「む?おぉ、シャルロットに戦兎ではないか」
「えっ?あ、ホントだ。どうしたんだよ2人ともこんなところで」
戦兎たちの姿に気付いたのはまずラウラで、眼前の水着から視線を離して彼らの方へと向き直る。隣にいる一夏も彼女に倣ってそちらの方を向いている。
「それは僕たちの方が聞きたいよ。2人で一緒に買い物してるなんて……しかも水着売り場で」
「一夏、お前男なのに女物の水着見てるってことは……やっぱり一夏くんじゃなくて一夏ちゃんだったか」
「何!?一夏よ、お前が真剣に選んでいたのはまさかそういうことだったのか……?」
「ちげーよ!ラウラがどの水着を選んでいいか分からないって言うから、俺なりに考えてたんだろ!?というか一緒にいたお前が真っ先にその疑問を持つのはおかしいからね!?」
既視感を覚えるようなあらぬ疑いを掛けられている一夏であったが、これ以上話をややこしくしない為に状況説明に入り出す。
先ず、何故一夏とラウラが2人でこのレゾナンスに来ているのかということだが、きっかけはラウラの誘いからであった。
ラウラはこれまで一夏のことをずっと目の敵にし続けており、彼には転校初日から平手打ち、ISの訓練途中に横から発砲、友人のセシリアたちを負傷させて怒りを買うといった仕打ちを行ってきた。既にセシリアや鈴音だけでなく、クラスメイトたちにも謝罪を行ってそれぞれから許しを貰ってはいるが、ただ謝るだけではラウラの心にしこりが残ってしまう。
なので今回は全員に向けたお詫びの品を買う為、そして特に迷惑をかけた一夏に直接お詫びをする為に彼を誘って近場の大型モールであるレゾナンスにやってきたのである。
「だが慣れない土地にこの人混みは少々堪えてな……来て早々迷子になった」
「だからってISの通信機能を使った時は本気で焦ったぜ……千冬姉とかにバレたらどうするんだよ」
「ひとっ走り付き合えよ、というやつだな」
「行き先が地獄なのは遠慮したいんだけど……」
「で、ここにいるのはラウラの水着を探してるってことでいいのか?一夏の分じゃなくて」
「だから違うわい!……ホントは来る予定は無かったんだけど、途中でラウラが学園指定用の水着しか持ってないって聞いてさ。ちょうど近くを通りがかったし、見ていこうってなってな」
「別に私は学園指定の物で良かったんだがな……『女の子なんだからこういうのに興味を持ってみてもいいんじゃないか?』と言われてな。まぁ結局、どういった水着が良いのか私も一夏も分からなかったのだがな」
そして悩んでいる最中に戦兎たちが合流した、というわけである。
すると、シャルロットがポンと手を叩いて提案を投げ掛けた。
「そうだ、この際だからラウラの水着も一緒に選んじゃおうよ」
「む、それは私としては有難い申し出だが……しかしいいのか?シャルロットも戦兎と買い出しに来ているのだろう?」
「丁度僕たちも水着を買いに来てるんだし、ここで会ったのも何かの縁だからさ。あ、戦兎は大丈夫だったかな?急にそんな話にしちゃったけど」
「ん?あぁ、俺も別にいいぞ」
「ごめんね、僕の方で勝手に決めちゃって……けどありがとう」
シャルロットから話を振られる戦兎であったが、その辺りに無頓着な彼がNOと言うことはなく、話が滞る様子も無い。
その後一夏もシャルロットの提案に了承したことによって、4人は水着選びを始める。取り敢えず、先ずは各自が店内を見て回ってシャルロットたちに合う水着を見繕うことになった。
「けどまぁ、シャルも中々にお人好しだよな」
「どうしたの?急に」
「今日は自分の為の買い物に来たんだろ?なのにこうしてラウラの水着を選んでやってるのを見てると、そう思いたくもなるって」
勿論戦兎は嫌味のつもりなど無く、素直に感心したうえでの発言である。
ここ最近のクラスメイトと交流する彼女の姿を見ていて思ったのだが、彼女はお人好しと言ってもいいくらいに人が良い。頼まれごとをされれば嫌な顔一つせずに了承したり(ただし男装のお願いは全力で拒否している)、一夏の訓練にも引き続き協力したりといった具合に、その人当たりの良さが見て取れる。
しかしやはり戦兎としては不可解でもあった。一夏もそうであるが、そこまで他人に入れ込む理由がどこにあるのかと。
「うーん、お人好しなのかなぁ……僕はただ、友だちの助けになれたらいいなって思ってるだけなんだけど」
「そういうもんか?」
「そういうものだと思うよ?」
やはりまだ戦兎にはその辺りを理解するのは難しいらしい。彼が納得出来るようになるのは、もう少し先になるだろう。
そのまま2人でぶらついていると、戦兎の目にとある水着が止まった。
「おっ。シャル、この水着とかどうだ?」
「それは……」
戦兎が手に取ったのは、ビキニとセパレートの中間をとったデザインの水着であった。色はシャルロットの髪色よりも濃い黄色で、黒と黄色のストライプをしたスカートが付属されている。
「色合い的にシャルに似合ってると思ったんだけど、どう思う?」
「わぁ……!うん、いいよ、僕もそれがいいと思う!」
「ふっ、フルボトルのベストマッチを見つけ続けてるから第6感が鍛えられてるんだよ」
「勘って鍛えられるのかな……じゃあ僕のはこれにするねっ」
戦兎から渡された水着を大事そうに胸に抱えるシャルロット。その表情はいつになく嬉しそうに綻んでいる。
試着もせずにそれに決めたのは、彼女自身がこの水着を一目見て気になったというのもあるが、戦兎が自分に似合うと思って推してくれたことが何よりも重要であったからだ。
「よし、これでシャルの分は決まりだな。後はラウラの分だけだけど……」
「あっ、それならこれなんてどうかな?丁度今見つけたんだけど」
「ほう……これは多分いいと思うぞ。俺の第6感もそう告げてる」
「その言葉便利だね……それじゃあ、2人のところに戻ろ――」
と、その時であった。
戦兎の懐でビルドフォンの着信音とバイブレーションが同時に発生して存在を主張し始める。
電話の持ち主である戦兎は隣のシャルと目を合わせた後、素早く懐から取り出して耳に当てる。
「もしもし、マスターか?」
『おう、マスターだ。そしてスマッシュの目撃情報と……金色の戦士が現れたっていう情報が入ったぜ』
「っ!」
金色の戦士というワードに反応してピクリと耳を動かす戦兎。
「互いの場所は?」
『スマッシュはそこから北東10km先の住宅街、金色の戦士は南の方角からバイクでそっちに向かってるのが目撃されてる。場所はスマッシュの場所から7~8kmってとこか』
「分かった、すぐに向かう」
戦兎は通話を終了させると、シャルロットの方へ身体を向け直す。
「悪いシャルロット、ちょっと行ってくる」
「ちょっと聞こえたんだけど……金色の戦士が現れたんだよね?」
「あぁ。場所もそう遠くないし、上手くいけば奴の姿を見れる筈だ」
「……気を付けてね、戦兎」
案ずるシャルロットの想いを頷くことで受け取った戦兎は、彼女に背を向けて現場へ向かって走り始める。
走り行く彼の姿を見送っている最中、シャルロットの背後からラウラたちの声が掛かる。
「シャルロット?戦兎の姿が見当たらないようだが、どこへ行ったのだ?」
「……スマッシュが北東の住宅街に現れたんだって。それと、金色の戦士も」
「金色の戦士……!」
その単語を聞いて、一夏の様子が一変する。
金色の戦士の噂は、既に世間に知れ渡っている。現れた日数こそ浅いものの、迅速にスマッシュを倒すという結果とここ最近の目撃情報が合わさってネットでも騒がれるようになった。
『ビルドとは異なる新たな戦士!』『その実力はビルドをも超えるか!?』『スマッシュを即座に倒す、第2の正義のヒーロー誕生!』といった見出しの書き込みも今では注目の記事となっている。
一夏もいくつかその書き込みを流し読みしたことがあり、その存在を知っていた。だからこそシャルロットの口から出たその名に反応したのだ。
・・・…尤も、その反応はただ知識として知っているだけにしては妙に違和感があるのだが。
「……俺も、そこに行ってくる」
「い、一夏!?」
「いきなり何を言っているのだお前は!?我々の持つ専用機は公共の場で使うことは原則禁止されている!お前が行ったところでどうにもならんぞ!」
ラウラが止めに掛かるが、それは当然の反応であった。彼女が言うようにISの専用機は特定の場所以外では展開することを禁じられている。破ろうものなら妥当な線で専用機剥奪、度合いによって所属国からの罰則や代表候補生辞退といったものがある。
ちなみにラウラが先程ISの通信機能を使おうとしたのも軽度のそれであるが、今は何も言わないでおく。
兎に角、公の場でISを使うことが出来ない以上、ラウラたち代表候補生のように特殊な戦闘訓練を受けている者以外は単なる一般人と遜色なくなってしまう、つまり一夏がそれに該当するのだ。
そんな彼が行ったところで、野次となんら変わりない。ラウラが言いたいのはそういうことである。
しかし彼女にそう言われても、一夏の思いは変わらなかった。
「住宅街……そう、住宅街って言ってただろ。もしも逃げ遅れた人がいたら、その人たちの避難を手伝わなきゃならない。今の俺にだって、出来ることはある筈だ」
「確かに、被害が甚大であるならばそういった人手は欲しいだろうが……我々が首を突っ込まずとも、警察が駆けつけてくれるだろう」
「っ……悪い!」
「あ、おい一夏!」
ラウラの言葉を聞きながらも、それを受け入れたくないかのようなそぶりを見せた一夏は詫びの言葉を吐きながらその場を走り去り出した。ラウラの制止を振り切り、スマッシュの出現場所方面に位置する出口に向かって。
一夏を掴むことが叶わなかった手をダランとぶら下げつつ、ラウラは嘆息する。
「まったく、急にどうしたというのだ一夏の奴」
「……ねぇラウラ。一夏の様子、なんかおかしくなかった?」
「む?まぁあの様子を見る限りではな」
「うん。どう言えばいいのか分からないけど……焦ってるような、思い詰めてるような……とにかく、いつもの一夏の調子じゃないのは確かなんだよね」
どちらもIS学園に転入してきた分、他の女子よりも一夏との付き合いが短い彼女たちだが、今の彼がおかしいというのは十分に判断できた。人付き合いの裏表が無い分、読心術が可能なくらいに彼は分かりやすい。
そんな一夏のあの様子。シャルロットもラウラもあまりいい予感はしていなかった。
「悪い事態にならなければいいんだけど……」
「……そうだな」
――――――――――
一方、現場では新たな進展が起こっていた。
スマッシュの出現場所となる住宅街。整備されていたであろう道路や並木道には焼け跡や瓦解といった暴れた痕跡が残されており、そこで戦闘が行われていたことを匂わせる。幸いにも血痕や人が倒れているといった、人的被害が生じたような跡は見当たらなかった。
スマッシュの姿はもうおらず、そこにいるのは2人だけ。
1人は戦兎。もう1人は……。
「やっとご対面だな」
「……」
金色の戦士。ついにその姿を戦兎の前に現せた。
金色と銘打っているだけあって、腹部、肩部、腕部、脚部には黄金に輝いた装甲が装着されている。下に着ているボディスーツが黒色なのもあり、より一層光沢を放っているように見える。
赤い複眼は戦兎を捉えているが、その下の表情がどうなっているのかは分からない。
「……ビルドが、私になんの用?」
「なんの用と言われると、それはまぁ色々と。見慣れないベルトを使ってるみたいだが、それにフルボトルも……ボトル?」
思わず相手の腰部分を2度見する戦兎であったが、見間違いでもなんでもなかった。
ドライバーに装填されている物、それは従来のフルボトルとは大きく異なる形状だった。俗に言うパウチ型、ゼリー飲料に用いられることが多い容器である。
標準的なボトルタイプ、そしてIS学園に来る前から所持しているものの未だ使用していない【とあるボトル】の形状とも異なる、全く新しいアイテムに戦兎の目が輝き始める。
「成程、ベルトの外見からするにそいつを圧縮させることによって中の成分をより多く強く抽出することが出来るのか……」
「あの……」
「レバーはレンチの形にすることで動作を最適化させるか……回す際に起こるベルト内の連動は全てあれで済むのか?それとも何か異なる循環作用を成り立たせてるのか?だとするとあそこの計算式が……」
「ちょっと……」
「見たところ武装は持っていないが俺のドリルクラッシャーみたいな展開が可能なのか?近接武器なのか遠距離武器なのか、それとも本体の高スペックを支える補助向けの武装か?おーい、武器持ってるなら全部見せてくれないかー?」
「いや勝手に1人で話を進めないでよ……!」
ついに痺れを切らした金色の戦士が声を荒げて戦兎の勢いを遮った。こうなった戦兎は無理矢理にでも会話の流れを絶たなければ止まることは無い。
「くっ……それで、さっきも聞いたけど私になんの用?」
「あぁはいはい、用ね。まぁこうして会う前はスマッシュからボトルの成分を採取出来なくなるから即刻やめてもらおうと思ってたんだが……予定がちょっと変わった」
そう言いながら熱の籠った視線を金色の戦士のベルトへと向ける戦兎。それを指差しながら、彼はハッキリとこう告げた。
「そのベルト諸々に興味が湧いたから……貰うわ、それ」
「っ!」
その言葉を聞いた金色の戦士は、反射的にベルトを守るように後ろへ下がった。
戦士――更識 簪にとって、このベルトは決して渡してはならない物。これはあらゆる物を失い、何も持っていない自分に齎された『今までの自分を変えてくれる物』である。ここで渡してしまえば、きっと自分は奪われ続けて失意に陥っていたあの頃に戻ってしまうだろうと、簪は不安を抱いていた。
ならばこそ、戦ってでも阻止しなければならない。姉の時や専用機の時のように何もしないまま奪われることなく、今度こそ自分の力で自分の物を守ってみせると。
たじろく身体を立て直し、仮面の下で深く息を整えた金色の戦士は姿勢を戻して戦兎の前に立ちはだかる。
「……これは渡せない。渡すわけにはいかない」
「まっ。そう言うとは思ってたさ……なら力尽くにでも貰うさ」
断られているのに悠々とした態度を貫いている戦兎は、いつものように懐からドライバーとフルボトルを取り出すと、それらを装着し始めていく。
≪ラビット!≫≪タンク!≫
≪ベストマッチ!≫
最も使い慣れたフルボトルとベストマッチ。それを選択した戦兎はレバーを回して周囲にスナップライドビルダーを形成していく。
≪Are you ready?≫
「変身!」
赤と青のハーフボディに挟まれ、戦兎の身体がビルドの姿へと変貌する。
戦兎の趣味で入れた音声・音楽とともに、装着に伴う蒸気の噴出を巻き上げながら赤と青の戦士がそこに参上する。
≪鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イェーイ!≫
「さぁ、実験を始めようか、金色の……っと、そういえばあんた名前とかあるの?」
決め台詞を言った後、戦兎が思い出したように戦士の名前を問う。いつまでも金色の戦士という呼び方では格好がつかない……こともないのだが、如何せん長ったらしくて面倒臭い。
その問いに応じ、彼女は自らの名を明かす。
更識 簪の方ではない、戦士としてのこの名前は―――
――【仮面ライダーグリス】
――続く――