INFINITE・BUILD-無限創造-   作:たいお

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第36話 手に入れたベルト=改良の道へ

 ビルドとグリスの対決が終盤に差しかかっていた頃、一夏は途中でタクシーを拾って現場付近まで駆けつけていた。

 既にスマッシュの目撃地点周辺には避難勧告が発令されており、直接車で現地まで行くことは叶わなかったが、その近くまで乗せてもらうことで、後は自分の脚で現場に行くという流れになった。タクシーの運転手にもこの先には行ってはいけないと言われたが、適当に誤魔化した後にその姿が去っていくのを確認し、ビルドたちのいる場所へと向かった。

 

 走ること数分、一夏が現場に辿り着いた時には既に2人の勝敗は決していた。

 一夏はその場で立っている方……ビルドに変身している戦兎に声を掛けた。

 

「戦兎!」

「ん?あれ、一夏じゃん。なんでここに来てんの?」

「いや俺は……ってそんなことはいいんだ、それよりも金色の戦士は!?」

 

 自分でも説明し難い心境でこの場に赴いているので、口が上手く回らなかった一夏は話を逸らす意味も含めて現状を尋ねた。

 それならほれ、と指を差すビルドの示す方角に目をやると、そこには先程まで金色の戦士――グリスに変身していた少女が倒れ伏している姿があった。金色の戦士の正体が女の子、その事実に一夏は驚愕した。

 

「女の子!?しかも……IS学園の制服じゃないか!」

 

 驚くべき点は正体が少女というだけではなかった。彼女が着ている物は一夏にとって既に見慣れた制服、IS学園の女子生徒用の制服だったのだ。

 身近にいる人物が噂の戦士の正体だった、それは嘗て戦兎がビルドに変身した時にも似た衝撃であった。

 

「へぇー、まさかIS学園にいたなんてな……まぁ取り敢えずは……」

 

 一夏程ではないが驚くビルドは変身を解除すると、少女――更識 簪の方へと歩き出す。正確に言うならば、彼女の前に転がっているドライバーへ。変身が解除されたのと同時に、彼女の身体から離れたのだろう。

 

 戦兎がそれを拾い上げると共に、簪の身体がピクリと動いた。

 

「……うっ……」

「っ!まだ意識があるのか!」

 

 目敏く気付いた一夏が簪の傍に駆け寄ると、その身体を抱き起こす。そして軽く揺さぶって彼女の意識が戻るのを促し始める。

 

「なぁ君、しっかりしろ!大丈夫か!?」

「う……うぅ……?」

 

 身体を揺らされたことによって簪の意識が鮮明さを取り戻し、その瞳が徐々にハッキリとしておく。

 だが簪は意識を取り戻した矢先に、その目を大きく開かせると抱き上げていた一夏をなんと強く突き飛ばしたのだ。一夏が突き飛ばされて仰向けに倒れ込むが、それと同時に突き飛ばした本人である簪も一夏の胸から離れ、そのまま仰向けに落下して頭を打つという結果に。

 

「い、いてて……きゅ、急にどうしたんだよ。驚かせたのなら謝る――」

「来ないで……」

「――えっ?」

「来ないでって、言ってるの……」

 

 明確な拒絶の意志。

 照れているから、恥ずかしいからといった理由ではなさそうな雰囲気を放つ彼女とその眼光に一夏は思わず身じろいだ。

 

「な、なんでだよ。俺は君を助けようと――」

「そんなこと、頼んでない……それに、私に苦い思いをさせたあなたなんかに、助けられたくない」

 

 そう言われる一夏であったが、彼は簪に見覚えが無かった。朴念仁故に好意を抱く少女の恋心を裏切る言動をとって怒らせることはしばしばある彼だが、面識の無い人物からの怒りを受けるというのは最近に遭ったラウラというケースがあっても慣れていない。

 

 どういうことか尋ねようとする一夏であったが、その前に簪が戦兎の方に顔を向け、その表情を動揺によって崩した。

 つい先程まで自身の腰に巻いていた物、ドライバーが彼の手に収まっていることに気付いて。

 

「そ、それ……!返して――っ!?」

 

 急いで取り返そうとする簪であったが、起き上がろうとした途端、先程の戦闘で負ったダメージが衝撃となって身体中に走り、立ち上がれずに再び地面に倒れ伏す。

 アスファルトに肌を擦りつけて痛みに顔を顰めながら、懸命に戦兎の持つドライバーに手を伸ばす。

 

「返し、て……!」

 

 しかし、戦兎の返答は無慈悲なものであった。

 

「駄目。そもそも俺はコレ目当てに戦ってたようなもんだし、返すようなことしないって」

「戦兎、流石に返してやれよ!幾らなんでも可哀想だろっ」

 

 戦兎の情けの無い対応に反感を覚えた一夏が彼に食って掛かるが、改めてくれる様子は一切無い。

 その態度に思うところを抱いた一夏が、再び異議を唱えようとした時であった。

 

 3人の元へと訪れる2人の人影。それらはどうやら此方に向かって走ってきている模様。

 それは一夏のことが気になってここまで追いかけてきた、シャルロットとラウラであった。

 

「戦兎!一夏!」

「これは……既に事が済んでいるみたいだな」

 

 シャルロットが2人の名前を呼びながら戦兎の方へと駆け寄り、一方でラウラは走りを歩みへと変えながら周囲を一瞥し、倒れている一夏の方へと向かう。

 

 2人の登場がありながらも、簪は構わずにドライバーへと手を伸ばし続ける。

 

「ぐ……返、し……」

 

 しかし、それはついに限界を迎えた。

 戦闘でのダメージ・疲労の蓄積は油断出来るものではなく、目覚めた後も密かに精神を削り取られていた彼女はそこで再び意識を失い、伸ばした腕をガクリと落とした。

 

 彼女が気絶したのを見た一夏が慌てて彼女に駆け寄る。突然倒れたので何事かと思ったが、失っただけだと気付いて安堵の息を吐く。

 

「戦兎、もしかしてあの子が……?」

「あぁ、金色の戦士……グリスの変身者だったよ。さっきまで戦ってて消耗してたから、今はまた気絶したみたいだけど」

「そうなんだ……取り敢えず彼女を病院に連れて行かないと……けど気絶した人をバイクで運ぶのは流石に危ないよね」

「俺はもう経験してるけどな」

 

 シャルロット暗殺を企んだ某フランス人のことである。とはいえ華奢な女の子に同じ仕打ちをするのはあまりにも酷と言えるだろう。

 

「どうせもうすぐ警察がここにくるだろうから、それに任せとけば大丈夫だろ。今までスマッシュから元に戻った人も保護されてるから、その手の処置は手慣れてるだろうし」

「それしかないか……分かった、じゃあそうしようか」

「んじゃ、帰るとするか。シャル、乗っていくか?」

「あー……」

 

 戦兎の誘いに一瞬喜ぶシャルロットであったが、簪の様子を看ている一夏とラウラの方に視線を向けると、フルフルと首を横に振る。

 

「んーん。2人と一緒にここに残るよ」

「あいよ。警察の事情聴取とか絶対面倒だろうけど、まぁ頑張って」

「あ、あはは……」

 

 グッバーイ、と去り際に言葉を掛けた後に戦兎はバイクに乗って去っていった。

 

 もしもここで一緒に帰れていたら、後部座席に乗って彼と密着した状態がIS学園に到着するまで続いていたのだろう。彼の腰に手を回したりして――。

 

「……はっ!?」

 

 思春期な想像に耽りかけていたシャルロットは咄嗟に意識を呼び戻し、気を持ち直す為に先程よりも激しい首振りで現実へと戻る。

 兎に角今は、彼女の様子を看ておかねばならない。シャルロットは一夏たちに合流すべく、そちらへ向かっていった。

 

 

 

――――――――――

 

 それから時間は経過し、場所はIS学園へ。

 学生寮脇に設置されているプレハブ小屋、戦兎の居住地となるその屋内では部屋主が黙々と作業を行っていた。

 

「…………」

 

 カタカタとキーボードを叩く音のみが部屋に鳴り続ける。今は話し相手となる者が誰もいないので、完全に作業に集中している模様。眼前のディスプレイに拡がる膨大なデータを忙しなく目で探り、合間を縫って脇に置いてあるグリスのドライバーを弄る。

 グリスの使用していたドライバーは専用のアダプタが接続されており、その接続先にはパソコンが。画面に表示されているデータも、全てこのドライバーの情報なのだ。

 

 暫くその工程が繰り返されていると、コンコンと部屋の扉がノックされる。

 

「戦兎ー、入ってもいいかな?」

「ん、どうぞー」

 

 ノックをしたのはシャルロットのようで、警察の事情聴取諸々を終えて学園へと戻ってきたらしい。

 彼女は作業を継続している戦兎から許可を得ると、部屋に入って戦兎の隣に歩み寄る。

 

「やっぱりまだ作業してる……もうお昼過ぎたけど、ご飯はちゃんと食べた?」

「んー?いや、食べてなかったかも」

「もう、やっぱり……ちょっと遅い昼食になっちゃうけど、はいこれ。帰りにパン屋さん見つけたから買っておいたの、良かったら食べてね」

「サンキュ。もうすぐで終わるから、そこ置いといて」

 

 言われた通り、作業の邪魔にならない場所にパンの入った紙袋を置くシャルロット。

 そのまま彼女はパソコンを覗き込むが、ISの整備やデータ管理でその方面にも多少手を付けている身でも難解な内容だということがすぐに分かった。単純なデータだけでなく、学校で習ったことの無い複雑な方式もチラホラと見かけ、緻密な計算を元に構成していることが見て取れる。

 普段はアレだが、こういうところは本当に凄いなぁとシャルロットは素直に感心した。普段はアレだが。

 

「どう?何か分かった?」

「おう、何かどころか既に殆ど解析完了だ」

 

 作業の手を止めず、画面を見続けたままな戦兎の表情に自信が宿る。

 シャルロットに詳細を尋ねられると、彼は悠々と説明を開始する。

 

「まず最初に言っておくんだが、こいつはどうやら未完成品だったらしい」

「未完成?」

「俺のビルドドライバーやフルボトルとは異なる構造のアイテムで、認めるのは癪だけどその着眼点は悪くない。だけどフルボトル関連に対する理解が足りてないみたいで、各部出力の調整や配線接続の効率化、その他諸々が色々と詰めが甘い。例えるなら全校集会で発表する作文を先生に添削される前のような感じだ」

「別に全部が全部酷い文章じゃないと思うんだけど……うん、まぁ言いたいことはなんとなく分かったよ」

 

 全国の学生に喧嘩を売りかねない発言だったが、話を逸らすのもなんなので言及はしないでおくシャルロットであった。

 

「そういうわけで、本来発揮される筈のスペックが引き出せていなかったっていうのが1つ目の欠陥。そしてもう1つの欠陥は、そんな不充分な物を装着した場合、身体に掛かる負担が非常に大きくなるってことだ」

「それって……」

「グリスに変身してた彼女、見た目以上に身体が傷ついてただろうな。病院に連れてったんだろ?症状の具合は聞いてるか?」

「う、うん。戦兎の言う通り、外傷だけじゃなくて内部にも結構ダメージが入ってるってお医者さんが言ってたよ。命に別状は無いレベルらしいけど」

 

 警察からの事情聴取が終わった後、シャルロットたちはその足で簪が運ばれた病院へと向かい、彼女の怪我の具合を医師から聞かされた。

 

「(そういえば、あの後一夏の様子がまたおかしかったような……なんだったんだろう?)」

 

 帰る時も、ちょっと寄るところがあるからと言って一夏だけどこかに行ってしまった。ふと気になったことを思い出すシャルロットであったが、戦兎の話はまだ続く。

 

「やっぱりか……なら早い内に使うのをやめて良かったな。このままベルトの改善がされないまま変身を続けてたら、その内身体がぶっ壊れてたぞ」

「壊れて、って……そんな酷い状態だったの?」

「自分の身体に合わない物使ってれば必ず辿る道だ。ISも乗る時に最適化があるだろ?訓練機はその都度行われるし、専用機は初期登録の段階で完了させてるアレ。アレだってやっておかないと機体性能と操縦者の身体能力間で齟齬が生じて、操縦者の負担を蓄積させるんだよ……って、この手の分野はシャルロットなら良く知ってるか」

 

 入学数日の基礎知識講義でも最適化について軽く触れられており、戦兎がその話題を引き出したのもそれを覚えていたからである。シャルロットもISを学び始めた頃に習った話

であったが、理屈を理解していたのでそのことは記憶に残っていた。

 

「ともあれ、そんな欠陥品もこの俺がバッチリ修正して完全版に仕立て上げるから乞うご期待」

「あ、戦兎がそれ組み立て直すんだ」

「てんっさいたる者、凡人の作品を完璧に仕上げるのなんてわけないし」

 

 得意げに胸を張りつつ、戦兎はシャルロットが買ってきたパンを1つ手に取り、それを豪快に頬張った。

 

 彼らの前で表示されているパソコンのディスプレイ。そこにはこれから戦兎が完成させようとしているベルトの画像と綿密なデータの羅列が映し出されていた。

 彼の手によって生まれ変わろうとしているベルト、彼が名付けた名称は――

 

 

 

 

 

――【スクラッシュドライバー】

 

 

 

―――続く―――

 




 この後、病院の簪のシーン(お姉ちゃんも出るよ!)を描写しようと思ったのですが、5,000文字に到達したので一旦ここで切らせていただきました。

 ちなみに何故簪をグリスの装着者にキャスティング(配役的な意味で)したのかといいますと、個人的な理由があります。

①アイドルオタク⇔ロボット(特撮やアニメも)オタク
②ロボットゼリーで変身⇔ロボット好き
③三羽カラスとの別離(3度の苦難)⇔姉への強いコンプレックス、専用機獲得の機会喪失、ベルトを戦兎に奪われる(New!)という3度の苦難

 というシンパシーを感じ取りましたので、彼女をグリスの装着者に選ばせていただきました。今後の彼女は箒たちよりもかなり出番が増えると断言しましょう

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