重ねたキズナと巡る世界   作:唯の厨二好き

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ネギま編開始。




魔法先生ネギま編
第17話 そうです、私がエヴァです


 イオリア達は現在、巨大な遺跡と思わしき場所にいた。

 

 そこは球状の巨大な空間で、壁には所狭しと樹の根が張り付き薄ぼんやりと発光している。その中央に魔法陣の書かれた円状の儀式台のような場所があり、そこから四方に向かって回廊が伸びている。魔法陣の直上には巨大な光球も浮いている。

 

 そんな神秘的な場所、まさに魔法陣の中央にイオリア達は座り込んでいた。

 

「「「ここどこ?」」」

 

 三人の声が重なる。

 

「取り敢えず、ミク、テトも無事か?」

「はい、大丈夫です。マスターも……大丈夫そうですね」

「ボクも平気。大気成分は正常だね。……遺跡っぽいし、マスターの生存に危険はなさそう」

 

 互いの安否を確認し、どうやらイオリアにとっても問題ない世界のようなので一先ず安堵の吐息を漏らす。次に三人は、現状の把握に努めた。

 

「ここ、なんだろな?えらい立派な……祭壇?みたいな場所だし……上のあれは魔法っぽいし……ていうか引っ張られたよな?」

「うん。転移中に有り得ないくらい大きな魔力に引っ張られたよ。」

「しかも、唯でさえカードの御蔭で転移が阻害されているところでしたから、抵抗もできませんでしたし……」

「ああ、まさか“挫折の弓”も“同行”も役に立たないどころか邪魔になるとはな……」

 

 イオリア達は次元転移を行使し順調に次元の壁は突破した。予定通り途中で“挫折の弓”と“同行”をゲインしたのだが、ここで問題が起きた。

 

 両カードは発動したのだが、ベルカに向かうどころか元のハンター世界に戻ろうとしたのだ。そのせいで、転移魔法と反発し多大な魔力を消費することになった。

 

 これはヤバイと、一番近い次元世界に転移しようとした直後、絶大な魔力を感知しそれに引っ張られるように転移先が決定してしまったのだ。

 

「おそらく、この場所が関係してるんだろうな……だが」

「はい、いまでもそこそこ魔力は満ちてますけど、さっきとは比べ物にならないくらい小さいです」

「さっきの魔力なら一発で戻れたくらいだからね。……どうするマスター?直ぐに転移する?」

 

 イオリアは、徐々に小さくなっていく周囲の魔力を感じ、どうするか逡巡したが焦ってもいいことはないと判断し首を振った。

 

「いや、この場所を調べてみよう。もしかしたらさっきの魔力を出す仕掛けがあるかもしれない。」

 

 イオリアの言葉にミクとテトは頷く。三人は立ち上がり、四つある回廊のどれに進もうかと思案した。サーチャーを飛ばして調べようとしたところ、ミクとテトの両者から何かくると報告がされる。

 

 イオリアも聞こえていたので、一つの回廊の暗がりに警戒する。次第に、地響きが響き始めた。ズシン、ズシンと巨体が歩行しているような音だ。

 

 三人は顔を見合わせ、タラーと冷や汗を流す。そして現れたのは、

 

「GAAAAAAAAAAAAッ!!!」

 

 ドラゴンだった。どこからどう見てもドラゴンだった。長い首、発達した全身の筋肉と巨大な爪牙。大きな翼を羽ばたかせ、極太の尾が地を打つ。黄金の眼が殺意に満ちて、小さな侵入者を睥睨している。

 

「「「……」」」

 

 三人は無言だ。だが、顔には乾いた笑みが張り付き、内心はツッコミの嵐だった。

 

(なに、なんなのあれ!? ドラゴンいますよ!? ちくしょう! ちょっとカッコイイじゃねぇか! アルザスとかにはいるらしいけど、初めて見たよ、俺!)

(やっぱり、スムーズにはいかないんですね、わかります! だって、マスターだもの! こんな如何にもな場所で何も起こらなかったら、そんなのマスターじゃありませんもの!)

(はは、やっぱりこうなるよね?わかってたよ? 前もいきなり幻影旅団だったもんね? なら、いきなりドラゴンでも普通だよね? あっ、火吹いた!)

 

 硬直しているイオリア達に、ドラゴンはグッと胸を反らし始めた。

 

 イオリア達は条件反射的にプロテクションを張る。

 

 直後、ドラゴンの口から灼熱のブレスが吐き出された。炎の壁と表現した方がいい程の豪炎がイオリア達を襲う。イオリア達は炎に飲まれ見えなくなった。

 

 ドラゴンは勝利を確信したのか、グルルと唸り追撃にでない。しかし、それが間違いだった。

 

「レストリクトロック」

「ディバインバスター」

 

 未だ渦巻く炎の中からイオリアの捕縛系魔法が発動される。

 

――捕縛系魔法 レストリクトロック

 

 上位の収束系捕縛魔法だ。対象を指定空間に固定する。

 

 ドラゴンの足に濃紺色に光るリングが現れその場に固定した。

 

 直後、テトの砲撃魔法が発動した。

 

――砲撃魔法 ディバインバスター

 

 魔力を砲撃として打ち出すシンプルな魔法である。

 

 周囲の炎を吹き飛ばし、今度はドラゴンに紅色の壁が迫る。ドラゴンは回避しようとするが捕縛魔法に捕まり直ぐには動けない。為す術なく直撃を食らった。一応、非殺傷設定である。侵入者の身としては、おそらくガーディアンであろうドラゴンを殺すのは何とも気が咎めたのだ。

 

 ドラゴンは流石の耐久力で、フラつくもののしっかりと耐えて見せた。

 

 だが、その隙に高速機動で接近したミクが無月で四度切りつける。いかついドラゴンに可愛いくデフォルトされたネギマークが二箇所刻印される。ある意味悲劇だとイオリアは思った。

 

 油断せず、今度は全員でバインドを掛けた。暴れるドラゴンだが、バインドを破壊する度にすかさず新たなバインドと砲撃が叩き込まれフルボッコにされる。

 

 たっぷり15分以上は暴れたが、やがて力尽きたのかそのまま崩れ落ちた。ミクの念能力【垂れ流しの生命】だ。今回は二箇所切ったので、体力と魔力の両方が流出することになった。非殺傷設定で魔力を削っていたにもかかわらず、15分も耐えたのは流石ドラゴンという他ない。

 

「はぁ~、何とかなったか。やっぱタフだな。ガーディアン殺して遺跡崩壊みたいなお約束イベントは回避出来たと信じたい」

「マスター、それフラグですか?」

「崩壊はしなくても、何か起こりそうだね」

「……」

 

 

 イオリアは大丈夫だよな?と若干不安そうな表情をするが、気を取り直してドラゴンがやって来た回廊を選び進むことにした。また、ドラゴンが出てこないとも限らないので、警戒しながら進む。

 

 長い回廊を進んでいくと再び音を感知した。今度は人間である。複数の人間が此方に向かって走ってきているようだ。何となく嫌な予感を感じつつも、事情を説明して情報収集をしたいイオリアは、ミクとテトに穏便に行くぞ? と目で合図を送る。

 

 暫くすると、相手の姿が見えてきた。

 

「いたぞ! 侵入者だ! くそっ、守護獣は何をしてるんだ!」

 

 5人ほどの男が、イオリア達を見つけるなり大声を上げながら悪態をつく。そして、何やらブツブツと呟きだした。イオリアは戦闘を回避すべく弁明しようと口を開く。

 

「すみません、俺達は……」

 

 しかし、イオリアの言葉が最後まで言われることはなかった。呟いていた男達から一斉に光の矢が放たれたからだ。

 

 

「っつ!?」

 

 イオリアは咄嗟にプロテクションを張る。ミクやテトも重ねるように障壁を張った。未知の魔法攻撃である。警戒し過ぎるということはないだろう。

 

 色とりどりの矢がイオリア達のプロテクションに直撃したが、ヒビ一つ入ることなく防ぎ切ったようだ。

 

「くっ、やはり魔法使いか! 私達が時間を稼ぐ。その間に詠唱を!」

「ちょ、待ってください! 俺た……」

「だまれ! 賊風情が、どうやってこんな深部まで侵入したのかは知らんが、世界樹に手は出させん! “光の精霊11柱、集い来りて敵を射て、魔法の射手、連弾、光の11矢!”」

 

 聞き覚えのある単語が出てきて思わず聞き返そうとしたイオリアだが、さらに聞き覚えのある詠唱と共に聞き返す暇もなく再び光の矢が飛んできた。他の者達も火の矢やら氷の矢やらを飛ばしてくる。最後尾の一人はやたら仰々しい詠唱を続けている。

 

「話をき――」

「ものみな焼き尽くす浄化の炎、破壊の王にして再生の微よ、我が手に宿りて敵を喰らえ、紅きほ……」

「聞けっつってんだろぉ!!」

 

 必死の呼びかけを尽く無視されたイオリアは、さっきから聞き覚えのある詠唱を何度も聞き、軽く混乱していたので、ついイラッときてしまい、一瞬でセレスをバリトンサックスに変えると息を吹き込んだ。

 

 爆音が鳴り響き、単純な音の衝撃波が男達を問答無用で吹き飛ばした。ゴロゴロと地面を転がりピクリともせず倒れ伏す男達。辺りを静寂が包む。

 

「……どうして現場に血が流れるんだ……」

「いや、そんなどこぞの刑事さんじゃないんだから、上司のせいじゃないからね?マスターのせいだからね?」

「だ、大丈夫です! 血は出てませんよ! まだ、話をするチャンスは……」

 

「おい、お前等大丈夫か!? くそ、早く応援を呼べ、先陣がやられた! 相手は相当の手練だぞ……」

 

 アホなことを言って軽く現実逃避をしていたイオリア。テトがツッコミ、ミクがフォローするが、それも虚しくさらに5人が駆けつけ、佇むイオリア達と倒れ伏す仲間を見る。

 

 戦慄の表情を浮かべながら、さらに応援を呼ぶ彼等に、ミクとテトが「あ~あ」という呆れを含んだ視線を向ける。イオリアもやってしまったという表情だ。

 

 そうこうしている間に続々と人が集まってくる。

 

「マスター、もう無理だと思いますよ? 大人しく投降するか、全滅でもさせないと……」

「どうするの、マスター? ボクとしては強行突破をオススメするけど。」

 

 最初の5人が結構な戦力だったからか、距離を取り包囲を優先している男達を見ながら少し考える様子を見せたイオリアは決断した。

 

「はぁ~、何だかもうな~、はぁ……ミク、テト。突破するぞ。ヤツ等、殺気が半端じゃない。この時期にこの場所にいるのは相当ヤバイんだろう。ほとぼり冷めるまで逃げる方がいいと思う。あまり、二人を調べられるのも困るしな……」

 

 そう言って、再びサックスを構えるイオリア。ミクとテトも構える。

 

「一人も殺すなよ?侵入者は俺達の方だ」

「わかってますよ~」

「もちろんだよ」

 

 戦闘態勢をとったイオリア達に、警戒し身構える一同。既に詠唱を開始している。おそらく強力な上位の呪文でも唱えているのだろう。

 

 だが、無駄だ。イオリアの攻撃は初見殺しなのだから。

 

 イオリアは息を吸い込むと、勢いよくサックスに吹き込んだ。先程からさらに集まり10人以上が集まっている。その全てを一撃で戦闘不能にする。爆音が強かに全身を強打し、全員が吹き飛んだ。

 

 イオリア達は【円】を展開しつつ、サーチャーを飛ばして道を確認しながら回廊を駆け抜けていく。

 

 道中、駆けつける途中だった増援はミクとテトが高速機動で認識する間もないまま昏倒させていき、やがて螺旋階段にたどり着いた。

 

 イオリア達は飛行魔法を起動し一気に上層へいく。ざっと30階分くらい上昇すると、遂に外へと出ることができた。

 

 イオリア達は、【オプティックハイド】と【絶】を使い姿と気配を殺しながらそのまま上空に上がる。周囲の地理を把握するためだ。

 

 上空に上がったイオリア達の目に映ったのは、中世のヨーロッパの様な街並みでお祭りでもしているのか溢れんばかりの人達が騒いでいる光景だった。

 

 イオリアは既に、ここがどんな世界か察していたが、大きな凱旋門かと思うような門に取り付けられた看板や、そこかしこの建物に取り付けられた垂れ幕にデカデカと「第57回、麻帆良祭」と書かれているのを見て片手を額にやりながら天を仰いだ。

 

「ハンターの次は、ネギまかよ……一体、俺の人生はどうなってるんだ? 俺に一体どうしろと?」

「笑えばいいと思いますよ?」

 

 

 実際、乾いた笑いしか出てこないイオリア。しばらく呆然と街並みを見ていると明らかに堅気の人間でない雰囲気の人達がそこかしこに集まりだしていた。麻帆良の魔法使い達だろう。【オプティックハイド】と【絶】のコンボ効果はやはり絶大なようで、今のところ誰もイオリア達には気がついていない。

 

 しかし、絶対とは言えないだろう。この世界は、イオリアが知っている世界の中でも1,2を争うほど何でもありな世界なのだ。

 

 とにかく、当初の予定通りほとぼりが冷めるまで麻帆良を離れることにした。学園長の近衛近右衛門なら話を聞いてくれる可能性はあるが、あくまで可能性だ。ここは漫画の世界ではなく現実なのだから下手な先入観は持つべきではない。

 

 イオリア達は麻帆良側に探知される前に、一度麻帆良を出た。

 

 イオリア達は、麻帆良の結界の外で、顔を付き合わせて今後の相談をしていた。

 

「さて、まず最初に気になった点があるんだが……麻帆良の雰囲気がおかしい」

「はい、マスターの知識と比べると、何というか全体的にレトロです」

「うん、麻帆良際って原作では第78回だよね。それが2003年の麻帆良祭だよ。ということは……」

「あの看板を信じるなら……原作の21年前か。原作では22年周期の世界樹の大発光が異常気象で1年早まったって言ってたから、俺達が感知したあの膨大な魔力は世界樹の大発光だったわけだ。さて、どうするかな……」

 

 麻帆良際の看板には「第57回」とあってのでまず間違いないだろう。イオリアはどうしたものかと考える。そんなイオリアにテトが選択肢を並べた。

 

「帰還を前提にするなら、1、魔力が回復次第すぐ次元転移する。2、1年後の世界樹発光を待って転移する。3、21年後の大発光を待って転移する。1は当初のプランだね。2は1より断然遠距離の次元世界まで転移できるよ。3なら一発でベルカまで跳べる」

「距離に比例して待ち時間が長くなるのな。う~ん」

 

 顎の下に手を這わせながら考え込むイオリア。ミクとテトは静かに見守る。

 

「うん、1年待とう。21年も待つのは論外だが、詳細不明の世界に転移する危険はできるだけ少ないほうがいい。1年後の世界樹発光に合わせて距離を稼ごう」

「了解です!」

「OK、でもマスター。1年どうするの?」

 

 イオリアの決断に元気よく返事をするミク。テトは了解しつつ、今後の方針を尋ねた。

 

「それなんだが、せっかく“ネギま”の世界に来たんだから、この世界の魔法を学ぼうと思うんだ。次元を渡るような魔法はないが、空間を渡る魔法はあっただろ? この世界、わりかし何でもありな世界だから、帰還に役立ちそうな魔法を修得するなり作るなりできるんじゃないか?」

「「……」」

 

 この世界の魔法を帰還に役立てようというイオリアの提案に、いつもなら快諾の返事が元気よく響くはずなのに、なぜか沈黙で返すミクとテト。

 

 イオリアは若干動揺しながら何か不味かったか? と頭を捻る。

 

「え、えっと。どうした?」

「いえ、いいと思いますよ。ただ……」

「何かデジャヴだなぁ~と思っただけだよ」

「……大丈夫だろ?たぶん……きっと……大丈夫だよな?」

 

 ハンター世界での方針とさほど変わらない提案に既視感を感じ嫌な予感が胸中を満たし始める。尻すぼみに小さくなるイオリアの言葉。

 

 そんなイオリアに、ミクとテトは優しげな笑顔を向け大丈夫!と励ますように肩に手を置いた。

 

「絶対何かありますよ、マスター!」

「絶対何かあるよ、マスター」

「お前等、励ます気ないだろ! フラグ立ったらどうすんだ……言葉は言霊だぞ? 特にこの世界では……」

 

 全く励ましになっていないどころか、不安を煽るミクとテト。数ヵ月後、既にフラグ立ってたんだなぁ~と実感する自分を、イオリアはまだ知らない。

 

「でも、マスター。魔法を学ぶってことは麻帆良に戻りますか?」

「いや、それは難しいだろ? 正当防衛気味で殺していないとは言え、敵対行動とった相手に快く修行つけてくれる人がそうそういるとは思えない。近衛右衛門に会えば上手く執り成してくれる可能性もあるが……少なくとも色々対価は要求されるだろう。夜の警備くらいなら構わないが、魔導や念を要求されるのはマズイ気がする。この世界にどんな影響を与えるか……」

「じゃあ、どうするの?」

「ああ、魔法世界に行けないかと考えてる。ほら、あったろ? アリアドネーとかいう来るもの拒まず詮索せずみたいな寛容すぎる学術都市国家が。あそこなら色々都合がいいと思うんだ」

 

 

 イオリアの言葉に「なるほど」と頷くミクとテト。

 

 しかし、二人は気づいていた。イオリアの表情がどこかワクワクしていることを。先程もドラゴンの登場に混乱しながらも興奮していた様だし、おそらく魔法世界の生物や街に好奇心を刺激されているのだろう。

 

 頑張って理由付けをしているが、半分以上は単に魔法世界が見たいだけ。イオリアも男の子なのだ。精神年齢は……いや止めておこう。

 

「というわけで、イギリスのゲートに向かおうと思う。」

「? 普通に転移魔法で行かないの?」

「それでも行けると思うが、ゲートを見ておきたい。魔法世界は人工の異界だろ?万一、転移に影響して変なとこに飛ばされたらかなわん。ゲート自体は手続き要るだろうから使わないが、解析すれば正確な座標はわかるだろ。そしたら、自力で転移しよう」

 

 どうやら要所々々で意図しないところへ跳ばされことで、転移魔法に警戒心が芽生えたらしい。イオリアの慎重な判断に特に異論を挟むこともなく一行はイギリスへ転移した。

 

 イギリスへ転移したのはいいものの、ゲートの詳しい場所まではわからない。イギリスのウェールズにあるということは知っているので、イオリア達は西から東に掛けてしらみつぶしに探索を行うことにした。

 

 広域探査魔法とサーチャーを無数に飛ばしながらウェールズ地方を周遊する。旅行資金は、いつもの通り路上ライブで確保だ。

 

 各街で「彼等は誰だ!」「歌姫が降臨した!」など噂が広がり、ウェールズ地方に無自覚に爪痕を残していくイオリア達。

 

 ゆるゆると探索という名の旅行を始めて10日ほどたった頃、サーチャーが多数の人間が争っている場面を捉えた。ただ、争っているだけなら早々問題にはしないのだが、彼らが魔法を使って殺し合いをしているとあっては気にしないわけにはいかない。

 

 しかも、どうやら複数の人間が一人の女性を囲っているようだ。これはマズイとイオリア達は転移魔法を行使する。

 

 この時、襲われている側と襲っている側の表情や女性をよく見ていれば助けが必要か否かわかっただろう。そうすれば、また違う運命があったかもしれない。しかし、イオリア達は駆けつけた。彼女の下に。未来の家族の下に。

 

 転移が完了し、現場に到着したイオリア達が見たのは地に倒れ伏す男達と、それを傲然と見下す金髪の美しい女性だった。切れ長の瞳は海を思わせる。まさに金髪碧眼の美女である。

 

 その彼女の瞳がイオリア達を捉える。その瞳には困惑と微妙な好奇心が混じっていた。

 

 それに合わせて、他の者達もイオリアに気づく。どうやら余裕がなくてイオリア達の転移に気づかなかったらしい。この状況になって初めて、イオリア達は自分達が無用の心配をしていたと気がついた。

 

 イオリアは要らぬ争いに首を突っ込んだかと後悔し、未だ誰もアクションを起こさないので、

 

「すいません、間違えました」

 

 と言って再び転移魔法を行使しようとミクとテトに目で合図を送る。そんな、イオリアに「え?いいの?」と視線を返す二人。イオリアはそんな二人に小声で話す。

 

(いや、どう考えても空気読めてないの俺達だろ?見ろよ、あの人。囲まれてるのにめっちゃ余裕そう……どころか何かスゲー偉そうなんだけど……ほら、目が語ってる。このムシケラが! みたいな。関わっちゃダメなタイプの人だって)

 

(まぁ、確かに、状況的に襲った側が返り討ちにあったって感じだし……ね。それにしても何かすごく見てるよ、あの人。ちょっと怖いね。目つきがしつこそうな感じだよ)

 

(あの人、美人ですもんね~つい我慢できず襲ってお仕置きを受けたと……うん、帰りましょう。性犯罪者に人権はありません。あと、マスターの言う通り何だか面倒な予感がします。ていうか、あの女性の肩に乗ってる人形……ナイフぷらぷらさせながらこっち見てませんか? リアルチャッキーとか怖すぎるんですけど……)

 

 三人は、ヒソヒソと話しながら転移魔法を発動する。足元にベルカ式の正三角形の魔法陣が現れ、イオリア達を光で包む。そして、いざ転移! といったところで、

 

「ちょっと待て、貴様ら! いきなり現れて、好き勝手言いおって! さっきから聞こえておるわ! ていうか何だその魔法陣は!? この私が知らない魔法など……ってこら! させるか!」

 

 そう叫びながら無詠唱で魔法の矢が飛んでくる。三人は咄嗟に飛び退き回避する。そのせいで転移魔法が中断されてしまった。

 

「いや、いきなり何するんだ。危ないだろ? とにかく、もう邪魔はしないんで後はお好きに……」

 

 再びこの場を離脱しようとするイオリア達に、今度は男達の方が声を掛ける。

 

「君達、本国の増援か!? 助かる。この化物を抑えるの手伝ってくれ!」

 

 何をどうしたらそんな勘違いができるのか不明だが、当然手を貸す気などない。増援ではないし、女性を化物呼ばわりもいい気がしない。

 

 しかし、必死な彼らをほっとけないのがイオリアがイオリアたる所以だ。そのため、頭をカリカリと掻きながら、まず事情を聞いてみることにした。

 

 若干黒くなっているミクから不満そうな目を向けられるが我慢だ。ミクから見るとあの男達は、どこかの変態ピエロと同じ扱いらしい。それにしては彼等の表情は必死すぎると思うが。

 

 イオリアが、口を開きかけた直後、女性の声が割り込む。

 

「ほぉ、貴様ら増援か。さしずめ、さっきの魔法は、私を殺す新魔法といったところか?面白い。ちょうど退屈していたところだ。全員まとめて返り討ちにしてやろう! この、闇の福音がな!」

 

 重なる勘違い。イオリアは慌てて正そうとするが、直後、女性の最後の言葉に気がつき硬直する。だが、その隙が命取りだ。さらに、勘違いは加速していく。

 

「新魔法だと!? 本国はそんなものを開発していたのか! みんな、これなら勝てるぞ!今日こそ、俺達正義の魔法使いが真祖の吸血鬼を討伐するんだ!」

「「「おおー!」」」

「フハハハハ! できるものならやってみろ! チャチャゼロ、お前は、あの雑魚どもの相手をしてやれ! 私は新魔法とやらに興味がある。アイツ等は私の獲物だ!」

「御主人、少シハ残シテオイテクレヨ!」

 

 盛り上がる一同。イオリアは現実逃避するように遠くの空を見上げるが、次から次へと聞き覚えのある単語が双方から飛び出し乾いた笑い声を出し始めた。

 

 “闇の福音” “真祖の吸血鬼” “チャチャゼロ”

 

 ここまで来ればもう認めざるを得ない。目の前で高笑いしている女性は、あの“エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル”であると。エヴァンジェリンは小さな女の子という先入観があったので大人の姿では気がつかなかったのだ。幻術で大人になっているのだろう。イオリアは心中で愚痴る。

 

(なんで、この人こんなとこにいるんだよ。いや、この時期のことは知らないから何処にいてもおかしくはないんだけどさ。何もバッタリ出くわさなくてもいいでしょ? ホント、毎回毎回、初っ端に出会う人が大物すぎる。やっぱり、不幸体質は治っていても奇運体質にはなっている気がする。アランさん、魂への干渉で何かミスったんじゃないだろうな? だいたい……)

 

 そんなイオリアの心中を察してかミクとテトが同情の目を向ける。しかし、その様子が気に入らないのがエヴァだ。

 

「貴様ら……いい度胸だな。この私を前にして無視か? よほど、新魔法とやらに自信があるらしいな。ならそれを出す前に少々痛い目にあってもらおうか?」

 

 剣呑な目でイオリア達を睨み、エヴァは無詠唱で氷の矢を200発近く放った。イオリア達に殺到する氷の矢は逃げ道を塞ぐように誘導されながら迫る。

 

「オーパルプロテクション」

 

 イオリア達がいる場所を半球状の障壁が覆い氷の矢を全て食い止める。それを「ほぅ」と興味深そうに観察するエヴァ。イオリアは今度こそ誤解を解こうと口を開く。

 

「待ってくれ、誤解だ。俺達は増援とやらじゃないし、あなたと争うつもりもない。そちらの事情は大体察したし、俺達はもう行くから見逃してくれ」

 

 イオリアのその言葉に、少し驚いたような表情をみせるエヴァ。

 

 イオリアとしては、彼等が問答無用でエヴァを殺そうとしていることも、エヴァが返り討ちでしか相手を殺さないうえ、女子供は殺さない主義であることを知っているので、戦いに介入するつもりは失せていた。

 

「では、貴様ら一体何しに来たんだ?」

 

 自分を討伐しに来たと思っていたエヴェは当然の疑問をぶつける。

 

「いや、探査魔法に集団で襲われている人を感知したから助けに来たんだが……必要ないようだしな」

 

「ほぅ、私を助けに来たわけか? くっくっく、ではさぞかし残念だったろうな? 正義の魔法使いよろしく颯爽と助けに来たのに、その相手が化物だったのだからな。だが、いいのか? わざわざ未知の魔法を使ってまで見ず知らずの人間を助けに来るような正義の魔法使いが、目の前の化物を見逃して。うん?」

 

 面白がるような試すような口調でイオリアを挑発するエヴァ。それにイオリアはいささか鬱陶しそうな表情をする。

 

「俺達、正義の魔法使いじゃないから。俺には俺の基準があるんだ。今回は、俺の出る幕なんてない。ミク、テト、行くぞ」

 

 全く相手にせず、去ろうとするイオリアにエヴァが若干焦ったように話しかける。

 

「お、おい! まさか、本当に帰る気か? あっちで、同胞が戦っているのだぞ! ていうか何を平然としている、お前達の目の前にいるのは正真正銘の化物だぞ!」

 

 真祖の吸血鬼を前にして、平然と、それどころから面倒くさそうに立ち去ろうとするイオリア達に、“相手にされていない”感を感じて若干動揺するエヴェ。

 

 彼女を前にした人間は2種類だ。ひどく怯えるか強い敵愾心あるいは憎悪を向けるか。なので、このまま返すのは何となくエヴァの矜持的に面白くないのだ。

 

「……そりゃ人が死ぬのを見るのは最悪だよ。でも、彼等は自分の意志であなたに殺意を向けたんだろ?ならその対価を払うのも……当然だ。あと、別にあなたを化物とは思えないから戦う理由もない」

「な、何だと……」

 

 

 イオリアの言い分に前半は納得するものの、後半には思わず言葉が詰まったエヴァ。自分を真祖の吸血鬼と知って化け物と思えないなどと一体何を言っているのか理解に苦しむ。

 

 イオリアは早くこの場を離脱して、主要人物との関わりを最小限にしたかった。エヴェンジェリンは重要人物だ。この出会いが悪く働いても1年後にこの世界を去るイオリア達には何もできない。従って、印象に残る前に別れたかったのだ。

 

「ふふ、マスター、そんなこと言って、助けを求められたら結局助けちゃいますよね~」

「い、いや、そんなことは……」

「あるよね。まぁ、割り切って切り捨てちゃう人より、ダメだと分かっていても足掻いちゃう人の方がボクは好きだけどね。」

「……す、好きとか言うな」

 

 エヴァンジェリンが困惑していると、何故か微妙にイチャ付き始めるイオリア達。思わずイラッときたエヴァはさらに食ってかかる。

 

「貴様ら、どこまでも舐めおって……私が化物か否かその身に教えてやろうか? ……貴様らの魔法を教えるなら見逃してやってもいいが?」

 

 頬をピクピクとさせながら殺気を叩きつけるエヴァに、ようやく視線を向けるイオリア達。

 

 しかし、その顔にはやはり恐怖も敵意もない。むしろ、困ったなぁ~と街中でしつこいナンパにでも絡まれたかのような反応だ。イオリア達も全く知らない相手にここまで強烈な殺気を向けられれば臨戦態勢になるだろうが、漫画知識とはいえエヴァを知っていることから緊張感が湧かない。

 

 だが、そんな事情を知らないエヴァは、イオリア達の態度にますます苛立ちを募らせる。

 

「あの、エヴァンジェリンさん?マスターには、化物に対する明確な定義があるんです。だから、エヴァンジェリンさんのことを侮っているわけではないんです」

「化物の定義だと?」

 

 弁解するようなミクの言葉にエヴァは訝しげな表情をする。

 

「マスターにとっては、奪ったり殺すことに快楽を見い出して実行する存在が化物です。エヴァンジェリンさんは女子供は殺さないと聞きますし、基本的に襲ってくる者しか殺さないとも聞きます。だから、マスターにとって、あなたは化物ではないんです」

 

「吸血鬼か否かなんて種族の違いは判断基準じゃないんだよ。マスターにとってはエヴァンジェリンさんも唯の強い女性ってこと。だから、そんなに怒らないで?」

 

 ミクとテトに足らない言葉を補われ、若干恥ずかしそうなイオリアはそっぽを向く。

 

 一方、エヴァは困惑が混乱に変わりそうだった。自分の正体を知った上で、女扱いされたことなど未だかつて皆無である。戸惑いどう返せばいいのか分からず、視線をさまよわせる。

 

 そんなエヴァの肩にトサッと何かが乗る。

 

「ぬわっ!」

 

 思わず奇声を上げるエヴェに呆れた視線を向ける従者チャチャゼロ。

 

「オワッタゼ、御主人。デ? 何ヲ遊ンデルンダ?」

「い、いや、遊んでなど……お、おい、その、あ、あれだ。お前達の魔法……」

 

 チャチャゼロの呆れた視線に思わず詰まりながら、取り繕うように当初の目的を思い出す。どうしても、魔法には興味のあるエヴァ。

 

 しかし、その言葉は途中で止まる。イオリアの視線がエヴァを通り越してその先を見ていたからだ。エヴァは振り返り何を見ているのか確認する。そして、それが襲撃してきた人間と知ると嘲笑するように口元を歪めた。

 

「ふん、結局、同胞の死がお気に召さないか?あれをやったのは私だぞ? チャチャゼロは私の従者だからな」

 

 イオリアは溜息をつくと頭を降る。

 

「さっきの言葉に偽りはない。俺も戦争を経験してる。何百人も殺してきた。殺し合いの勝者にとやかく言うつもりなんてないさ。ただ……死ねばみんな一緒だからな……ミク、テト」

「了解です」

「まかせて」

 

 イオリアの呼びかけに頷き、死体の元へ行くミクとテト。二人は死体を前に魔法を行使した。

 

「「フリジットダガー」」

 

――フリジットダガー

 

 ブラッディーダガーに凍結効果を付した魔法だ。当然非殺傷設定なので死体を損壊させたりはしない。

 

 フリジットダガーが当たると死体は次々と凍り始めた。これで、誰かが発見し遺族の元に届くまで腐ったりはしないだろう。こうすることが正しいかはイオリアにも分からないが、家族は遺体だけでも戻って欲しいと思うものだと経験から知っていたので実行したのだ。

 

「……ふん。偽善だな」

 

 不貞腐れるような表情で切って捨てるエヴァに、イオリアは肩をすくめるだけで何も言わない。そして、そのまま準備しておいた転移魔法を起動した。ミクとテトも同時に起動する。

 

「あ、貴様ら! 待てっ!」

 

 その言葉をさらりと流し、イオリア達は念話で話し合っておいた合流地点に転移した。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~、まさかエヴェンジェリンに出くわすとはな。めっちゃ迫力あった」

「でも、すごい美人でしたね」

「子供バージョンも見て見たかったな~」

 

 そんなことを言いながら上手く逃げ出せたことに気が抜けるイオリア。三人は、ゲートの場所を探すべく再び街を周遊する。

 

 そして、エヴァとの邂逅からさらに10日後、遂にゲートの場所を突き止めた。

 

 イオリア達は、近くの街で宿を取りゲート起動の機会を伺う。転送先を追跡するのだ。ミクとテトなら十分可能である。

 

 そんなわけで、ゲートは1週間に一度か月に1度しか開かないので、それまで街でのんびりする。といっても念や体術なんかの修行は怠らない。街の周辺は自然豊かで空気がよく修行にも身が入った。

 

 この街へ来て6日目。そろそろゲートが開いてもおかしくないかなと思いながら、イオリアは一人で街をフラフラ歩いていた。ミクとテトは宿の女将さんに気に入られて郷土料理を教わっている。二人共、実は結構な料理好きで暇があればレパートリーを増やしているのだ。

 

 イオリアがボーとしていると、突然、イオリアの背後で誰かが大声を上げた。

 

「あー! 貴様! ようやく見つけたぞ! ゲートに来ると思ってずっと隠れ……待ってたのに、何をこんなところで彷徨いているんだ!」

 

 若い綺麗な女性の声だ。だが、イオリアはその声にものすごく聞き覚えがあり盛大に頬を引きつらせた。そして、何事もなかったかのようにスタスタと歩き始めた。

 

「あっ、こらっ、待て! なに知らないフリをしている! こっちを向かんか!」

 

 そう言って、イオリアに追いつき肩をガシッと掴むエヴァ。万力のような力で掴むので肩が壊れそうだと思ったイオリアは咄嗟に【堅】をする。そして、渋々振り返った。

 

 イオリアの【堅】に「おっ」という顔をするエヴァが其処にいた。だが、次の瞬間には般若のごとき表情でイオリアに詰め寄る。

 

 「貴様、ずっと待っていたんだぞ! あの時、急に居なくなりおって! 街でお前達の噂を聞いてゲートに来ると辺りをつけて……なのに全然来ないし……おのれ、どこまでもコケにしおって……」

 

 街の大通りでそんなことを叫ぶエヴァ。イオリアは何とか弁解しようと口を開きかけるが、その前に周りからとんでもないヒソヒソ話が聞こえて思わず沈黙する。

 

「おい、聞いたか?あんな美人、ずっと待たせた挙句、いなくなったらしいぞ?」

「マジかよ、あの美人をポイ捨てしたのか、あの男!? チクショウ、勝ち組はどこまで行っても勝ち組なのか?」

「うわー最低ね、あの男」

「ていうか、あの男、しばらく前から宿屋に泊まってなかった? 確か、可愛い女の子二人と……」

「うそっ、あの人捨てたあげく、二股!? ヤバイじゃない! 目があったら妊娠させられるわよ!」

 

 イオリアは戦慄した。このままでは自分は最低の女ったらしにされてしまう! ゲートが開くまでは滞在しなければならないのに、街中の人から白い目で見られてしまう! イオリアは慌てて叫び返す。

 

「マクダウェルさん、お久しぶりです! ウチのミクとテトの御用なんですね! 二人も会いたがってましたよ! 二人も前回のことには残念がってました! すぐ、案内しますよ。二人のとこへ!」

 

 取り敢えずエヴァの相手は自分ではなくミクとテトということを強調するイオリア。誤魔化されてくださいと祈りながら、エヴァの手を掴み早足で引っ張っていく。

 

「あ、ちょ、おま、そんないきなり何を……て、こら、離さんか!」

 

 エヴァにも周囲の声が聞こえていたのか、自分達がどう思われているのか察したらしく若干、頬が赤く染まっている。その上で、いきなりイオリアに手を握られて連れて行かれたので、動揺して振り払えない。二人はそのまま街の外の森に向かった。

 

 森の中、イオリアとエヴァの二人が向かい合う。エヴァはイオリアを睨みつけ、イオリアは勘弁してください!と言いたげにエヴァを見返す。

 

「まったく、何てことしてくれるんだ。ゲートがいつ開くかわからないのに街にいられなくなるだろうが」

「ふん、私には関係ないな。話しの途中で逃げ出すお前達が悪い」

 

 馬鹿にしたように笑うエヴァ。イオリアはジト目で返す。

 

「お前はポイ捨てされた女と認識されたけどな……」

「なっ、き、貴様~」

「ケケケ」

 

 

 顔を真っ赤にして今にも飛びかかりそうなエヴァ。それを楽しそうに傍観するチャチャゼロ。「はぁ~」と溜息をついてイオリアが話しかける。

 

「で、追って来たのは、俺達の魔法が知りたいってことでいいのか?」

「ああ、そう……」

「イヤ、単純ニオ前等トモット話テミタカッタンダヨ、御主人ハナ、ケケケ」

「チャチャゼロ!?」

 

 イオリアは頭を抱えた。エヴァの興味は魔導ではなくイオリア達自身に向いている。これでは、魔導を教えてさよならはできない。どうしたものかと悩むイオリアにエヴァが弁解する。

 

 

「おい、勘違いするなよ? 私は、お前達に興味などない。さっさとお前達の魔法を教えろ」

「別に教えてもいいが、そうしたらもう追ってこないか?」

 

 

 イオリアの言葉にむっと唸りそっぽを向くエヴァ。別に魔導を教えるのはいいのだ。他言無用といえばエヴァは約束を守るだろうし、そもそも魔導はむしろ科学である。術の構築式と演算能力が物を言うのだ。故に大抵の魔導はデバイスの補助が必要だ。

 

 したがって、エヴァ一人くらいに魔導を教えるのは大して問題にはならない。しかし、どうやら、教えようが教えまいがまた追ってきそうだ。

 

 イオリアは、ここに来る道中に通しておいた念話でミクとテトに相談する。

 

(ということだが、どうしよう?)

 

(ありゃ、やっぱり化物扱いしなかったのが琴線に触れちゃったんですかね?其の辺もっと割り切った人かと思っていたんですが……)

 

(あるいは、マスターがナギポジションだったりしてね?)

 

 テトの冗談めかした言葉に、内心苦笑いしながら否定するイオリア。

 

(まさか、それはない。俺達(・・)に会いに来たって言ってるんだし、ナギみたいに助けたわけでもないんだから。純粋に話し相手として興味があるだけだろう。しかし、このまま同行されると、やっぱマズイよな~)

 

(そうですか?私は大丈夫だと思いますよ。エヴァンジェリンさんが封印された年月から逆算すれば、ナギさんと出会うのは6、7年後ということになりますし、私達は1年後にいなくなるわけですから。)

 

(うん、ボクも大丈夫だと思う。二人の出会いを邪魔することはないと思うよ。それより、デバイスなしで出来る範囲の魔導を教える代わりに、魔法を教わったらどうかな?アリアドネーで学ぶのもいいけど、600年積み重ねた知識と経験にはきっと貴重な独自性があると思うよ?)

 

 イオリアはミクとテトの意見に「ふむ」と考え込む。黙り込んだイオリアにエヴァがオズオズと話しかける。その声は少し落ち込んでいるように感じるのはイオリアの気のせいではないだろう。

 

「そこまで迷惑か? ……それなら……もういい。ちょっと、お前達が珍しかったからもう少し話してみたかっただけだ。邪魔したな……」

 

 そう言って踵を返すエヴァ。その背中を見てイオリアは、エヴァンジェリン・A・K・マグダウェルの600年の孤独というものを甘く見ていたのかもしれないと思った。

 

 彼女は強い。身も心も間違いなく最強クラスだ。しかし、強い者が痛みを感じないわけでなく、寂しさや悲しさを感じないわけでもない。きっと、彼女の正体を知って、なお敵意も恐怖もなく話した人間は久しぶりだったのではないだろうか? ならば、そんな相手ともう少し話してみたいと思うのは当然だ。思わず追いかけてしまうほどに。そして、その相手から迷惑扱いされれば傷つくのもまた当然だ。

 

 イオリアは、エヴァの孤独を埋めることはできないしするつもりもないが、彼女が誰かを本気で想えるその時まで、ほんのひと時の暇つぶしに付き合うくらい許されるはずだと考えた。故に、イオリアは決断した。

 

「代わりに魔法教えてくれるか?」

「なに?」

 

 イオリアが言葉を掛けたことに驚き、振り返るエヴァ。

 

「俺達、西洋魔法を知らないんだ。んで、アリアドネーで学ぼうかと思っていてな? だが、期間が1年ほどしかない。だから優秀な先生がいるとものすごく助かる。それに、世界最強の魔法使いの話っていうのもなかなか興味深い」

 

 ツラツラと建前を述べるイオリアは、そこで一度言葉を止めると、マジマジとイオリアを見るエヴァの瞳を真っ直ぐ見返して告げる。

 

「……だから、よかったら一緒に行かないか?」

「あ……」

 

 小さな声を漏らし、言葉とともに差し出されたイオリアの手をジッと見るエヴァはやがて視線を彷徨わせてチラチラとイオリアを見る。

 

「お前、アリアドネーだと? 私は賞金首なんだぞ? 行けるわけ……」

「変装でもすればいいだろ? 今だってしてるんだし」

「なっ、気づいていたのか!? いや、それよりも! 万一バレたらお前達も犯罪者の仲間入りだぞ! 分かってるのか?」

「腕っ節にも、逃げ足にも自信がある。それにアリアドネーは来るもの拒まずだろう? 大丈夫だって、多分……」

「多分って、お前は……」

 

 なお、言い募るエヴァの言葉をイオリアは遮った。

 

「御託はもういい。お前はどうしたいんだ? それだけ言えばいい」

 

 強い意志の篭った瞳に見据えられ、エヴァは「うっ」と呻いた後、しばらく手を彷徨わせて少し頬を赤くしがらイオリアの手をとった。

 

「一緒にい、行ってやろう。そ、その代わりお前達の魔法とか、いろいろ教えてもらうぞ!」

「ああ、もちろんだ」

 

 そう言って手を取り合う二人。森の中、青々と茂る葉の隙間から光が差し込み二人を照らす。それはとある幸福な未来を暗示しているようだった。

 




いかがでしたか?

さて、転移中にどうやって転移するんだとか色々ツッコミ所はあるでしょうが、何時もの如く流して楽しんで下さると嬉しいです。

今回からネギま編に入りました。
なぜ、ネギまか・・・それはもちろんエヴァファンだからです!
特にアルに弄られるエヴァは・・・実にいい・・・
そん訳で、どうしてもエヴァ絡ませたかったのです。

結果、気がつけば1万6千字も・・・て、手が・・もうダメポ

しかも、そろそろストックが切れそうで・・・毎日更新が・・・いえ、頑張ります。

次回は、エヴァとの交流、ほのぼの回・・・かな?

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