重ねたキズナと巡る世界   作:唯の厨二好き

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異世界トリップしたイオリア達。




HUNTER×HUNTER編
第10話 異世界トリップ


 サワサワと葉擦れの音が聞こえ、そよそよと優しい風が頬を撫でる。土と緑の香りが鼻腔をくすぐる。

 

 自然に抱かれるような心地よさに、イオリアは、つい微睡みながら寝返りを打った。そして、その頬にジャリという土の感触を受けて急速に意識を取り戻す。

 

「っつ、ここは? あれから……そうだ! ミク! テト!」

 

 如何にも森の中です、といった場所に一瞬混乱するイオリアだったが、何があったのかを思い出し、慌てて自らのパートナー達の名を呼びながら辺りを見回した。

 

「う~ん? マスター?」

「う? マスターの声?」

 

 ミクとテトはイオリアのすぐ傍に倒れていた。イオリアの呼び声に反応し意識を取り戻すミクとテト。

 

 イオリアは、二人が自分のバリアジャケットの裾をギュッと握っていることに今更ながらに気が付いた。やがて、多少ボーとしながらも辺りを見回し、イオリアの姿を確認してホッとした様子を見せる二人に、イオリアもまた胸を撫で下ろした。

 

「二人共、無事か?」

「はい、マスター。問題ありません。マスターこそ大丈夫ですか?」

「ボクも問題ないよ。怪我はしてない?マスター?」

 

 直ぐにお互いの安否を確認し合うイオリア達。お互い問題ないことを確認し、自然と笑顔が零れた。

 

「さて、現状を確認するぞ? 俺達は、夜天を虚数空間に放り込んだ後、ゆりかごから攻撃を受けた。躱したものの、その直後、ユニゾンが解けて結界と力場が維持できなくなり、虚数空間に引き込まれそうになった」

「うん、それで、マスターが踏ん張っている間に、ボクとミクちゃんが転移魔法を使った」

「時間がありませんでしたから、ランダム転移ですね」

 

 イオリア達は、転移魔法を発動する直前の出来事に対する認識に齟齬がないことを確認し、顔を見合わせて頷いた。

 

「ここが何処の森かは知らんが、とりあえず虚数空間に飲まれることは避けられたみたいだな。」

 

 

 イオリアが「はぁ~」と安堵の吐息を漏らす。ミクとテトの二人も少し気の抜けたような表情だ。

 

 それも当然だろう。三人は、ついさっきまで世界の存亡を賭けた戦いを繰り広げていたのだ。しかも、最後はあわや虚数空間に飲まれる! という何とも心臓に悪い状況を間一髪で潜り抜けたのである。

 

 イオリアは少しボーとした後、ミクとテトに目を合わせ、おもむろに拳を突き出した。

 

 それを見たミクとテトは一瞬キョトンとした表情をしたものの、直ぐに意図を察し、ニッと笑うと同じように拳を突き出してイオリアのそれに突き合わせた。

 

「……やったな!」

「はい!」

「うん!」

 

 そう、イオリア達はやり遂げたのだ。大切な人達は誰ひとり死なせなかった。ベルカも消滅しなかった。闇の書もこれ以上罪を重ねる前に封印できた。

 

 確かに、戦争自体は止められなかったし、犠牲者も多く出た。平和とは言い切れず、火種は未だ燻っており、ベルカ消滅の危機は他にもあるかもしれない。

 

 それでも、イオリア達の足掻きは、失われるはずだった多くの「大切」を守ったのだ。イオリア達は暫く、そうやって笑い合い互の健闘を讃え合った。

 

「さて、現状も認識したし帰らないとな。転移の直前に、オリヴィエさんにイヤリング撃ち出したから座標はわかるだろう? ミク、テトどうだ?」

「ちょっと待ってね」

「え~とですね~」

 

 

 イヤリングとは、イオリアが初等部を卒業した際クラウス達が贈ってくれたもので、魔力なしに次元を超えて引き合う性質を持ち、どこにイヤリングがあるのか分かるという優れものだ。

 

 イオリア、ミク、テトが其々対になったもの所持しており、イオリアは一つを闇の書の意思に、もう一つをオリヴィエに渡したのである。そうすれば、何処にいようとミクかテトのイヤリングで場所を特定できる。

 

 しばらく場所を探っていたのか、沈黙を続けるミクとテトに、痺れを切らしてイオリアは声をかけた。

 

「おい、どうした? まさか、分からないなんてことないよな?」

 

 その言葉に、ミクとテトは顔を見合わせ、どうしたものかと悩む素振りを見せた。その様子に、何だか嫌な予感を感じつつも、イオリアは再度、二人に返事を求める。

 

「ミク? テト?」

「え~とですね。マスター。分かるには分かるんですけど……その何というか、ここ別の次元世界みたいで……その、すご~く遠いといいますか……」

 

 煮え切らない様子のミクに、イオリアは、テトの方にも説明を求める。

 

「あのね、マスター。座標はわかるけど、魔力が足りなさすぎて次元転移できないんだ」

 

 そう答えるテトに、意味を理解したのか、苦い表情を見せるイオリア。そして、湧き上がった疑問をぶつける。

 

「だが、テト。俺達は現にこの世界にいるぞ?残りのカートリッジを使っても足りないのか?なら、どうやって俺達はここまで転移したんだ?」

「それは、ボクにも確かなことはわからないよ。でも、あの時、あの場はちょっと異常だったからね。それのせいかも、としか……」

「異常?」

 

 疑問を浮かべながらも、転移直前の場面を思い出したイオリア。

 

 確かに、あの場は、イオリアの【絶空】で空間が破砕され、元に戻ろうとする力が吹き荒れており、さらにゆりかごの軽く大地を割りそうな砲撃を打ち込まれて空間其の物がめちゃくちゃになっていた。砲撃のおかげで魔力濃度も相当なものだっただろう。そこに来て、“ランダム”の転移魔法である。予想外に飛ばされてもおかしくはないかもしれない。

 

「じゃあ、可能な範囲で別の次元世界に転移して、回復次第また別の次元世界にって具合ならどうだ?」

「ボクとミクちゃんはともかく、マスターが必ずしも生きられる世界とは言えないんだよ?危険すぎるよ」

「それに、一度や二度ならともかく、少なくとも数十回は必要です。賭けとしては正直、分が悪すぎます。魔力素がある世界とも限りませんし……」

 

「なるほどな・・・現状では帰還方法なし、か」

 

 考え込むイオリアに、ミクが提案する。

 

「マスター、とりあえずこの世界の情報を収集しませんか? もしかしたら、帰還の助けになるものがあるかもしれません。魔法文化があれば、次元航行艦だってあるかもしれませんし……」

「ああ、そうだな。俺もそう考えていた。とりあえず、サーチャー飛ばして周囲一体を探索し……ぐぅ~~~ぎゅるる」

 

 これからの行動を指示しようとしたイオリアの腹の虫が盛大に抗議の声を上げた。いい加減、飯をよこせと。

 

 静寂に包まれる三人。葉擦れ音がサワサワと響く中、そのシリアスブレイカーっぷりに、ついにミクとテトが吹き出した。

 

「ぷっ、あは、あはははは~マスター~そんなキリッとした顔で~」

「くっ、ふっ、無理。お腹捩れる。タイミング良すぎだよ。ふっぐ、流石マスターだよ」

「……」

 

 そういえば、昨日の朝から何も食べずに連戦だったなぁ、腹がなってもシカタナイナ~と誰にともなく言い訳をしつつ、ものすごく真面目な顔で、ものすごく間抜けな音を出してしまった恥ずかしさを誤魔化すため、必死にそっぽを向くイオリア。

 

 ツボにはまったのか未だ笑い転げる二人に、八つ当たり気味に声を荒げる。

 

「ええい、もういいだろ!? サーチャー飛ばして情報収集! ほら、動け動け!」

 

 声を荒げるイオリアに、ミクとテトは目の端に涙を浮かべながら、どこか生暖かい目を向け了解の意を伝える。深刻な空気はどこかに吹き飛んでいた。

 

「了解です、マスター。ぷっ、一刻も早く食事処を見つけないといけませんもんね! ぷふっ」 

「OK、マスター。とびっきり美味しそうなレストラン探すから、もう少し我慢してね? くくっ」

 

 明らかにからかいの含まれた二人の言葉に、イオリアの額に青筋が浮かぶ。

 

「お前等~」

 

 顔を真っ赤にして迫ってくるイオリアに、ミクとテトはキャッキャッと騒ぎながらサーチャーを飛ばしていく。

 

 清閑な森に、暫くの間、楽しげな声が響いていた。

 

「……で。セレス。俺達のサーチャーに反応は?」

 

 未だどこか不機嫌そうな声で、相棒のデバイスに尋ねるイオリア。端的に「no」と応えるセレス。そんな様子に、ミクとテトは苦笑いをする。

 

「もう、いい加減、機嫌直してくださいよ~マスター?」

「悪かったよ、だから、ね? マスター?」

 

 イオリアの機嫌を直そうと宥めるミクとテト。イオリアは、二人をチラッと見た後、「はぁ~」とため息を吐き、「もういいさ」と手をひらひら振った。

 

 と、その時、西方にサーチャーを放っていたミクが反応を見せる。

 

「あ、マスター! 街です! 街がありますよ!」

「お、本当か? 距離は? どんな感じだ?」

「え~と、文明レベルはBくらいでしょうか。街の雰囲気も悪くありません。治安は良いみたいですね。距離は、およそ20kmくらいです」

 

 文明レベルBとは、現代日本くらいの文明レベルのことである。

 

 ミクの報告を聞き、「よし」と一つ頷くと、イオリアは立ち上がってミクとテトに今後の方針を伝える。

 

「取り敢えず、その街に行こう。それでまず、資金稼ぎだな。十中八九、手持ちの金は使えないだろうし。で、その後は、飯食って宿を探しつつ、この世界の情報収集だ」

 

「了解、マスター。でも、資金稼ぎって?」

 

 イオリアの指示に賛成を示しつつ、資金稼ぎの方法を尋ねるテト。ミクも首を傾げて「どうするんですか?」という表情を浮かべる。

 

 そんな二人に向かってイオリアはニヤッと不敵に笑い、何を今更といった目を向けた。

 

「そんなの決まってるだろう?最近、何だか化け物じみた使い方ばっかしてる気がするが……本領発揮と行こうじゃないか。なぁ、歌姫達?」

 

 イオリアのその言葉に意図を察したミクとテトもまた、イオリアと同じ様にニヤッと不敵な笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ザバン市の中央広場。普段は、待ち合わせの場所に使われるか、休憩がてら付近のベンチに座るものがまばらにいる程度の場所が、現在、大勢の人間に埋め尽くされていた。

 

 半ば交通妨害にもなっており、騒ぎを聞きつけた警官もちらほらいるのだが、そんな彼らすら熱心に人垣の中央を見つめている。

 

 その中央にいる者とは、

 

「みなさ~ん、盛り上がってますか~! 次は、テトちゃんとのセッションで行っくよ~! 楽しんでってね!」

 

――ワァアアアアアーーーーーー!!!!

――ミックちゃ~ん!!!

――テ~トちゃ~ん!!!

 

 そう、我らがイオリア、ミク、テトのお三方だった。

 

 ちなみに、イオリアへの声援もあるが演奏に徹しているので二人ほど目立たず、圧倒的なミクテトファンの声援に掻き消されている。決して空気なわけではない、空気ではないのだ。大事なことなので二度言うが。

 

 イオリアは、黄金のバリトンサックスに息を吹き込み、中央広場に腹の底まで響くような重厚で軽快な旋律を撒き散らす。

 

 それに続くように、ギターを肩に掛けたミクが、改造キーボードを肩から掛けたテトが続き、旋律に深みを加えていく。

 

 息のピッタリとあった軽快な曲は、一瞬で聴衆の心を奪う。皆が皆、思い思いに体を揺らし、リズムを取る。心底楽しげな表情でありながら、これから響くであろう歌声を一瞬も聞き漏らすまいと集中しているのがわかる。

 

 そして、二人の歌姫がついに歌い始めた。中央広場をその天上の歌声が満たしていく。それどころか、ザパン市全体に響いているのではと思わせるほどだ。

 

 澄んだミクの歌声も、少し低めで艶のあるテトの歌声も聴衆を魅了してやまない。街中の人間が集まりだしているのでは?と疑いたくなるほど、未だ、ぞくぞくと人が集まって来ている。

 

 イオリア達が資金稼ぎのため路上ライブを始めてから、まだ20分と経っていない。最初、デバイスの格納領域に入れておいた楽器をミクとテトに用意し、中央広場の適当な場所を見つけ準備している時は誰も見向きもしなかった。むしろ、演奏の練習でうるさくされるのではと迷惑そうな表情をしている人達もいたくらいだ。

 

 しかし、イオリア達は「そんなもの知らぬ」と強行した。イオリアの機嫌は直っても、腹の虫の機嫌は直らないのだ。金を稼ぎ飯を食うその時まで。

 

 そんなこんなで始まったライブだが、最初の数分で周囲の人達は顔色を変えた。奏でられる演奏に、響き渡る歌声に、しばらく呆然と聴き入っていたが、一曲が終わると同時にハッと正気に戻り、少しでも近くで聴きたいと我先にイオリア達の前に集まりだしたのだ。

 

 そして、現在5曲目。未だ、眼前のサックスケースにお布施は入れられていないが、イオリア達は気にせず演奏を続ける。たとえ資金目当てでも、楽しむときは楽しむのがイオリア達のスタンスだ。

 

 イオリア達の楽しげで嬉しげな雰囲気に釣られて聴衆達のテンションも最高潮である。人垣の向こうで、集まった警察官らしき人達がノリノリで踊っており、彼らのテンションもMAXだ。

 

 結局その後、アンコールにも応えつつ、20曲近くを披露しライブは終了した。

 

 終わった直後、サックスケースが溢れんばかりにお布施が投げ入れられていく。

 

 イオリア達はひたすら「ありがとうございます!」を繰り返し、次はいつライブをするのかという声に「申し訳ありません、未定です!」を繰り返し、何とかミクとテトを誘い出そうと口説いてくる男共に手加減版【虎砲】を叩き込み、正気を取り戻して白々しい注意を促してくる警官隊に詫びを入れつつ、やっぱりミクとテトに手を出そうとする男共に手加減版【断空拳】をお見舞いしていく。

 

 ようやく、聴衆達が興奮しながらも帰途に着く頃には日が大分落ちていた。

 

 なお、ミクとテトに違う意味で興奮していた輩は、警官達がとっても丈夫な仮宿に強制帰宅させた。

 

 イオリア達は、まだ魔法文明の有無がはっきりしないため街中でセレスに楽器を格納するわけにもいかず、現金を整理しながら楽器の片付けをする。イオリアは、何時になくご機嫌な様子だ。

 

「いや~、やっぱこうだよ。こうなんだよ。音楽の才能ってさ、こういうことを言うんだよ。断じて、大軍吹き飛ばしたり、人体の内部破壊引き起こしたり、数百人の傭兵をのたうち回らせたりするもんじゃないんだよ」

 

 一人、うんうんと頷き、晴れやかな笑顔を見せるイオリアに、ミクとテトは、「ストレス溜まってたんだなぁ~」と、苦笑いを浮かべた。

 

 いよいよ片付けも終わり、いざ、飯屋に! という時に声を掛けてきた者がいた。

 

「素晴らしいライブだった。よければ、夕食を奢らせてもらいたい」

 

 その言葉に、イオリアは、まだナンパ野郎が残ってやがったか、と不機嫌そうな表情を隠しもせずに振り返った。……決して、空腹がいい加減限界だったからではない。

 

「すいませんが、仲間内で打ち上げをするのでお断りします。それに、初対面の方のそう言う話に乗ってしまうと他の方から恨まれることもあるので……」

 

 一応、丁寧な言葉遣いを心掛け、もっともらしい理由もつけてハッキリと断りを入れる。こういうことは曖昧にすると後々問題になるのだ。

 

 イオリアが振り返った先にいたのは、黒髪のイケメンだった。その横には鷲鼻の背の高い女性や顔に大きな傷のある大男、中華風の服を纏った糸目の男がいた。

 

 何となく、既視感を刺激されるイオリアだったが、気にせず一礼し、そのまま立ち去ろうとしたところで再び声を掛けられた。

 

「まぁ、そう言うな。お前達ほどの音楽家とは、ぜひとも顔見知りになっておきたい。夕食時に一曲頼めるなら……1000万ジェニー出してもいい」

 

 随分と強引な、それでいて高い評価と共になされた勧誘に、イオリアは再度断りを入れようとして、次の瞬間あまり衝撃に表情が凍りついた。

 

「ああ、自己紹介がまだだったな。俺の名前は、クロロ・ルシルフルだ」

 

「……旅団」

 

「!?」

 

 クロロ・ルシルフル。

 

 それは、ハンターな世界で幻影旅団というA級賞金首に指定されている盗賊団の団長の名だ。

 

 イオリアは、ハンター世界のストーリーはほとんど知らない。日本にいた時、ほんの少しアニメを見た程度だ。それでも、笑顔動画でパロディー化されているものをよく見かけ、世界設定や登場人物についてはそれなりに詳しい。魂に刻まれた記憶は薄れることはないので、クロロの名を聞いた瞬間思い出したのだ。

 

 まさか、リリカルなのはの古代ベルカに転生したと思ったら、ハンターな世界にトリップしたなど予想だにしなかった。

 

 しかも、それに気がつくきっかけが、目の前にいる悪名高い旅団の団長である。それ故に、思わず致命的な言葉を口走ってしまうのもやむを得ないことだろう。

 

 イオリアの「旅団」という呟きに、一気に警戒心を引き上げるクロロ。まさか、一介の音楽家、それも相当若い相手が自分の素性を知っているとは思わず、今度は違う意味で逃すわけには行かなくなった。

 

 見れば、他の三人も警戒してイオリア達を見ている。さりげなく、おそらくフランクリンであろう顔に傷のある男と、フェイタンであろう中華風の服の男が、包囲するようにミクとテトの側面に移動する。

 

「ほう、俺を知っているのか。ただの音楽家ではないのか? ますます、招待せずにはいられないな?」

 

 目を細めて他の選択肢など無いと言わんばかりの眼光でイオリアを見つめるクロロ。

 

 イオリアは、無表情であったが内心は動揺しっぱなしだった。

 

(ないわぁ~、マジないわ~、ハンター世界にトリップって……え、何? もしかして不幸体質微妙に残ってたりする? いや、微妙どころじゃないよな? 資金稼ぎのライブで団長さんに声掛けられるとかさ、どんな確率だよ、そもそも、何でこんなところにいるんだよ。数時間前まで、世界の危機に直面してたのに、解決したと思ったら今度は俺の危機だよ。アランさ~ん! アランさん、どこ~!)

 

 内心、現実逃避気味に愚痴を零したり、アランに助けを求めたりしているイオリアだが、無言無表情のためクロロが先に動き出した。視線で、隣にいる鷲鼻の女――パクノダに合図する。

 

「そんなに警戒しないで。貴方達をどうこうしようとは思ってないわ。団長は芸術関係に興味があって……少し、話を聞きたいだけなのよ」

 

 そんな事を言いながらさりげなくイオリアに近づくパクノダ。

 

 パクノダが安心させるようにイオリアに触れようとした瞬間、イオリアの危機対応力が反応する。

 

 咄嗟に飛び退り、パクノダに触れられるのを回避した。

 

 イオリアとしては、パクノダの触れた相手の記憶を読み取るという能力を避けるためではなく、純粋に危機感に応じて回避しただけなのだが、そんなイオリアの能力など知らない団員達は「パクノダの能力を知っているのか!?」と、さらに警戒心を高めた。フランクリンとフェイタンなど殺気が漏れるどころではない。明らかに殺す気だ。

 

 イオリアは咄嗟に判断した。この世界では、有数の念能力者である旅団員達ではあるが、自分達には圧倒的なアドバンテージがある。魔導というアドバンテージが。故に、この場で逃走に全力を注げば確実に逃げられるだろう。

 

 しかし、追跡において、彼らがどのような行動に出るか。付近にはまだまだザパン市の住民がいる。旅団が、自分達の逃走を許してまで街の住人の安全に気を使うとは思えなかった。イオリア達のこの場からの逃走は、そのまま住民の危険に繋がる。

 

「夕食をご馳走してくれるんだろう? ぜひ、案内してくれ。その招待、喜んで受けさせてもらう」

 

「……そうか、では行こうか」

 

 クロロは、突然態度を変えたイオリアに目を細めたが、最初の申し出通り、旅団のアジトに連れて行くことにした。もっとも、素直に夕食となるかは微妙だったが。

 

 歩き出したクロロに着いて行くイオリア達。

 

 しかし、殺気ダダ漏れの男が二人背後にいるので生きた心地がしない。ミクもテトも表情には出していないが警戒しているのがわかる。そして、無言が支配する中で、それは起こった。

 

 ぐごごっ、ぎゅる~~ぎゅるるるる~ぐごっ

 

 やはり空気を読まない腹の虫。てめぇ、いい加減にしやがれよ? アァ!? と言わんばかりの猛烈な抗議に思わず全員がその場に立ち止まり、イオリアをマジマジと見る。近くの露店のおっさんもマジマジと見る。

 

 私関係ありません! という態度で必死にそっぽを向くイオリアだったが、ついに沈黙と凝視に耐え切れず呟くような声で言った。

 

「ちょっと、そこの露店に寄っていいか?」

 

 クロロは、思わず顔を背け肩をぷるぷる震えさせながら、

 

「い、行ってこい。ブフッ」

 

 堪えきれずに吹いた。周りを見れば全員空気を読んで笑いを堪えているようだが、そこかしこで堪えきれずに吹き出している。小さな声で呟く「流石、マスター、ふぐっ」だの「常人にはできない、ぶっ、ことを平然とやる、コフッ、流石だよ」という相棒達の声など決して聞こえない。

 

 イオリアは、俯きながらスタスタスタと早歩きで串焼肉を売っていた露店へ向かった。露店のおっさんは、実にいい笑顔で待ち構えている。

 

 イオリアはこれから起こるであろう厄介事が、せめて今のシリアスブレイクな腹の虫でマシにならないかな~と再び現実逃避に走るのだった。

 




いかがでしたか?

イオリア達はHUNTER×HUNTERの世界にトリップしました。

実を言うと、作者はマジでハンター世界の原作を読んでいません。
じゃあ、何でトリップしたんだよ?というツッコミに対してはこう言うしかなない。
念がかっこよかったから!と。SSでハンター読んで、是非イオリア達にも念を覚えさせたいと我慢できなかったんです。
故に、ネットで調べながらの執筆です。
多分にご都合主義、独自解釈が入りますが大目に見て下さい。
基本は原作沿いになるかと思いますが・・・まぁ妄想なんでどうなるか・・・

次回は、旅団と一戦やらかします。

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