スマッシュの襲撃から翌日。
既にスマッシュがIS学園を襲ったという情報は学園全体に流れており、中国からの転入生に代わる次の話題として盛り上がっていた。遠くからビルドの戦う姿を見ていたという生徒もおり、自慢げに戦う姿を語る者もちらほらと。
鈴音がスマッシュの正体だったという事実は、幸いなことに一夏と箒とセシリア以外誰にも知られていない。偶々スマッシュを吹き飛ばした先が校舎の死角になっており、遠目で見物していた者はスマッシュは消滅したのだと誤認しているのだ。
当日は遅れて通常授業が再開される中、戦った本人である戦兎と見物人の3人には聴取が行われた。と言っても、4人も軽い状況説明と口外禁止を言い渡された程度でそこまで拘束されてはいないのだが。
そんな中、1組のクラス内でちょっとした変化が起きていた。
「ねぇねぇ戦兎くん、織斑くんと喧嘩でもしたの?」
「ん、なんで?」
「いやだって、いつもなら普通にお喋りとかもしてるのに、今日は2人が喋ってるところ見てないんだもん」
戦兎と一夏の間に流れている不穏な雰囲気。聡い女子高生はなんとなくそれを察知していた。
実際のところ、相手を避けているのは一夏の方だけだ。戦兎も最初は普通に彼に話しかけていたのだが、『なんでもねぇよ』とはぐらかされて立ち去られてしまったため、不思議に思いつつも追究しようとは思わなかった。
2人の間でそうなってしまっている原因は、言わずもがな昨日の出来事だ。周りのことよりも自分の研究を優先する戦兎の考えに一夏が納得出来ず、今日までその調子が続いているのだ。
尤も、戦兎はそんな一夏の心境を察していないし探ろうともしていない。そもそも、昨日の一夏との会話も既に日常の一環として流してしまっているのがこの男である。
「別に喧嘩した覚えは無いんだけどな。まぁその内元に戻るんじゃないか?」
「け、結構お気楽なんだね……お節介かもしれないけど、こういうのは早く解決した方がいいと思うよ?」
「んー。考えとく」
そう言って戦兎は携帯用のグミをぱくりと頬張る。例のごとく、関心が無いタイプの反応である。
話しかけていた少女が諦めて立ち去ったのと入れ替わる形で、新たな訪問者が彼の前に現れた。
「ねぇあんた、戦兎だったっけ?」
「ん?」
戦兎の前に立っているのは、鈴音であった。身体の数か所に包帯や絆創膏が貼られているが、既に歩く分には差し支えない範囲にまで身体が回復したのだろう。
しかし一方で戦兎は彼女の姿を見てもパッとしない反応を示した。
「えーっと……すまん、誰だっけ」
「はぁ!?あんた昨日あたしをボコボコにしておいて顔を忘れたっていうの!?」
「ボコボコ……あぁはいはい、思い出した!」
憤る鈴を置いて何事かと思った戦兎だったが、彼女の言葉を聞いて思い当たる節を見つけ、納得する。
「ったく、すっごい失礼なやつね……まぁいいわ。今日はあんたにお礼を言っとかなきゃって思って」
「お礼?」
「決まってんでしょ、あたしを怪物の姿から元に戻してくれたお礼よ」
「あぁ……別に気にすんなって。寧ろお陰で俺も面白そうなフルボトルと出会えそうだしな」
「フル……?まぁとにかく、助けてくれてありがとね」
ニカッと活気良く笑ってみせた鈴音であったが、時計を見た瞬間にギョッとした顔になる。
「やっば、もうすぐSHR始まるじゃん……あぁそうだ。戦兎、あんた昼ごはん一緒に食べましょうよ」
「ん?別にいいけど」
「約束ね。じゃあ昼休み、食堂で待ってるわよ。っと、一夏!あんたも来なさいよ!」
「……俺は行かない」
一夏は鈴音の誘いに乗らず、眉を顰めながらそっぽを向いてしまう。鈴音と一緒に食事に行くとなれば、共に誘われた戦兎と必然的に居合わせることとなる。今の戦兎を好ましく思っていない一夏からしてみれば、それは御免被りたい誘いであった。
一夏が戦兎を避けていることを知っている鈴音は、呆れの混じった溜め息を吐く。
「はぁ……めんどくさいわねぇ。つべこべ言わずにちゃんと来なさい。来たくないって言っても無理矢理連れてくわよ」
「おい、勝手に決め――」
「はいはい、それじゃああたしは今度こそ行くわよ。いい加減教室に戻らないと千冬さんにどやされ――」
「もう遅いがな」
「ヤベーイ!?」
その後、出席簿による制裁を受けた鈴音は1限目が終わるまで頭の痛みと戦いながら授業を受けるのであった。
――――――――――
昼休み、食堂。
「……で、結局あいつは来ないわけね」
「あぁ。声掛けたんだけど朝と同じような反応された」
戦兎と鈴音は券売機の前で合流したが、もう1人誘われていた人物の姿は無い。
「はぁ……無理やり連れてくとは言ったけど、待ち切れなくてラーメン頼んじゃってるのよね。のびるのは嫌だし、仕方ないからあたし達だけで食べましょ」
「そうか」
戦兎も麺が見えないくらいに巨大な鳴門巻きがドカンと乗っている風都ラーメンを注文して料理を受け取ると、空いている席を確保して2人で座る。
「早速だけど、ビルドの話とか色々聞かせてもらってもいい?噂には聞いてたけど、実物が目の前にいるなら直接話を聞いてみたいし」
「いいぞ。お安い御用だ」
戦兎も自分の研究のことを語るのは乗り気のようで、ごほんと咳をついてから口を開いた。
「まずビルドっていうのはてんっさい物理学者である俺が開発した強化スーツのことでビルドドライバーっていうてんっさい的な発明品の変身ベルトと2本のフルボトルを使うことで姿を変えることが出来る。変身時のベースとなってるボディスーツは【BLDアンリミテッドスーツ】といって装着者を衝撃から保護すると共に肉体のリミッターを解除して秘められた能力を解放することが出来る力があり、スマッシュと戦う際には絶対に必須な要素となる。このスーツの上から装着する装甲はそれぞれのフルボトルによって見た目や性能が異なり多種多様な力が発揮されて――」
「あぁぁぁ長い!!しかも早口だから聞き取れない!あたしが具体的に質問するから、無関係なところは省いて説明しなさいっ!」
「なんだよ白けるぜ。俺の心を滾らせろよ」
「今ので十分滾ったでしょうが」
実を言うと、まだまだ言い足りない戦兎である。
「じゃあ先ず、あんたがさっきから言ってるフルボトル?ってやつ、それってなんなの?」
「そうだな……今から3年くらい前、地球に隕石の微破片が複数落ちたって話は聞いたことあるか?」
「何それ、そんなニュース聞いたこと無いわよ」
「まぁ、新聞の片隅に載る程度の報道しかなかったらしいからな。俺も又聞きなんだけど」
「はぁ?あんた堂々と説明しておいて又聞きなの?氷室 玄徳みたいなことして」
「いや、俺も記憶喪失だからその辺は詳しくないんだよ」
戦兎のさりげなく放った衝撃発現に、鈴音は面食らってしまう。そして直ぐに申し訳なさそうに苦々しい顔を浮かべる。
「……ごめん、知らなかったとはいえちょっと無神経過ぎた」
「気にしない気にしない、別に今の生活に不都合があるわけでもないし。……それで話を戻すけど、その隕石の正体がこいつだ。いや、正確には隕石が降ったんじゃなくてこいつが降ってきたんだけどな」
「はぁ……ってはぁ!?じゃあそれ、宇宙から来た物体ってこと!?」
続けざまに聞かされるビックリ情報に思わず席を立ちながら問いただそうとする鈴音であったが、ふと周囲を見渡す。
彼女の周りで食事をとっている生徒達が、怪訝な視線を鈴音達に向けていたのだ。それを受けて鈴音は気恥ずかしさを感じながらそっと着席する。
「……それ、どこの国が知ってんの?」
「多分どこも知らないぞ。知ってるのは俺と束さんとクロエだけだ……あ、君もだな」
「個人名で出されてもこっちは分かんな……ん、ちょっと待って。束?束ってひょっとして、あの篠ノ之 束博士のこと?」
「おう」
「……あんた、現在指名手配中の人物とどういう関係なのよ」
「記憶喪失だったところを拾ってもらった」
思わず鈴音は頭を抱えた。興味本位で彼から話を聞こうとしたら、自分の想像を遥かに超える濃い情報ばかりが飛び出してくるのだから、頭の中がこんがらがり始めている。
「……取り敢えず、フルボトルの話の続きをしてもらっていい?」
「分かった。んで、こいつが宇宙から飛来したってさっき言ったけど、実物は大気圏突破の影響で真っ黒に焼け焦げちまってるんだ。仮に本物を拾えたとしても、フルボトル本来の効果は失われてる」
「けど、それは焦げてないどころか新品みたいだけど」
「実際新品だからな。実物のデータを解析して器となる空のボトルを本来の姿で再現したんだ。後は本来入ってた成分をそこに注入すれば、フルボトルが復活するってわけ」
戦兎は懐から取り出したエンプティボトルとタンクフルボトルを鈴音に見せる。タンクには青い色に加えてボトル本体に戦車のデザインが施されているが、エンプティは無色でなんの変哲も無い見た目をしている。
鈴音は興味深そうに2つのボトルを見比べながら、タンクの方を指差した。
「じゃあ、どうやって成分をこっちに入れるの?」
「そこで世間を騒がせてるスマッシュだよ。基本的に連中は元来備わっていたフルボトルの成分を持っている。だからあいつらと戦えば必然的に新しいボトルを手に入れるチャンスになるんだ。まぁ、偶にダブりもあるけどな」
「へぇ、じゃああたしの時も成分を摂ってたの?」
「あぁ。といっても、今は浄化作業中だけどな。成分の中にはスマッシュの影響で人体に悪影響を及ぼす毒素が混じってるから、純度100%にしないと身体に負担が掛かるんだ」
「面倒な工程ね……」
しかし、人体に悪影響と聞いてはそこを怠るわけにはいかないということは鈴も理解出来ている。取り扱いを一歩間違えれば危険なことになるというのは黒のブレスレットとして待機形態になっている腕の専用機を得る過程で学んでいるから。
「ん……時間も少ないし、話の続きはまた今度にしましょ。ありがとね、面白い話が聞けたわ」
「俺も久しぶりに自分の研究成果を他人に話せたからな、お互い様だ」
「あんた、アッサリしてて話しやすいわよね。あの長々と喋る暴走さえ無ければ」
「いやいや、自分の研究のことならテンション上がるのは必然っしょ」
「はいはい……じゃああたし、先に教室に戻ってるわ。ついでに一夏の様子でも見に行こうかな」
「じゃ、俺は食後のプリンを頼んでくるから」
「ラーメンの後にプリン……」
ツッコみたいところであったが、嬉々として食堂のカウンターに向かおうとする戦兎の姿を見て、そっとしておくことにしたのであった。
――――――――――
その日の夜8時頃。
食堂で夕食を終えた後、部屋でビルドの戦闘データを整理する戦兎。最近はスマッシュだけでなくISとの戦闘も加わっているため、データ収集は順調である。束達と共に生活していた頃はスマッシュの出現も不定期だったが、こちらでは専用機持ちや訓練機相手に模擬戦が出来るので、IS学園入学における大きな利点となっている。
「おっ?」
ノートパソコンを弄っている最中、浄化装置の方に新たな動きが起こったことを察知する戦兎。
バーンスマッシュから採取した成分の浄化が完了し、フルボトルが完成したのである。
「きたきたきたぁぁぁ!!」
すぐさま戦兎は浄化装置へ駆け寄り、中のフルボトルを取り出す。紺色の着色が既に施されていたフルボトルの容器に新たなデザインが彫り込まれている。
それは龍の頭。【ドラゴンフルボトル】が今ここに出来上がったのだ。
「おっほぉ!分かる、こいつはかーなーり強い力を持ってるって俺の勘が告げてる!大当たりキタコレっしゃぁ!」
ドラゴンフルボトルを手にして完全に舞い上がっている戦兎。ここが寮室でなければ隣の部屋からクレームが言い渡されるレベルの五月蝿さだ。
「いよぅし、まずは手持ちのボトルでベストマッチが出来るか試してー、それからデータを算出してー、あぁ専用武器とか作ろうかな?いやこれはもう作るしかないっしょ!」
そう言いながら戦兎は全てのフルボトルを用意し、調査片手に飲み物でも用意しようと思い立って冷蔵庫を開ける。しかし、中には戦兎の好物である甘い飲み物が無かった。具体的に例を挙げるとココア、ミルクセーキ、チョコレートドリンク等である。
「マジかよ……仕方ない、ちょっと自販機で買ってきますか」
ちなみにチョコレートドリンク以外は自販機に揃っている模様。本気でそれの導入を要請しようと考えている戦兎でもあった。
そんな戦兎が小屋を出て、寮のフリースペースを向かう途中のことであった。
「最っ低!!女の子との約束をちゃんと覚えてないなんて、ふざけんじゃないわよっ!!犬に噛まれて死ね!」
一夏と箒の部屋である1025号室を通りかかった戦兎の耳に、最近聞いたばかりの少女の怒号が飛び込んで来る。
戦兎がなんだなんだと不思議そうにそちらに顔を向けた途端、部屋の扉がバァン!と乱暴に開けられる。そこから出てきた人物は、昼間に彼と喋っていた鈴音であった。
鈴音は戦兎の方を見向きもせず、というより気付いていない様子でそのまま走り去っていく。その目には涙が浮かび上がっていた。
尤も、戦兎が彼女の涙に気付くようなことはないのだが。
ふと戦兎は開けっ放しの部屋をスッと覗き込んだ。
「あの、箒……」
「馬に蹴られて死ね」
「……」
覗き終了。
結局よく分からなかった戦兎は、まぁいいかと自己完結して当初の目的であるフリースペースへと向かうのであった。
――――――――――
「ぐす……ひっく、一夏のバカぁ……!」
フリースペースに先客あり。
先程一夏の部屋から飛び出していった鈴音がソファに体育座りをして顔を脚に埋めていた。
「おぉ、こっちに来てたのか」
「っ……戦兎?」
それとなく戦兎が声を掛けてみると、鈴音は反応を示す。僅かに上げた顔から見える涙の跡は頬を伝い、目元は少しだけ赤く腫れている。泣いていたからであろう。
「なんで、ここに……?」
「いやさ、さっき部屋で新しいボトル、あぁドラゴンフルボトルなんだけどな、それがすっごい強い感じがしててこれは早速データを取らなきゃならねぇ!って思って……あっ、ありがとな、お陰でいいボトルが出来上がったわ」
「う、うん」
「えーっと……そうそう、それで甘い物片手に色々と調査しようとしたら肝心の甘い飲み物を切らしててさぁ、ここに来る途中で一夏の部屋から君が飛び出したのを見かけて、そのまま来てみたら君が何故か泣いてたってわけ」
「……別にあたしが泣いてたのを見たから、来てくれたわけじゃないってこと?」
「ん?まぁ俺はそもそも飲み物が欲しかっただけだし」
「…………はぁ」
鈴音が大きなため息を吐くが、戦兎にはその理由が分からなかった。
鈴音個人としては、そこは『君が泣いてたのを見て、放っておけなかった』みたいな台詞をちょっとは期待していた。一夏のことが好きなのに何を言うかと思われるかもしれないが、傷心中の身としては誰かにこの気持ちを受け止めて欲しいという小さいながらの欲望を抱いてはいたのだ。
しかし目の前にいる男に、そんな甲斐性は無かった模様。そもそも昼に話をした時点で彼女が抱く戦兎の印象は『あっさりしてて悪くないけど、時々めんどくさくなるビックリドッキリ人間』である。
「……あのね。昔のことなんだけど、あたし一夏と約束したのよ」
「約束?」
「そう。その……りょ、料理が上達したら……えっと」
こうなりゃ目の前にいる男に愚痴ってしまおう。
そう思っていた鈴音であったが、いざ話そうとすると気恥ずかしいものがあった。なにせ内容が内容なので、他人に打ち明けるとなれば彼女は自然に口ごもっていた。
「料理がどうかしたのか?」
「うぅ……あぅ……ま、毎日、食べて欲しいって……」
「料理を毎日……」
一夏に料理を毎日食べさせる。
それがどういうことなのか思考する戦兎であったが、彼の中で答えを導き出した。
「一夏の栄養管理がしたいんだな」
「ちっがーう!プロポーズよプロポーズ!結婚しようって言ってんのよ!……あっ」
ツッコミから我に返って肝心なワードをハッキリと口にしたことにより、鈴音の顔が恥ずかしさで赤くなる。
彼女は赤くなった顔を戦兎に見られないように、再び体育座りの状態で顔を埋めて隠す。そしてキッと戦兎を睨みつける。
「……なにあたしの口から言わせてんのよ」
「え、何か恥ずかしくなるようなこと言ってたか?」
「……こいつも同類か」
繊細な女心に対してこの反応。目の前にいる男も鈍感の類いであると鈴音は悟った。愚痴る相手間違えたかも、とも同時に思った。
もう会話を切り上げて部屋に帰ろうかと思い始めた鈴音であったが、戦兎の方が言葉を続けてきた。
「まぁ要するに、一夏にプロポーズしたけど失敗したってことだな」
「っ……あぁそうねそういうことよ、どうせあたしは――」
「で、その失敗はもう取り返しがつかないレベルなのか?」
自分の失態をストレートに口にされて自棄になりかけた鈴音であったが、その言葉を聞いて思い留まる。そして同時に思考した。
確かに昔約束した告白は覚えてもらっておらず、何をどうして奢ってもらうという形で覚えられていたのはショックだった。今思い出すだけでも腹が立つ。
しかし、告白自体を断られたわけではない。今回はあくまで鈴音の好意が伝わっていなかっただけで、その思いに応えてもらった段階にも至っていない。戦兎が言った取り返しのつかないレベルでは断じて無かった。
「発明をするにあたっては失敗なんてつきものだ。だからこそ成功に導くまで試行錯誤を繰り返して、満足のいく結果を自分で創るんだ。それが科学における条理であり、俺のポリシーでもある」
「……恋愛を科学と同一視するなんて、あんたくらいよ」
呆れる鈴音だが、その顔は綻んでいた。
目の前にいる男の言う通り、まだ彼女は一夏と結ばれる為にもがいていないしこれが満足のいく結果であるわけがない。一夏のことが好きな気持ちは初めての片想いから変わっていない、だからこんなところで諦めるわけにはいかない。
鈴音は腹を決めた。そこにいる発明バカに倣ってみようと。そもそも自分はこれくらいでクヨクヨする柄じゃないだろうとも思い、それを気付かせてくれた発明バカに感謝する。
「ありがとね、戦兎。お陰でちょっと目が覚めたわ」
「ん?おう、そうか」
「じゃああたし、自分の部屋に戻るわ。明日にでもあいつに話して、まずはそれからね」
「おう、頑張れよー」
「あんたこそ、さっさとあいつと仲直りしなさいよ?……って、あんた達の場合は一夏の方を何とかしないとどうにもならなさそうね。まぁ兎に角、また明日ね!お休み!」
そう言って鈴音は戦兎に手を振りながらフリースペースを去っていった。気持ちがスッキリしたお陰か、その足はいつもよりも軽やかであった。
彼女がいなくなって戦兎1人になったその場所に静寂が訪れる。
「さて、俺も飲み物買わないとな」
戦兎は当初の目的である飲み物の購入を果たすべく、自販機へと寄っていく。
本来の彼ならば会話しながら飲み物を買い、興味の無い話ならばそのまま適当に切り上げて去るのだが、今回は随分と違った反応を見せていた。
良いフルボトルが完成して機嫌が良かったのと、そのフルボトル完成に貢献してくれた相手だったからというのが理由である。特別意識していたわけでもないが。
その後、驚異的なバランスで大量の飲料を持ち帰る戦兎の姿が目撃され、一時期話題に上がったとか。そして特定の飲料の独占を千冬に注意されてしまうのも、それから間も無い話であった。