INFINITE・BUILD-無限創造-   作:たいお

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第40話 ナイトローグの力=ビルド敗北!?

 

 軍用IS【銀の福音】の暴走。

 アメリカ・イスラエルの2国によって共同開発されていた上記第3世代ISだが、突然原因不明の暴走事故が発生した。稼動試験でハワイ沖に配置されていたそれは操縦者を通信不能状態にさせたまま監視空域から離脱。衛星による監視で、その進路が現在IS学園の1年生が臨海学校に来ている当旅館の数キロ先を50分後に通過することが予測された。

 ハワイから通達を受けたIS学園は銀の福音の対処を受託し、現場の教員と専用機持ちにその任務を指示した。

 

 学園から福音撃墜の任を受けた千冬は、教員の使用する訓練機ではまず福音に戦闘を挑むどころか高速で移動している機体に追いつくことすら叶わないということを真っ先に考え、教員による討伐は不可能と早々に見切りをつける。教員の中でも特に優れた操縦能力を有している彼女と真耶も、肝心のISが訓練機ではその力を十全に発揮することは出来ない。

 最終的に千冬が下した決断は、一夏と箒の2名による電撃戦。高速戦闘仕様に切り替えた紅椿が白式のエネルギー節約の為に一夏を福音の元まで運び、白式の零落白夜で斬り落とす。条件が限られている中、競技用のISが軍用のISに勝つにはその一撃必殺の戦法しか無かった。

 

 本来ならば、作戦内容はともかく人選はとても賛同できるようなものではなかった。一夏、箒、どちらも専用機を持ってはいるが、代表候補生としての軍訓練を受けていない。こういった事態に対して素人同然の彼等は本来ならば後方待機して一連の流れを観察し、今後の糧とさせる方がいいだろう。

 しかし千冬は彼らに任せた。親友である束が彼らを強く推したのが、最大の決め手だったのだ。実際、彼女が事詳しく解説した紅椿の性能があって漸く、本作戦の攻略の道筋が出来上がるのだ。

 そして何より『あの束が推薦した』こと。それはISにおいて絶対的に安心出来る太鼓判のようなものであり、千冬は彼女が妄言とも捉われかねない数々の言葉を実現させ続けてきたのを傍で見続けており、無意識に安心感を覚えていた。

 

 元々不可能に近かったこの任務。束が生み出した白式と紅椿の2機があれば、必ず果たせるだろう。

 そう、千冬は思っていた。

 

『一夏ぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 即席で作られた旅館の管制室にて、通信越しに箒の悲鳴が部屋中に響き渡る。現地では一体何が起こったのか、悲痛なその叫びが全てを物語っていた。

 

 作戦は、失敗した。

 

「織斑先生!一夏たちの救助、あたしに行かせてください!」

「わ、わたくしにも出動の許可をお願いいたします!」

「……分かった。凰とオルコットは2名の回収を許可する」

 

 一夏が堕とされたと知ってすぐに行動に移そうとしたのは、彼のことを好いている少女2人であった。鈴音もセシリアも、今にも飛び出しそうな勢いを理性で抑えながら千冬に訴えかける。

 彼女たちの要望を千冬も受諾し、2人は走って管制室から出ていき、そのまま廊下を全速力で駆けて行った。

 

「……織斑先生」

「……真耶、逃げた福音の捕捉を開始してくれ」

「っ……分かり、ました」

 

 若干の間を空けて真耶に指示を掛ける千冬であったが、その声にはいつもの覇気が宿っていなかった。作戦の失敗、そして弟の負傷。それらの失態が同時に降りかかり、彼女の心の重みとなってのしかかっている。

 束の言葉を信じ過ぎていた。機体性能にばかり着目し、操縦者の熟練度への考慮を疎かにしていたことに気付かされ、初歩的な判断ミスを犯した己を情けなく思った。

 歪む表情を隠すように、千冬は俯いた顔を掌で覆い、深い息を零した。

 

 そんな非常に声を掛け辛い姿の千冬に、手持無沙汰のラウラが恐る恐る話し掛けた。

 

「あの、教官。我々はどうすれば……」

「……別室で待機だ。オルコットと凰が戻ったら、2人にも同室で待機するよう伝えておいてくれ」

「わ、分かりました」

 

 今の千冬になんと言葉を掛ければいいのか、そもそも何か言うべきなのかも分からないラウラとシャルロットは、早足で管制室から退室する。

 別室に向かう道中、ラウラはそっとその口を開いた。

 

「……あのような姿の教官は、私も初めて見た」

「弟の一夏があんなことになったんだもん……余裕が無くなるのも仕方ないよね」

「あいつのことも心配だが、先ずはセシリアたちが戻ってこないことには始まらない。それまで我々も待たなければな」

「そうだね……」

 

 そう言いながらシャルロットは、自身の携帯を取り出してその画面を覗き込む。画面には彼女の期待に応えるようなものは載っておらず、彼女は小さく溜め息を吐いた。

 

「どうかしたか?」

「あ、ううん。戦兎、もう戻ってるかなと思って。終わったら教えてってメール送ってたんだけど」

「戦兎はスマッシュを退治しに向かったのだったな。まだ終わっていないということか?」

「だと思う……気付いてないって可能性もあるけど」

 

 スマッシュが出現した際と倒した際には必ず千冬に連絡を入れるという約束を戦兎は交わしており、最近はシャルロットにも同様の報告をする習慣がついてきている。彼女の要望で、ご飯等で誘う時に何かと必要だからである。

 

「先に戦兎の宿泊部屋を見てくるといい。確か山田教諭と同室だったのだろう?」

「いいの?」

「少しくらいなら構わないだろう。他の教員に出くわしたら、まぁ山田教諭に必要物の調達を頼まれたと言っておけばいい」

 

 任務に関して厳格だという印象しかないラウラであったが、意外にもその対応は柔軟であった。昔の彼女ならば許可しなかっただろうが、ここ最近のIS学園の生徒との交流が彼女を柔らかくさせているのだろう。

 

 シャルロットは彼女の厚意に甘えることにし、彼女と別れて戦兎の部屋へと向かい始める。

 その最中、ふと気になって再び携帯の画面を見る。しかし先ほどと何も変わりは無かった。

 

「(なんだろう……やっぱりまだ嫌な予感が続いてる)」

 

 

 願わくは、この胸騒ぎが杞憂で終わりますように。

 そんな思いを抱きながらシャルロットは確認の為にその足を速めるのであった。

 

 

 

――――――――――

 

「ぐあぁっ!?」

 

 場面は変わり、旅館から離れた砂浜。

 戦兎の変身するビルドがその身体を砂地へと叩き付けられる。多数の砂粒が舞い上がり、倒れるビルドの身体に降り注いでいく。

 

 その先に立つのは、余裕な様子のナイトローグ。

 

『どうした、ビルドの力はその程度なのか?』

「くっ……冗談。勝手に決めつけるの早すぎでしょ」

 

 軽口を叩きながら新たなフルボトルを取り出し、振った後にドライバーに装填する。

 

≪タカ!≫≪ガトリング!≫

≪ベストマッチ!≫

 

 テンションの高い音声がボトルの最良相性を知らせ、そのままビルドはドライバーのレバーをグングン回し始める。

 

≪Are you ready?≫

「ビルドアップ!」

≪天空の暴れん坊!ホークガトリング!イェア!≫

 

 橙とメタルカラーのボディに変身したビルドが、背中の翼を大きく広げて飛翔する。その手には召喚したホークガトリンガーがあり、空中から一方的に銃撃する戦法に出ようとしているのである。

 

 しかしナイトローグの余裕は崩れない。空に舞い上がるビルドを見上げながら、マスクの下で小さく鼻を鳴らした。

 

『まさか飛べるのは自分だけだと思ってはいまいな?』

 

 その言葉と共にナイトローグが身体に力を込めるとその背中から真っ黒な翼が現れた。翼らしきものが見当たらない背後からメキメキと音を立てながら強引に展開する姿は、従来と相まって恐ろしく見えた。

 

 空中にいたビルドも、ナイトローグの姿に異変が生じていることに気付いた。相手の姿のモチーフは蝙蝠、その飛行能力が反映されていても何もおかしくない。寧ろ妥当であろう。

 少し考えれば予測出来ることを見落とした己に内心舌打ちをしている間にも、既にナイトローグはビルドの元へと迫っていた。

 

「くっ……!」

『その形態は遠距離からの攻撃に長けているようだが、ここまで接近されての戦闘は苦手らしいな』

 

 ナイトローグの言うとおり、現在のホークガトリングフォームはホークガトリンガーによる銃撃戦を十八番としており、ラビットタンクと比べて肉弾戦は得意としていない。飛行タイプのスマッシュも1、2体程度しか遭遇しておらず、ISでの試合も相手は銃や剣を用いるのが主流で、拳で戦う者など滅多にいない。

 加えて、ナイトローグはやたらと戦闘慣れしている。以前戦った時よりもキレのある体捌きがビルドの攻撃を通させずにいる。

 

≪アイススチーム!≫

「しまっ――」

 

 不利な相性で繰り広げられる戦闘の中で生じる隙、ビルドはそこを的確に突かれる。

 ナイトローグが己の武器に付属しているバルブを回し、冷気を纏った刀剣が袈裟切りに振るわれる。胴体を横切る一閃、斬撃の痛みに重なるように冷気が浸み込み、普通に斬られるよりも数段辛い衝撃が彼の肉体に奔る。

 

 間髪入れず、腹部に蹴りが叩き込まれる。直前の攻撃で身体が硬直していたために備えが遅れ、モロに受けることとなった肉体はそのまま地上に落下していく。

 ギリギリのところで受け身を取ったビルドは、すぐに別のフルボトルに取り換え始める。

 

「だったら今度は……!」

≪忍者!≫≪コミック!≫

≪ベストマッチ!≫

 

 ナイトローグが迫る前に、レバーを回して変身を終えさせる。

 

≪Are you ready?≫

「ビルドアップ!」

≪忍びのエンターテイナー!ニンニンコミック!≫

 

 紫色と黄色のボディが交差した形態、ニンニンコミックフォームへと姿を変える。先程まで使っていたホークガトリンガーは仕舞い、新たに取り出したのはこの形態の専用武器である4コマ忍法刀。

 地上に降りてきたナイトローグを見計らい、刀のトリガーを1回押して4つある忍法の内の1つを発動する。

 

≪分身の術!≫

 

 ビルドの分身体が次々と分散していき、ナイトローグを惑わせる為にその周りを囲んで変幻自在の動きをしていく。

 しかしナイトローグはまるで動じる様子もなく、ゆっくりとブレードを構える。

 

「はぁっ!」

『遅い』

「そぉい!」

『ふん』

 

 前後左右から不規則に飛び掛かるビルドの分身による攻撃を、ナイトローグは的確に防ぐ。まるで後ろにも目が付いているかのように背後からの攻撃にも対応し、一切の攻撃を通しはしなかった。

 

「なら……!」

≪火遁の術!≫

 

 分身に紛れて様子を窺っていた本体のビルドは忍法刀のトリガーを2回押し、2つ目の術を発動させる。機械音声の後に刀身から炎が湧き上がり、それは全ての分身の持つ刀に反映されている。

 

≪火炎斬り!≫

 

 炎を纏った刀による斬撃。その一撃は強力で、並大抵のスマッシュならば確実に倒すことが出来る程である。

 しかし今ビルドの前にいる敵は、スマッシュとは一線を画した存在。必殺の一撃もナイトローグにとって脅威はとなり得なかった。

 

≪エレキスチーム!≫

 

 ナイトローグが再びスチームブレードのバルブを回すと、今度は冷気ではなく電気が刀身に宿った。刃全体に視認出来るレベルの電流が迸り、バチバチとスパーク音が鳴る。

 ビルドの火炎斬りに合わせてブレードが振るわれると、刀身の電撃が一気に周囲に拡散。範囲攻撃と化したそれは迎撃と併せてビルドの分身と本体を纏めて吹き飛ばした。

 

 分身は吹き飛ばされながら霧散し、残る本体のビルドはそのまま砂の地に身体を落とす。

 

「くっ……!」

 

 ニンニンコミックの力も通用しない。ならば次のベストマッチで対抗しようと新たなフルボトルを取り出すビルド。

 

 だが、ナイトローグとの力の差は大きかった。

 ゴリラモンド、ロケットパンダ、海賊レッシャー。戦法の豊富さを利用してあらゆる形態による攻撃を仕掛けるものの、そのどれもがナイトローグの前では児戯のように封された。

 嘗て無い程の苦戦に、肉体的にも精神的にも追い詰められていくビルド。

 

≪封印のファンタジスタ!キードラゴン!イェイ!≫

 

 現在持っているフルボトルの中で最も戦闘力の高いベストマッチ、キードラゴンフォームにチェンジして格闘戦を展開する。今迄より相手に食らい付けてはいる、だが戦局を覆す程とはいかず、徐々にこの形態でも追い詰められていく。

 

『世間を賑わせるビルドとやらも、学園という微温湯に浸かっていればこの程度か』

 

 いつもの淡々とした口調に、どこか冷めた様子を加えてそう吐き捨てるナイトローグ。とうとう見切りを付けたのか、ビルドに止めを差すべく動き始めた。

 隙を突いてビルドの背後に回り込むと、後頭部に打撃を叩き込んで怯ませる。その間に再び背中の翼を広げると、ビルドの身体を掴んで空へと飛翔し始めた。

 

「ちょ、離せって……!」

 

 拘束自体はそう強くなく、ダメージを負っているとはいえ四肢の自由が利く今のビルドなら振り払うのは容易だった。

 実際に抵抗してみればすぐに振り解け、空中に身を放られることとなった。後は飛行可能なフルボトルに交換して地上に戻れば何事も無く済むだろう。

 

 しかし、その途中でビルドは目の当たりにしてしまう。

 スチームブレードにトランスチームガンを接続させた、トランスチームライフルの銃口をこちらに向けている、真上のナイトローグを。

 

『終わりだ』

≪スチームブレイク!バット……!≫

 

ライフルから発射された光弾。

 ビルドに向かって高速で、且つ真っ直ぐ放たれたそれはビルドの腹部へと直撃し、その体を吹き飛ばす。

 

 「がっ……!?」

 

 潰れたような呻き声をあげながら、ビルドは垂直に落下していく。

 丁度彼のいた場所は海の上で、海面に大きな水飛沫を立てて彼は海へと没した。

 

 砂浜に着地したナイトローグは、ビルドの着水によって大きく波打っている海を一瞥する。

 

『ふん……』

 

 ただ1つ鼻を鳴らし、踵を返して海に背を向け立ち去るナイトローグ。数歩歩くとその身体の管から黒煙を噴出し、身体を覆っていく。

 

 煙が晴れた後、そこに残ったのは戦闘によって荒れ果てた砂地だけであった。

 

 

 

―――続く―――

 




 負けて水落ちしてしまうとは……もう駄目だ、お終いだぁ……。

アギト「えっ」
カブト「えっ」
斬月「えっ」
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