INFINITE・BUILD-無限創造-   作:たいお

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第8話 暴れる炎=戦兎の優先事項

「ねぇねぇ聞いた?今日来る転校生の噂」

「転校生?この時期に?」

「そうなの、なんでも中国の代表候補生なんだって」

 

 戦兎たちによるクラス代表決定戦から早数日。

 噂に敏感な女性らしく、現在IS学園では中国からやってくる転校生の話題で持ちきりだった。転入には別途の試験の他にも国の推薦が必要な為、それらの難題を乗り越えてやってくるというのだから、これから学園に訪れる少女に注目が集まるのは必然だった。

 

 一夏とその周りにいる少女達も、その噂を話題にしていた。

 

「どんな奴なんだろうな?」

「代表候補生とは聞いていますが、まぁどのような方であろうともこのわたくしの前では霞んでしまいますわね」

「そもそも一夏、今のお前に余所のクラスの転入生を気にしている余裕があるのか?」

「いや気にするくらいはいいだろ……なぁ、戦兎はどう思う?」

 

 一夏より少し離れた席に座っている戦兎に声が掛かる。

 彼は彼で板チョコを齧りながら手持ちのフルボトルをチェックしていた為、漸くその輪に混ざる形となる。

 

「んー?何が?」

「いや、何がって今日来る転校生の……っていうか教室にお菓子持ち込むなよ、千冬姉に怒られるぞ」

「へーきへーき、ちゃんと食べ切れば何も問題無し」

「ねーねーせんとっと~、わたしにもお菓子ちょうだーい」

「ア○フォートを奢ってやろう」

「わ~い!9枚でいいよ~」

「やだ……俺の取り分、少なすぎ……!?」

 

 お菓子大好き同盟の一員である本音とお菓子の話で盛り上がる戦兎。聞くまでも無く、彼は転校生に関して興味を持っていない事が分かる。

 

 戦兎と共に学園生活を送って来た一夏を始めとする1組の生徒は、ここ最近で彼がどういった人物かある程度分かるようになった。

 1つ、授業の出席や門限等の一部のこと以外に関してはかなりマイペース。

 2つ、研究や発明が大好きで、甘い物が好物だということ。

 3つ、それ以外のことに関しては驚くほど関心が希薄だということ。

 

 人付き合いに関しては特に問題無い。受け答えは素直で棘も無く、接しやすい部類に入るであろう。

 ただ少々、淡泊というか素っ気ないというか、どこかあっさりし過ぎているというのは会話している少女達にとっては気になる所であった。研究や甘い物絡みの話題になると饒舌になるのだが、彼の興味対象外の話題については『ふーん』『そうなのか』と話を簡単に完結させられてしまうのだ。次なんて無い。(無慈悲)

 

「とにかく、織斑くんには頑張ってもらわないとね!」

「うんうん!学食デザートのフリーパス、織斑くんに掛かってるんだから!」

 

 ちなみに今回のクラス代表対抗戦を優勝した暁には、代表のクラスに対して食堂で提供されるデザートを無料で食べられるフリーパスが贈与される。有効期限は半年で、2学期の半ばまでの間なら自由に甘味を堪能出来るのだ。

 

 そしてその話題に食い付かない超甘党の戦兎ではなかった。

 

「っ!」

「うおっ?何だよ戦兎、急に立ち上がったりして」

「いひか、へっはいいはへお」

「アル○ォート食ってから喋ろよ」

 

 TAKE2。

 

「っ!」

「うおっ?何だよ戦兎、急に……ってそこまでやり直さなくていいから」

「一夏、絶対に勝てよ。いいか?難波重工の最終兵器みたく、お前に敗北は許されないからな」

「いやあの最終兵器は割と敗北してたような……あぁ分かった分かった!ちゃんと勝つからそのマジ顔を近づけるのは怖いから止めろォ!」

 

 入学以前から束に数千万円規模の小遣いを貰い続けている戦兎ではあるが、無償でデザートを堪能出来るという魅力にはやはりとりつかれない訳なかった。尚、浮いたお金は開発に回るつもりの模様。

 

「本当に戦兎さんはデザートがお好きなのですわね……あの執念には驚かされますわ」

「…………」

「あら、どうかなさいましたの?」

「……いや、なんでもない」

 

 セシリアが隣にいた箒の様子が少しおかしかったことに気付き、声を掛けるがそのような返しがあるだけだった。彼女が戦兎を見る視線が、どこか複雑そうで。

 しかし今のセシリアには彼女の胸中を読み取ることが出来なかった。

 

「今の所、専用機を持ってるのって1組と4組だけらしいから勝つ見込みは十分にあるよ思うよ」

「つまり、織斑くんの優勝も夢じゃないってこと!」

 

 一夏の周りでは、変わらず少女たちが談笑を行っている。専用機事情が学生の間でも知られている今、夢のスイーツ食べ放題が叶いそうであることに彼女達の声色は一層明るくなっている。

 

 

 

 

 

 だが、そんな楽しい時間に水を差す爆音が突然教室内に届いた。

 ドォン!!という重厚な響きがその場にいる全員の耳に届く。発生源はやや離れているが、その衝撃は十分に伝わっている。

 

「きゃあっ!」

「なに!?今の凄い音!?」

 

 日常から発せられるのとはかけ離れた音に、クラス内がざわめく。隣のクラスもここと同様に騒ぎとなっているようだ。

 

 そんな中、戦兎は素早く教室から飛び出していく。

 

「おい戦兎!?」

 

 後ろから一夏の慌てた声が掛かるも、彼の脚は止まらず音の発生源へと向かっていく。方角的には校門の辺りだと捉えた彼は、廊下を駆け抜ける。

 そして戦兎は校門が見える場所にまで走り続けると、3階から先の爆音の正体を見下ろした。

 

 校門を抜けて学園の敷地内に入っている、1体のスマッシュ。頭部は穴開きのオレンジ球体で両肩部も同様となっている。また、右腕にはライターの着火部のようなものが装着されている。

 【バーンスマッシュ】と呼称されるその怪人は右腕から炎を噴出させながら暴れ回り、着実に学園に踏み入って来ていた。

 

「やっぱりスマッシュだったか。なら早速、実験を始めるとしようか」

 

 戦兎は懐から2本のフルボトルを取り出すとそれを振りながら窓に身を乗り出し、3階から飛び降りた。

 

≪ライオン!≫≪タンク!≫

 

 空中に身を投げる中、戦兎は器用にボトルをドライバーにセットしてレバーを回していく。

 

≪Are you ready?≫

「変身!」

 

 着地と同時に青と黄のハーフボディに挟まれ、戦兎は【トライアルフォーム・ライオンタンク】のビルドへと変身する。

 ビルドは右肩の尻尾型のムチを取り出すと、慣らしとばかりにクルクルと振り回す。ムチとしては少々リーチが短いが、ブレードモードのドリルクラッシャーよりは少し遠くに攻撃が届く程だ。

 

『ッ!』

 

 目の前に現れた新たな脅威、ビルドに警戒を強めたバーンスマッシュは牽制の火炎弾を彼に向けて放つ。先程の爆発もこれによる着弾が原因だろう。

 

 ビルドは迫り来る火炎弾をムチで蹴散らしながら、スマッシュに向けて駆け始める。弾けた火の粉を掻き分けながら、ビルドは敵との距離を縮めていく。

 

 徐々に距離を詰められていくことに対応して、バーンスマッシュは火炎弾から火炎放射に切り替えてそれを薙ぐように放出する。基本的に本能のままに暴れ回るとされるスマッシュだが、こうして明確な敵と対峙する際は生存本能からか的確な行動を取ることもある。

 

「おっと!」

 

 迫る火炎を横に転がって躱すビルドは、ドリルクラッシャーを召喚する。その間にも敵の炎が再びビルドに襲い掛かってくる。

 

 するとそこで、ビルドフォンに着信が。

 戦兎は2つの得物を片方の手に収め、炎を躱しながら通話を行う。

 

「もしもし、マスターかっ?」

『あぁ。スマッシュの目撃情報だ。場所はお前のいるIS学園の校門付近だ』

「今戦ってるとこ!」

『ごめーん!』

 

 通話終了。

 

「さて改めて。面倒な炎だけどおあつらえのボトルは持ってるんだな、これが!」

≪消防車!≫

 

 ガンモードに切り替えたドリルクラッシャーに消防車フルボトルを装填し、銃口の狙いをスマッシュと眼前の炎に定める。

 

≪Ready go!≫

 

 そしてビルドはトリガーを引く。

 

≪ボルテックブレイク!≫

 

 強力な高圧水流が放たれ、ビルドの脅威となる火炎を掻き消していく。水の勢いは止まらず、更に奥にいるスマッシュに命中し、敵を水圧で押し飛ばしてみせた。

 

 敵に肉薄するチャンスを逃すまいと、ビルドは炎と水の衝突による水蒸気を突き抜けてバーンスマッシュの懐に詰め寄り、ムチによる攻撃を起き上がりの身体に叩き込む。

 

『ッ!?』

「そぉい!」

 

 ムチで怯むスマッシュの頭部に目掛けて、タンクボディに回し蹴りを叩き込むビルド。足部のローラーが高速機動してガリガリと敵の装甲を削り取ると共に、相手を大きく吹き飛ばす。

 

 ちょうどその時、戦いの場に現れる人物が3人。一夏、箒、セシリアである。

 

「戦兎!」

「あれは……巷で噂のスマッシュとやらか……!?」

「わたくしもこうして目にするのは初めてですが……聞くに勝る異形ぶりですわね」

 

 3人ともスマッシュを見るのは初めてのようで、それぞれ反応を示している。

 その中で一夏が真っ先に行動を起こした。彼は戦兎達の戦いに向かって駆けると共に、白式を展開して突撃を始めたのだ。彼の即断実行は置いて行かれた箒とセシリアの目を見開かせる。

 

「待ってろ戦兎、俺も加勢する!」

 

 雪片弐型を構えながら、スマッシュに向かっていく一夏。

 

 しかしそんな彼自身が、箒とセシリアが、直後の事態に驚かされることとなる。

 

 

 

 

 

「ちょっと邪魔だよー」

 

 なんとビルドが、加勢に来た筈の一夏をライオンボディの腕部から放った衝撃波で吹き飛ばしてしまったのだ。

 威力は控えていたようだが、そのまま白式に纏った彼を地面に転がせる。

 

「ぐぅっ……何すんだよ、戦兎!俺はお前を助けようと――」

「必要ありませーん。これは俺の『実験』なんだから、寧ろ邪魔立ては許しませーん」

「実験……!?何言ってんだよ、こいつを早く倒さないと!」

 

 スマッシュの齎す被害は深刻だ。被害の大きさは能力の規模にもよるが、大抵は周辺の物がボロボロになってしまうし、人が巻き込まれようものなら命の保証は出来ない。それ程までに敵の危険度は高い。

 

 故に一夏は、一刻も早く倒さなければならないと思って白式を纏った。戦兎が戦ってくれているお陰で敵の進行が妨げられているが、戦いの余波が生徒達のいる校舎の方にまで及ぶ可能性も充分にある以上、助太刀するのが適正だと判断した。

 

 しかしビルドの反応は一貫していた。いつもの態度で、飄々と彼は口を開いた。

 

「いや、俺としてはこっちのデータ採取が大事だし」

 

 シャカシャカと手で振っている物を指差すビルド。彼の手の中にはラビットフルボトルが収められていた。

 周辺への被害防止や一般人の安全確保よりも自身の研究の方が大事。彼は何事も無くそう言ってみせたのだ。

 

 彼の返答を聞いて一夏は唖然とした。彼にとっては困っている人や危ない目に遭っている人がいれば助けるのが人として当然であり、どんな理由があろうともそちらを優先するべき。自分の都合など後にすればいい。少なくとも彼はそう思っていた。

 だがこうも簡単に自分とは真逆の価値観を突き付けられ、最初は耳を疑う程の衝撃だった。

 

≪ラビット!≫

≪ベストマッチ!≫

 

 そんな一夏の心境を露知らず、ビルドはライオンフルボトルに代わってラビットフルボトルを装填し、ラビットとタンクによるベストマッチを組み上げる。

 

≪Are you ready?≫

「ビルドアップ!」

 

 黄色のボディから新たに赤色のボディに切り替わり、ビルドはラビットタンクフォームへと変身を遂げる。

 

≪鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イエェーイ!≫

「勝利の法則は、決まった!」

 

 更にレバーを回し、ビルドはラビットの脚部で空高く跳躍する。

 

≪Ready go!≫

 

 ビルドが高くまで跳び切った時、以前アイススマッシュと戦った時と同様のグラフが出現する。なだらかな曲線を描いたレールが両者の間に敷かれ、ビルドの蹴りの軌道を示している。

 しかし今回は前回と異なり、グラフのX軸にあたる部分がスマッシュを拘束し始めたのだ。その拘束力は強く、スマッシュの懸命な抵抗にビクともしていない。

 

 ならばとばかりに、スマッシュは空中にいるビルドに目掛けて火炎弾を乱射する。自分が捕まっているということが影響して、その狙いは雑になっている。

 

≪ボルテックフィニッシュ!≫

 

 飛び交う火炎弾の中、急降下を始めるビルド。すれ違う火炎弾に構わず、一気にビルドとスマッシュの距離が縮まっていく。

 そして迫り来る火炎弾を蹴りで掻き消し、そのままビルドはスマッシュにキックを叩き込んだ。

 

≪イエーイ!≫

 

 火花を散らしながら吹き飛ぶスマッシュと着地を決めてみせるビルド、後者の勝ちという形で決着はついた。現にスマッシュは吹き飛ばされてから間も無く抵抗を止め、バタンと倒れ伏してしまう。

 

 途中から戦いの行方をその場で見ていた箒とセシリアは、久しぶりに意識して呼吸する感覚を得た。IS同士の試合とは違う、正真正銘の戦いに2人はいつしか目を奪われていた。

 

「これが……」

「仮面ライダーの、戦い」

「……」

 

 そんな2人とは別に、一夏もまたビルドの戦いを見ていた。しかしその表情は不満を抱えており、視線はビルドへと向けられていた。

 

 一夏の視線に気付くことなく、戦兎はエンプティボトルを取り出してスマッシュから成分を抽出し始める。スマッシュの身体から粒子状のものが湧き上がり、どんどん空のボトルへと集まっていく。

 

 成分抽出が終わった時、スマッシュの身体は人間の姿へと変貌する。

 スマッシュの正体が人間であるという情報は、実を言うと各国政府によって黙秘事項となっている。もしその事実が世間に知れ渡ってしまえば、人々の心に不安が宿ってしまうだろう。人間がスマッシュになるということは、自分もスマッシュになってしまうのではないかという危惧が生まれてしまうのだ。

 箒もセシリアも、これまでそこにいた異形の怪人が人間に戻ったことに驚愕する。未確認生命体という(てい)で世間に広まっている存在の正体が人間であるという事実は、彼女達にとって衝撃的であった。

 

 だが一夏だけは彼女達とは違った反応だった。彼もまた、スマッシュの正体が人間であることに驚いていた。

 だがそれ以上に驚くべき真実が彼の目に映り込んできたのだ。

 

「鈴……?」

 

 それは一夏にとって印象深い幼馴染みの1人だった。彼が小学生の頃に中国から転校してきて、仲良くなろうと近づいたら初対面で殴られた。その後も紆余曲折あったものの、結果的にはもう1人の悪友と共に中学2年生の頃までつるんで楽しく過ごした、1人の少女。

 

「なんでだよ……なんで鈴が、スマッシュなんかに……!!」

 

 凰 鈴音。

 今日転校して来る筈の少女が、力無く地面に横たわっていた。

 

「鈴っ!!」

 

 たまらず一夏は倒れている鈴音に駆け寄り、その身体を抱き起こす。

 ザッと見、ところどころに傷があるものの特に目立った致命傷は一先ず見当たらない。しかし見た目以上に消耗していることが何となく彼にも理解出来た。

 

「鈴っ!おいしっかりしろよ、鈴っ!!」

「……ぅ、ぁ……?」

 

 一夏が懸命に呼びかけるも、鈴の意識はおぼろげなまま。

 

 そんな最中、変身を解除した戦兎は先程まで空だったボトルに成分が詰まっていることを確かめつつ、スマッシュボトルに変化したそれを眺める。

 どんな成分を採取しても、スマッシュボトルに違いが起きることは無い。浄化するまでどんな成分が入ったのか、どんなフルボトルになるかは分からないのだ。

 

「さて、今回はどんなボトルになるかなぁ……前回は氷かと思いきや消防車だったし、今回も炎に見せかけた変化球か?興味深い、ゾクゾクするね」

「っ、おい待てよ戦兎!」

「ん、なんだ?っていうかなんか怒ってない?」

 

 怒りの混じった一夏の呼び止めに応じる戦兎。しかし彼にはどうして一夏が怒りを示しているのかが分からなかった。

 

「なんだじゃないだろ!鈴が……目の前で傷ついてる人がいるんだぞっ!助けようとか思わないのかよっ!」

「んー、別に?」

「っ!お前ってやつは……!」

 

 今すぐにでも胸ぐらを掴んでやりたい衝動に駆られる一夏。しかし今の彼の腕には鈴がいる以上、それを放って彼の元に向かうことが出来なかった。

 だからせめて、一夏は問うた。

 

「人助けと自分の研究、どっちが大事なんだよっ!」

 

 しかし無情にも、戦兎の考えは変わらない。

 天秤にそれらをかけた時、どちらに傾くかは彼にとっては明白なことだった。

 

「決まってんだろ、ビルド(自分の研究)だよ」

 

 間髪入れずにハッキリそう言ってみせる戦兎。

 彼のこの解答は一夏だけでなく、傍で聞いていた箒やセシリアも複雑な思いを抱かせた。研究と甘いもの以外への関心が薄いとは知っていたが、まさかここまでとは……と。

 

 そしてその時、一夏の腕の中にいる鈴音に変化が起こる。

 

「……い、ちか……?」

「鈴っ!」

 

 鈴音が意識を取り戻いた事に安堵しながら、一夏は彼女の名前を呼ぶ。

 

「鈴、しっかりしろ、鈴っ!」

「……やっと」

「え?」

「やっと……また会えた……」

 

 一夏と鈴は中学2年生の頃に別れることとなった。

 その理由は鈴音の両親の離婚。女尊男卑が蔓延るこのご時世、離婚した場合は母親の方が子供を引き取る方が何かと都合が良く、鈴音も例外では無かった。母方の家系の事情で中国に帰らなければならなかった為、鈴はその頃に転校し、帰国したのだ。

 そして互いに暫く連絡がつかないまま時が過ぎ、現在にまで至る。

 

「一夏……あたし、あんたに……」

「俺に?俺がなんだよ、鈴」

「あたし……あんたの、ことが……」

 

 一夏に向かって弱弱しく伸ばされる、か細い腕。

 一夏がそれを掴もうとした瞬間、ダラリと力無く落ちていった。

 

 それと共に、目を覚めしたばかりの鈴は再び目を閉ざしてしまった。

 

「鈴……?」

「…………」

「おい鈴、目ぇ覚ませよ、鈴……鈴……!」

 

 しかし幾ら一夏が呼び掛けようとも、鈴音の反応は無い。ずっと目を閉じたままである。

 

 箒もセシリアも、目の前の悲劇に思わず目を逸らす。片想いの相手が見知らぬ少女を抱き止めているとしても、どちらもそこに嫉妬を表すような性分ではない。

 

「鈴っ!!!」

 

 今ここに、1人の少女の命の灯が失われた。好きな少年の腕に抱かれながら、彼女は15年という短すぎる人生にピリオドを打ったのであった。

 

 

 

――――――――――

 

「いや勝手に殺すんじゃないわよ」

「あるぇー?」

 

 死んだと思ったら、単に気絶していただけだった。

 

 現在、鈴音は学園の医務室で療養している。IS学園は医療面も充実しており、態々遠くの病院に足を運ぶよりもこちらで治療した方が良いからである。

 

「いやだって、明らかに死んだ風だったじゃん」

「あのねぇ。ちゃんと脈拍を診るとか心音を確認するとかしてから判断しなさいよ。あたしはこんなことで死ぬほどヤワじゃないし」

「心音か……」

「取り敢えず一夏、あんたの視線がムカつくから一発殴らせなさい」

 

 数年経っても成長していない幼馴染みの一部分に目がいっていた一夏は、鋭いパンチを浴びた。腕力は成長しているようだと、一夏は殴られながら思った。

 胸が薄そうだから心臓の音が聞きやすそうだ、そう思ったら目の前の少女に殴られるということを一夏は学習した。

 

「はぁ……取り敢えず、事情は分かったわ。噂のスマッシュってやつにあたしがなってたっていう実感は無いけど、あんたがこの手で嘘を吐くとは思えないしね」

「どこまで覚えてるんだ?」

「えっと……昨日の夜、こっちに向かってたら誰かに呼び止められたのよ。コウモリみたいな恰好した、へんなやつ」

「コスプレか何かか?」

「……あんた、真面目に考える気ある?」

「あるある!だからその拳を下ろせって!」

 

 一大事の後だというのに、賑やかにコントを繰り広げる2人。このやり取りも中学以来だと感慨深く思っていたのは、どちらにも共通していた。

 自然と2人の表情は笑っていた。

 

「……それで、あたしをボコボコにして元に戻したやつがいるんだったわよね。えっと、なんとか戦兎ってやつ」

「戦兎か……あいつがどうかしたのか?」

 

 一夏としては、今は戦兎の名前を聞きたくなかった。

 戦兎があの場で落ち着いていたのは、恐らく鈴音が体力を消耗しているだけで、命を落とすほどの症状ではないと判断していたからだろうと一夏は考える。そう考えればあの落ち着きようも理解出来る。

 だが、納得出来るとは一言も言っていない。やはり鈴音の身を優先すべきだということは一夏の中で揺らいでいないからである。戦兎のあの振る舞いは、身勝手が過ぎる。

 

 そんな一夏の渦巻いた胸中に反して、鈴はサバサバとした様子で口を開いた。

 

「取り敢えず、そいつに会うわ」

 

 

 

―――続く―――

 

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