えた義理ではないが、まぁ、面倒事を頼んでいる以上はな。渡したからにはちゃんと任を果たしてもらうぞ?」

「まっ、期待には応えてみせますよ」

 

 戦兎はそう言いながら白色のフルボトル――パンダフルボトルをヒラヒラと翳してみせる。

 既に報酬の半分を受け取った彼の表情には確かな自信が宿っていた。

 

 

 

――――――――――

 

「戦兎……」

 

 戦兎の部屋で彼の帰還を待っていたシャルロットは、彼のベッドに座りながらチラチラと何度も時計を確認していた。

 ここで待つように言われて10分以上は経過しただろうか。たったそれだけの時間だったが、部屋の中を勝手に物色するわけにもいかずやることが無いシャルロットにとっては長く感じた。時計の確認が多いのも余計にそう思わせる一因だろう。

 

「織斑先生に聞いてくるって言ってたけど……実際、どうなるんだろう」

 

 生徒2人で出来ることなど、たかが知れている。学園の特記事項のお陰で3年間は一先ず大丈夫だといっても、それまでに問題を解決しないことには意味を為さない。それに会社からの召集を無視し続けても、自分の立場を悪くするだけでもある。

 そう考えると、やはり先生に相談するしか方法は無い。加えて千冬は世界最強の称号を持つブリュンヒルデであり、その影響力は非常に高い。

 

 このまま牢屋なり死刑なりを覚悟していたシャルロットとしては、この時点でこれ以上無い措置である。相談出来る相手が殆どいないフランスでの環境と比べれば贅沢と言っていい。

 例えそれが、助からない道だったとしても――。

 

「ただいまー」

「っ!」

 

 入り口のドアが開くと共に、待ち望んでいた人物の声がシャルロットの耳に届く。

 ベッドから腰を上げて入り口の方へ駆け寄っていくと、戦兎の姿がそこにあった。

 

「お帰り、戦兎っ。……それで、どうなったの?」

「ん?あぁ、まぁ色々と話したんだけど……取り敢えず学園の方で手を打ってくれることになったよ」

「えっ……ほ、ホントっ?」

「ホントホント。まぁ、準備が整うまではシャルロットには男装を続けてもらうことになるんだけど、いいか?」

「い、いいよ!それくらい全然いいよ、うん!」

 

 窮地に陥っている自分に救いの手を差し伸べてくれると聞かされては、嫌がっていた男装など些事たる問題でしかない。

 シャルロットは勢い良く何度も首を縦に振り、肯定の意志を示す。

 そんな彼女の肩に、ポン、と戦兎の手が置かれる。

 

「安心しろ、それまで俺がお前を守ってやるよ」

 

 この瞬間、シャルロットは胸を打たれたような感覚を得た。

 思えば1年前にスマッシュから助けてもらい、そして今回の件と戦兎には会ってから続けて助けてもらっていることに彼女は気付く。

 それはまるでヒーローに助けられるお姫様のよう。窮地に陥った時には、いつだって彼が助けてくれる。女の子らしい感性を持つシャルロットとしても、そんな立場は憧れの存在だった。

 

 そして目の前にいる彼は、お姫様にとっての大切なヒーロー。

 

「戦兎……」

 

 シャルロットの頬が赤らむ。意識すると鼓動が早まり、まともに顔を見れなくなる。

 この感覚が一体なんなのか、年頃のシャルロットはなんとなく理解出来ていた。

 

「(憧れてる……だけじゃないよね、この気持ちは……僕は……)」

 

 シャルロット・デュノアは、赤星 戦兎のことを……。

 

 

 

 

 

 しかしシャルロットは、この時点で非常に大きな思い違いをしていた。

 彼女が戦兎に抱いているイメージ像は『ヒーロー』。誰かの危機に颯爽と現れ、弱気を助け強気を挫く正義の味方。自身の体験、世間での評判が彼女の認識を強くさせた。

 かつて自分はビルドに……戦兎に命を救われた。今回もそうなのだと自然に思えてしまったのだ。

 

 だが実際に戦兎が動いた理由は、フルボトルが報酬になっているから。シャルロットの暗殺を防ぐのもフルボトルを手に入れる為の過程ででしかなく、0とは言い切れないもののやはりそこへの意識はかなり低い。

 偶然にも報酬のことが伝わらなかった所為で、彼女は真実を知ることなく彼に更なる信頼を寄せることとなる。

 

 

 

 

 

 いずれ少女は、残酷な真実を知る――。

 

 

 

―――続く―――

 




 シャルロットがお礼を言う為だけにIS学園にやって来たことに僅かな困惑を内心で浮かべる戦兎。そんな彼だが、彼女を助ける動機はフルボトルの為……まだまだ誰かの為に動く程、心は育っていない。というのが現時点での裁量です。こっから少しずーつ成長させていけるよう、頑張って執筆して参ります。
 そして今作品最大のすれ違いが発生……いつ発覚するんでしょうね(ゲス顔)

 最初から好感度高めだったので、シャルロットがチョロ気味。でもISのヒロインって大概チョロ(ry
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