IS学年1学期、学年別トーナメント。
全学年を対象とした当学園の1大イベントで、その内容はISを扱うこの学園ならでは。生徒がISを操縦してそれぞれの能力をぶつけ合うというものである。当イベントに於いては各国の重要人物も来賓として試合を観戦しに来るので、3年生はスカウト、2年生は1年間の成果の確認、1年生は今後の潜在的成長といったものが否応にも注目される。
更に今回はISに乗れる男性が複数いるということで、興味と期待を込めて見物に来る人物は多くなるだろうと予測されている。
しかし学年別トーナメントを目前に、少々トラブルが発生してしまう。それは……
「いったぁ……あぁもうあのドイツ女、本気で殴るとか何考えてんのよ……」
「女性の顔面を殴るとかゴリラか何かですか……いたたた」
凰 鈴音とセシリア・オルコット、その両名が保健室のベッドのお世話になっている。その身体のあちこちには湿布や包帯がつけられており、僅かな傷も見え隠れしている。
2人がそんな痛々しい状態になっている理由を語るには、今から1時間前にまで遡らなければならない。
1時間前、ひょんなことから2人はアリーナで模擬戦を行おうといていたのだが、そこにラウラ・ボーデヴィッヒが乱入し、2人は挑発されて2対1の戦いを行うことになった。
しかし連携訓練をまともにやっていない即席コンビであることと、ラウラの実力がずば抜けていたために2人は圧倒され、ISは操縦者生命危険域(デッドゾーン)へと達した。にもかかわらずラウラの攻撃が収まらず、殴る、蹴るの暴力の嵐で2人は傷つき、身に纏うISアーマーも破壊されていった。
万事休すかと思われたところで、ついにプッツンした一夏がアリーナのバリアーを零落白夜で破壊し、3人の戦いに突撃。鈴音とラウラはなんとか助けられたものの、今度は一夏がラウラに捕まり、一瞬で絶体絶命のピンチに陥った。チャンスはピンチ!
しかし、IS用のブレードを携えた千冬がラウラの攻撃を受け止めて一夏の窮地を救うと、トーナメントまでの私闘を禁止することをその場で宣言。乱闘は収束を迎えるのであった。
ちなみに某てんっさい物理学者は騒ぎが終わった後にシャルルと共に現場に駆け付けた。おっそーい!
「しかしそんな状態になるまで模擬戦なんて、最近の女子はバイオレンスだよな。なぁシャルル」
「えぇっ、僕!?いや、えっと……」
「ちょっと戦兎さん、わたくしがバイオレンスなどとは聞き捨て成りませんわ!そういったゴリラのような振る舞いは鈴さんの役目の筈です!」
「おうこら、喧嘩なら買うわよ。っていうかあんたはなんでさっきから誰かしらをゴリラ呼ばわりしてんのよ」
「まぁまぁ……で、そもそもなんで模擬戦なんてしてたんだ?」
セシリアの言葉に反応する鈴を宥めつつ、一夏が2人に問いかける。彼の知る限りでは、2人はラウラと交友があったわけではないので、どういった経緯で模擬戦を行ったのか彼としては気になる所である。そもそも交友を結んでいればここまで痛めつけるようなことはしない筈だが。
しかし、2人とも言えるわけが無かった。彼女達が戦った理由は『想い人である一夏を馬鹿にされたから』なのだが、当の本人の目の前で言うなど彼女達にとっては恥ずかしくて仕方なかった。
「そ、それはまぁ……」
「女のプライドを侮辱されたから、といいますか……」
「?ふぅん」
イマイチ要領を得ていない一夏であったが、口ごもる彼女達にこれ以上問い詰めても詳しく話してくれなさそうだなと思ったので、それで納得することにした。
「へぇ~……」
「シャルル、そんなニヤついてどうかしたのか?」
「んー?いや、なんでもないよ?」
もう1人の男である戦兎もこの手の話題についてはポンコツなので、隣のシャルルがいい笑顔を浮かべている理由も見当がつかなかった。
「けどあれだけISにダメージが入ってるとなると、今度のトーナメントの参加は厳しそう、というか無理そうだな」
「ぐぅ……」
「こ、この身の傷より痛いところを突きますわね……」
戦兎の言うように、鈴音達のトーナメント参加は非常に危ういものとなっている。
ISの機体ダメージにはABCとレベル分けされており、それが下りていくにつれて深刻なダメージを受けていることを示している。今回、2人の専用機が受けたダメージレベルは見ている限りでもCに達していることが明らかであった。その状態でISを稼働させるとISに悪影響を及ぼす形で経験値が蓄積し、推奨されないどころではなくなってしまう。
最新鋭機のデータ収集を目的としている鈴音達にとっては今度のトーナメントは絶好の機会なのだが、それを逃してしまうのは非常に痛いところである。これを本国に報告しなければならないことを今から考えるとなると、2人の胃が悲鳴を上げ始めるのであった。
「まぁ、今は早く治すことに専念しとけよ。いつまでも傷ついた姿でいられると俺も困るからさ」
「ぐぬぅ……わ、分かったわよ」
「い、一夏さんがそこまで言うのでしたら、わたくしも養生するのは吝かではありませんわ」
惚れた相手にそこまで言われては反抗する気も起きず、2人は渋々としながらも了承する。一夏も一夏でそんな彼女達が珍しく素直に従ってくれてどこか嬉しそうである。
「それにしてもトーナメントかぁ……やっぱり一番の強敵はあいつ、ボーデヴィッヒだよな」
「うん、彼女は1年生の中でも最強といっていいだろうからね。1対1となると誰でも勝機は限りなく低いとみていいよ」
「まぁ2人が倒されてるからなぁ。けどシャルルや戦兎なら勝てるんじゃないか?あ、俺も勿論勝つつもりでいくけど」
「あぁ、それなんだけどね――」
シャルルが何かを言いかけたところで、室外――保健室の入り口の向こう側からドタドタと騒がしい足音が室内にいる全員の耳に入る。
1人や2人どころではない、多人数による足音は此方に向かって段々と近づいていき、そして扉をブッ飛ばしながら多数の女子生徒が保健室に雪崩れ込んできた。
「ふおぉ!?」
「あぁ、一夏が扉の下敷きに!?」
「追撃の踏み付けでダメージはさらに加速した」
「オウフ……」
一夏と外れた扉の上に立っている女子は傾斜面の状態でシャルル達に詰め寄っていることになるのだが、皆が興奮状態で気付いていない様子。
「そ、それでどうしたのかな?皆してそんなに血相を変えて」
「これだよ、これ!」
「……0点のテスト答案がどうかしたの?」
「あ、やべっ」
「のび太くぅん?」
改めて。
「学年別トーナメントを……タッグ形式で執り行う?」
出された連絡プリントの内容を流し読みした結果、そのようなことが記載されていた。どうやらより実践的な模擬戦闘を行う為に、2対2の複数人による試合形式に仕様変更するとのことで、ペアを組むことが必須事項、出来なかった者は抽選によるペア決定となるらしい。
現に推し掛けてきている1年生の女子達も、噂の男子生徒とペアになる為にここにやってきたのだ。勝利に固執するのであればIS操縦に長けている代表候補生に話を持ちかけるのが普通なのだが、ここにいる女子達は兎に角男子とペアになりたいが為にその辺りが頭からすっぽ抜けてしまっている。男の子と練習の合間にあんなことやこんなことをしたい。(強欲)
「デュノアくん!私と組んずほぐれ……じゃねーや、組み伏せてください!」
「戦兎くん!勝利の法則で私を導いて!」
「織斑くん!いねーじゃねーか!」
シャルルに詰め寄る子、戦兎に詰め寄る子、一夏がいないと思って扉の上で地団太を踏む子とそれぞれが思い思いに動いている。地団太を踏んでいる子は扉の下で呻く蛙のような声に気付かない。
熱気立つこの場を収めるべく、シャルルが率先して行動を開始した。
「み、皆!そのことなんだけど……実は僕、今度のトーナメントには出られないんだっ」
「な……」
『なんだってー!?』
シャルルによるまさかの欠場宣言。今度のイベントで注目を浴びる筈の人物が欠場するというのは彼女達にとって衝撃過ぎる内容であった。
「急な話なんだけど、一度フランスの方に戻らなくちゃいけなくなって……こっちに帰ってくるのもトーナメントが終わった後なんだ」
「嘘だ……僕を騙そうとしている……」
「いや騙してないから……皆には申し訳ないけど、僕はタッグを組んであげられないんだ」
そのように確りと謝られてしまってはこれ以上どうこう言うことも出来ず、少女達は口を閉ざしてしまう。
戦兎も戦兎でシャルルが帰国すると言い出したことには多からず驚かされていたが、彼女の現状を考えてみればその理由にも納得がいき、此方に視線を向けていたシャルルと目を合わせる。
シャルルも戦兎が理解してくれたことを彼の表情で気付き、ほんの少しの申し訳なさを込めた笑みを浮かべながら頷いてみせる。
「やだ……あの2人、目で会話してる……」
「最初から私達に勝算なんて無かったんや……だってあんなことやっちゃうんだもの」
「同性結婚……フランス……あっ」
「いや察しないで」
「待った!デュノアくんが駄目でも、まだ私達には戦兎くんと織斑くんが――」
「あ、一夏は戦兎と組みたがるだろうから、多分無理だと思うよ?」
「うっほ……」
「その反応は喜んでんの?残念がってんの?」
一夏が男と組みたがっていると聞いてしまっては、女子である自分達に勝ち目は無い。潔く女子生徒は退室していった。
『それはそれでいいかも』『新刊まだー?』という話し声を廊下で行っていたが、保健室に残っているシャルル達はツッコまないことにした。
皆が出ていったところで、扉の下敷きになっていた一夏が漸く復活する。
「ぐぅ……酷い目に遭った。っていうか早く助けてくれよ」
「悪い悪い。言い出すタイミングが無くてな」
「助けるのにタイミングとか計らなくていいから。というかシャルル、本当にトーナメントに出ないのか?」
「うん、ちょっと家の事情でね……さっきも言ったけど、一夏はタッグを組むならやっぱり戦兎とかな?」
「まぁ、戦兎となら女子と組むよりやりやすいと思うけど……戦兎はどうなんだ?」
「俺か?俺はまぁ、誰でもいいけど」
関心の薄い戦兎はそのように答える。
実は今大会に於いて、ビルドに変身しての参加を制限されている戦兎。
理由としてはビルドの能力にあり、ビルドは様々なフルボトルを使用して相手の能力に合わせて自身の力・能力を変化させることが出来る。敵の弱点を突く、逆に自身の弱点を打ち消す、そういった対策が幅広いことは敵にとって脅威となる。
学園はまだ1学期の途中で、1年生のIS操縦能力は未熟。鍛錬を重ねた2、3年生なら兎に角、彼女達がビルドの相手を務めるのはかなり厳しいものがある。実際、1度IS学園教員である真耶との実演訓練では彼女と引き分けてさえおり、その実力は一線を画している。
そういった理由があり、ハンデの意味合いを兼ねて戦兎はビルドに変身することが出来ないのだ。関心が薄いのもそれが原因である。一応、ビルドのISモードに高機動仕様を搭載する為のデータを取る必要があるので、決して無駄というわけでもないのだが。
「じゃあ俺と組もうぜ、戦兎。俺もお前となら歓迎だし」
「……まぁいいか。それじゃあよろしくな、一夏」
強いて言うならシャルルと組んだ方が一番やりやすいと思った戦兎であったが、彼女が出れない以上、それ以外への拘りは無い。
一夏からの誘いに戦兎が乗ったことで、男子によるタッグが今ここに誕生した。
めでたし、めでた――。
「ちょっと一夏!タッグ相手ならあたしがいるでしょうが、あたしが!」
「一夏さん!ここはわたくし以外を選ぶなど考えられなくってよ!」
「いやお前ら養生するって約束してたよね!?」
……どうやら、一夏が落ち着けるのはもう少し先のようである。
3人が言い争っているのを余所目に、戦兎とシャルルは話をしていた。
「それにしても、急に帰国か……あれから俺は詳しいことを聞かされてないんだけど、いい方向に話は畳めそうか?」
「うん。まだ問題点というか、未解決になりそうな事項はあるけど……このままいけば、この男子制服ともおさらばだよ」
「そうか。その格好も結構サマになってるんだけどな」
「……そう言われても僕は嬉しくないんだけど」
むすぅ、と分かりやすく機嫌を損ねるシャルル。彼女としては男装姿を褒められても心には響かないし、好きな人にそう言われると余計に面白くない。
そんなシャルルの急な反応を不思議に思った戦兎は首を傾げる。
「あれ?よく分からんが、こういうのは褒められると喜ぶものなんじゃないのか?」
「……戦兎はもうちょっと乙女心について勉強した方がいいと思うよ」
「オトメゴコロ?それはフルボトルの研究に役立つものなのか?」
「……はぁ」
「あれ、何故か溜め息吐かれた」
ますます意味が分からず、戦兎は傾げる首の角度を更に深くする。
彼がその辺りを理解するのはまだまだ先のようだ。
そして日付は流れていき、ついに学年別トーナメント当日を迎える――。
―――続く―――
ここでシャルルが一旦フランスへ帰国……といっても次話は早速ラウラ&箒のペアと戦うので、せいぜい数話程度ですが。