重ねたキズナと巡る世界   作:唯の厨二好き

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赤き翼登場

今後の更新について活動報告にてお知らせがあります。
よかったら見てやって下さい。


第22話 バインド祭り

 テオドラからアリカとの会談が決まったと連絡あった翌日、早速、イオリア達はテオドラの下へ赴いた。

 

 今より五日後にとある場所で会談を行うという。アリカの方も帝国との交渉の糸口を探っていたらしく、会談のセッティングはスムーズにいったそうだ。

 

 イオリア達は、テオドラと一緒に会談に向かう。テオドラには、姿は見えなくても万一に備えて傍に付いている旨を言い含めてある。その後は、アリカと一緒に“夜の迷宮”で赤き翼がやってくるのを待つだけだ。

 

 赤き翼と協力関係が築ければ、後は完全なる世界の本拠地“墓守り人の宮殿”に攻め込み、造物主の説得だ。皇帝陛下にもその旨を伝えて、軍備を整えてもらっている。アリアドネーにも要請が行っている。

 

 そして、五日後、会談の日がやって来た。

 

 テオドラは表の護衛数人と一緒に、会談場所にやって来た。帝国の皇女らしく粛々としている。すぐ、化けの皮が剥がれると思うが……その耳に姿なき者の声が届いた。イオリアからの念話だ。

 

(テオ、大丈夫か?)

(うむ、問題ない。お主等が付いとるんじゃ。心配などしとらん。大人しく誘拐されてやるのじゃ!)

(はは、その様子だと本当に大丈夫そうだな)

(うむ、しかし、出発前にテトの姿が見えなんだが?)

(テトは別の重要任務を遂行中だ。心配ない。後で会えるさ)

(それなら良い、むっ、来たようじゃな。では、また後での)

(ああ、後で)

 

 今、イオリア達は少し離れたところから、【絶】と【オプティックハイド】で身を隠しながらテオドラ一行の様子を見守っていた。メンバーの中にテトの姿だけがない。イオリアの言う通り、テトは現在重要任務中だ。しかし、その動向は逐一把握しているので心配はない。

 

 イオリアとテオドラがそんな話をしていると、白いローブを着た女性がキビキビした歩みでテオドラの方へ歩いてくるのが見えた。どうやら、アリカ姫のご登場のようだ。

 

「貴方がヘラス帝国の第三皇女か?」

 

「うむ、如何にも。妾がヘラス帝国第三皇女テオドラ・バシレイア・ヘラス・デ・ヴェスペリスジミアじゃ。して、そちらはアリカ王女でよろしいか?」

 

「うむ、妾がウェスペルタティア王国王女アリカ・アナルキア・エンテオフュシアじゃ。よもや、そちらから会談を持ちかけてくれるとは思いもせなんだ」

 

「戦争を終わらせたい気持ちは同じじゃ。必要なことをしてるだけなのじゃ」

 

 二人の王女は落ち着いた雰囲気で穏やかに会話を進める。イオリアは思った。王族ってああいう話し方がやっぱり基本なんだな、と。全くどうでもいいことではあるが。

 

 二人が腰を落ち着けえは話そうと屋内に入る。

 

 と、その瞬間、周囲から複数の覆面をした者達が現れ、テオドラとアリカに襲いかかった。

 

 もちろん、イオリア達は包囲されていることに気がついていたが、誘拐されることこそが計画なので黙って見ている。当然、万一に備えてはいるが。

 

 アリカは突然の事態にも落ち着いた様子で応戦しようとしている。周囲の護衛も必死に抵抗するが次々とやられていった。もっとも、死人はでていない。イオリアとエヴァが糸を使ってこっそり致命傷を避けさせているからだ。重傷者には、後でミクが治癒魔法を掛ける。

 

 そうこうしている内に、アリカとテオドラは拘束された。アリカが「何者か!」とか、「この下衆が触れるな!」とか怒鳴っている。正直すごい迫力である。作中でナギが「おっかない女」と言っていた意味がよくわかったイオリアであった。

 

 二人を拘束し魔法で眠らせた後、覆面の集団は王女二人を連れ去って行った。もちろん、行き先は“夜の迷宮”である。

 

 “夜の迷宮”の一室、細長い通路状の牢獄の中にアリカとテオドラはいた。二人は、この場所に幽閉されてから暫くの間意識がなかったがやがて順に目を覚ました。

 

「むぅ、アリカ殿? 無事か?」

「ああ、平気じゃ。テオドラ殿は?」

「うむ、問題ないのじゃ。」

 

 二人はお互いの無事を確かめて「ふぅ~」と一息はく。現状確認をした後、アリカは落ち着た雰囲気で思索に耽った

 

「どうやら、妾達の会談がバレておったらしい。となると、やはり我が国の上層部も……さて、ここは一体何処なのか……どうする気か……」

 

 そんなアリカの様子にこちらも落ち着いた雰囲気で「う~ん!」と背伸びするテオドラ。その姿を視界に収めアリカ話しかけた。

 

「テオドラ殿は随分落ち着いているな。会談での交渉役を引き受けたことといい、随分と度胸がある。襲撃の際も落ち着いておったしの。流石は帝国の皇女といったところか……」

 

 そんなアリカの評価に、ふふんと小さな旨を張るテオドラ。

 

「当然じゃ。っと言いたいところじゃがの……何も知らなければ慌てふためいておったと思うぞ?」

「……何も知らなければ? テオドラ殿は此度の襲撃を知っておったということか?」

 

 無表情ながら険しい雰囲気を出すアリカ。アリカの眼光に「うっ」と少し怯んだ様子を見せ慌てて周囲をキョロキョロする。

 

「う、うむ。こちらにも事情があったのじゃ。だから、そんなに睨まないで欲しいのじゃ……というかイオリア! おるんじゃろ! 早う、説明してたもれ!」

 

 突然周囲に叫び始めたテオドラに胡乱な目を向けるアリカ。しかし、次の瞬間にはその無表情が崩れ驚きで目が丸くなった。

 

「ああ、すまん。どのタイミングで出ればいいのかちょっと迷ってな」

「あはは、ごめんなさいテオちゃん」

「ふむ、このまま放置するのも、それはそれで面白そうではあったが……」

 

 突然、テオドラの背後の空間が揺らいだかと思うと、そこから三人の人間が現れたからだ。言わずもがな、イオリア、ミク、エヴァの三人である。

 

 驚きも一瞬、アリカは直ぐに警戒心を取り戻すと威厳のある声で問いただした。

 

「主ら、何者じゃ?」

 

 アリカの質問に、イオリア達は遮音結界と【円】による索敵をしながら説明を始めた。

 

 赤き翼が来るまでは、まだそれなりにかかるだろうから時間は十分にある。イオリアは、【魂の宝物庫】から紅茶や茶菓子を取り出し、腰を据えて話しだした。

 

 内容はテオドラに話したことと同じだ。

 

 アリカは、途中、魔法世界の真実やエヴァの正体を知って驚いたりはしたものの、鉄仮面かと思うほど表情を動かさずに話を聞いていた。

 

「なるほどの。主らの話は大体わかった。それで、主らは妾と赤き翼の協力を欲しているのじゃな?」

 

「その通りです。アリカ王女。赤き翼の協力が取り付けられれば、我々は造物主の説得に動けます。戦争を引き起こした完全なる世界には思うところが多大にあるかとは存じますが……」

 

「よい。お主らの計画が上手くいけば、多くの民の命が救われる。なら、それでよい。しかし、造物主の説得……可能性はあるのか?」

 

「……造物主はおそらく人間に絶望しています。しかし、それでもこの世界の人々を救おうと“完全なる世界”という魔法を作りました。それは……優しさではないかと思うのです。ならば、きっと」

 

「そうか……」

 

 イオリアの説明を聞き、遠い目をして考え込むアリカ。イオリアはじっと彼女の応えを待った。やがて、アリカの眼がイオリアを見る。

 

「一つ聞かせよ。主はなぜ戦うのじゃ?お主は異邦人なのじゃろ。事を成した後、どうする気じゃ? 主は何を得る?」

 

 アリカの眼は誤魔化しは一切通用しないと言わんばかり強い輝きを放っている。

 

 ここで、本心を語らねばおそらくアリカはイオリア達を信用しないだろう。故に、イオリアもまた誤魔化しなく真っ直ぐアリカを見返した。

 

「誇りを得るでしょう」

「誇りじゃと?」

「はい、私は、故郷で騎士の誓いを立てました。“求める者に救いをもたらす”と。私には今も聞こえています。この世界の悲鳴が。救いを求める人々の声が。それを無視してしまえば私はもう私ではいられなくなる。逆に、守りきれたのなら、その事実は私の誇りになるでしょう」

 

 それと全部終わったら故郷に帰りますよ、と最後は苦笑いをしながらイオリアは答えた。

 

 そんなイオリアをアリカはしばし見つめ、次いで、イオリアに従うミクとエヴァに視線をやる。ミクは誇らしげにイオリアを見つめ、エヴァは呆れながらも仕方ないやつだなぁ~と温かい目で見ている。

 

 その様子に真実を見たのか、アリカは、

 

「よくわかった。こちらこそこの世界のために力を貸して欲しい。ナギ達も嫌と言うまい。共に、世界を救おう」

 

 そう言って、手を差し出すアリカ。イオリアも「はい」と頷き握手に応じた。

 

 その後、テラフォーミング計画の詳細を話し合いつつ、時間を潰す。すると、にわかに外が騒がしくなってきた。あちこちで爆発音や怒号が聞こえる。

 

「どうやら来たようだな。アリカ王女、彼がナギ・スプリングフィールドで間違いありませんか?」

 

 イオリアは飛ばしたサーチャーの画像を空中ディスプレイに映してアリカに確認する。

 

 ディスプレイの中では赤毛の少年が盛大に雷をぶっ放している。他のディスプレイには、赤き翼の他のメンバーが写っていてナギに負けず大暴れしている。どいつもこいつも理不尽なくらいの強さだ。

 

「うむ、この鳥頭は間違いない。我が騎士だ」

 

 アリカの確認を取りながら全員で観戦していると、どうやら到着したようで幽閉場所の壁がガラガラと崩され、そこからナギが現れた。

 

「よう、来たぜ、姫さん」

「遅いぞ、我が騎士」

 

 気安い挨拶を交わす二人。

 

 だが、ナギの目がイオリアに向きその腕に篭手が装着されているのを見るとギンッと目がつり上がった。どうやら、幽閉場所に武器を装備した奴がいる→敵だ! という発想になったらしい。

 

 万が一に備えてセレスを展開していたのがアダになった。

 

 アリカがナギの様子に気がつき制止の声を掛けようとするが時すでに遅し。ナギは、認識するのも難しいほど極まった【瞬動】でアリカの隣にいるイオリアに向けて突進した。

 

 ナギが突進力そのままにタックルをかます。この場で戦闘して万一があってはならないと、まずはイオリアを引き離すつもりのようだ。

 

 イオリアも下手に踏ん張ったり回避して傍にいるテオドラに傷でもついたら、親バカな皇帝陛下に何を言われるかわからんと、タックルの衝撃を【圓明流:浮身】で殺しながら、【堅】で背後の壁を突き破り外に飛び出した。

 

「あの阿呆が!」

 

 ミク達が「え~」という呆れた表情を見せる中、アリカも頭痛がするのか蟀谷を指でグリグリして溜息をついている。

 

 そんな一同の前に、白いローブを着た胡散臭い笑みを浮かべた美青年が現れる。アルビレオ・イマだ。

 

 アリカ達の様子を見て「おや?」と言った疑問顔を浮かべる。そして、傍らにいるエヴァを見て目を丸くする。

 

「キティですか? あなたこんなところで何をしているのです?」

「誰がキティだ! 私をその名で呼ぶな! この古本が!」

 

 ウガーと吠えるエヴァに「やっぱり、キティですね」と納得するアル。

 

 アリカを助けに来たのに旧友はいるし、見知らぬ少女が二人もいることで、若干困惑している様子だ。だが、気を取り直したのか取り敢えず脱出を促す。

 

「どういう状況かよくわかりませんが、取り敢えず脱出しましょう。……ところで外でナギと戦っている彼はやはり敵ではないということでいいんでしょうか?」

「うむ、あのバカ、早とちりしおって。早く止めねば」

「では、急ぎましょう。ナギ相手では彼の身も危ない」

 

 そう言うアルビレオにエヴァがニヤと不敵な笑みを浮かべる。

 

「さて、それはどうかな? むしろナギとやらの心配をした方がいいのではいか?」

「どういう意味です?」

「そのままの意味さ。くくく」

 

 訝しそうなアルビレオに含み笑いをするエヴァ。その傍らでは【円】で外の様子を感知していたミクがエヴァに告げる。

 

「エヴァちゃん、ナギさんだけでなく剣士さんと筋肉さんも加わりだしたので一応私も加勢に行ってきます。アリカさん、なるべく早く止めてくださいね! アリカさんの言葉なら素直に聞くと思いますし」

「うむ、面倒をかける」

「いえいえ、では!」

 

 そう言って、ヴォッという音ともに姿を消すミク。

 

 その高速機動にアルビレオが目を見開く。アルビレオの目をもってしてもほとんど視認できなかったのだ。

 

 だが、それよりも……

 

「エ、エヴァちゃん……ほぉ~、キティ、貴方あの子に“エヴァちゃん”と呼ばれているのですか? ふふふ、エヴァちゃん。なかなか良い関係を築いているようですねぇ~」

 

 こっちの方がアルビレオには驚愕だった。

 

「やかましいわ! あ、あれは、その、いくら言っても聞いてくれんし……もういいかなっと……」

 

 若干、頬を赤らめながら言い訳するエヴァに「これはこれは……」と心底楽しそうな表情をするアルビレオ。

 

 そんなエヴァの服の裾をクイクイと引っ張るテオドラ。「何だ?」と視線を向けると、テオドラがキラキラとした目でエヴァを見ている。

 

「のう、エヴァ。妾も“エヴァちゃん”と呼んで良いか?」

 

 どうやら、ミク達の呼び方が気になっていたらしい。

 

「ダメに決まっているだろうが! アイツ等だって、認めたわけではないぞ! ホント、直してくれんから……私の威厳が……」

 

「ミクとテトだけずるいのじゃ! 妾も“エヴァちゃん”がいいのじゃ! 妾のことも“テオちゃん”と呼んで良いから、な? いいじゃろ?」

 

「ダメなものはダメだ! ええい、服を離せ! 引っ張るな!」

 

 エヴァとテオドラの掛け合いに思わず「ブフッ」と吹き出すアルビレオ。

 

 旧友と合ったのはもう随分と前のことだが当時とは随分変わっており、しかもその変化が好ましい方向なので、つい頬が緩んでしまう。

 

 どうやら、エヴァにも信頼できる仲間が出来たらしいと、アルビレオは、騒ぎながらもどこか楽しそうなエヴァを温かい目で見つめた。

 

「主ら、止めにいかんでいいのか? さっきから破壊音がとんでもないことになっておるんじゃが……」

 

 いつの間にか蚊帳の外に置かれていたアリカが珍しく困った風に声を掛ける。三人は「あっ」という表情でおずおずと外に出た。

 

 

 

 

 

 時間は少し戻る。ナギに外へ吹き飛ばされたイオリアは、ナギの猛攻を内心「勘弁してくれ~」と悲鳴を上げながら捌いていた。

 

 空中で入れ替わり立ち代り近接戦闘を繰り広げる。しかし、三次元機動なら空戦魔導師の飛行魔法の方が優れている。その優位性から生まれる余裕を利用して、イオリアはナギに声を掛けようとする。

 

「ちょ、まっ、誤解っ……だっ! ……はなし……あぶなっ!」

 

 しかし、流石はサウザンドマスター、この世界の英雄なだけはある。イオリアが話そうとするたびに「隙あり!」とばかりに攻撃を仕掛けてくる。そのために、碌に話せない。

 

「ナギ!」

 

 そうこうしている内に太刀を持った青年、青山詠春が飛び出してきた。「二対一かよ!」と内心嘆くまもなく、

 

「へ、なかなか強そうじゃねぇか!」

 

 と筋肉達磨ことジャック・ラカンまで突進してきた。

 

「こんなヤツ、俺だけで十分だぜ!」

 

 不敵に笑いながら、猛攻を止めないナギ。赤き翼の皆さんが盛り上がっている。

 

 ちょっと、本格的にヤバイ! アリカさん早くこの脳筋ども止めてくれ! と悲鳴を上げながら三人の波状攻撃を必死に捌く。

 

 【操弦曲】で牽制し、無詠唱の魔法の矢で牽制し何とか誤解を解こうと足掻くが、イオリアが足掻けば足掻くほど赤毛と筋肉の笑みが深くなっていく気がする。

 

 その笑みに、こっちがこんなに苦労してんのに何笑ってんだ? アァ!? と段々イラついてきたイオリア。

 

 いい加減、マギアエレベアでも使ってやろうかと半ば本気で思い始めた時、一瞬の隙をついてラカンの巨龍すら一撃で屠る右拳がイオリアを捉えた。

 

 ラカンの一撃を【圓明流:浮身】で無効化しながら吹き飛んでいると、視界の端でナギの「ああー俺の獲物!」という表情が見えてイオリアの額に青筋が浮く。

 

 俺はお前らのおもちゃか? と。吹飛ぶイオリアに止めでも刺そうというのか詠春が待ち構えている。しかし、詠春の攻撃がイオリアに届くことはない。

 

「ミク、詠春を」

「はい、マスター! ついでに筋肉さんも任せてください!」

 

 ポツリと呟かれたイオリアの言葉を彼の最高のパートナーは聞き逃さない。【絶】で近づき、詠春の背後を一瞬でとると鞘のまま横凪に切り払う。

 

 直撃寸前に気がついた詠春が何とか身を捻るが躱しきれず、そのまま地面に向けて吹き飛んだ。ミクは、懐からパクティオカードを取り出す。

 

「アデアット!」

 

 パクティオカードが光り輝き、ミクのアーティファクト【九つの命】が発動する。総勢九人のミクが一斉に飛び出す。分身の八人はラカンへ、本体は詠春の下へ高速機動で迫る。

 

 ラカンが、イオリアへの手応えのなさに首を捻っている間に八人のミクが殺到し、ラカンが「おもしれぇ!」とばかりに構えを取る。

 

 しかし、動き出そうとした瞬間に、ラカンは、両手両足を濃紺色のリングで拘束され、そのまま空中に磔にされた。【

 

――捕縛魔法 レストリクトロック 

 

 ミクの援護にイオリアが発動した捕縛魔法だ。

 

「ぬおっ! 何だこれ!」

 

 見たこともない捕縛魔法に思わず声を上げるラカン。無論、いくら魔導の強力な拘束とはいえ、バグキャラであるラカンには一瞬程度の拘束力だろう。しかし、その一瞬で十分だ。

 

 八人のミクは無月に【周(斬岩剣)】をすると、拘束を完全に破られる前にその全ての斬撃を叩き込んだ。

 

 正面から二撃、すり抜けざまに二撃、合計四撃を八人全員が叩き込む。

 

 ミクの斬撃はラカンの鋼の肉体にほとんどダメージを与えられずカスリ傷を負わせるに止まる。そのまま、何事もなかったようにラカンは「フン!」と気合で拘束を破った。そんなラカンに、ミクは感嘆の言葉を送った。

 

「流石、“つかあのおっさん剣が刺さんねーんだけどマジで”なんて呼ばれるだけのことはあります。かなり力を込めた斬撃ですよ?」

「へ、嬢ちゃんもやるじゃねぇか」

 

 ラカンの称賛はお世辞ではない。実際、ラカンはミクの斬撃がほとんど視認できなかったし、気合防御したにもかかわらずカスリ傷とはいえしっかり斬られた。自分の防御を抜かれるなど滅多にあることではないので割りかし本気で感嘆しているのだ。

 

「だが、今のが全力なら勝ち目はねぇぜ?降伏するなら手荒な真似はしねぇぞ?」

 

 そんなラカンの言葉にミクは「クス」と笑う。ラカンは訝しそうな表情でミクを見た。ミクはラカンを指差して笑いを堪えるように言う。

 

「よく似合ってもますよ? 可愛いです」

「は?」

 

 戦場で敵から目を離すことは愚の骨頂ではあるが、ミクのその様子に思わず自分を見下ろす。そして、ラカンは驚愕の声をあげる。

 

「なんじゃこりゃー!?」

 

 今、ラカンの体にはあちこちに可愛いネギマークが刻印されていた。その合計十六本。ミクの念能力【垂れ流しの生命】が発動している証である。

 

 ラカンの気の総量は常人の比ではない。十六本ものネギを刻印しても普通なら三十分以上は枯渇しないだろう。

 

 しかし、ミクも昔のままではない。京都神鳴流を学び【オーラ】の扱いが洗練されていくつれ、流出量も少し増えたのだ。それ故、ラカンの気が枯渇するまで……あと十分。

 

「さぁ、鬼ごっこでもしましょうか?筋肉さんの気が枯渇するまであと十分といったところです。それまでに私達を捕まえて解除させて下さいね?」

「おいおい、マジかよ。何だその能力は……アーティファクトか?」

「秘密です!」

 

 そう言って八人のミクが翻弄するようにラカンの周りの飛び回り始めた。

 

 ラカンは刻一刻と流れ出していく自分の気を感じ冷や汗を流しながら、ミクを捕まえようと飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 一方、本体のミクは、吹き飛ばした詠春の下へ駆ける。詠春もまた、瓦礫を吹き飛ばしながら起き上がり、上空より接近するミクに太刀を振るった。

 

「斬空閃!」

 

 詠春が高速で太刀を振るい、曲線状の斬撃がミクを迎撃せんと迫る。

 

 ミクは、「フッ」と笑い無月を振るった。

 

「斬空閃!」

 

 無月より放たれた飛ぶ斬撃が詠春の【斬空閃】を相殺する。それに、目を見開く詠春。

 

「バカな! 神鳴流だと!?」

 

 驚愕で一瞬動きが止まった詠春へ、落下速度そのままにミクが唐竹に無月を振り下ろす。

 

「斬岩剣!」

 

 直前で受けるのはマズイと判断した詠春が回避に専念したのは正解だった。

 

 【瞬動】で飛び退った詠春の後の地面に振り下ろされた斬撃はそのまま地面を引き裂き詠春にまで衝撃が届いたからだ。

 

 砕けた石が散弾のように詠春を襲う。それを太刀:夕凪で打ち払い、さらに距離をとってミクと対峙する。

 

 詠春の表情は強ばっている。無理もないだろう。敵が自分と同じ神鳴流を使っているということは、神鳴流が敵側についている可能性があるからだ。

 

 京都守護、人の守護を生業とする神鳴流には有り得ないことだとは思うが、可能性は否定できない。

 

 しかも、自分より明らかに年下の少女が、もしかしたら自分以上の使い手かもしれないのだ。先ほどの【斬岩剣】の練度はそれほどの一撃だった。

 

「……その剣技、どこで修得した?君は何者だ」

 

 詠春の問いに、ミクはホッとした様子を見せる。ミクとしては、「脳筋ばっかりです!」と思っていただけに会話が成立するなら誤解も解けると安心したのだ。

 

「そんなに睨まないでください。私は敵ではありません。神鳴流は青山宗家で教わりました。名前はミクといいます」

「宗家だと? 悪いが、私は宗家の人間だ。それだけの技量なら幼少のころより門下に入っていたはず。だが、君のような門下生がいたなんて私は知らない。嘘をつくならもっと……」

「門下生のお姉さんの生着替え覗いて鼻血吹き出した」

「……なに?」

「百烈桜花斬の練習台にお姉さんの道着を細切れにした」

「ちょっと待とう」

「実は、秋人君のお母さんである静代さんが初恋あい……」

「信じよう! 君が宗家の門下生であると!」

「そうですか? それはよかったです。師匠からも聞いてますよ。すごい才能あるのに全部放り投げて武者修行の旅にでた阿呆がいるって。絶対、詠春さんのことですよね~」

「ぐおっ、師匠? どなただ?」

「宗主の重秋師匠ですよ」

「な、宗主自ら!?」

 

 ミクに胡乱な目を向けていた詠春だが、ミクから飛び出す心当たりのある自分の過去に否応なく信じさせられた。

 

 ちなみに、断じて態とではない。あくまで事故なのだ。詠春は内心、まさか門下生に語り継がれているのではと戦慄していた。そうなればある意味帰る場所を失う。そして、誤魔化す意味も含めて話題を逸らそうとミクの師匠を聞くと、ビッグネームが出てきたので本気で驚愕する。

 

「はい、少し前に入門して、一ヶ月ほどみっちり教えて頂きました」

「一ヶ月!?」

 

 さらなるミクの言葉に詠春の顎がカクンと落ちる。まさか、一ヶ月で神鳴流を修得したとでも言うのだろうか、いや、そんなはずないと自問自答する。

 

 しかし、先ほどの神鳴流の技の練度が答えを示していた。

 

「とにかく、私が敵ではないとわかってもらえましたか?」

「あ、ああ、取り敢えず信じよう。」

 

 若干、現実逃避気味に詠春は頷く。そして、ミクと連れ立って仲間の下へ戻るのだった。他に変な話しが門下生に広まってないかミクに訪ねながら。

 

 

 

 

 

 

 ラカンのピンチと詠春への精神攻撃を尻目に、イオリアとナギは未だ誤解が解けず戦っていた。このままでは埒があかないので、イオリアは魔導全開で行くことにした。

 

「刃以て、血に染めよ、穿て、ブラッディーダガー」

 

 126本の血色の短剣がナギをロックオンし自動追尾する。

 

「なんだ、この魔法!」

 

 そんなことを叫びながら、もう大規模魔法と変わらない魔法の矢を1001本放つナギ。

 

 イオリアは【ブラッディーダガー】にナギを追尾させながら、並列思考で、転移魔法を起動し、攻撃範囲を離脱する。

 

 ナギは、ダガーを避けながら魔法を放とうと詠唱を開始するが、その途端、足元にベルカ式魔法陣が浮かび光の鎖がナギを絡め取る。

 

 拘束を解こうと魔力を高め、【ディレイバインド】を破壊しようとするが、直後、さらに【リングバインド】が重ね掛けされる。

 

「だぁー、さっきから何なんだ! この魔法は!」

 

 ウガーと怒鳴りさらに魔力を高めるナギ。その魔力の圧力にバインドがビキビキと砕けていくが、そこで更に【レストリクトロック】。ナギの四肢を空間に固定する。「ぬおっ!」と驚きの声を上げるナギにさらに【バインド】をする。ついでにもう一つ【バインド】おまけに【バインド】、取り敢えず【バインド】八つ当たりで【バインド】もう必要ないけど【バインド】ちょっと楽しくなってきたので【バインド】アリカ達がこちらに来ているので暇つぶしに【バインド】【バインド】【バインド】【バインド】【バインド】【バインド】【バインド】【バインド】【バインド】【バインド】【バインド】【バインド】【バインド】【バインド】【バインド】【バインド】】【バインド】【バインド】【バインド】【バインド】【バインド】【バインド】【バインド】【バインド】【バインド】【バインド】【バインド】【バインド】【バインド】【バインド】【バインド】】【バインド】【バインド】【バインド】はい、皆さんご一緒に!【バインド!】

 

「……我が騎士は無事か?」

 

 濃紺色に輝く【バインド】というより繭に包まれるナギを見てアリカが何とも言えない表情で呟く。

 

 エヴァが隣で「うわ~」という若干引き気味な声を上げ、テオドラが興味深げにツンツンと落ちていた枝でつつく。アルビレオは「ほぅ、このような魔法が……」と興味深げだ。

 

 

 イオリアはスッキリした顔で、アリカにナギを任せバインドを解除した。

 

「出しやがれーってあれ?」

 

 キョトンとした顔でキョオキョロと辺りを見回すナギ。

 

 ツカツカと歩み寄ってきたアリカに気づき「姫さん、無事か?」と声を掛けるものの、その返事は張り手だった。王家の魔力がこもった。バチンッといい音が響く。

 

「ぶはっ! 何すんだよ!」

「早とちりしおって、馬鹿者。この者達は敵ではない。話さねばならんこともある。さっさと一緒に脱出するぞ」

「えっ!? そうなのかよ。武器持ってるからてっきり……」

 

 「いや~悪い悪い!」という感じでニカッと笑うナギに、イオリア達は原作で言ってた通りバカっぽいなぁ~と感じながら溜息をついた。

 

 そうこうしている内にミクと詠春、どことなくグッタリしたラカンがやって来る。分身ミクは既に解除済みだ。

 

 いつまでもこの場所にいるわけにもいかないので、一行は事情説明は後にして赤き翼の隠れ家に移動した。

 

 赤き翼の隠れ家はオリンポス山にあった。そこには、白髪の少年と白スーツの中年男性、よく似た感じのスーツを着た少年がいた。ゼクト、ガトウ、タカミチだろう。

 

 到着早々、赤き翼の隠れ家が掘立小屋だったのでテオドラが笑うと、イラッときたラカンが「チビジャリ」と呼びケンカが始まるなどあったが、取り敢えず中に入り、事情説明、そして、イオリア達の計画を話すことになった。

 

 全てを聞いたナギ達は、問題なく協力関係を結ぶことを決めてくれた。というのも、アリカの騎士宣言と、それに誓いを立てたナギとしてはアリカが協力関係を結ぶ気なら文句はないらしく、ゼクトやアルビレオ等頭脳担当もイオリア達の計画に乗るべきと押したからだ。

 

 アルビレオ等からすれば魔法世界崩壊の危険性は念頭にあったらしく、解決不能の難題と考えていたことから、テラフォーミング計画は目からウロコの気分だったらしい。

 

 実は、将来のナギの息子の発案ですとは言えないイオリアは、微妙に良心をチクチクと痛めていた。

 

 赤き翼の協力が得られたので、早速、その旨を皇帝陛下に伝える。もちろん、死ぬほど心配しているだろうからテオドラからである。

 

 その結果、帝国もアリアドネーも問題なく動けると返事があった。準備は整ったので、イオリア達はもう一人の仲間に連絡をとる。

 

 イオリアからアリカ達に合わせたい人がいるといわれ、待つこと三十分。イオリア達の眼前にベルカ式の魔法陣が浮かび上がる。何事か! と身構える赤き翼を手で制止し、やがて光が収まるとそこには、

 

 テトとお姫様抱っこされたアスナがいた。

 




いかがでしたか?

一度は紅き翼と戦わせてみたかったので、ナギのバカっぽさを利用させて頂きました。

少々、話の展開がスムーズすぎるかと思ったんですが・・・
其処まで細かく描写するのは作者のキャパを超えます。

あと、意図的に連合は外しています。
原作でも何か色々画策していたみたいですし・・・その辺を考慮するとイオリア達が渡りを付けるのは不自然かな~と。べ、別に面倒だったからじゃないんだからね!・・すいません。

さて、ネギま編もいよいよクライマックス。

次回は、決戦です。果たしてイオリアは造物主を説得できるのか。

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