重ねたキズナと巡る世界   作:唯の厨二好き

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今回は短いです。

次話と繋がってますが、長くなりそうだったので切りました。


第4話 音楽の才能?

 あの日、初めて3人で音楽を奏でた日から3年が過ぎた。

 

 その間、イオリア達にも様々なことがあった。

 

 鍛錬でミクやテトが漫画の技を再現して使うのを見て、ついに我慢できなくなったイオリアが格闘系漫画の技の再現に夢中になったり、音楽の才能が留まるところ知らなかったり、路上ライブを定期的にやっていたら、やたらと人気が出て聖王様と覇王様がお忍びできたり、なぜか両王様と模擬戦することになったり、学校にミクとテトがやって来てちょっとした騒動が起きたり……

 

 本当に色々あったのだ。

 

 初等科の卒業を迎えた今日、これだけはきっと、どの世界でも変わらない学校長の長いお話を聞きながら、イオリアはそれらの出来事を回想していた。

 

 

 

 

 

「エセ飛天御剣流“九頭龍閃”!」

「なんの! クイックドロウ9連!」

 

 イオリアは、ミクが回避不能防御不能と言われた某放浪剣客の必殺技を繰り出し、それをテトが、某掃除屋の早撃ちで迎撃するという戦いに、なんともファン心を騒がせていた。

 

「やべー、かっこいい~。お、俺も何か再現技を……格闘系なら、刃牙?いやダメだ、ほとんど覚えてない。修羅シリーズなら?うん、結構覚えてる。再現MMD作るのに熟読したからな。魔法を補助に使えば……ブツブツ……」

 

 そんなイオリアを、いつの間にか模擬戦を終えていたミクとテトが生暖かい目で見つめていた。それに気づいたイオリアは、ちょっと恥ずかしそうにしながらも言い訳するように呟いた。

 

「いいだろ、別に。俺だって漫画の技とか使ってみたいんだよ。武術の基礎はできてるし、魔法もあるんだから、今ならいろいろできると思うんだ。できるのに見逃す手はないだろう?せっかくなんだし」

 

 それに対してテトは、呆れるように苦笑いしながら返した。

 

「あのね、マスター? 気づいてないみたいだから言っておくけど、マスターの修めてる覇王流も漫画の技だからね? しかも、ボク達みたいな再現しただけのエセ技と違って、正統を修めた本物だからね?」

 

 テトのその言葉に、思わず硬直するイオリア。しばらく考えて、「おお~!」と声をあげた。どうやら言われて今気づいたようだ。

 

「あはは~、マスターって時々、すごい抜けてますよね~」

 

 ミクにまで、どこか呆れを含んだ笑みを向けられ、イオリアは、気まずそうに顔を背けた。

 

「いや、覇王流は、5歳の時からマジで血反吐吐きながら習得した武術だからさ、漫画の技再現だ! みたいな気持ち持つ余裕なんて微塵もなかったっていうか……」

 

「あ~、相当厳しかったみたいだね? ママさんにも聞いたことあるよ。リリスもよく、坊ちゃんは毎回血まみれで帰ってきて手当が大変だったとか言ってたし」

 

「それで、マスター。技再現するとして、何をするんですか? さっき圓明流がどうとか言ってましたけど」

 

「ああ、本格的な格闘系漫画で技の原理とかハッキリ覚えてるのってそれくらいなんだよ。奥義とかやってみたいな。魔法も併用すればいける気がするんだよ」

 

 そういって、イオリアは、セレスをセットアップした。そして、傍にあった木に近寄ると、腕をぐるぐる回しながら準備に入る。

 

「今から“無空波”やってみるから、見ててくれ」

(セレス、ブレイクインパクトを準備してくれ、で俺が合図した右腕起点にして発動してくれ。)

(yes, master)

 

 不敵にニヤリと笑いながら構えをとるイオリアに、「大丈夫かなぁ~」という視線を向ける二人。

 

 その視線に気づかず、イオリアはエセ無空波を発動した。

 

 「ハアッ!(今だ! セレス!)」(start)

 

 イオリアは右拳で正拳突を放ちつつ、インパクトの瞬間にセレスにブレイクインパクトを発動させた。

 

 ブレイクインパクトは、対象の固有振動を割り出し、それに合わせてデバイスを振動させ対象に直接打つけることで破砕する魔法である。

 

 対象であった木は、イオリアの拳が打ち付けられた瞬間パンッ!という音共に表面(自然破壊にならないように威力を調整した)を破砕させた。

 

 イオリアは、その結果に満足げに頷きドヤ顔で振り返った。しかし、二人の表情には奥義たる技の再現に沸く様子はなく、テトは苦笑いをミクは気まずげな表情をしていた。

 

「おいおい、どうしたんだ二人共。ちゃんと再現できてただろう?もうちょっと盛り上がってもいいんじゃないか?」

 

 そう言うイオリアに、テトは苦笑いを濃くして、ミクは目を逸した。

 

「マスター。確か無空波は、拳を当てた状態から腕を振動させることでその衝撃を相手に伝える技でしょ? 今、マスターがしたブレイクインパクトは、振動しているデバイスを叩きつける技じゃないか。打撃をしたとき対象の固有振動と合わせることで防御力を下げてるだけ。攻撃を避ければそれまでだし、固有振動を割り出されてもシールドを張るなり防御を強化すればいいし。無空波みたいに、掠るだけでアウトなんてとんでも技と一緒にするのはちょと……」

 

「マスター、私には、ただマスターが木を殴っただけにしか見えませんでした」

 

 理路整然とテトに返され、ミクに率直かつ的確な意見を言われ、イオリアは崩れ落ちた。

 

「た、確かに、言われてみれば、ただ殴っただけだ。アホか、俺は……やはり、奥義というだけはあるな、俺程度の未熟者の浅慮でどうにかなるほど甘くはなかったか。……ふふ、いいだろう。燃えてきた。……絶対、圓明流奥義を習得してやる!」

 

 一人で落ち込み、一人で納得し、一人で燃え始めたイオリア。

 

 そんなイオリアの姿を、やっぱり生暖かい目で見守るミクとテト。彼等の鍛錬は概ねこんな感じで進んでいくのだった。

 

 3ヶ月後・・・

 

「――“無空波”!!」

 

 裂帛の気合とともに、イオリアと密着状態だった木がドウッと音を立てながら倒れる。そう、イオリアは宣言通り圓明流の奥義を一つ習得したのである。

 

 ここに至るまで、それはもう大変だった。腕を壊しては、治癒魔法をかけアイリスに怒られる。また腕を壊しては、治癒魔法をかけリネットに泣かれる、さらに腕を壊しては、リリスを怒らせて治癒してもらえず、それでも諦めずに鍛錬を続け、ついに会得したのである。

 

 イオリアは、内心狂喜乱舞した。憧れのカッコイイ技を再現できることがこれで証明されたのだ。

 

「マスター、すごいです! さすがです!」

「いや、本当に会得しちゃったね。ボク達も、リリスに隠れてマスターを治癒してた甲斐があったよ。おめでとう」

 

 いや~と頭を掻きながら照れるイオリア。そんな自分達のマスターを見ながら、ミクとテトはイオリアに気づかれないように注意して念話をしていた。

 

(う~テトちゃん、どうしよう。マスターやっぱり気づいてないよね? 私達に再現させてたからこそ鮮明に覚えてるってこと)

(うん、完全に忘れてるね。でも、気づくまではソっとしとこう、ミクちゃん。あんなに盛り上がって死ぬ気で会得した技を、ボク達があっさり再現できるとか……マスター泣いちゃいそうだし)

 

 そんな、会話が二人の間でされているとは露知らず、イオリアは、次の技はやはりあれだな!と意気揚々と新たな技の会得に奮闘するのだった。

 

 1年後、本当に記憶にある限り技を会得したイオリアだったが、ミク達がエセ技で練度は相当下がるとは言え、普通に再現できることに気づき、案の上、崩れ落ちたのだった。

 

 

 

 

 

 学校長の話が未だ続く中、イオリアは当時のことを思い出し遠い目をした。

 

(あの後、ミクやテトが再現できない技の会得に躍起になったっけ。技のストックも無くなって、オリジナル技の開発までしたものな。いや、若かった。……そういえば、その躍起になってる最中だったか、「音楽の才能」が思わず突っ込み入れたくなるレベルのとんでもない代物だと気づいたの。)

 

 イオリアは、既に話がループし始めた学校長のお話を聞き流しながら、再び過去に意識を飛ばした。

 

 

 

 

 

 イオリアは、いつものように鍛錬の場である森の中に一人で来ていた。

 

 別に、ミク達に愛想を尽かされたわけではない。二人は、アイリス達が用事を頼まれ遅れてくることになっているのだ。

 

 イオリアは、新たな技の鍛錬でもしようかと一瞬悩んだが、何となく久々に一人で演奏してみようかと思い立った。

 

 イオリアの傍には、二人が生まれてから常にどちらかは必ずいたので、必然、イオリアが歌ったり演奏すればミク達も乗ってくる。それは、楽しいことで何の不満もないのだが、折角の機会なので久しぶりに一人で存分に演奏しようと思ったのだ。

 

「セレス、セットアップだ。バリサクモードで。」

「set up, mode baritone saxophone 」

 

 イオリアは、セレスをバリトンサックスモードにし、一つ深呼吸をすると息を吹き込んだ。

 

 森の中に、バリトンサックスの重厚な音色が響き渡る。イオリアは、ジャズ風にアレンジした曲や、アニソンでバリサクの重低音に合う曲を選曲し、次々と奏でていった。

 

 木々の隙間から差し込む日の光が、黄金色のバリサクに反射してイオリアの周囲をキラキラと彩る。仮に、この場に通りがかるものがいれば、軽快なリズムと腹の底にまで響く音色に耳を奪われ、次いで、輝く奏者に目を奪われたことだろう。

 

 数十曲ほど演奏して、とりあえず満足したイオリアは、次で最後の曲にしようとマウスピースを咥えた。

 

 その瞬間、強風が吹き、舞った木の葉がイオリアの鼻先を掠めた。それにより、鼻をムズムズさせたイオリアは、思わず大きく息を吸いマウスピースを咥えたままくしゃみをしてしまった。

 

 その結果……

 

 イオリアを中心に半径10mが根こそぎ吹き飛んだ。

 

 周囲に木々はなく、まるで木っ端微塵にでもなったようだ。地面もまるで耕したように抉れている。まさに、爆心地というにふさわしい様相だった。

 

 イオリアは何が起こったのか理解できず、ただ呆然と立ち尽くしていた。

 

 そうすると、木々の向こうから見知った二人がこちらに駆けてくるのが見えた。ミクとテトだ。二人は、イオリアの姿とその周辺の惨状を見て血相を変え、高速機動でイオリアの眼前に現れた。

 

「マスター、無事ですか! 一体、何事ですか!? 敵襲ですか!?」

「これは……マスター、怪我は?平気?一体、何があったんだい?」

 

 ミクはもちろんのこと、いつもクールなテトですら若干、焦りが見える。二人共、爆撃でも受けたような場所の中心に、自分達のマスターがいることで相当心配したようだ

 

 イオリアは、未だ呆然としながらもミクとテトの様子に少し冷静さを取り戻し、二人の質問に答えた。

 

 「ありのまま今起こったことを話すぜ

  サックス咥えたままくしゃみをしたら、周囲が吹き飛んでた。

  何を言ってるのか分からないだろうが、俺にも分からない。

  頭がどうにかなりそうだ。

  魔力の暴走とか、幻覚なんてちゃちなものじゃ、断じてない。

  もっと、恐ろしいものの片鱗を味わってるぜ、現在進行形で……」

 

 まったく冷静さを取り戻せていなかった。ミクとテトは、テンプレな返しをしたイオリアに大丈夫そうだと安堵するとともに、イオリアに改めて、この現象について心当たりがあるのか聞いてみた。

 

「え~と、マスター。サックス吹いてこうなったってことは、やっぱり音楽の才能が関係してるんですか?」

「マスターが、今更、魔力を暴走させるとかありえないしね。状況から見てそれしかないよね?」

 

 二人からの質問に、今度こそ正気を取り戻したイオリアは、しばらく考え込んだあとハッと何かに気づいた様子を見せた。そして、徐々に表情に苦々しさが現れた。

 

「心当たりは……ある。間違いなく音楽の才能が関係してる。それに、この現象も知ってる。間違いなく、音の衝撃波だ。某砂漠の星の殺人音楽家が、同じようにサックスで衝撃波を飛ばしたり、固有振動と共鳴を利用して脳を直接破壊したり、音を相殺して無音領域作ったりしてた」

 

「あぁ~あれですか。確かに記憶にありますね」

「マスターも同じことできるのかい?」

 

「……多分できる。実は、結構前から、半径200mくらいなら音を聞き分けられるようになってたし、今も徐々に範囲が広がってる。セレスも、父さん達が魔改造したものだから頑丈さも出せる音域も一般的な楽器の比じゃない。条件は揃ってる」

 

 そういって、イオリアは、マウスピースを咥えるとバリサクを吹き鳴らし始めた。

 

 ひどく集中してるのか額には汗が浮き、こめかみの血管が浮き出始めている。

 

 その様子を心配そうに見つめていた二人だが、しばらくすると異変に気づいた。周囲から音が消え始めているのだ。

 

 森の中である以上、街中に比べ元より静かではある。しかし、決して無音ではない。風の吹く音、葉が擦れ合う音、落ち葉の舞う音など森の中でも様々な音がする。今は、ミクとテトの衣擦れの音なんかもある。

 

 しかし、それらの音が徐々に聞こえなくなり、しばらくすると完全な無音になった。

 

 イオリアは、今やはっきりわかるほど血管を浮き上がらせながら、リアルタイムで雑音や共鳴を聞き分けて逆位相の音を演奏し続けているのだ。

 

 イオリアは、完全に音を消せたのを確認したのか、演奏を止めふぅーと大きく息を吐いた。袖口で額の汗を拭うと、二人に視線を向け、

 

「やっぱ、できちまったよ。俺もついに化け物ーズに仲間入りか・・・」

 

 と、遠い目をしだした。

 

 そんなイオリアに対し、テトとミクは顔を見合わせて苦笑いをし、イオリアに向けて二人揃ってサムズアップした。

 

「「今更です(だよ)」」

 

「な、何だと? ちょっと聞き捨てならないんだけど。それじゃ、俺が既に化物級だったみたいじゃないか、俺は至って平凡で、多少強くはあるが、あくまで努力で手に入る範疇だぞ?」

 

 そんな自分の化物っぷりに、全く自覚のないイオリアに、ミクとテトは懇切丁寧に説明を始めた。

 

「10歳で覇王流免許皆伝」

 

「ぐっ」

 

「音楽の才能は他の追随を許さず」

 

「うっ」

 

「漫画のとんでも技を次々と会得」

 

「……」

 

「客観的に見れば、未だ融合事故が多い中で、二機のユニデバを適合率100%で所持」

 

「ユニゾンすれば、Sランクに届きますよね」

 

「……認めましょう! 俺はとんでもキャラですよ!」

 

 ガクと膝を付くイオリアに、ミクとテトは、うんうんと頷き、

 

「「さすが、マスター」」

 

 と、声を揃えて笑った。

 




いかがでしたか?

楽しんでもらえたなら嬉しいです。

イオリアは順調よくチート化しているようです。

次回は、続き。古代ベルカを代表するあの二人が出てきます。

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