リアルの都合もありましたが、突如元から低い自分の執筆能力に限界を感じてモチベーションがダダ下がりしていたのですが、なんやかんやでもうちょっと続けてみようという形に収まりました。
「戦兎、やっぱり戻ってきてないんだ……」
ビルドとナイトローグの戦いに決着がついた頃、彼の現状を知らないシャルロットは彼の宿泊部屋に訪れていた。
スマッシュ退治から戻っているかどうか確認に来たのだが、残念ながら彼の姿は部屋のどこにも見当たらない。携帯の方もチェックしてはみるが、やはりこちらも音沙汰無しだ。
「何かあったのかな……」
姿も見えず、連絡が無いというのはとても心細いものだ。それがスマッシュ退治という命に関わることが絡んでいるなら尚更に。
戦兎は強い。これまで何度もスマッシュと戦ってきた彼だが、大きな怪我も無く帰ってくることが殆どだった。唯一目立つ傷を抱えて戻ってきたのは過日のタッグトーナメント前に向かった一件、ナイトローグが乱入した時だ。彼女もその事は戦兎から直接話を聞いており、会ったことは無いがナイトローグという存在を認知している。
そうなると戦兎はナイトローグと、もしくはそれに近い実力を持つスマッシュと戦っているのではないだろうか。もしそうだとしたら、今も戦兎が戻ってきていないのは……。
脳裏に過る嫌な予感を、頭(かぶり)を振って払う。思うべきは彼の無事であり、決して不吉なことを考えてはならない。余計な不安感を煽るだけでなく、彼のことを信じられないと暗に示しているのだから。
この場で待っていたところで、戦兎がいつ帰ってくるかなんて分からない。ならば……。
「ごめん、ラウラ。ちょっとだけ戻るのが遅くなりそう」
ここに来ることを許してくれた友人に謝りながら、シャルロットは戦兎を探す決意を確かなものにする。
しかし、問題が1つある。戦兎が今どこにいるかということだ。
外にいることは間違い無いのだが、方角も碌に判明していないのであれば見当違いの場所を探す羽目になる。今の彼女は特殊任務に就いており待機を言い渡されているが、次の指示が与えられるまで裕福な時間があるというわけではない。次の指示が来る前に、確実に戦兎を見つける必要があるのだ。
「けど、一体何処に――」
「おい金髪。何ボーっとしてるんだよ」
「――えっ?」
自分以外の誰かの声。一般生徒は自室待機を言い渡され、こんなところで声を掛けてくる者など巡回中の教員くらいしかいない。が、生徒を金髪呼ばわりする口汚い教員はIS学園には多分いない。
というか、その声色はシャルロットにも聞き覚えがあった。何せ午前中の海岸での装備テストや作戦室での作戦会議中において、バリバリ喋っていた人がいるお陰で。
「し、篠ノ之博士……!?」
天災、篠ノ之 束。この1日でその神出鬼没ぶりを見せつけた彼女が次に姿を現したのは、ここであった。
敷かれた布団に包まりながら。
「あぁそうだよ、天上天下天地無双完全無欠永久欠番の束様だよ。それが何か?」
「いや、あの、なんで布団に寝てるんですか……?」
「そんなもんお前、せんちゃんがあの同室のおっぱい星人に誘惑されないように束さんの匂いをマーキングしておくんだよ。あのおっぱいはね、絶対男を知ってるおっぱいだよ。あのだらしないおっぱいで幾人もの男をハァーイ、チャーン、バァブゥと幼児退行させてきたに違いない、私が保証する」
「何とんでもない不名誉を保証してるんですか!?してませんからね、山田先生そんなことする人じゃありませんからね!?」
「お前があのおっぱいの何を知ってるんだよ。私はデカいことしか知らないけど」
「いや結局博士も山田先生のこと知らないんじゃないですか!?」
かの有名人と1対1で話すのは初めてだったのだが、よりにもよって猥談に話が進むとは思いもよらなかったシャルロットである。
「それはそうと、お前誰だよ。なんかさっき部屋で見たような気がしなくもないけど」
「あ、えっと、シャルロット・デュノアです」
「っ……はーん、成程ね。お前がせんちゃんの言ってた……シャブロット?」
「シャルロットです」
ものの数秒前に自己紹介したのに間違われるこの虚しさ。しかもしゃぶるとかちょっといやらしい。
「で、そのシャーロックがせんちゃんと私の部屋に何の用だよ」
「シャルロットです。というか山田先生を省かないで下さいよ……その、戦兎がスマッシュを退治しに行ったんですけど、戻ってるかどうか確認しに」
「せんちゃんなら浜辺の方で戦ってたぞ。なんかスマッシュというかコウモリっぽい怪人だったけど」
「コウモリの怪人って……まさか戦兎が前にやられたっていう……!?」
シャルロットの嫌な予感は当たってしまっていた。
何故今になってナイトローグが現れたのか、それに関しては今気にすべきことではない。問題はその怪人が現れたということは、戦兎がこの場にいないのはその怪人に苦戦しているからなのだろう。
起こって欲しくなかった情報を聞き、シャルロットの身に不安の渦が逆巻いていく。
そんなシャルロットの動揺に対し、先程となんら変わりない無愛想な様子で声を掛けてくる。
「いや、早く行けよ」
「えっ?」
「いやだから、早く行けって言ってんの。そこでセンチメンタってればヒロインになれると思ったら大間違いなんだよ。この作品のヒロインはあくまでこの束さんだから、揺るぎない玉座に座してるんだからね私は。覚えておけよ」
「すいません、なんの話をしてるのか全然分かんないです」
束の意味不明な言葉はともかく、早く行かなければならないというのはシャルロットも同感だった。
今しがた、戦兎は浜辺で戦っていると束は言っていた。1日目の自由時間で遊んでいた場所が丁度浜辺だったので、その辺りを探せばきっと見つかるだろう。捜索の目星がついたことで、シャルロットの進むべき道は定まった。
≪~~♪≫
「っと、電話だ」
直後に掛かる着信。流行りの歌を奏でて持ち主に報せ、勇もうとするその足を止める。
『ラウラ』。画面に映された友人の名前を見て、話の内容を予測しながらボタンを押して電話を繋げるシャルロット。
『私だ。どうだ、戦兎はいたか?』
「それが、まだ帰って来てないみたいで……強い敵と浜辺で戦ってるってさっき聞いたから、今から向かうつもり」
『セシリアたちとは逆方向だったか……成程、分かった。こちらは全員帰投している。引き続き待機命令が下されてはいるが……すまないがもし戦兎がそこにいなかったら戻って来てくれ、そこがタイムリミットだ』
「うん……分かった」
そろそろ任務から抜け出すのも限界が来たようだ。寧ろよくここまで粘れたものである。
『ごめんね、手間掛けさせちゃって』とシャルロットが詫びを入れると、ラウラは『何、気にすることは無い』と大らかな態度で返してくれた。
『ところで、その情報は一体何処から手に入れたんだ?お前が直接見た訳ではないような口ぶりだったが』
「ああ、うん。実は篠ノ之博士が……あれ?」
シャルロットは通話を続けながらその視線を部屋の方へと移した。そうすれば情報提供者である束が自分の匂いを引っ付けるという理由で布団に潜り込んでいる姿がそこにあるから。
だが、そこには誰もいなかった。まるで最初から誰も存在していなかったかのように、彼女のいた痕跡が微塵も無い程に部屋は整えられていた。
果たして束はどこに行ったのか?
戦兎の元へと向かうこと、電話先のラウラへの応対を同時に迫られているシャルロットはその思考を一旦脳の片隅へと置き留めるしかなく、外に出るべく足を進めた。
――――――――――
闇の中から覚醒した途端、数多の疑問が彼の頭の中を覆い尽くした。
ここは一体何処なのか?
何故こんなにも寒いのか?
何故自分は意識を失っていたのか?
―――俺は、誰だ?
己の内に答えがあると思い、自らに問うたのか。それとも誰かに教えてもらいたかったのか。目の前に人がいることに気付かないまま、ふと呟かれた言葉。
その直後、大量の雨粒が身体中を襲う感覚がスッと途絶える。
顔をゆっくり上げると、そこには屈託の無い笑みを浮かべた女性がこちらに手を差し伸べていた。
―――私が教えてあげるよ……全部、全部ね。
――――――――――
「やぁ☆」
「……えぇー」
昔の夢を見ていたような気がするのに、開口一番に呑気な挨拶を掛ける目の前の保護者に、戦兎はなんとも言えない反応をするしかなかった。
そんな彼の反応がお気に召さなかったのか、束はプンスコと擬音を発しながら頬を膨らませて彼に抗議の視線を向ける。
「むむー、愛しのせんちゃんの危機にこうして馳せ参じたというのに、そのリアクションは酷くなーい?」
「いや、雰囲気ぶち壊しだし……というかその手に持ってる釣竿は何?」
「レスキューアイテム。私に釣られてみる?」
「兎が亀の台詞を言うのか……というかもう釣られたし」
気障ったい台詞とドヤ顔を披露する束はさて置き、戦兎は自身の状態をチェックしていく。
先ずは肉体の負傷具合。ビルドの装甲と保護機能のお陰で重傷となる怪我は無いが、それでも身体のあちこちにはダメージを受けた痕跡が残っている。身体を動かす際にもピリッと痛みが生じる程度には痛覚も反応している。
制服も損傷がそれなりで、最後に海に叩き落されたからか全身が濡れてしまっている。目の前の兎は本当にその釣竿で岸まで引き上げたのだろうか。
最後にビルド関連のツール。何か海に流されたのではないかと危惧したが、なんと奇跡的に紛失物は0。こればかりは不幸中の幸いと言えるだろう。
「束さん、俺を引き上げてからどれくらい時間が経った?」
「ん?そこまで時間は掛かってないよ、せいぜい5分くらいじゃないかな」
「5分か……時間は大して経ってないみたいだな」
頭上の太陽を見上げ、その位置で時間を把握し終える。
「しかしせんちゃん、今回は随分手酷くやられたみたいだね。一体何処のどいつだいそのアンチクショーは?」
「あーっと、自称ナイトローグとかいうバットマン。これがまた厄介な奴でな、俺の持ってるフルボトルの特性全部把握してやがったんだよ」
「あぁ、この間報告してくれたバットマンね。まさか新しく手に入れたフルボトルも知られてたの?」
「みたいだった。……と言っても、キードラゴンでも勝てなかったから特性云々以上にスペック差の問題もあったっぽいな」
後半になるにつれて冷静さが欠けつついたのでそれが全てとは言えないが、やはり理由としては大きなものだった。現状、戦兎の持つベストマッチフォームの中でも最も強力なキードラゴンでさえ軽くあしらわれてしまった。戦闘が終わった今となっては、戦兎も少なからずショックを受けていた。
こうして生きているとなれば、いずれまたナイトローグと戦う機会は訪れるだろう。それまでに勝つ為の方法を考えなければならない。
そんな矢先、その暗雲を取り払う切っ掛けを齎したのは、目の前にいる束であった。
「勝ちたい?」
「ん?」
「そのナイトローグって奴に、勝ちたい?」
それは勿論。
戦兎がそう断言してみせれば、その言葉を待っていたと言わんばかりに束は更に深い笑みを浮かべる。
「大丈夫、勝利への道筋は束さんがちゃんと作ってあげたから」
「?それってどういう……って、そいつは……!」
束の手に収められている【物】、それに思わず注目する戦兎。
間違えようが無い、それは嘗て自分が開発した秘蔵のアイテムだったからだ。フルボトルを探すという目的のIS学園転入では必要としなかった故に、束のラボに置いてきていた代物。
「まさか、これを持ってくるとはな」
「こいつなら、そのナイトなんとかってやつも倒せるでしょ?せんちゃんの自信作なんだからさ」
「成程な……確かにこれを使えば――」
「―――、せん――戦兎ぉ~!」
束から物を受け取った直後の戦兎の耳に、自分の名前を呼ぶ少女の声が届く。最近はよく一緒にいるので、その声がシャルロットのものであることは姿が見えなくても戦兎はすぐに判別出来た。
「あー、そういえば金髪がせんちゃんのことを探してたっけ。え~っと、名前なんて言ったっけ、カカロット?」
「まじかよ超サイヤ人が探してるとか絶対に戦う羽目に……ってシャルロットじゃん」
戦兎がグッと立ち上がって声のした方を見やれば、案の定彼女の姿が遠目で確認出来た。向こうが戦兎の姿を捉え、真っ直ぐこちらに向かって走り始めるのを機に戦兎も彼女に向かって足を運んでいく。
「……あれ、束さんいつの間にかいなくなってるし」
ついてくる気配がしなかったので後ろを振り返ってみれば、先程までいた束の姿はどこにも無かった。浜辺についた足跡もそこ以外に増えておらず、一体どうやって移動したのか不可解に思うような現象になっている。
海にでも逃げたのだろうか?と戦兎が考えていると走って来たシャルロットが合流を果たす。
「戦兎、大丈夫!?」
「ん?あぁ、へーきへーき。ちょっと身体は傷がついたけど、喜ばしいことにフルボトル諸々は全部無事だ」
「そっか、それなら良かったぁ……なんて言うと思った?」
「うぇっ?」
そう言うや否や、シャルロットが取った行動は戦兎の両頬を摘まむということ。そのままムニムニと上下左右に引っ張られ、戦兎の顔が玩具のような扱いに。
戦兎の頬を摘まんだままのシャルロットの表情は、とびきりの笑顔だった。笑顔の筈なのに、何故か有無を言わさない圧力を纏っていた。
「僕、見送る前に言ったよね?嫌な予感がするから気をつけてねって。なんでこんなボロボロになるまで無茶したのかな君は」
「ひ、ひや、ひょうひわえへお」
「そう言われても、じゃないんだよ。どうせ逃げるとかそういうことしないで真正面からぶつかったんでしょ?で、そのまま逃げるタイミングも探さずに押されて負けたって感じで」
正解。
「……けどまぁ、戦う上で怪我しちゃうのは仕方ないとは思うよ。相手がみすみす逃がしてくれないような性格だったら尚更にね。ただ僕がこうして怒ってる理由はさっきの戦兎の発言なんだよ?」
「え、シャルロット今怒ってるの?」
「分からないかなぁ?」
「ふ、ふいあへん」
再び指に力を込められ、戦兎は反射的に謝った。
「……僕が聞き捨てならなかったのはね、戦兎が自分の身体のことよりもフルボトルとかの無事を優先してたからなんだよ」
ポツリと、寂しそうに彼女はそう告げた。IS学園に転入してからずっと戦兎の傍にいたシャルロットは、既に戦兎がどういう人物なのか理解してきている。
戦兎は、自分のことに対して無頓着すぎる。こうして怪我をしていても、真っ先に心配するのは自分の研究対象であるフルボトルのこと。周りは怪我を負った彼の心配をするというのに、その所為で全く噛み合っていないという虚しさが。
研究以外の何かをする際も、それは誰かから言われたから始めるという受動的な振る舞いが頻繁である。偶に夕食をすっぽかして研究に没頭することもあり、それをシャルロットに注意されたのも1度きりの話ではない。最近は彼女が付いているのでそういった機会は見なくなっているが。
新たなフルボトルとベストマッチへの探求、それとスイーツ等々による糖分摂取。IS学園における学業以外での彼の生活を占める大部分は、それらであった。
「……僕としては、もう少し戦兎には自分に興味を持ってほしいというか、研究以外をしている戦兎自身をもっと見つけてほしいかなって。ほら、戦兎って記憶喪失なのに全然元の記憶とか探そうとしてないし」
「いやまさかそんなことは……あ、ホントだ。俺全然そういうことしてないわ」
「なんで当の本人が意識してないのさ」
記憶喪失の人間の姿勢とは思えないが、それがこの男の性分であるとシャルロットは遅れて納得してしまった。
「まぁ余計なお節介だとは僕も薄々思ってるよ。けど僕としては戦兎には少しでもいいから自分のこととか他の人のこととか、フルボトル諸々以外のことにも関心を向けてほしいなって話」
「分かったよ、母さん」
「誰がお母さん!?」
本当に分かっているのだろうか。
茶化している所為でイマイチ真剣みに欠ける返事となってしまったが、この場で深く詰め寄っても仕方ないのでシャルロットも一先ずは納得することにした。
何はともあれ、戦兎の無事を確認することが出来たシャルロットは分かりやすく胸を撫で下ろした。正確に言えば彼の身体は傷ついているのだが、取り返しのつかない負傷が無くて良かったという意味合いである。
「それじゃあ旅館に戻ろう。確か戦兎が外に出てることは先生たちも知ってるんだよね、なら事情を話して傷の手当てをしてもらわないと……本当は僕がしてあげたいんだけど」
「無理なのか?」
「こっそり探しに来た身だからね。それにいい加減戻らないとラウラも心配するだろうし……」
シャルロットがそう言うと、タイミング良くラウラから着信が掛かってきた。携帯を取り出して通話状態にしたそれを耳に宛がうと、相手の声が届いてきた。
『私だ、ラウラだ。戦兎は見つかったか?』
「うん、こっちは大丈夫。ありがとうラウラ」
『気にするな。と、悪いがすぐに戻ってきてくれるか?出撃の準備をしてもらいたい』
「出撃?まさか、福音の……?」
『仔細まで話すと少し長くなる。詳しい話はこっちで説明するから、今は兎に角旅館にもどってきてくれ』
「……わかった。すぐにそっちに行くね」
何やら神妙な空気が電話越しで伝わり、無意識に背筋をやや伸ばしながら対応するシャルロット。やがて彼女は電話の通話モードを終了させると、電話先のラウラが言っていた言葉を思い返す。
出撃。現在就いている任務を考えれば、その撃破対象が銀の福音であることは明白。福音以外の敵が現れたとはあまりにも考えにくい事態だ。
だがこの出撃命令は織斑先生が出したものなのだろうか。しかし、もしそうだとしたら先程のラウラが『命令』という言葉を一切使わなかったのは違和感がある。先生に待機命令を破ったことがバレたとも言っていなかったし、そんなそぶりも電話越しでは感じられなかった。
だとすると、この出撃は……。
「……ごめん戦兎。僕、急がなきゃいけなくなったみたい。戦兎はこのまま旅館に戻って手当を――」
「いや……どうやらお客が来たみたいだから、それは後回しだわ」
「えっ?」
何を言っているんだろう。咄嗟にそう思ったシャルロットであったが、彼が視線の先に捉えているものの正体を知った瞬間、合点が入ったと同時に吃驚した。
ナイトローグ。
先程まで戦兎と戦っていた相手が、黒煙を背景にして2人の前に姿を現したからである。
『ほう、あれだけ痛めつけたというのにまだそうして動いていられるとは……存外しぶとい奴だったようだな』
「そんなこと言っちゃってー。詰めが甘いようじゃいつまで経ってもバットマン呼ばわりのままだから」
『……負けた分際で大した口ぶりだ。ならば今度こそ止めを差してやるとしよう』
戦兎の狙っていない挑発に触発されたのかはさておき、ナイトローグはミストを噴出させてその中から得物のトランスチームライフルを取出し、ヒュン、と一振り。
対する戦兎も一歩前に出ると、ビルドドライバーのバックルを腹部に当ててベルトを腰回りに伸長させる。
戦闘態勢を整えていく戦兎の背中に、声が掛かる。
「戦兎!」
不安を募らせたシャルロットの声。彼女の本心を語るならば、戦兎には戦わずに逃げて欲しいと思っている。まだ傷の残っている身体に加えて、敵はその傷を作った張本人。心配せずにはいられなかった。
だが、そんな彼女の心配を良い意味で跳ね除けるように、戦兎はいつもの軽い調子で応えてみせた。
「へーきへーき。ちゃんと終わらせて、旅館に帰るよ」
けど、と食い下がろうとしたシャルロットであった。が、その語尾を萎ませて、いつの間にか作っていた両手の握り拳をそれぞれゆっくりと解く。
なんの根拠も無い言葉。その筈なのに、何故かシャルロットはその言葉を信じられる気がした。好きな相手の言葉という贔屓目を余所に置いたとしても、である。
それに、こうなった戦兎を説得するのは骨が折れるし、それが終わるまでナイトローグが待ってくれるとは思えなかった。信じようが信じまいが、シャルロットはこの場を戦兎に任せるしかなかった。
だから、シャルロットは願いを込めて彼に言葉を掛ける。
「……無事に、帰ってきてね」
「ん、任せろ」
間髪入れずに返事をしてくれた戦兎に満足し、シャルロットはその場を走り去った。
ナイトローグがシャルロットの後を追う様子は無い。あくまで狙いは戦兎一択であり、素顔を隠したその仮面の眼光を彼に強く注いでいる。
『大した自信だな。あれだけ無様にやられておきながら、この期に及んで勝算があるとでも?』
「ある……っていったらどう反応する?」
『何……?』
ナイトローグが言葉の真意を問う前に、戦兎は手に持っている物を相手によく見えるように見せつけた。それは、先程束から手渡された代物であった。
片手で掴める程度の大きさをした円柱型。外装はメタリックで、表面部には赤と青のパイプがビルドのラビットタンクフォームの顔らしきデザイン及び配色のものを囲っている。良く見ると小さく文字が書き込まれてもいた。
敢えて例えるならば、それはまるで飲料水の『缶』のようであった。
「こいつは俺がIS学園に入学する前に開発した、秘蔵の一品でね。とある理由で学園には持ち込まなかったし、使うこともなかった」
『理由だと?』
「そもそも、俺が入学した大きな理由はフルボトルを集めること。ならフルボトルのベストマッチとは関係ないこいつを持ち込むことは意味が無いし、折角のベストマッチのデータ収集の妨げになる」
そう言いながら戦兎は缶型の物体を軽快に上下に振る。幾らか振った後に上部のプルタブ型のスイッチを指で開けると、プシッ、という小気味良い音と共に炭酸水の弾けるような音が響いた。
そのまま缶をドライバーの装填部へと押し込む。先程スイッチを押したことによって缶の底にフルボトルのキャップ部と類似したパーツが隆起し、ドライバーの装填部を2つ分埋める形でセットされる。
≪ラビットタンクスパークリング!≫
【ラビットタンクスパークリング】、ドライバーの音声から発せられたその名こそが、この缶の名称である。
そして、ビルドの新たなる形態の名ともなる。
これまでと変わらない動作でレバーを回していく戦兎。そしてラビットタンクの時とは異なる周囲のスナップライドビルダーに囲まれる中、彼は力強く構えながら、唱える。
≪Are you ready?≫
「変身!」
前後のハーフボディに挟まれ、ビルドへと変身する戦兎。いつもの蒸気ではなく、炭酸水と赤青白の3色の泡が変身の衝撃で周囲に拡散する。
赤色と青色がベースなのはラビットタンクフォームと同様であるが、そこに新しく白色も加わったことで鮮やかなトリコロール配色となっている。
シルエットも以前とは大きく異なり、複眼やアーマー部はギザギザとした鋭角な造形が追加され、先程の炭酸水の音をイメージさせる泡の弾けるような印象を与える。
≪シュワッと弾ける!ラビットタンクスパークリング!イエイ!イエーイ!≫
【ビルド・ラビットタンクスパークリングフォーム】
その2色の複眼が、一際強く輝いた。
―――続く―――