重ねたキズナと巡る世界   作:唯の厨二好き

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ベルカの危機?何それ美味しいの?てな感じのイオリアです。


第26話 積み上げた力

 溶岩が大地を舐め、氷のダイヤモンドダストが宙を舞い、一瞬にして魔獣が駆逐された目の前の惨状に呆然とする騎士や兵士達。

 

 そんな彼等の様子を横目に見ながらそれも仕方がないと溜息をつくのはオリヴィエとクラウスだ。

 

 絶体絶命のピンチに颯爽と現れ、使えないはずの、そして未知の魔法を行使した友人に、一体この22年の間に何があった! と声を大にして問い詰めたい衝動を必死に押し止める。

 

 この窮地を乗り切ったとて、ベルカが滅亡の危機にあることに変わりはないのだ。ならば、個人的なOHANASIはまた今度にして、今は現状を話し合わねばならない。

 

 クラウスとオリヴィエはそんな事を思いながら、イオリア達がいる空をジッと見つめた。友人の帰還に緩んでしまいそうな頬を頑張って引き締めながら。

 

 そんな二人の前に、再びイオリアが降り立った。周囲の騎士や兵士達がゴクリと生唾を飲み込むのがわかる。

 

 彼らからすれば得体の知れない技を使う正体不明の人物だ。窮地を救われたことから、敵ではないはずだが、その行使した力の大きさが警戒心を彼等に与えていた。

 

 イオリアはそんな周囲の視線を気にした風もなく、真っ直ぐクラウスとオリヴィエの下に歩いていく。そして、クラウスの眼前まで来ると、スっと腰を落とし片膝立ちなり穏やかな顔でクラウスを見上げる。

 

「改めまして、騎士イオリア・ルーベルス。ただいま帰還いたしました」

 

 そのイオリアの言葉に周囲がざわざわと騒ぐ。

 

 イオリア・ルーベルスの名は22年前の終戦を持たらした英雄として広く知られているのだ。

 

 クラウスもオリヴィエも引き締めた表情を綻ばせ、目の端に涙を貯めながらジッとイオリアを見た。

 

「……よく、よく戻った。イオリア。……全く、待ちわびたぞ!」

「ふふ、信じていましたよ。何時か必ず戻ってくると……本当に無事でよかった」

 

 クラウスはイオリアを立ち上がらせるとガッと力強く抱きしめる。オリヴィエもそっと手を触れさせて、ここにイオリアがいることを確かめる。イオリアを離すと傍にいたミクやテトにも喜色満面で帰還を祝った。

 

 そんな中、オリヴィエは、そっと耳につけていたイヤリングを外す。小さな十字架に濃紺の石がはまったイヤリング。クラウスとオリヴィエの二人から贈られ、22年前、咄嗟にオリヴィエに託し帰還の道標となった大切な宝物。

 

 オリヴィエが差し出したそれを「ありがとうございます」と礼を言いながらイオリアは感慨深い表情で受け取る。

 

 しばらく見つめた後、イオリアは振り返った。視線の先に居るのは所在無げにしているエヴァだ。

 

「エヴァ、これを」

 

 イオリアは、たった今手元に戻ってきた自分のイヤリングをエヴァに差し出した。

 

 エヴァは、このイヤリングの効果を聞いている。イオリアは現在、ミクとテトのイヤリングを片方ずつ分けてもらい付けているが、エヴァの分はなかった。イオリアは何時か自分の分が戻ってきたらエヴァに渡したいと思っていたのだ。

 

 「いいのか?」と聞くエヴァに「今更遠慮か?」とにこやかに返すイオリアに、頬を染めながら受け取るエヴァ。

 

 そんなエヴァの存在に疑問顔のクラウス達だが、説明は後だ。今は、事態解決を優先する。

 

「エヴァのことは後で。それより、クラウスさん、オリヴィエさん。詳しい情報をお願いします」

 

 真剣な表情になったイオリアに、二人も頷き何があったのか説明を始めた。

 

「事態が発生したのは今から4時間ほど前だ。以前からガルガンディアには色々黒い噂が多く、密偵を放っていたのだが、その内の一人が緊急通信をしてきた。その内容が、ガルガンディアの研究施設で古代兵器の開発が推し進められており、無理をして起動実験をしたため暴走状態に陥ったというものだ。強行される実験に危機感を覚えた研究者の一人が密告のため他国に連絡をしようとしたところを捕まえて事情を聞いた。

 だが、その時点で一つ目の兵器が発動し、ガルガンディアは滅んだ。一瞬でな」

 

「兵器の名称は“ヴェノム”。効果は、中性子爆弾をより凶悪にしたものと考えてくだい。建物には一切影響を与えず生物だけを殺す。しかも、死んだ生物は“ヴェノム”により変質し、例の魔獣へと変貌します。我々は、早急に何隻もの艦を出し、“ヴェノム”の拡散を何とか結界で封じましたが、それも長くは持ちません。“ヴェノム”は機械類にも影響を与えるからです」

 

「研究施設にはまだ、カウントダウン状態の4つの“ヴェノム”が残っているが結界の中には入れない。入った瞬間、死んで化物になる。そして、それらが発動すればもう結界では抑えきれない。“ヴェノム”はベルカに拡散し、この地は不毛の大地となる」

 

 そこまで一気に説明を聞き、イオリアは質問する。

 

「大威力の砲撃で一気に吹き飛ばすのは?」

「研究者曰く、“ヴェノム”が拡散するだけで意味がないそうだ」

「残り時間は?」

「……あと30分もありません。」

 

 そこで、考え込むイオリアを尻目に沈痛な表情をするクラウスとオリヴィエ。特に、オリヴィエは泣きそうな表情をしている。

 

「ごめんなさいっ、イオリア君。あなたにベルカを頼まれたのに、結局、こんなことに……私はベルカを守れませんでした。あなたとの約束を守れませんでした。本当にっ、ごめんなさいっ!」

 

 悔しそうに両手を握り締めるオリヴィエの肩に手を置き「お前のせいじゃない」と慰めるクラウス。

 

 そんな二人を見ていたイオリアの表情は失望でも怒りでもなく「何言ってんだ?」というキョトンとしたものだった。

 

「……ちゃんと守ってくれましたよ?」

「しかしっ!」

「だって、まだ滅んでないじゃないですか。文字通り“俺が戻ってくるまで”ね? それに、クラウスさんのオリヴェエさんに対する言葉遣いに丁寧さがなくなっています。前は、互いに他家の王族だからって敬語使ってたのに……つまり、クラウスさんを幸せにしてくれてるんでしょ? そっちの約束も守ってくれました。まぁ、22年ですからね、むしろ二人が結ばれてなきゃ……クラウスさんのヘタレ伝説を語り継ぐところです」

 

 イオリアの言葉に「おい!」とクラウスが突っ込むが華麗にスルーして、オリヴィエと目を合わせるイオリア。

 

 言葉に詰まるオリヴィエだったが、やがて、その表情を緩めた。「相変わらずですね」という言葉とともに。

 

「はぁ~、で? イオリア、そう言うからには打開策があるのか?」

 

 溜息をつきながらクラウスが尋ねる。正直、クラウス達ではもう手も足も出ない状況だ。最後の希望とイオリアを見つめる真剣な表情のクラウスに、イオリアはごくあっさりと返した。

 

「はい、あります」

「……マジで?」

 

 思わず、王族にあるまじき言葉遣いで返してしまうクラウス。オリヴィエも驚いているようだが、まぁ、イオリア君だしと納得しているようだ。

 

 どうする気か聞きたそうな二人だが、時間もないのでぶっつけ本番出たとこ勝負で行きますと宣言し仲間に指示をだす。

 

「ミクとテトは待機な。【纏】すれば大丈夫かもしれないが無理をする必要もない。後で二人の力が必要になるからな。チャチャゼロも待機。俺とエヴァで【術式兵装】して突入する」

「う~、心配ですけど仕方ありませんね。頑張ってください、マスター」

「了解。頑張ってね」

「ふむ、確かにそれなら行けるだろうな、というか行けなかったら終わりだしな」

「ケケ、ショウガネェナ、御主人ヲヨロシク頼ムゼ」

 

 「術式兵装って何だ?」と疑問顔を浮かべながら、エヴァの頭に乗った人形が突然喋り始めたことに思わずビクッとなるクラウス達だったが、イオリアに全てを託し、信じて待つことにする。

 

 目の前の男は、やると言ったことは必ずやり遂げる男なのだ。そのことをクラウスもオリヴィエもよく知っている。

 

「イオリア、ベルカを頼む」

「頼らせて貰います、イオリア君。成功を祈っています」

 

 二人が、絶大な信頼と共にイオリアを真剣な眼差しで見つめる。イオリアもそれに応えて強靭な意志を宿した瞳で見返し頷いた。そして、エヴァと共に詠唱する。

 

 数奇な運命を辿ったが故に会得することができた、真祖の吸血鬼の固有魔法を。

 

「アルス・ノーバ・アド・リビドゥム 契約により我に従え奈落の王 地割り来たれ 千丈舐め尽くす灼熱の奔流 滾れ 奔れ 赫灼たる滅びの地神 【引き裂く大地】!」

 

 イオリアが、最上級呪文を詠唱する。しかし、その魔法は以前の様に発動しない。凄まじい魔力が渦を巻きながらイオリアが掲げた右腕の上に集束していき球体を作る。今にも爆発しそうなほど圧縮された赤熱化した球体の迫力に周囲の人々が思わず一歩後ずさる。

 

 圧縮に圧縮を重ね、とうとう拳大にまでなった球体をイオリアは掌で握り潰した。

 

「固定! 掌握! 魔力充填、【術式兵装:地神灼滅】」

 

 【引き裂く大地】を取り込んだ今のイオリアは溶岩そのものである。簡単に言えば、某海軍大将の赤ワンコ状態だ。

 

 赤熱化しながら溶岩を滴らせるイオリアにクラウス達ですら言葉を失い凝視する。

 

 イオリアが術式兵装するのと同時に、エヴァも【術式兵装:氷の女王】を発動した。ただそこにいるだけで周囲を凍てつかせる氷結世界の女王様だ。

 

 そんな異様な風体でありながら、イオリアの口調は非常に軽かった。

 

「んじゃ、行ってきます!」

 

 そう言って、エヴァを伴い汚染された結界内に突入していく。そんな、イオリア達を見て、クラウスがポツリと呟いた。

 

「22年って長いよな……なら友人が溶岩になってもおかしくはないよな?」

「クラウス……気持ちはわかりますが、年月で人は溶岩になったりしません。なるのはイオリア君だけです」

「二人共微妙に酷いですよ~」

「まぁ、あながち否定できないけどね……マスターなら何があってもおかしくないし……」

「ケケケ、アイツホド面白イ人間ハイナイゼ」

 

 そんな感想を持たれているとは露知らず、イオリアは汚染地域へと突き進む。

 

 

 

 

 

 そして、10分後……

 

「終わったぞー」

「二人もいらなかったな」

 

 ぬるっとクラウスの影からイオリアとエヴァが登場した。思わず、「うおっ!」と悲鳴を上げるクラウス。エヴァの影を利用した転移魔法だ。周囲の騎士達もギョッとしている。

 

 そんな周囲の様子をさらっとスルーして、イオリアが影から這い上がった。

 

「ふぅ、“ヴェノム”は完全に処理しました。もう大丈夫です」

 

 そう言って、【魂の宝物庫】に格納していた巨大な球体を取り出し、クラウス達の目の前にズシンと地響きを立てながら転がす。

 

 オリヴィエが恐る恐る、しかし確信を持ちながら尋ねる。

 

「あの……イオリア君。これってまさか“ヴェノム”ではないですよね?」

「もちろん、“ヴェノム”ですよ」

 

 一瞬の静寂。直後、「ギャー」という騎士達の悲鳴が上がる。口々に「何持ってきてんだ!」とか「お母ァちゃーん!」とか叫んでいる。

 

 お前等決死の覚悟だったんじゃなかったのかよ? と内心慌てふためく騎士達に呆れの視線を送るイオリア。

 

 それに、眉間を指で掴んでグリグリと揉みほぐすクラウスが尋ねた。

 

「どう見ても唯の石に見えるんだが?」

「ええ、俺の持ち技で【永久石化】ってのがあって、まぁ、文字通り永久に石化する魔法です。めちゃくちゃ強力なんで芯まで完全に石化してますから、大丈夫ですよ。念のため、後で安全な場所に捨てますし」

 

 あっけらかんととんでもない内容を説明するイオリアに、クラウスとオリヴィエは、自分達の覚悟はなんだったのかと何となく虚しさを覚えた。ほんの数時間前までベルカの滅亡を覚悟し、ここを死地と決めて戦っていたのに、もののついで見たいな軽いノリで解決されてしまった。故に、思わず、愚痴ってしまうクラウス。

 

「はぁ~、俺達のシリアスを返してくれ……」

「クラウス……イオリア君ですから仕方ありませんよ、諦めましょう……」

 

 空虚な瞳でクラウスの肩に慰めるように手を掛けるオリヴィエ。

 

 そんな二人の様子にイオリアが、「えっ、えっ?何?俺、何かした?」と周囲をキョロキョロ見回す。そんなイオリアの様子に、くすくすと笑うミク達。

 

「大丈夫ですよ、マスター。皆さん、マスターのチートっぷりに呆れているだけですから」

「この22年で磨きがかかった非常識ぶりに、いろいろ諦めただけだよ?」

 

 イオリアはミク達のそんな言葉に「なんだそりゃ?」と不貞腐れたように唇を尖らせた。しかし、まだやるべきことが残っているので何とか気を取り直し、ミクとテトに手を差し出す。二人は頷くと自らの手を重ねた。

 

――――― ユニゾン・イン ―――――

――――― ユニゾン・イン ―――――

 

 突然ユニゾンをしたイオリアに、気を持ち直したクラウス達が疑問の表情を浮かべる。

 

「今度は、何をする気だ? 滅亡の危機を10分であっさり解決したんだ。もう何をしても驚かんぞ」

 

 来るなら来い! と妙な気合が入っているクラウス。周りの騎士達もどうやら滅亡の危機が去ったらしいことを悟り、落ち着きを取り戻している。まぁ、突然、救われましたと言われても何が何だかわからないといった感じで実感がまだ湧いていないようではあるが。

 

「いや、この汚染地域何とかしないと、結界が解けた瞬間に大惨事でしょう? だから、虚数空間に放逐します。空間割って」

「……あっ、あの時の! あの時の技ですね?」

 

 イオリアの言葉に、「そうか、空間割っちゃうのか。虚数空間とか簡単に開けちゃうのか……へへっ」と呟き完全にキャラが崩壊しているクラウス。どうやら耐え切れなかったらしい。

 

 一方で、オリヴィエが22年前を思い出し、確かにその技ならと希望に目を輝かせる。

 

 イオリアはそのまま結界の直前まで行き、右腕に魔力を集束し始めた。濃紺色の魔力がイオリアの右腕に物凄い勢いで集まっていく。

 

 先の戦いで撒き散らされた魔力を余すことなく集束し、さらにカートリッジをフルロードして行く。その集束魔力のあまりの密度に既に空間が歪んで見えるほどだ。

 

 クラウス達も周りの騎士達も、その尋常ならざる魔力の集まりに瞠目し体が固まる。

 

 その時、イオリアから念話が入る。

 

(皆さん、念のため防御魔法を展開して対衝撃姿勢を取って下さい。今から空間を割って、汚染物質を放逐します!)

 

 目の前の、戦艦の主砲すら凌いでいるのではないかと思われるほど絶大な魔力とイオリアの警告に、そこかしこから悲鳴が上がる。全員が全員、必死の表情で障壁を張った。

 

 イオリアの【覇王絶空拳】は数十年の鍛錬により空間破砕の際の衝撃や、空間が元に戻る際の吸引の方向性をコントロール出来るようになっている。

 

 なので、本当に念のためなのだが、そんなことを知らない面々は「むしろこれで死ぬんじゃないだろうな!」と戦々恐々としている。戦場で打たれて死ぬならともかく、味方の技に巻き込まれて死ぬとか流石に勘弁して欲しいのである。

 

 一同が固唾を飲んで見守る中、遂にイオリアの【絶空】が放たれた。

 

「ゼアッッツ!!」

 

 裂帛の気合と共に真っ直ぐ放たれたイオリアの正拳は眼前の空間に突き刺さりビシビシとヒビを入れていく。

 

 その範囲は、22年前の比ではない。数倍はあろうかという亀裂が空間に走ると、次の瞬間、バリンッという破砕音と共に空間が砕け散った。その衝撃が前方に飛び、汚染地域を封ずる結界に穴を開ける。

 

 そして、空間が元に戻ろうとする作用により、急激に前方の一切を吸い込み始めた。

 

 以前なら、周囲一体を無差別に吸い込んでいたのでイオリアの鍛錬の賜物である。

 

 汚染地域から濁った靄のようなものが物凄い勢いで吸い出されていく。その行き先は、割れた空間の先、虚数空間である。空間が元に戻ってしまわないようにコントロールしつつ、イオリアはエヴァに“ヴェノム”の残骸を持ってくるように指示する。

 

 エヴァは吸引領域に入らないよう注意しながら、虚数空間に“ヴェノム”をポイっと投げ入れた。ベルカを滅亡の危機に追いやったド級のロストロギアの何ともあっけない幕切れである。

 

 覚悟していた衝撃もほとんどなく、目の前で“ヴェノム”の残骸が消えたことに、ようやく危機が去ったことを実感したのか騎士や兵士達の瞳に活気が戻ってくる。

 

 そして、汚染物質が次々と放逐されていく光景を見て、一人、また一人と雄叫びを上げ始めた。

 

「いけぇーー! 全部終わらせちまえーー!」

「いいぞぉー、やっちまえーー!」

「がんばれーー!」

「もう少しだ!」

 

 その雄叫びは徐々に広がり、いつの間にか戦場に出ていた騎士兵士全員に及んでいた。イオリアを応援する声が大地を振動させるように大きくなっていく。

 

 一方で、イオリアに余裕はあまりなかった。空間が元に戻ろうとする力を抑えて穴を維持しているのだが、予想以上に魔力を消費しているのだ。このままでは、全て吸い込みきる前に空間が閉じてしまうかもしれない。

 

 イオリアは目算を見誤ったのだ。とんだうっかりである。

 

 このままでは、僅かではあれど崩れた結界から汚染物質が拡散してしまうかもしれない。「ぐっ」と呻き声を上げながらも、意地でも閉ざしてなるものかと歯を食いしばるイオリア。

 

 そんな様子に20年連れ添ったエヴァが気が付かないはずがない。

 

「あの馬鹿者が……見誤りおったな。全く世話の焼けるやつだ。……おい、お前達、確かクラウスとオリヴィエだったか?」

 

 初めてエヴァに話しかけられ、少し驚いた様子の二人。エヴァの不遜な口調はスルーして会話に応じる。

 

「ああ、なんだ?」

「あの馬鹿者、魔力の限界が近い。おそらく空間の維持に予想以上に魔力を持って行かれているのだろう。これから私の魔力を分け与えに行くが、足りるかわからん。ここにいる者達全員でイオリアを援護しろ」

 

 そう言うとエヴァは返事も聞かずさっさとイオリアの傍に転移し、拳を構えるイオリアの背中に抱きついた。おそらく魔力譲渡しているのだろう。……抱きつく必要性があるのかは知らないが。

 

 クラウスとオリヴィエはエヴァの態度に苦笑いし、部下達に大声で命令を出した。

 

「聞け! ベルカの騎士よ! 兵士達よ! 今、あそこで孤軍奮闘している者の名はイオリア・ルーベルス! 22年前、戦乱のベルカを治め世界の窮地を救った英雄だ!」

 

 クラウスの突然の演説に、歓声を上げて応援していた騎士兵士達の声がピタリと止まり、一瞬の静寂の後、爆発的な歓声が再度ワッーー!と上がる。

 

「彼は、またもベルカの窮地に駆けつけてくれました! しかし、このまま彼に任せっきりで良いのでしょうか! 我らベルカの守護者足らんとする者がこのままで良いのでしょうか! いいえ、いいわけがありません!」

 

 オリヴィエの言葉に、しかし何ができるんだ? と困惑する騎士兵士達。

 

「今、イオリアは魔力が足りていない。あの技の維持には莫大な魔力が必要なのだ! 故に! 諸君! ベルカの守護者たる戦友諸君! お前達の王が命じる!」

 

「「イオリアに我らの力を!」」

 

 そう命令するとクラウスとオリヴィエは率先して魔力を放出し始めた。直接魔力を送る必要はない。今、この瞬間もイオリアは僅かな魔力を求めて集束を続けているからだ。

 

 そんな二人の様子を見た騎士や兵士達が次々と魔力を放出し始める。

 

 この戦い、僅か1時間程度で集められた騎士や兵士は2000名程度だった。それが、魔獣との戦いでまともに動けるのは半数といったところだ。

 

 その残り1000名の騎士、兵士達が一心に魔力を送る。全て終わらせてくれ、この悪夢を消し去ってくれと、願いを込めて。戦場に、色とりどりの魔力が溢れかえる。

 

 集束を続けていたイオリアは、当然それに気がつきフッと口元に笑みを浮かべた。背中に大勢の守護者達の力を感じる。

 

「全く、肝心なところでポカをしおって。流石のお前も、故郷の窮地に動揺していたか?」

 

 イオリアの背中に抱きつきながら、エヴァがイオリアの肩に顎を乗せ顔を覗き込む。今もエヴァの暖かさとともに彼女の膨大な魔力がイオリアへと流れ込んでいる。

 

 エヴァの言葉に、イオリアは苦笑いするしかない。

 

「ああ、どうもそうみたいだ。まだまだ未熟だな」

「ふん、完璧よりよほどマシだ。そんなもの面白くもなんともないからな」

「はは、ありがとな」

 

 ぶっきらぼうでありながら含蓄の多いエヴァの言葉には本当によく助けられてるなぁ~とイオリアは笑みを深くする。感謝を込めて、左手でそっと肩越しにエヴァの手を握った。周囲は魔力に満ちている。それらを遠慮なく集束し穴の維持に費やす。

 

 そして、遂に、全ての汚染物質の放逐に成功した。

 

 空間が元に戻り、静寂が辺りを支配者する。魔力の放出をし過ぎてフラついている者も少なくない。

 

 そんな騎士や兵士達はジッと背中を向けたままのイオリアを見つめる。イオリアは少し天を仰いだあと、真っ直ぐに拳を天に突き出した。

 

 それは勝利の狼煙。無言の勝ち鬨。

 

 それを見た全ての騎士と兵士が一斉に歓声を上げた。ワッァァアアアーーー!!という大地すら揺らがしそうな歓喜の雄叫びが天まで届けと湧き上がる。

 

 ユニゾンが解けて、ミクとテトが現れ一緒にイエーイとハイタッチする。傍に駆け寄ってきたクラウスとオリヴィエが満面の笑みでイオリアの肩を叩く。ついでにとチャチャゼロが、背中に抱きついていたことをからかいエヴァがキレる。

 

 しばらくの間、英雄の戻ったベルカの大地に歓喜の声が鳴り響いていた。

 




いかがでしたか?

第一章で、イオリアが抱いた疑問、「闇の書でベルカは汚染されるのか?」
その答えとしてオリジナルロストロギア“ヴェノム”を出してみました。

そして、積み上げた力によって、あっさり解決してしまうチートぶり。
せっかく異世界巡ってきたのだから、最後の危機はあっさり片付けさせたかったのです。
旅の集大成として。
ただ、完璧過ぎるのもどうかと思い、遠坂家並のうっかりをさせてみました。
一人で解決するのでもよかったかもしれませんが・・・やっぱり一丸となってやり遂げるというのもいいかなと、こういう形で終息させました。
楽しんでもらえたのなら嬉しいのですが・・・

さて、次回は、いよいよ最終回。タイトルは“果たされる誓い、そして終幕”です。

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