採石場。
ナイトローグとアウトロースマッシュの2体を相手取ることになったビルドであったが、その戦況は芳しくなかった。
『どうした?先程よりも動きが鈍いようだが』
『ッ!』
「そう思うんならクールタイムくらい欲しいんですけどっ?」
スマッシュのサーベルをパンダの爪で防ぎ、拮抗するビルド。そんな彼の元にナイトローグの【トランスチームガン】から放たれた銃弾が迫り、ロケットのアームでギリギリ弾く。
1戦終えたばかりで体力にあまり余裕が無く、敵の数も多くなっていて防戦が続いている現状。スマッシュだけと戦うならまだ大丈夫なのだが、攻撃を試みる度に後方のナイトローグが銃撃でチャンスを悉く潰してくるので、かなり苦戦を強いられている。
『厳しいようなら、ボトルを替えて戦ってみたらどうだ?』
「さっきから邪魔してるくせに、良く言うよ」
ビルドのフォームチェンジは少々の手間が掛かる。適切なフルボトルを懐から取出し、ボトルの出力を出す為にそれを振ってからドライバーに装填しなければならない分、確実な隙を見計らわなければならない。
攻撃の機会だけでなく、その隙すらも潰してくるナイトローグにはビルドもウンザリし始めている。
と、集中が切れ始めたビルドにスマッシュの斬撃が入った。
「くっ……!」
『そら、おまけだ』
「しまっ、ぐあっ!?」
攻撃されて動きが止まったところをナイトローグによる複数の銃弾が命中し、衝撃で吹き飛ばされる。
地面を転がり、体勢を直そうと起き上がった直後にスマッシュの追撃がかかり、地に膝を着けたままビルドはスマッシュの斬撃を受け止める。
やはりこの場で厄介なのは、あのナイトローグだ。ビルドはそう判断する。あの的確な射撃が戦局の流れを掴んでいるのは身に染みて実感出来ている。
そしてこの状況を覆す為にも、今のフォームでは分が悪い。
「だったら……!」
ゴリ押す。(断言)
足元にビルドクラッシャーと4コマ忍法刀を召喚させたビルドは、なんとそれをナイトローグに向けて纏めて『蹴飛ばした』。
『ッ!?』
奇天烈な攻撃の仕方に意表を突かれたナイトローグは回避に成功するも、攻撃のビルドに時間を与えることとなる。
ビルドはすかさずスマッシュの腹部に蹴りを叩き込み、追撃のロケットを繰り出して爆発と共にスマッシュをナイトローグの元へと吹き飛ばす。
両者の間に黒煙が生じている中、ビルドはフルボトルを2つ取り出してドライバーに装填する。
≪ハリネズミ!≫≪消防車!≫
≪ベストマッチ!≫
レバーを回していくビルド。
ナイトローグがそれを阻もうと黒煙越しに銃弾を見舞ってくるが、さりげに相手と距離を取った上にスマッシュが傍にいないとなれば避けられないことはない。ビルドはレバーを回す手を止めずにそれらを巧みに躱していく。
≪Are you ready?≫
「ビルドアップ!」
そして、変身の準備が完了する。
≪レスキュー剣山!ファイヤーヘッジホッグ!イェイ!≫
表面に大量の鋭いトゲを有した白色のボディと、肩と腕部の消防ラダー特徴的な赤い光沢を放つボディ。
【ビルド・ファイヤーヘッジホッグフォーム】、先日のラウラ・ボーディッヒから成分を採取して完成させたフルボトルと、入学して最初に手に入れたフルボトルによるベストマッチの姿である。
「さぁ、実験を仕切り直そうか」
左腕に取り付けられた放水銃、マルチデリュージガンを相対する2人の敵に狙い定めたビルドは、そこから火炎を放出させて、スマッシュとナイトローグを分断させた。
どちらの横に跳んで躱しているのを確認するが、それは承知の上だった。ビルドは放射する物を内部に貯蔵している可燃性の液体に切り替えて2体の間に線上に撒き散らすと、再び火炎を放射。
すると可燃性の液体が着火し、激しい業火となって天にも昇る勢いで燃え上がり始めた。
『これは……』
「各個撃破は複数相手の基本戦術だろ?」
炎の壁による分断、それがビルドの狙いだった。
ビルドはナイトローグの方へと向かい、右拳のスパイクグローブ【BLDスパインナックル】を大きく振るい落とす。モーニングスターのような攻撃のそれは、まともに受ければ大ダメージは確実だろう。
しかしナイトローグは素早い身のこなしでこれを躱すと、先程の短銃と切り離された剣【スチームブレード】で迎撃。
ビルドはその斬撃をハリネズミボディの腕部で辛うじて受け止める。
『だが、スマッシュではなく私に狙いをつけたのは過ちだったな。奴と私では……レベルが違う』
「ぐぅっ……!?」
銃撃しかしてこなかったナイトローグの近接戦闘能力が露わとなる。精密な射撃の腕前を持っていることは既に明らかであったが、剣による戦闘も非常に脅威であった。
特有の型こそ見受けられないものの、手慣れた剣捌きはビルドに攻撃の隙を与えさせな。い。寧ろこちらの方が得意だと言わんばかりの動きの良さである。
再び防戦を強いられるビルドであったが、ついにそのガードを崩される。
気付いた時には、ナイトローグががら空きになったボディに目掛けて蹴りを放とうとしていた。
「しま――」
『遅い』
「がっ!?」
腹部に迫る痛烈な蹴りの感覚と衝撃を受けながら、ビルドは吹き飛ばされる。未だ燃え盛っている炎の壁を背に、ヨロヨロと膝を支えて立ち上がる。
彼の様子を見て、ナイトローグはガタがきていることをハッキリと確認する。
『見栄を切って仕掛けたはいいものの、そろそろ限界のようだな』
「あー……まぁ、否定は出来ないな。けどな……」
痛む体に鞭を打って、レバーに手を添える。
必殺技を出す為にそれをなんとか回していく。
≪Ready go!≫
「このままやられっぱなしってのも癪なんで……ね!」
そう言うとビルドは身体を捻り、自身の横方向にラダー型の放水銃を一気に伸ばす。
その先にいたのは……。
『ッ!?』
先程まで分断されていた片割れ、アウトロースマッシュであった。スマッシュの胴体には、放水銃の先端が突き刺さっている。
ビルドが2体を分断した際、実力が高いナイトローグの方に向かったのはこれが狙いだった。もしスマッシュの方に向かったとして、スマッシュとの戦いを有利に進められたとしてもナイトローグがどのタイミングで復帰して来るかが不明瞭なのが難点だった。フィニッシュを決めようとした時に再び邪魔をされようものなら、分断した意味を失ってしまう。
だからビルドはナイトローグの動きを自身の目で把握しておく必要があった。ナイトローグの動きを把握しつつ、そしてやがて来るであろう炎の壁を回り込んできたスマッシュに対して即座に必殺技を撃ち込む為に。
最初からビルドの第一目的はナイトローグではなく、スマッシュの方だったのだ。
『小賢しい真似を……!』
「てんっさいは機転を利かせるのが上手いもんだし」
ナイトローグが介入してくる前にビルドは行動を開始。スマッシュに突き刺したままダラーを伸縮すると同時に、地面から脚を放してラダーの動きと同調する。視界の先では、放水銃から放出されている炎と水の混合物によって身体が急激に膨張しているスマッシュが。
ビルドは拳の射程圏内に入ったスマッシュに目掛けて、巨大化させた針山の拳を叩き込んだ。
≪ボルテックフィニッシュ!≫
強烈な一撃を受けて、スマッシュは体内に入れられた混合物を撒き散らしながら爆散。文字にすると非常にグロテスクな表現だが、ちゃんと元のスリムな姿に戻っているのでR18指定にはならない。安心。
とはいえ戦闘不能になるほどのダメージを受けたので、これ以上起き上がる様子は無い。
ビルドはエンプティボトルを用いて手早く成分の採取に務める。戦いの最中ではあるが、取れる内に取っておかねばならない。
『成程な……どうやら一杯喰わされたようだな。だが……』
「くっ……」
『そちらももう戦う力は残っていないだろう』
対するナイトローグはまだまだ余裕がある。大したダメージを受けていないし、半分は銃撃に徹していたので体力面も消耗が少ない。
ビルドにとっては悪い状況。このまま戦うことになれば、間違いなくビルドに勝ち目は無い。
なんとか策を絞り出そうとするビルドを余所に、ナイトローグはトランスチームガンをを構える。
しかし、相手の短銃を改めて見たビルドは今になって気付いた。
トランスチームガンに装填されている【とある物】を視界に捉えてしまったために。
『安心しろ、今回はこの辺りで見逃してやる』
「どういう……ことだ?」
『貴様にはまだまだ利用価値がある。我々の……私の野望を叶える為のな』
ビルドにとって問い質したいのはそこではない、もっと気にすべき点は他にあった。視線が【とある物】から外れない程に、今のビルドの意識はそこに向けられていた。
そう、何故……。
「なんでお前が……フルボトルを持ってる……!?」
自分だけが研究している筈の物が、相手の手にあるのか。
ビルドが静かに怒りを湧き上がらせる中、ナイトローグの対応は酷く冷淡であった。
『貴様が知る必要は、無い』
そして、短銃の引き金が引かれる。
≪スチームショット!バット!≫
銃口から発せられるのは、今までの銃弾とは異なる紫色の弾丸。怪しいオーラで形成されたそれは空中で複数に分裂し、それぞれが動けずにいたビルドの身体へと命中する。
「がっ…ぁ…!!」
モロに喰らったビルドは衝撃で後方へと激しく吹き飛ばされ、タックルスマッシュが倒壊させた作業員用のプレハブ小屋の残骸へと激突した。砂塵が起こり、瓦礫が空へ舞う光景がその威力を証明している。
更に崩れていくプレハブ小屋を一瞥すると、ナイトローグは退却を始めていく。銃から黒煙を噴出させて自らの身体を包み込んでいく。
そしてその煙が晴れた時、そこには誰もいなくなっていた。
――――――――――
ナイトローグが去った後、暫くしてプレハブ小屋の瓦礫がガタンと揺れ動く。
瓦礫が下からの力で掻き分けられていき、その中から戦兎が姿を現す。身体には少なくない傷が出来上がっており、服の損傷も大きい。それ程、戦闘でのダメージが激しかったのだ。
「っつぅ……完全にしてやられたな」
痛む傷を押さえながら、戦兎は瓦礫に腰を下ろす。警察に身柄を確保される前に彼らから逃げるように、と束から日頃言われていたのだが、場所が場所だからかまだそれらしき機関が来ている様子は無いので、こうしてゆっくりしている。
とはいえ、その内心は穏やかではなかった。その理由は、身体に傷が出来ているからでも敗北したからでもない。
ナイトローグがフルボトルを有していたこと。それが戦兎にとって非常に気がかりな事態であった。
「なんで俺以外のやつがフルボトルを持ってるんだ……?あれは専用の浄化装置を経由しないと、人間がまともに使える代物じゃないんだぞ……」
正確に言うと、浄化作業を行わなくてもボトルを使うことは出来る。更に正確に言うならばフルボトルになる前の状態であり、エンプティボトルに成分を入れたばかりの膨らんだ形状のボトル、スマッシュボトルならば使うことが出来る。
ただしそれを使用すると本人に多大な負担が掛かることがデータ上で明らかになっている。下手をすれば死に至るという結果も予測として取り上げられている。
「……駄目だ、判断材料が少なすぎる」
頭をガリガリと掻いて思考を中断させる。今の情報量のままでは答えに至ることは不可能だと判断したが故の切り上げである。
そういえば、と戦兎は付近で倒れているスーツの男性、ルー・サンチマンの方に視線を向ける。
彼はシャルロットを暗殺する為にナイトローグやその背後に潜む組織と手を組んでいたと発言していた。ならばそれらに関する何かしらの情報を持っているのではないだろうか。
未だに目を覚ましていない彼はうつ伏せのまま起きる様子が無いが、死んでいないのは確かだ。予定通り彼を学園へと連行し、学園の方で聴取させれば情報を手に入れられるかもしれない。
「……じゃ、帰るか」
何をするにも、先ずはIS学園に帰ってからだ。
そう判断した戦兎はビルドフォンから変形させたマシンビルダーにサンチマンを雑に括りつけ、IS学園へと戻るのであった。
―――続く―――
■ファイアーヘッジホッグフォーム■
【身長】190cm
【体重】103.7kg
【パンチ力】13.7t(右腕)11.9t(左腕)
【キック力】14.7t(右脚)14.0t(左脚)
【ジャンプ力】36.5m
【走力】6.4秒
―ハリネズミハーフボディ―
①スティングチェストアーマー:胸部の軽量装甲。防御性能を高める為に、表面は硬く細かなトゲで覆われている。
②BLDスパインショルダー:右肩部。敵の格闘攻撃を受け止める際、表面のトゲでカウンターダメージを与えることが出来る。
③スパイクラッシュアーム:右腕部。柔軟性が高く、腕部を大きく振り回してモーニングスターのような攻撃が得意。
④BLDスパインナックル:右拳のグローブ。頑丈な球状グローブは伸縮自在のトゲで覆われており、パンチの衝撃で敵の装甲と内部機関に貫通ダメージを与えることが出来る。
⑤スパイクラッシュレッグ:左脚部。防御力が高く、表面の細かなトゲを利用して敵の装甲を削ることが可能。
⑥アーチンフットシューズ:左足のバトルシューズ。細かいフットワークを得意とし、敵との距離を素早く縮めることが得意。つま先を針のように尖らせ、鋭いキックを放つ。
―消防車ハーフボディ―
①ブレイバーチェストアーマー:胸部の耐熱装甲。複数の装甲フィルタで熱や有毒ガスを遮断し、変身者を保護する。内部の空間圧縮コンテナには救助資機材や消火剤タンク等が
格納されている。
②BLDエマージェンシーショルダー:左肩部の救助モジュール。冷却剤や洗浄液を噴射する為の小型放水銃と、救助活動用のパワーウインチが取り付けられている。
③バーニングラッシュアーマー:左腕部。内蔵パワーモーターで腕力が高められており、救助を妨げる障害物をパンチで破砕する。暴れる敵をホールドし、内部フレームごと圧し折ることも可能。
④マルチデリュージガン:左腕の放水銃。高圧冷水、泡状の消火剤、ウォーターカッター、火炎放射等を放出することが可能。伸縮性のラダー機能も兼ね合わせている。
⑤BLDエマージェンシーグローブ:左拳の救助用グローブ:応急手当用品や搬送用の防護フィルムが収納されている。防護フィルムで敵を抑えつけ、パンチで大人しくさせる。
⑥バーニングラッシュレッグ:右脚部。内蔵パワーモーターで脚力が高められており、救助を妨げる障害物をキックで破砕する。暴れる敵をホールドし、内部フレームごと圧し折ることも可能。
⑦ファイヤーダイブシューズ:右足のバトルシューズ。足裏のアンカーパイル射出装置で身体を地面に固定することで、救助活動時の安全性を高める。また、アンカーパイルを利用したキックで敵の装甲に穴を開け、可燃性の液体を流し込んで内部から燃やすことも可能。