INFINITE・BUILD-無限創造-   作:たいお

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第28話 トーナメント開催=男達の意地

 6月の最終週に組み込まれている学年別トーナメントの日を迎え、IS学園は一色変わった賑やかな雰囲気に包まれていた。賑やかというよりは熱気という表現の方が近い、何せ1学期の中で最も規模の大きい学校行事なのだから、生徒も教員も準備の段階から忙しなく動かなければならない。会場の最終整理や来賓の案内誘導、その他諸々の雑務を行った後は、各自トーナメントに向けて出場の準備を行うというバタバタしたタイムスケジュールだ。

 

 今大会唯一の男子ペアである戦兎と一夏も雑用から解放されて、割り振られた更衣室にて備えている。互いに着替えも済ませ、後は対戦表がモニターに表示されるのを待つだけである。

 本来ならば試合前日には対戦表は完了している筈なのだが、偶然にも従来のシステムが不調を来してしまい、急遽抽選くじで決めることとなった。既に戦兎達はAブロック1回戦1試合目に充てられている。対戦相手はまだ不明だ。

 

「それにしても、凄いよな……どの人も色んな国や企業のお偉いさんなんだろ?」

 

 モニターに対戦表が映し出されるまでは、観客席の様子が画面に映っている。来賓席には各国政府関係者、有名IS企業重鎮、研究所所長等といった顔触れが勢揃いしており、錚々たる面子である。

 ただ、ISの世界に踏み込んで数か月の一夏からすれば『どこかの偉い人達』程度の認識しか出来ていないのが悲しいところである。

 

「らしいな。しかし態々見物に来るなんて、ご苦労なことだよな」

 

 棒付きキャンディーを口に咥えながら、戦兎はそう答える。こっちは偉い人に対しての関心が薄く、一夏以上に興味を抱いていないので非常に悲しいところ。

 

「というか戦兎、戦い慣れてるビルドじゃなくて大丈夫なのか?」

「まぁ、織斑先生にそう言われたんだから俺じゃどうしようもないさ。ま、余程強い奴……ボーデヴィッヒみたいな相手でもない限りは大丈夫だろ」

「ボーデヴィッヒ、か」

 

 その名前を聞いた途端、一夏の表情が強張り始める。

 ラウラがセシリア達にしたことを許してはいない。必要の無い暴力を振るい、セシリア達を出場不可能な状態にまで追い込んだ彼女はこの手で倒さなければ気が済まない。

 一夏の拳が無意識に握られる、籠め過ぎなくらいに力強く。

 

「まぁ、あいつとぶつかった時は特に注意しとかないとな。あの実力、俺もビルドに変身しないと勝ち目が無いかもしれない」

「……そんなにか?」

「戦闘経験に関しては俺も場数を踏んでる方だけど、何分ISっていう土俵じゃあ流石にな。しかも向こうは代表候補生、同じ代表候補生の鈴達に圧勝したならそう分析するのは当然だろ?」

「……だからといって、俺はそれを諦める理由にはしない」

 

 戦兎の冷静な分析は尤もであり、一夏も彼が言いたいことを理解出来ている。

 しかしそれでも、一夏は彼に勝たなければならない、勝って鈴音達の雪辱を晴らしてやりたいと願っている。そうしなければ鈴達がずっと悔しいままでもあり、自分自身も何も出来なかったと悔いを残し続けてしまう。

 

 苦境を前にしながらも諦めようとしない一夏の姿勢、戦兎はそんな彼の意気込みに肯定的な態度を示した。

 

「まっ、ああいう相手だからこそ勝利の法則を見つけた瞬間が最っ高だからな。やるだけやってみるか」

「戦兎……!ああ、やろうぜ!」

 

 意外にも乗り気な反応を見せてくれた戦兎を嬉しく思い、一夏は 破顔しながら

 

 

 

「とはいえ、まずはボーデヴィッヒと対戦する展開にまでならないとは。決勝戦までその意気込みを抱えるのはシンドイぞー?」

「いいんだよ、こういうのは最初から心に留めておいても。それに案外最初の試合で戦うことになるかもしれないぜ?……なんてな」

「そんなこと言ってると、フラグになって本当に起こるかもしれないからな」

「ははは、数十組も候補がいるんだぜ?自分から言い出しておいてなんだけど、そんなマンガみたいな展開が――」

 

『Aブロック第1試合1回戦』

『赤星 戦兎&織斑 一夏 対 篠ノ之 箒&ラウラ・ボーデヴィッヒ』

 

「ウェイ!?」

「フラグ回収乙」

 

 

 

――――――――――

 

「まさか1戦目で貴様に当たるとはな。待つ手間が省けて都合がいい」

「……フラグってホントにあるんだな」

「なんだと?」

「いや、なんでもない。独り言だ」

 

 アリーナにて、因縁の者達が対峙を果たす。

 自身の敬愛する師の汚点となる存在を倒すと決めたラウラ。

 仲間を傷つけられた怒り、そして彼女達の無念を晴らすと決めた一夏。

 

「なぁ箒、俺達もそれっぽい舌戦がいると思うか?」

「その質問をした時点で駄目だろう……」

 

 ペアの相手の気合が高まっていて、逆に冷静さを保っている戦兎と箒。

 

 彼らの試合を始めるカウントダウンが進む。5、4、3、2、1……。

 

「織斑一夏……貴様を叩き潰すっ!」

「俺は絶対、お前に勝つ!!」

「さぁ、特別実験を始めようか」

「え、何か台詞が必要なのか!?え、えぇっと……ま、まいりゅ!」

「箒……」

 

 0。試合が開始された。

 開幕と同時に大きな動きを見せたのは一夏。瞬時加速を使い、一気にラウラとの距離を詰めていく。

 

 しかしその行動はラウラも読めており、あらゆる物体の慣性を停止させて動きを封じる特殊兵装【AIC】で一夏の動きを止めるべく、腕を前に突き出した。

 

「開幕直後の先制攻撃、貴様の狙いなど読めて――」

「一夏の狙いだけか?」

「――っ!」

 

 一夏がラウラの元に辿り着くよりも先に、彼を追い越して数発の銃弾が疾駆する。

 それらは戦兎が開始直後に召喚したワンハンドリボルバー【スターブリッツ】の銃口から放たれたものであった。

 ちなみに今の戦兎が乗っているのはラファール・リヴァイブ、打鉄に並ぶIS学園にて普及されている訓練機である。

 

 迫り来る銃弾に対し、ラウラは突き出した腕の手首からプラズマ手刀を繰り出すと真っ二つに斬り裂いていく。

 全ての銃弾を斬り伏せたラウラの眼前には、既に雪片弐型を上段に構えてから振り下ろそうとしている一夏の姿があった。AICの発動は間に合わない。

 

「ちぃっ!」

 

 両腕のプラズマ手刀を交差させ、雪片の刃をガッチリと受け止める。

 零落白夜でないのは幸いだった。あれは外してしまえば自身のシールドエネルギーを無駄に消費するだけに終わってしまうので、恐らく慎重になって使用を控えたのだろう。

 

 拮抗する両者の元へ、戦兎が近接ブレード【ブレッド・スライサー】を携えて肉薄を試みる。

 

「させん!」

 

 ここでカバーに入ったのが箒。打鉄を扱っている彼女は一夏達と戦兎の間に割り込むと、近接ブレード【葵】で戦兎の迎撃に入った。

 

「私を忘れてもらっては困るぞ!」

「いや、あんな噛み方したら忘れたくても忘れられな――」

「人の新しい傷を抉るな!そもそもお前まで台詞を言い出したから不意打ちのようなことになってしまったのだろう」

「いやぁ、だって戦う時のノルマみたいなもんだし」

「誰がそんなノルマ課してるというのだ」

 

 一夏とラウラ、戦兎と箒。2つの拮抗が一時的に発生する。

 その状況を変える動きを真っ先に見せたのは、ラウラ。

 彼女は一夏との鍔迫り合いから腕を引いて彼のバランスを崩すと、素早く横に回り込んで横腹に蹴りを叩き込む。

 

 蹴り飛ばされる一夏の先には、剣で凌ぎ合っている戦兎達がいた。

 

「ぐぅっ……!」

「一夏!?」

「まさか……」

 

 敵とはいえ片想いの相手の身を案ずる箒と、それとは別で何かに気付いたそぶりを示す戦兎。

 戦兎の察し通り、こちらに飛んでくる一夏の向こう側には大型レールカノンの照準を向けてきているラウラの姿があった。そう、ラウラは味方である箒諸共、砲弾で吹き飛ばすつもりなのだ。

 

「一夏!」

「ぐへっ!?」

 

 迫り来る一夏を横に蹴り飛ばしつつ、戦兎自身もその反動で横に跳ぶ。

 その直後にラウラのレールカノンが火を噴き、戦兎達のいた場所に大口径砲弾が着弾し、爆発を起こした。咄嗟のことであったが、戦兎のフォローがあってどちらにもダメージは入っていない。

 

 同様に射程範囲から逃れていた箒は、味方である筈のラウラをキッと睨みつける。

 

「貴様、一体どういうつもりだ!」

「ふん……」

 

 しかしラウラは箒の怒りなど歯牙にもかけていない。その目が捉えている獲物は、相変わらず一夏のままである。

 この戦い、ラウラはあくまで1人で戦っていると認識している。トーナメントにおいてタッグを組むという学園からの通達が来ても、彼女からすればどうでもいいことであった。ISへの認識が甘い者が戦力になどなるものか、といった具合に思っており、連携する気など最初から持ち合わせていなかった。

 だが、それだけの実力が彼女にはある。代表候補生である鈴音とセシリアを1人で倒してみせたことがその証拠だ。

 

『戦兎、ここからどうする?』

『んー……予定通り、プランAでいこうか』

『プランA?あれ、いつの間にそんな名称付けてたの?っていうかプランAってアレのことで合ってるよな?』

『よし、いくぞ一夏』

『アレでいいんだよな!?他にそれっぽい作戦無かったもんな!?ねぇ聞いて!?』

 

 プライベート。チャネルでやり取りを済ませた戦兎達は、一斉にラウラに向かって攻撃を仕掛けた。もう1人の相手である箒のことはお構い無しに。

 

「なっ……私など眼中に無いとでもいうのか……嘗めるなっ!」

 

 当然、自分を無視するとなれば箒も黙って見たままではいられない。彼女も彼らの戦闘に参じるべく、ISを動かして彼等を追い掛け始める。

 

 箒が背中から迫ってきていることを確かめると、戦兎は一夏に対して声を掛ける。

 

「一夏!」

「おう!っていうかプランAはアレだよな、そのままいくからな!?」

 

 戦兎の声に応じ、一夏は更に加速してラウラへと迫っていく。開幕の時と同様に、一夏のみが相手に吶喊する形となる。

 

 一夏の加速と同時に戦兎も銃のリロードを済ませ、ラウラに対して射撃を開始。時計回りに旋回して彼女の側面へ位置を取る。

 

「ふん、同じ小細工が2度も通じると思うなっ!」

 

 ワイヤーブレードを銃弾の射線上に展開してそれを防ぐと共に、迫り来る一夏を迎え撃つべくプラズマ手刀を巧みに振るうラウラ。戦兎から続けざまに銃撃が行われるが、彼女はワイヤーの位置を調整して防御を続けながら一夏の攻撃をいなし、逆に彼を追い詰めていく。

 

 攻撃と防御を難なく両立させるその圧倒的実力を前に、一夏は一筋の冷汗が自分の頬を伝っていることに気付く。今も尚プラズマの刃を防いでいる最中なので、拭っている暇など一切無い。

 そんな彼の背後を、追いついてきた箒の影が覆った。

 

「ぜあぁぁぁぁ!!」

 

 位置の都合上で背中を狙うことになってしまうが、ISはハイパーセンサーで視界を360度で確認出来るので、大した問題ではない。

 気合の籠った声と共に繰り出される唐竹割りが、一夏の頭部に目掛けて振るわれる。

 

 前門の虎、後門の狼。

 しかし一夏はその絶対絶命な状況の中で、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「ここだっ!」

「「なっ!?」」

 

 地に伏せる程の勢いで瞬時に身体を低く取った。

 彼がその身を低くしたことによってラウラの振るうプラズマ刃が箒の腕部へと、箒の刀がラウラの肩口へと鋭く入って両者にシールドバリアーの発生を齎した。

 

 フレンドリーファイア。それが、戦兎が予め考えていた作戦だったのだ。

 ラウラが味方と連携を取る姿勢を持たないということは、普段の生活態度から見て明らかだった。自ら孤高を選び、群れることを嫌う彼女がこの場に於いて味方の力を頼りにするなどありえない。味方の行動をキチンと把握していなければ、このような事態が引き起こっても仕方がない。

 そういった前提があってこその、この作戦なのである。

 

「もういっちょ!」

 

 同士討ちに動揺する彼女達への追撃として、一夏は身を低めた状態からの回転斬りを放って彼女達に更なるダメージを与える。腹部に衝撃を走らせて後方へと後退りさせてみせる。

 

「ちぃっ!雑魚の分際で小賢しい真似を――っ!?」

 

 ラウラの元に射撃の警告が送られたが、怒りでその反応が遅れてしまった。

 彼女の装備の1つである大型レールカノンに起こる衝撃と爆発。先程の警告の銃撃がレールカノンに命中し、当たり処が悪かったのか煙と火花が上がっている。

 

 射線上の先にいたのは、実弾狙撃銃【ホークアイズ】のスコープを覗きながらこちらに銃口を向けている戦兎。

 本人はスコープから目を離しながら『おぉ、当たった』と呑気に独り言を呟いていた。

 

 その瞬間、ラウラの頭の中でプツンと何かがキレた(・・・)

 

「く、くくく……」

 

 久方ぶりに味わった屈辱。形は違えど、心に訴えかける嫌悪感は彼女に不気味な笑いを込み上げさせた。

 

 嘗ては軍で優秀な成績を収めていた彼女だったが、諸々の事情でその実力を発揮出来なくなったことによって上層部から無能の烙印を押された彼女は、『出来損ない』と呼ばれて侮蔑や嘲笑を周囲から向けられる日々を送ってきた。

 そんな彼女を再び強者の座へと引き上げてくれたのが、恩師である織斑 千冬。教官として1年間ドイツ軍に派遣された彼女の指導によって、ラウラは新たな部隊で再び頂点を掴み取ることが出来た。

 今の自分は教官である千冬が作り上げた最強の戦士、その力は彼女の成果と言ってもいいくらいである。

 

 だが、このザマはなんだ?

 ISに乗り始めてからたった数ヶ月の男達、自称天才の小賢しい入れ知恵で足掻いているだけの、弱者に属する連中。片や恩人の栄光に泥を塗った猪突猛進な単純男で、自身が憎んでいた存在である織斑 一夏。

 

「許さん……!」

 

 自身の敗北は、千冬の教導が劣っていることと同義となる。そのようなこと、ラウラが許容出来る筈がなかった。

 

「絶対に許さんぞ貴様らっ……!!完膚無きまでに叩き潰してやる!!覚悟しろぉっ!!」

 

 殺意すら籠った闘志を身体中から湧き上がらせ、ラウラは鬼気迫る形相で戦兎達を睨みつける。並の人間が見れば逃げ出してしまいたくなる程の威圧感がアリーナ全体を支配する。最早一端の代表候補生が放てるプレッシャーではなかった。

 

「うおぉ、すげー。スマッシュよりも威圧放ってるんじゃないの、あれ」

「本気で怒ってるな……戦兎、次はどう仕掛けるんだ?」

 

 合流した戦兎と一夏。

 間もなく始まるであろう大激戦を予想した一夏から指示を仰がれ、戦兎はフッと笑みを零した。

 

「勿論、次のプランはもう決まってるさ」

「おぉ、となるとプランBってことだな!プランBはなんだ?」

「あ?ねぇよそんなもん」

「……えっ」

 

 何故急に口が悪くなったのかツッコむべきところだったが、それ以上に聞き捨てならないものを一夏は聞いてしまった。

 いや、さっきのフレンドリーファイア作戦意外にそれらしい戦略は聞かされていなかった。だがそれでも戦兎なら、戦兎なら何かしら作戦を考えてくれている。そう考えていたのだが……。

 

「そうだな、強いて言うなら『バッチリがんばれ』ってとこだな」

「つまりノープランってことだなチクショウめ!しかもどこのゲームの作戦だよ!?」

「分かった分かった。じゃあこうしよう、『いちかがんばれ』『せんとせつやく』だ」

「それお前が楽したいだけだろうが!お前も頑張るんだよ!」

 

 2人で漫才を繰り広げていると、ついに痺れを切らしたラウラが動き始めた。

 

「何をゴチャゴチャと喋っている……来ないのならこちらからいくぞっ!」

「あぁくそっ!こうなったら作戦無しでもやってやる!いくぞ戦兎!」

「よし、作戦は『いちかにまかせろ』『きょうといこうぜ』でいくか」

「俺を置いて旅行に行ってんじゃねーよ!」

 

 温度差の激しいシュールな光景ではあるが、呑気にしていられるのも今の内。

 本気になったラウラの実力が、間もなく明らかとなる。

 

 

 

―――続く―――

 




 ところどころでギャグ要素ぶっこんでます。最近シリアス続きでしたが、元々これくらいの温度で普段から書きたかったり。
 あ、次回はまたシリアスな展開メインです。流石にVTシステムの最中におふざけしてる余裕は無いので……。
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