重ねたキズナと巡る世界   作:唯の厨二好き

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ミクの冒険・・・的な話しです。

正直どうしてこうなった?ていうくらいミクがはじけてます。
こんな我の強い子だったかな~?


第19話 そうだ、京都に行こう

 魔法球で過ごし始めて暫く経った頃、夕食の席で突然ミクが宣言した。

 

 「そうだ、京都に行こう!」

 

 全員ピタリと停止し、「何言ってんだ?」という視線を向ける。給仕中のチャチャネもその手を止めて「大丈夫でしょうか?」という心配の目を向ける。しばらく静寂が支配したあと、エヴァが何事もなかったように話し始めた。

 

「それで、明日だが……」

「ちょ、ちょっと、スルーしないでくださいよ!ものすごく恥ずかしいじゃないですか!」

 

 エヴァに合わせて全員がスルーしたので、慌てて自己主張するミク。それにエヴァが、胡散臭げに返す。

 

「いきなり、どうした。勉強のしすぎでボケたか?」

「ボケてませんよ! ちゃんと聞いてください!」

 

 ぷりぷりと怒るミクに仕方ないなぁ~と全員が聞く姿勢をとる。その様子に満足気な表情を浮かべるミクは発言の意図を説明し始めた。

 

「えっとですね。京都に行って、本格的に神鳴流を修得しちゃおうかと思いまして。私も刀を使う者として本格的な流派を習いたいなと……どうでしょうか?」

 

 どうやら、我流といってもいい再現剣術を本物にしたいらしい。ミクの提案に全員納得したように頷く。

 

「ああ、なるほど。いいんじゃないか? でも、行ってすぐ門下生になれるもんなのか?」

「それに、外に出るってことだよね? 時間の流れが変わるから、西洋魔法を修得する時間がかなり減ることになるけど……」

「まぁ、ミクの剣技が半分位スペックだよりということは否定できんしな。一度、正式な剣術を学ぶのはいいことだとは思うぞ?」

 

 三者三様の意見が出る中、ミクは問題ない!と胸を張る。

 

「大丈夫ですよ! ちょっと行って一ヶ月くらいでパパッと修得して帰ってきますから!」

 

 何百年という歴史を持つ流派の剣をパパっと覚えてくるという発言に一同苦笑いだ。実際出来てしまいそうなところが恐ろしい。

 

「でも、それだとミクちゃんとは二年くらい会えなくなるね……」

 

 寂しそうなテトの声に「うっ」と小さく呻き視線を彷徨わせるミク。テトの言葉に改めてミクと長期で分かれるのが初めてだと実感し、イオリアも若干寂しそうな表情をする。そんなイオリアとテトに苦笑いしながらエヴァが諭した。

 

「お前達、そんな情けない顔をするな。今生の別れでもあるまいし。ミクとて全部わかった上で決めたことだろう。女の決意を笑顔で受け止めるくらいの度量見せたらどうだ?」

 

 エヴァの言葉にそうだな、と頷きミクに頑張ってこいと声を掛けるイオリア。テトもミクに笑顔でエールを送る。

 

「テトちゃん、エヴァちゃん、暫くの間、マスターのことよろしくお願いしますね。なるべく早く帰りますから」

「うん、任せて。マスターの面倒はしっかり見るから。夜ふかしはさせないよ」

「うむ、任せるがいい。おやつは一日一回までだ」

「いや、俺は子供かよ! まったく、俺のことは気にせず頑張れ。……本物の神鳴流を楽しみにしてる」

 

「はい!」

 

 冗談めかしたテトとエヴァの返しに女三人でくすくすと笑い合う。蚊帳の外に置かれた気分な上に弄られて不貞腐れるイオリアだが、最後はミクに笑顔を見せる。楽しみにしていると言われ俄然やる気が湧いたミクは満面の笑みで元気よく返事をした。

 

 そして、翌日、ミクは京都に旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

 京都についたミクは早速、神鳴流道場を探した。半径4キロ規模の【円】を展開し【気】の気配を探す。神鳴流は魔を討つことを生業とした戦闘集団であるから、その技には【気】の使用が不可欠だ。【気】を使って鍛錬する集団がいればそれが神鳴流である可能性が高い。

 

 そう踏んで、京都を高速機動しながら巡る。早くイオリア達の下へ帰りたいので自重はしないミク。

 

 もちろん、一般人に気づかれぬよう注意しながら移動する。もし、屋根の上を注視する人間多くいれば一瞬現れて霞のように消える翠髪の少女が都市伝説になったかもしれない。

 

 そうやって二時間ほど移動していると【円】の端に【気】の気配を感じたミクは、その場所へ一直線に向かう。

 

 その【気】を使っていた人物は山の中の川原のほとりで異形相手に剣を振るっていた。どうやら戦闘中のようである。

 

 イオリアと大して変わらない年齢の少年は、必死に一本角を生やした全身が筋肉で盛り上がった異形、おそらく鬼に対して【気】を込めた太刀を振るっている。

 

 しかし、鬼の強靭な肉体に歯が立たないのか追い込まれているようだ。

 

 「くっ、これで! 【斬岩剣】!」

 

 【気】を込めた太刀を勢いよく振り下ろす少年だが、その必殺の一撃は鬼の鋼のような皮膚を破るものの筋肉の鎧に食い止められ殆どダメージにならなかった。おまけに、筋肉を絞められたのか太刀が抜けなくなったようで、手放す判断が遅れた少年は鬼の豪腕に薙ぎ払われ背後の岩に背中を強打し、ズルズルと崩れ落ちた。

 

 その様子を近くの木の上から【絶】をした状態で見ていたミクは、鬼が止めを刺そう少年に近づくのを見て、これはヤバイです!と一気に踏み込んだ。

 

「見よう見真似【斬岩剣】!」

 

 痛みと衝撃で動けず、ここまでかと諦めた表情の少年は、今まさに自分に豪腕を振り下ろそうとしている鬼が唐竹割りにされるのを見て驚愕に目を見開いた。

 

 真っ二つに割れた鬼が左右に倒れ込みながら消えてゆく中、その向こう側に翠髪をツインテールにした自分と変わらない年齢に見える少女がいた。刀を振り切った姿勢からスッと姿勢を正し、クルリと刀を一回転させるとチンという子気味いい音とともに納刀する。

 

 それを見て、今度は別の意味で驚愕しポカンと口を開ける少年。

 

 ミクはその様子を見て、首を傾げ声を掛ける。

 

「えっと、大丈夫ですか?」

 

 無言の少年。未だ呆けたままジッとミクを注視している。よもや致命傷を食らったのか! とミクは少し慌て気味に再度尋ねた。

 

「あ、あの! 必要なら救急車呼びますけど、大丈夫ですか?」

「えっ? ああ。だ、大丈夫。大丈夫や。ちょっと痛うてまだ動けへんけど……」

 

 ようやく答えた少年に安堵の吐息を漏らすミク。神鳴流の剣士っぽかったから観察してたら見殺しにしてしまいました~などとなったらイオリアに顔向けできない。心底安堵した様子で笑顔を向けるミク。

 

「はぁ~、そうですか。よかったです!」

「っ!?」

 

 その笑みを向けられた少年は一瞬で真っ赤になった。

 

 ミクは超がつく美少女だ。そんな美少女が自分の安否を気遣い心底安堵した様子(少年の安否ではなくイオリアへ顔向けできることに)で笑顔を向ければどうなるか。しかも、同年代の少年に。その結果は推して知るべしである。ミクもイオリアのことは言えない。

 

「ところで、あなたは神鳴流の剣士さんであってますか?」

「えっ? ああ、うん。見習いやけど……えっと、君は?さっきのは【斬岩剣】? 君も神鳴流?」

 

 混乱しつつ矢継ぎ早に質問をする少年に、落ち着いてください、とミクは苦笑いを向ける。

 

「私は、ミクと言います。神鳴流剣士ではありません。さっきのは唯の真似事です。でも、神鳴流を習いたくて道場を探してたんです」

「ま、真似事で……奥義を……そんなアホな……いやでも、真っ二つやったし……」

 

 深まる混乱。ブツブツと独り言を呟き出す少年に頭打ったのかな?と割と失礼なことを考えるミクは、要件を持ち出すことにした。

 

「あの!」

「えっ、な、何や?」

「よかったら、神鳴流の道場に案内してもらっていいですか?私、神鳴流を習いたいんです」

 

 少年は、ミクの頼みにすこし考え込む。普通は一般人の入門希望者に神鳴流など教えない。表の剣術道場を紹介するだけだ。

 

 しかし、ミクはまがりなりにも神鳴流の奥義を使ったのだ。【気】もしっかりと使えていた。それこそ自分以上に。そのため、見習いの自分だけでは判断しかねると連れて行くことにした。

 

「わかった。門下生になれるかはわからへんけど、取り敢えず、じい様……師範を紹介するわ。……僕の名前は青山秋人。さっきは、助けてくれてありがとうな」

「いえいえ、どういたしましてです」

 

 にこにこ笑うミクに、自然と顔が熱くなる秋人だったが気づかない振りをして立ち上がり、少しわくわくする心を落ち着かせながら先導するのだった。

 

 

 

 

 

 青山宗家に到着した秋人とミクは、そのまま道場の方へ向かった。この時間帯は修練中なので青山家宗主青山重秋もそちらにいるからだ。

 

 道中聞いた話しでは秋人は青山宗家の人間らしい。些細な妖魔退治の依頼をこなしに行ったら鬼に遭遇し、あわやというところでミクと会ったということだ。

 

 ミクは道場の一角で待たされ、秋人が宗主を呼びに行った。ついでに事の経緯を説明するらしい。

 

 しばらく、ボーと修練を眺めていると、十歳くらいの女の子がジーとミクを見ているのに気がついた。ミクが気がついた事に気がついた女の子がトコトコとミクの方へやってくる。

 

「お姉さん、何やっとるんですか? 新しいお弟子さん? 珍しい色の髪やな~綺麗。外人さんなん?」

「えへへ、ありがとう~。私はミクっていうんですよ。外人と言えば確かに外人ですね。」

「ミクさんゆうの? うちは青山鶴子いいます。外人さんやのに日本語上手やな~。なぁなぁ、ミクさんも剣術やるん? それ真剣?」

 

 興味津々にあれこれ質問してくる女の子、もとい鶴子。休憩中だったのかミクの隣に座り込みお喋りに興じる。

 

 しかし、休憩時間も終わったのか鶴子に喝が飛んだ。早く修練に戻れと怒られ、頬を膨らませる。最後にミクの刀を見せて欲しいと懇願し、苦笑いしながらミクの愛刀無月を見せる。

 

 鶴子の眼前で半分ほどゆっくり刀身を見せると、「ほぅ~」と鶴子以外の門下生や師範代と思わしき人達から感嘆の声が上がった。

 

「なかなかの業もんやな。どこの刀匠や?」

「ふむ、扱いも板に付とるな。外人さんやのに珍しい。どっかで剣術の経験あるんか?」

 

 あれよこれよと人が集まりミクを質問攻めにする。

 

 ミクがあたふたとしていると道場全体に特大の喝が飛んだ。道場の奥から厳しい顔つきの背の高い老人が、隣に秋人を伴ってやって来る。おそらく青山家宗主重秋だろう。

 

 ざざっとミクを囲んでいた人達がモーセが現れたように別れ、その道を宗主が進みミクの眼前で止まる。

 

「ワシは青山家宗主青山重秋。お客人、まずはワシの孫、秋人の命を救ってくれたこと礼を言う。ありがとう。」

「い、いえ、お気になさらず」

 

 鋭い眼光に思わず気圧されながら無難に返すミク。周りは、秋人の命の恩人という言葉にざわつく。ミクの様子を観察するように見つめ宗主が言葉を重ねる。

 

「なんでも鬼を一撃で倒したらしいの? しかも、そのときに使った技が【斬岩剣】だったと秋人から聞いておる。しかし、君は門下生ではない。どういうことか聞かせてもらえるかの?」

 

 鬼を一撃、しかも神鳴流の奥義で、という宗主の言葉に今度こそ周りが騒ぎ出した。

 

 ざわざわヒソヒソとそこかしこで門下生達が話し始め道場を喧騒が包む。宗主は再び喝を飛ばし門下生達を鎮めた。

 

「えっと、どういうことも何もそのままですが……あと【斬岩剣】じゃありません。【見よう見真似斬岩剣】です。【気】自体は元から操れますから、秋人君が放ったのを見て真似ただけです。結局、刀に【気】を纏わせて斬撃威力を上げるだけの技ですから……そう難しくはないかなぁ~なんて、アハハ……」

 

 説明の途中から、再びざわつく道場。奥義を見よう見真似でした挙句、大して難しくないと行ってのけるミクに、何者! という視線が四方八方から突き刺さる。

 

 しかし、本当にミクにとってはどうということはない技術である。ミクのいう【気】とは【念】と変わらないし、【斬岩剣】は【周】と変わらない。念使いとしてもその練度が超一流の域にあるミクには児戯に等しい技だ。

 

 しかし、周囲はそう思っていないようでミクの言葉も尻すぼみに小さくなり、笑って誤魔化す。

 

「ふむ、それが本当ならとんでもないの。【気】の扱いといい、その刀といい、いろいろ気にはなるが……ミクといったか、神鳴流を学びたいというのは真かの?」

「はい」

「なぜかの?」

「ある人の力になるためです」

 

 今までのにこやかな表情とは一変して真剣な表情になるミク。宗主はその瞳に宿る力に思わず「ほぅ」と感嘆の声を上げた。秋人は何故か動揺している。

 

「ある人とな?」

「はい、その人はどれだけ危険と分かっていても強欲なくらい全部を求める人ですから……傍にいるなら力が必要なんです」

 

 ミクの言葉を聞いて、「ふむ」と顎をさすり思案する宗主。ミクはジッと宗主を見る。

 

「しかしの、神鳴流は裏の剣。人を守り魔を絶つ退魔の剣じゃ。それ故に強力でおいそれと他人に教えるわけにもの~」

 

 そう言って、試すかのようにチラとミクを見る宗主。しかし、ミクは動じない。

 

「なら、盗みます」

「なんじゃと?」

 

 宗主は予想外なミクの発言に目を細めその鋭い眼光でミクを睨む。すでに物理的圧力すらありそうな威圧に周囲の門下生の何人かがガクッと膝をつく。

 

 そんな威圧など通じないと言わんばかりにミクが同じ鋭さで返す。

 

「盗むといいました。私が神鳴流を修得することは既に決めたことです。できるか否かではなく、どうすれば修得できるかという方法の問題です。教われないなら盗みます。だから、選んでください」

「選ぶじゃと?」

 

 訝しげな宗主。門下生達はゴクリと生唾を飲み込み二人のやり取りを固唾を飲んで見守る。

 

「はい。盗まれて半端かもしれない神鳴流が人目に晒されるのと、教えて正統な神鳴流が名乗られるのと、どちらがいいか選んでください」

 

 無言で睨み合うミクと宗主。道場を物音ひとつ聞こえない静寂が包む。沈黙を破ったのは宗主の笑い声だった。

 

「くく、ふははは!言うのう、小娘が。ここは京都神鳴流の総本山ぞ!それだけの啖呵を切って、生きて戻れないとは思わんのか?」

「まさか、人の守護者がそんなことしませんよ。それに万一そうなったら、それはそれで盗むチャンスですね。」

「かっかっかっ、チャンスというか!……いいだろう、そこまで言うなら教えてやろう!ただし、ワシと戦って才気を示せたらの!」

「望むところです!」

 

 既に七十歳を超えているとは思えないほど【気】の充実した肉体で門下生に木刀を持ってこさせる宗主。ミクも門下生から木刀を受け取り道場の中央にでる。

 

 門下生達は突然始まった試合に混乱しつつも興味深げだ。宗主相手にあれほどまでに啖呵を切った少女がどれほど使い手なのか。剣士の血が騒ぐのである。

 

 そんな中、ミクを止めようとする空気が読めない少年が一人。

 

「ま、待つんや、ミクさん! じい様は、ホンマ化けもんなんや! 今からでも遅ない、ちゃんと頼み込んで……僕も協力するでな……ミクさんは女の子なんやし傷でもついたら……だから……」

 

 ミクに追いすがる秋人は本心から心配して静止の声をかけるが、臨戦態勢のミクには煩わしいものでしかない。まして、この状況で性別を持ち出すというトンチンカン振り。ミクはサクッとスルーする。

 

「危ないんで下がっててください。不用意に前にでて怪我しても知りませんよ?」

 

 秋人は、見もせず片手で振り払われ呆然とする。何となく少年の純情な心理を理解した年配の男性門下生がポンと肩に手を置き、秋人を回収した。

 

「孫がすまんの。」

「? いえ、気にしてません」

 

 宗主も秋人の心中を何となく察していたが、ミクが全く相手にしていないようで苦笑いする。道場の中央で構えをとる二人。そして、戦いの幕が切って落とされた。

 

 両者の戦いは半日以上続き、道場から飛び出して山の中にまで及んだ。

 

 力試しでそこまでする必要はないのだが、剣術自体は素人ながらそのスペックの高さに宗主の興が乗ってしまったのである。

 

 ミクは、飛天御剣流などの他の再現技を一切使わず、また高速機動も封印し、純粋に【オーラ】だけを使い神鳴流の動きに集中した。

 

 宗主が【斬岩剣】を放てば、【見よう見真似斬岩剣】を放ち、【斬空閃】で斬撃を飛ばせば【ニセ斬空閃】をこれまた見よう見真似で返す。【エセ百烈桜花斬】【斬鉄閃モドキ】を宗主の技をコピーしながら、徐々に練度を上げ、宗主の技に近づけていく。

 

 もちろん、技だけでなく、剣術の基本的な歩法や体捌き、剣の振り方を吸収していく。高度な演算能力と超人的な動きも再現できるほど廃スペックを持つミクだからこそできることだ。しかも、今は少しでも早く覚えてイオリア達の下へ戻りたいとやる気に満ちており、いつも以上に能力を引き出していた。

 

 だが、ミクのそんな事情を知らない宗主の心中は喜悦に満ちていた。

 

 戦いながら成長というのもおこがましい“進化”をしていく眼前の少女に、そのあり得べからざる才気に、年甲斐もなく心が熱くなる。

 

 この少女に全てを教えたらどこまで行くのか? そんな想像が頭から離れない。力になりたい人がいると言っていたことから、神鳴流に留まるような子でないことはわかる。それでも、ミクに次代の神鳴流を担って欲しいとまで思うようになっていた。

 

 神鳴流が悪用されるかもしれない等とは露にも思わない。ミクの真っ直ぐ射抜いてくる瞳、その一途な剣線に宗主の心はとっくに決まっていた。自分の全てをこの子に授けると。

 

「ふはは、何と楽しい試合かのう、ここまで血が騒いだのは久しぶりじゃ。だが、得物がもう持たん。次で最後にしようかの?」

「はい!」

 

 二人を中心に猛烈な【気】が渦巻く。

 

 正直、ミクは結構限界が近かった。度重なる技の模倣に多大な【オーラ】を消費して尽きかけていたからだ。

 

 同じ位技を放っていながら余裕そうな宗主はやはり練度が違うのだろう。ミクの方が無駄な力を使っているようだ。数百年磨き続けられてきた流派の技を一度や二度見たくらいでは、やはり完全修得には程遠い。

 

 失望されないよう、最後は余力なし、全力全開で行く! と覚悟を決めるミク。

 

 そんなミクの瞳に笑みを深め、宗主は木刀に雷を宿していく。

 

 ミクも【オーラ】の性質変換くらいは出来るが宗主と比べるとその練度は心元ない。したがって、半端な雷鳴剣はきっぱり捨て、ミクはただひたすら【オーラ】を込めることに専念する。

 

「潔い! 見事捌いてみせぇ!」

 

 一瞬の静寂、直後二人は同時に踏み込み、そして雷鳴と爆音が轟き再び静寂に戻った。遠くから式神で様子を見ていた門下生達が息せき切ってやって来る。

 

 砂煙の晴れたその先には、残心する宗主と俯せに倒れたミクがいた。流石は年の功、経験と技術がミクを上回ったのだ。

 

 しかし、才気は存分に見せた。

 

「っ!?」

 

 一瞬、フラつく宗主。門下生が慌てて支えようとするのを手で制し苦笑いする。宗主の片手が脇腹を抑えるのを見て、一撃入れたのか! と驚く門下生達。

 

「最後の最後までよくやりおるわ。ワシの雷鳴剣を最小限のダメージで抑えながら一撃入れおった。あれはダメージで倒れているというより【気】が尽きただけじゃろう。全くたまらんのう~かっかっかっ!」

 

 そう言って豪快に笑う宗主は、自ら倒れたミクを背負い屋敷に戻る。その後を門下生が慌ててついて行く。

 

「本当に弟子になさる気なんですか? ……正直、彼女は危険です。これほどの力、素性も明らかやありません。神鳴流を修得したら直ぐ出ていくのとちゃいますか? その後で、何をするやら……」

 

 師範代の一人から当然の懸念を出されるが、それも笑い飛ばす宗主。

 

「そうじゃろうな。しかし、力に飲まれることはなかろ。外道に落ちる心配は無用じゃて。」

 

 確信に満ちた力強い言葉に、戦いの中で感じるものがあったのだろうと納得する師範代。他の門下生も一様に頷いた。

 

 ちなみに、ミクは既に意識を取り戻していたのだが、宗主の背中の上で起きるタイミングを逃し寝たふりをしていた。いつ起きればいいのかと頭を悩ませながら。

 

 翌日から、青山家所有の山の中で本格的な修行が始まった。

 

 といっても普通の素振りや型の稽古ではない。ただひたすら戦い続けるのである。

 

 ミクはただ戦っているだけで宗主の動きを解析しトレースし自分のものにしていく上、ミク自身が一ヶ月で修得すると言って聞かなかったため、ならばやってみろ! と一ヶ月戦い続けることにしたのだ。

 

 宗主だけでなく時には師範代も加わり、毎日ひたすら戦い、その度に神鳴流を吸収していくミクに師範代達は戦慄するとともに、宗主と似た興奮を覚えていた。

 

 日が落ちると、宗家の人達と食事を共にし、秋人がそわそわする。夜になると宗家の一室で寝泊りし、秋火がそわそわする……と見せかけて夜中こっそり抜け出して鍛錬に当てる。

 

 朝方戻ると、また朝食を御呼ばれし、秋人がそわそわする。時間があれば、宗主の娘であり秋人の母親に食事の手伝いがてら京料理を教わったりし、やたら気に入られ嫁に来ないかと聞かれ、秋人が盛大に動揺する中、さらりと流す。

 

 眼中にない様子に、脈なしかぁと残念そうな母親と落ち込む秋人。秋人は何かとミクを気にして話しかけたりするのだが、ミクの中では“秋人”というより“師匠の孫”という認識らしく丁寧な態度だがそれ以上でもそれ以下でもなく、努力は全く実っていなかった。まぁ、実ることなど有り得ないのだが。

 

 ある日など、鶴子が無邪気に「ミク姉ぇは、好きな人いるん?」と食後の団欒中に尋ねるということがあった。

 

 一瞬シーンとなり、大人組は面白そうな顔をし、秋人はそわそわし始める。ミクは鶴子の質問に少し驚くと、直後はにかんだ表情で答えた。

 

「えへへ~いますようぅ~、とっても素敵な人ですよ~」

「わぁ~、どんな人なん? どんな人なん?」

「そ~ですね~、とっても頑張り屋さんで、音楽がとっても上手で、すっごく強くて、絶対諦めない人で、すごく優しくて、誰より私を求めてくれる人ですよ~」

 

 とそんなこと言うミクの表情はこれ以上ないくらい幸せそうだった。その表情を見た鶴子は「ミク姉ぇ可愛ええなぁ~」と顔を真っ赤にし、大人組は「へぇ~」とミクのいう人に興味を示し、秋人は崩れ落ちた。魂が抜けたような秋人に追い討ちがかかる。

 

「そういえば、秋人君とは同じ年ですね」

 

 ミクがそこまで言う人なら自分より遥かに年上と勝手に思い込んでいた秋人は、自分と同い年の男が意中の女の子にここまで思われているという事実に、ついに真っ白に燃え尽きた。

 

 その様子に、「あれ、秋人君?どうしたんですか?」とキョトンとした表情で声をけるミク。大人組は「もう堪忍したってぇ~」とミクを止めるのだった。

 

 そんな日々が続き、ミクが神鳴流総本山に来て二十日目の日、遂に免許皆伝が与えられた。

 

「まさか、一ヶ月もかからず全部持って行きよるとはなぁ~、もう教えることが何も残っとらんわ。あとはひたすら実戦で自分流に飲み込んで行くしかないの」

 

 そんことを言って満足げに笑う宗主の格好はボロボロだった。ミクとの皆伝をかけた試合の結果だ。師範代達の立会の元、遂にそれが認められた。

 

 ミクは、大きく息を吐くと、その場で深々と頭を下げた。

 

「ありがとうございました!!」

 

 その様子に宗主も師範代達も温かな視線を送る。

 

「……これから先、どこで何をしようと、思うがままに神鳴流を振るうがよいわ。生涯最高の弟子よ」

 

 宗主のその言葉を皮切りに師範代達からも次々と声をかけられるミク。照れながら感謝の言葉を伝える。

 

 その晩は盛大な送別会が催された。

 

 翌朝早く、ミクはイオリア達の下へ戻るため宗家の門前で最後の別れの挨拶をしていた。その時、秋人が駆け込んできた。

 

 ミクは、あれそういえば居なかったと今更気付いたが言わぬが花である。秋人は、意を決したようにキリッとした表情を見せると大声でミクの名を呼ぶ。

 

「ミク! ……好きだ! 俺の嫁になってくれ! ずっと一緒にいてく――」

「ごめんなさい」

 

 即答である。タイムラグゼロである。ミクの表情には照れも動揺もなかった。朝靄の中、スズメの鳴き声だけが辺りに響く。条件反射的に断ってしまったが、流石に不味かったかと慌てて言葉を足す。

 

「え~と、無理です。ごめんなさい。有り得ない可能性なので、別の人を見つけてください」

 

 足した結果、さらに強力なストレートになった。秋人の口からエクトプラズムが出ている気がする。

 

 見送りに来た人達が「玉砕覚悟の特攻か、漢やな~」と生暖かい視線を送る。宗主が代表して場の空気を取り戻し、今度こそ別れに挨拶を済ませた。

 

 

 

 

 

 ミクは転移魔法を使い最短時間で“別荘”に戻る。イオリア達からすれば予定より半年以上早い帰還だ。それでもミクと分かれてから一年以上経っているのである。はやる心を落ち着けながら、“別荘”の転移陣の上に立った。

 

 食事中、“別荘”の転移陣が起動したことにイオリア達全員が気がついた。この場所を知っているのは、この場のメンバーを除けばミク以外はいない。帰還予定より半年以上も早いが、まさかと思いながら食事を投げ出して転移陣への空中回廊があるテラスへ急ぐ。

 

 そして、テラスの先、空中回廊の中間あたりに懐かしい翠髪の少女、紛う事無きミクがこちらに満面の笑みで駆け寄ってくるのを確認した。

 

「ミク!」

「ミクちゃん!」

「ふん! ようやく帰ってきたか!」

 

 三者三様に喜びを表現しつつミクに駆け寄る。ミクは勢いそのままにイオリアに飛びついた。それを一回転しながらしっかり抱きとめる。ゆっくりミクを降ろしミクの聞きたかった言葉を掛ける。

 

 

「おかえり! ミク!」

「おかえり! ミクちゃん!」

「よく帰ったな、ミク。」

「ケケケ、早イゴ帰還ジャネェカ、マタ遊ベルナ!」

 

 ミクも最大限の笑顔をで応えた。

 

「ただいま帰りました!」

 

 

 

 

 

 

 

 イオリア達はそのままお茶会と洒落こんだ。ミクの帰還祝いだ。きゃきゃと騒ぎながらお互いの話をする。

 

 ミクから、免許皆伝をもらったこと、宗主の直弟子となり全てを教えてもらったこと、宗家での生活などの話しを聞かせてもらう。

 

「ほぅ、青山の宗主自ら師となったのか。それはまた、随分と気に入られたもんだな。まぁ、ミクのスペックを思えば不思議というほどでもないのかもしれんが……」

 

 エヴァが感心したように相槌をうった。

 

「そうですね。随分と目を掛けてもらいました。師範代の方達もよくしてくれて……気に入られすぎて嫁に来ないかとか言われちゃいましたし、最後なんて、師匠のお孫さんにプロポーズまでされちゃいましたよ。全く困ったものです」

 

 苦笑いしながら、修行しに行っただけなんですけどね~と話すミク。エヴァとテトは面白げに「詳しく!」と煽るが、全くもって面白くない男が一人。それに気がついたエヴァが茶化す。

 

「なんだ、イオリア。ミクが求婚されてヤキモチか?」

 

 からかうように口元をニヤニヤさせながら問う。

 

 ミクは「えっ!?」と思わずイオリアをマジマジと見る。テトも面白がっているようだ。

 

 しかし、イオリアは実に落ち着た雰囲気で紅茶をゆっくり飲む。期待した反応がなくてつまらなさそうなエヴァと少し落胆するミク。そんな二人を見て、微笑みながらイオリアが口を開いた。

 

「よし、京都に行こう」

 

 そう言ったイオリアの両腕に炎が渦を巻いたような文様が浮かび上がり、イオリア自身薄黒く染まり始める。そのまま、ガタと席を立つイオリアにテトが全力でしがみついた。

 

「マスター! 落ち着いて! マギア・エレベア発動してどうするつもり!?」

「HAHAHA! 何ちょっと京都へ観光に行くだけだ。日帰り旅行だよ。」

「いやいや、なら、お前、そんなもん発動する必要ないだろうが! っていうか今までで一番出力が上がっているだと!? 嫉妬か!? 嫉妬の力か!?」

「ミクに手ぇ出すたぁふてぇ野郎だぁ! 京都ごと消毒してやんよぉ!」

「マスター! 落ち着いてください! 私はマスターのものですよ! 当然きっぱり断りましたから! マスター以外の人となんて有り得ませんから!」

「ケケケ」

 

 

 テトを引きずりながら出ていこうとするイオリアにエヴァとミクがさらに縋り付く。どさくさに紛れてミクが結構すごいことを言っている。

 

 イオリアはその言葉に若干恥ずかしそうに「そ、そうか」と言って椅子に座り直した。同時に文様も消える。エヴァが呆れの視線を送り、テトが苦笑いをする。ミクはすごく嬉しそうである。

 

 嬉しそうにしながらも気になるのか、ミクはイオリアの変化について質問した。

 

「あの、今のは何でしょう? マスターが黒くなったり、腕に文様が浮かんだり……すごく健康に悪い感じだったんですが……」

「ああ、これはエヴァの協力で修得……って言ってもまだ修練中なんだが、マギア・エレベアというドーピング魔法みたいなものだ」

「おい、こら、イオリア。人の最強魔法をドーピング扱いか? そんな生易しいものでは……いや、お前は結構あっさり修得してたしたなぁ」

 

 遠い目をするエヴァを放って置いて、今度はイオリア達の話をした。

 

 イオリアは西洋魔法を勉強しながらマギア・エレベアの修得にチャレンジした。ダメで元々。エヴァが傍で監修するので適性がなくても命を失うようなことはないと踏んで。

 

 普通は幻想空間内でマギア・エレベアの本質が“全てをありのまま受け入れ飲み込む力”であると理解し受け入れなければならない。

 

 この時点で適性がないものは命を失うし、適性があるものでも相当危険を伴ってようやく修得できるかどうかという修得難度MAXな魔法である。

 

 しかも修得した後でも、適性が高すぎると魂を侵食され命を落とすか魔物に転じることになるという、まさに“禁呪”というに相応しい魔法だ。

 

 しかし、イオリアは幻想空間の試練を即行でクリアし、マギア・エレベアをあっさり修得してしまった。しかも、その後、発動を繰り返しても見事に安定しており、飲み込まれる様子がない。エヴァ本人のお墨付きである。

 

 推測するに、イオリアは前世で理不尽な不幸に襲われ続けた自らの境遇とこんな目に合わせている世界に激しい怒りを感じていた。その上で、長くは生きられないと覚悟し、死ぬときは笑ってやると決意していた。

 

 そして、死を受け入れながら最後まで足掻き続けた。この前世の出来事がイオリアの根幹である。

 

 憤怒を感じながら死というもっとも忌避すべき事象すら受け入れ、最後まで絶望せず足掻き続けたことが、闇への適性と侵食への対抗力の調和をもたらしているのではないか、というのがイオリアとエヴァの見解だ。

 

 ただ、侵食を受けない代わり多少出力も抑えられてしまっている。今は、実戦中でも調和を保つ訓練と術式兵装の安定化の訓練をしている。

 

 ちなみに、イオリアの得意属性は【土】だった。【土属性最強呪文:引き裂く大地】を装填すると某海軍大将の赤いワンコになったときは乾いた笑いしか出なかった。

 

 一方、テトも新たな力を手にした。【咸卦法】である。魔力と【気】という名の【オーラ】を融合させることで爆発的な力を得る。これの修得に成功したテトの【堅】の出力が常態で十倍近く跳ね上がり、しかも咸卦中は【念】の全系統が100%使えるようになった。どこぞの絶対時間状態である。

「はぁ~、皆すごいですね~ところでエヴァちゃん。さっきから気になってたんですが、なぜ幻術を? しかも中途半端な成長度合いです。十四、五歳くらいですか?」

 

 ミクがエヴァに疑問の声をあげる。そう、エヴァはなぜか少し成長した姿なのだ。

 

 聞かれたエヴァが「ようやく聞いてくれてたか!」と喜色を浮かべる。実は、ミクが帰ってきてからずっとそわそわしていたのだ。ミクが、なかなか聞いてくれなので、「えっ、もしかしてスルーする気か!?」と内心不安になっていた。

 

「ふふふ、よくぞ聞いてくれた! ミク、私は幻術など使っていない。これが今の私の本来の姿だ!」

 

 ドヤ顔で胸を張り「どうだ?どうだ?」とミクをチラチラ見る。テンションの上がり方がすごい。ミクは若干引きながら、疑問顔をエヴァに向ける。答えたのは苦笑いを浮かべたイオリアだ。

 

「ミク、エヴァの首飾りに見覚えないか?」

「首飾り?」

 

 言われてエヴァの首元を見ると確かに見覚えのある首飾りがかかっていた。赤い宝石の中央に十字架があしらわれたものだ。

 

「あ、もしかして【聖騎士の首飾り】ですか? ……えっ、もしかして、エヴァちゃん今、人間ですか!?」

「ふふん」

 

 驚くミクに一層得意げなエヴァ。イオリアは追加説明する。

 

「ああ、といっても、つけている間だけだ。外せば吸血鬼に戻る。【聖騎士の首飾】に吸血鬼化を解くほどの力はないらしい。まぁ、一時的にでも押さえ込めるんだから大したものだが……エヴァが成長するには役に立つってことだ」

「ほえ~、良かったですね!エヴァちゃん!」

「んふふ、まぁな。それとミク、私も【念】を覚えたぞ。まぁ、【気】と同じだから元から多少は扱えるのだが、……私は新たな能力を手に入れた!」

 

 【気】と【念】は本質的に同じものだ。ただ、ネギま世界の【気】は【念】の六性図でいうところの“強化”と“放出”しか基本概念がなく、精孔を開くという概念もない。

 

 従って、【気】を扱えるようになるには何年もの修行が必要だし、それでも全ての精孔が開くとは限らず、そのため“強化”“放出”が不得意な者との個人差が激しいのではないだろうか。ジャックラカンなどは典型的な“強化”系だろう。

 

 そして、エヴァは典型的な“操作”系だ。

 

――念能力 人形師

 

 糸を取り付けた対象に “オーラ”を送り込み神経のように張り巡らせることで意のままに操る能力だ。

 

 繰糸自体は自力でやらなければならず、対象に取り付いた時点で始めて発動条件を満たす。有機物・無機物に関わらず擬似神経を構築できれば操作可能だが、エヴァより大きい“気”で吹き飛ばせば解除されてしまう。操れる範囲は“円”の範囲であり、能力発動中は他の念は使えない。

 

 高笑いするエヴァから、能力の詳細を聞いたイオリアとテトの最初の感想は「どこの青夏さんだ! 凶悪すぎるわ!」だった。まさに、悪の魔法使いに相応しい能力だった。

 

「うわ~エヴァちゃん、悪い顔してますよ~、凶悪な能力ですね~」

「うむうむ、そうだろう、そうだろう。ドールマスターたる私に相応しい能力だ。まさに“人間”を“人形”のように操る能力。略して【人形師】。素晴らしい!」

 

 再び高笑いするエヴァ。ミクやテトに負けず劣らずのチートキャラと化してゆく。「早まったかなぁ~」と遠い目をするイオリアにミクとテトは苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 帰還祝いのあと、エヴァが仮契約の話を持ち出した。せっかくミクも帰ってきたのだから、一つしてみてはどうかと。もしかすると、レアなアーティファクトが出るかもしれない。

 

 なるほど、と納得し仮規約し早速準備に入る。そして、その方法に思い至りミクとテトが顔を赤くする。仮契約の方法の一つが魔法陣の上でキスすることなのだ。

 

 そんな二人の様子を見て、イオリアが困り顔をしながら他の方法もあるから、と言うと「断固、キスで!」と声を揃える二人。若干気圧されるイオリアと、その様子を見て呆れ顔のエヴァ。

 

 エヴァが魔法陣を書き終わり、準備できたぞと呼びかけたにもかかわらず、もじもじとして中々魔法陣に入らないミクとテト。

 

 イラッときたエヴァが、スタスタと魔法陣の中に入る。「何だ?」と疑問顔の一同をよそにエヴァはつま先立ちになり、グイッとイオリアの襟を引き寄せるとそのままキスをした。

 

「「ああぁーー!!」」

 

 指をさして悲鳴をあげるミクとテト。たっぷり十秒以上キスをすると、エヴァは「んっ」と若干喘ぎながら離れる。呆然とするイオリア。固まるミクとテトを尻目に、エヴァは出てきたパクティオカードを拾う。

 

「ふん、キスくらいでなんだ。大げさな。それよりイオリア、お前のカードだ。なかなか面白そうだぞ?」

 

 何事もなかったようにパクティオカードを渡すエヴァに、ミクとテトのジト目が突き刺さる。

 

「そんなこと言って、エヴァちゃん真っ赤だよ?」

「結局、恥ずかしいんじゃないですか~」

「ケケケ、御主人ハ案外オトメダゼ?」

「黙れ、貴様ら! もたもたしてるのが悪いんだろ!」

 

 ギャーギャーと騒ぐ女子サイド。イオリアは所在無げに立ち尽くす。

 

 仕方ないので、自分のカードを確認してみた。カードにはイオリアがバリアジャケットと同じデザインの服を纏い、左手に黒色の手袋をはめている姿が描かれている。

 

 何だこれ? と疑問に思いながら「アデアット」とカードを発動する。

 

 すると服装はそのままに、手袋だけが自動的に装着された状態で現れた。そして、手袋を間近で見ることで何となくどういうアーティファクトか察したイオリアは、試しに、未だギャーギャー騒いでいるエヴァ達に向かってイメージと共に左手を振ってみた。すると、極細の糸がヒュという風切り音と共に伸び三人をまとめて拘束した。

 

 三人は、突然拘束され目を白黒させている。それを華麗にスルーして「ふむふむ」とアーティファクトの検証に勤しむイオリア。やがて、イオリアの仕業とわかると再び騒ぎ始めたので開放する。

 

 どうやらイオリアのアーティファクトは弦を無数に出し操れるものらしく【操弦曲】というらしい。

 

 イオリアは内心突っ込んだ。どこの天○授受者だよ! と。まぁ、イオリアの音楽の才能も関係しているのかもしれない。弦楽器を操る延長と思うことで、何とか納得するイオリア。その内、レ○オスな世界に飛ばされるんじゃなかろうなと、嫌そうな顔で黒手袋を見つめる。

 

 その後、ミクとテトもパクティオを済ましカードを手に入れた。方法は当然キスだった。ミクもテトも恥ずかしがるので、イオリアが少し強引にいった。こう、グイッって感じで。パクティオ後の二人は暫く惚けていたので確認には時間がかかったが、その能力が判明する。

 

 ミクのカードにはミクの後ろに8つの紙人形が描かれており、名を【九つの命】という。

 

 能力は、分身を最大8体まで作り出すことができる。スペックは本体と同等。自立行動できる。ぶっちゃけ影分身である。分け与えた魔力で活動するのでそれが尽きれば消えてしまう。しかし、それでもミクがあと8人いるわけだから十分チートだ。

 

 テトのカードには赤い宝石のついた指輪をはめて地面に手をかざしている姿が描かれている。

 

 名を【賢者の指輪】。ぶっちゃけ両手パンで錬成!のあれだ。流石に無から有は作れず法則を無視できないようだが。

 

 全員が自分達は一体どうなってるんだ!?と頭を抱えるが、エヴァは珍しいな~とそれぞれのアーティファクトを弄り倒しご満悦だった。

 

 それから魔法球換算でさらに半年ほど過ごし、イオリア達はいよいよ魔法世界に出発することにした。

 

 必要な物を【魂の宝物庫】にしまい、エヴァ、チャチャゼロを含めた五人で魔法世界へ転移する。ワクワクドキドキと期待するイオリアの目に、最初に映った光景は……

 

――地獄だった。

 

 

 




いかがでしたか?

ミクがいきなり宗主を脅してます。
作者にもどうしてこうなったのかわかりません。
黒ミクも自我が成長しているんでしょう、作者の脳内では・・・

さて、今回のエヴァについて賛否が分かれそうです。
ロリエヴァ絶対派VSエヴァならOK派・・・作者は後者です。
エヴァなら何でもいいです。でも、アルさん提案の猫耳とかセーラーとかスク水来たロリエヴァは捨てがたい。ちっこ可愛いいじられキャラ・・・だがしかし大人の貫禄も見せる、そういう所が・・・
すみません、熱くなりました。
ちなみに、ミク達の外見年齢が16歳前後なので、エヴァはそれに合わせて首飾りの使用をやめます。仲間はずれは嫌な子なんで・・・作者の脳内では・・・

あと、アーティファクト。
皆さん、エヴァの元ネタわかりますか?そうです、あの逝っちゃてる人です。ちょっと能力が凶悪すぎますかね?
対して、ミクはちょっと地味過ぎますかね?まぁ、十分チートですけど・・・

何だかやりすぎて収拾付かなくなってきた気がします。
矛盾とかご都合出ても、今まで以上に優しい気持ちで見てもらえると嬉しいです。

次回は、遂にあの戦争時代に・・・

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