重ねたキズナと巡る世界   作:唯の厨二好き

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第55話 龍神様の腐攻撃

 

「ふん、結局、【覇輝】破りの片鱗も分からなかったじゃねぇか」

 

 不満そうな声で、そう愚痴を零したのは帝釈天だった。グレモリー眷属と伊織の戦いは、どうやら余りお気に召さなかったらしい。

 

「やっぱり、うちの猿が相手する方がよかったなァ」

「そうでもないぜぃ? 赤龍帝の小僧も聖魔剣の小僧も中々のもんを見せくれたじゃねぇの。それに、魔獣共の特性もしっかりとなァ」

 

 帝釈天の愚痴に、闘勝戦仏が苦笑い気味に答える。実際、曹操達と相対した時のような戦闘はなかったが、それは曹操達から聞けばある程度わかることであり、だとすれば、神滅具の本領を見せた今回の戦いは、まずまず神仏達を満足させるものであった。

 

「だがよォ、あの魔獣にしたって未だ本気って感じじゃねぇだろうがァ。おい、アザゼル。そこんとこどうなんだよ?」

 

 水を向けられたアザゼルが、少し逡巡した様子の後、どこか警戒したような眼差しを帝釈天に向けながら答えた。

 

「まぁ、俺の知る限り八割前後ってところだな。だが、あいつの【魔獣創造】は、常時禁手化ともいうべき特異な進化を遂げている。――【進軍するアリスの魔獣】それが、伊織の禁手化の名だが、異例過ぎて全貌はさっぱりわからん。通常の発動状態と禁手化の区別がないなんて前例がないからな。ただ、ジャバウォックが最大の攻撃である反物質砲を使わなかったことからも、あれでまだ全力でないのは確かだし、未だ、伸びしろがあるらしいということは聞いている」

 

 実際、ジャバウォックを含め伊織の魔獣達は、もう一つ禁手としての能力があるのだが、それについては実際、アザゼルも知らないので嘘はついていない。もっとも、知っていても、アザゼルは伊織が見せた以上の事を帝釈天には伝えなかっただろう。帝釈天もまた、ハーデスと同じくらい胡散臭く、和を求めるような大人しい気性の人物ではないからだ。

 

 アザゼルの物言いもあるのだろうが、思ったような回答が得られず帝釈天の機嫌は更に下降した。若干、不穏な空気が流れる中、そんな雰囲気を払うようにオーディンが楽しげな声を上げる。

 

「ほっほっほっ、それにしても、前赤龍帝が【魔獣創造】の小僧の父親とはのぉ? おっぱいは夢か……中々、含蓄のある言葉を残しよる。そこんところどうじゃ? おっぱいが残念な三人娘よ?」

「死ねばいいと思います」

「地獄に落ちればいいと思うよ」

「この手で首り殺せないのが残念でならんな」

 

 ドス黒い瘴気を撒き散らしながら、辛辣な返事をするミク、テト、エヴァ。何故か、その隣で蓮が自分のぺったんこな胸をペタペタと触っている。

 

「まぁまぁ、そう憤るでない、三人とも。例え、成長した九重が夢と希望で胸をたぷんたぷんにして伊織を満足させても、主等に対する愛情は変わらんよ。きっと、たぶん、おそらくの?」

 

 八坂のニヤついた笑みとセリフ、そして、九重の将来を示すように誇示された八坂自身の見事な双丘にミク達の「あぁん!?」とヤクザのような声音と視線が突き刺さった。

 

 強調されて着崩した着物から今にもこぼれ落ちそうな瑞々しいメロン、いや、スイカがふるふると震え、オーディンやアザゼルを筆頭に他の神仏達の視線をも釘付けにする。……やはり、おっぱいには、神仏すら魅了する夢と希望が詰まっているのかもしれない。

 

 帝釈天だけは、上手く場の雰囲気を誘導された事に気がついてオーディンと八坂に鬱陶しげな眼差しを送ったが、直ぐに気を取り直して元のファンキーな雰囲気を取り繕った。

 

 その後、少々の話し合いを経て、会議は本格的にお開きとなった。結論としては、当初と変わらない。蓮に関しては伊織に任せて放置。触らぬ龍神に祟りなしということだ。伊織に関しても、特に曹操達のような戦闘狂の気もなく、話してみて危険思想を持っている様子もないので、その実力の片鱗を見て報告内容もあながち間違いではないだろうと判断し、一応の信用をすることになったようだ。

 

 

 

 

 

 会場からある程度離れ場所で、帝釈天が闘勝戦仏と幾人かの護衛を伴って須弥山に帰ろうとしたとき、不意に人影が歩み寄って来た。小さな黒い人影――蓮だ。

 

「お? オーフィスじゃねぇの。どうしたよ? なんか用かァ?」

 

 明らかに帝釈天に用がある言わんばかりの眼差しを向ける蓮に、帝釈天は実にフランクな感じで先に声をかけた。闘勝戦仏は兎も角、他の護衛は、【無限の龍神】が無言で歩み寄ってくる事に不穏なものを感じたのか緊張に表情を強ばらせて身構える。

 

 そんな彼等を無視して、蓮は、一定の距離を置いて立ち止まった。

 

「オーフィスじゃない。我は、蓮。蓮と呼べ」

「HAHAHAッ! 【魔獣創造】のガキに貰った名前かァ? マジで気に入っちゃんてんのなァ? あの【無限の龍神】ともあろうものが、変われば変わるもんだ。で? わざわざそれを言いに来たんかよ?」

 

 ふるふると首を振った蓮は、その目をスっと細めるとピンポイントで帝釈天達に叩きつけるように力を解放した。全力には程遠い、警告的な意味合いでの僅かな力の行使だが、それだけで帝釈天と闘勝戦仏以外の護衛達は皆膝を付いてしまった。顔からは大量の汗が噴き出ている。

 

「……おいおいおい。何のつもりだァ? まさかやろうってのか?」

「違う。これは忠告。今日の集まりで、一番危険なのはお前。間違っても我の家族に手を出さないように」

 

 帝釈天は、言動の軽さに反してプライドはそれこそ天を衝くほど高い。己は天そのものと考えており、自分より強いものの存在には無条件で敵意を抱くような存在なのだ。

 

 そして、その実力は武神の名に恥じないもので、あのアザゼルでさえ太刀打ち出来ないレベルだ。今日の集まりにやって来た各神話の神仏と比べても、オーディンや魔王を除けば頭の一つ二つ余裕で飛び出す強さなのだ。当然、伊織ともっとも近しい八坂では全く歯が立たないだろう。

 

 故に、帝釈天を歯牙にもかけない龍神である蓮と強く結びついている伊織達の事を穏やかな目で見ることなど有り得ない。むしろ、現在進行形で敵意を抱いるはずである。なので、蓮を敵に回すような下手な事をするとは思えないが、今一度釘を刺しておきたかったのだ。

 

「……ほぅ。そんときは、てめぇ自ら俺等と戦争でもするってか?」

 

 プライド故に、やや挑発するように返してしまう帝釈天。そんな彼に、蓮は、「フッ」と鼻で笑ってどこか馬鹿にするような表情になると、おもむろに懐から黒い板を出した。そして、訝しむ帝釈天にその板――スマホを掲げると、

 

パシャ! パシャ! パシャ!

 

 と、彼の姿を激写し出した。

 

「……なにやってんだ?」

 

 現代文明の利器を華麗に使いこなす龍神の姿に、さしもの帝釈天も若干困惑したような表情になる。しかし、その真意を聞いた途端、武神にあるまじき動揺を見せた。

 

「ふっふっふ、お前がいくら強くても、目に見えない広大な電子の海にまでは手を出せない。そして、我は、そんな電子世界の新たな神“龍神p”――我がその気になれば、世界中にお前の写真がばら撒かれ、歴史上類を見ない変態野郎として名を残すことになる」

「……」

「“聖☆お○いさん”のようにパロディ化して、間抜けな帝釈天をばら撒くのもあり。あるいは、お前が嫌っている他の神話の神々――ゼウスやオーディンと掛け算した薄い本を出すのも。受けは当然お前。帝釈天という存在に対する人々に認識は我の掌の上と思うがいい!」

 

 えげつなかった。力云々ではどうにも出来ないところが最悪だった。そして、早速スマホで帝釈天の画像を加工して、隣に控えている闘勝戦仏の猿顔とマズイ感じにし、どこかに転送しながら浮かべる笑みは、実にあくどい感じだった。

 

 蓮の言っている事が十全に理解できたとは言えないが、それでも、下手なことをすれば、自分はとんでもない変態として世界に認知されてしまうという事だけは理解した帝釈天。その頬は、盛大に引き攣っている。

 

 一体誰が、神に対して、それも最古のドラゴンが、情報戦争を仕掛けてくるなどと思えるのか。全く予想外の警告内容に、帝釈天はいろんな意味で戦慄を覚えた。

 

 と、そこへ、物凄い勢いで駆けてくる人物が。

 

「蓮! そこで何やってる!」

「ゲェ!? 伊織!?」

 

 龍神が「ゲェ!?」と言った時点で凄まじくシュールなのだが、それが気にならないほど、どうしたものかと困惑していた帝釈天は、その駆けつけた人物――東雲伊織に視線を向けた。

 

 帝釈天のどこか引き攣った表情と困惑したような眼差しを受けて、伊織は瞬時に蓮が何をしたのか察する。

 

「帝釈天様。うちの蓮が申し訳ない。ただ私達を想ってのことなのです。それだけはどうかご理解頂きたい」

「……【魔獣創造】の坊ちゃんよォ? お前さん、こいつに何吹き込んだんだァ? 龍神のくせに有り得ない嫌がらせを宣言されたぜ?」

 

 いくら蓮が自分達の事を思って何かをしたのだと分かっていても、和平同盟の面々が集まっている中で事を荒立てるのは好ましくない。しかも、武神の頬を引き攣らせる方法など限られており、人間同士であっても「それはやっちゃダメだろう?」という方法を提示したに違いないので、一応、謝罪の言葉を口にする伊織。

 

 帝釈天は、伊織が蓮に仕込んだと勘違いしたようで、どこかおぞましいものを見るような眼差しを伊織に向けている。図らずとも、どうやら世界トップクラスの武神に畏怖を与えてしまったらしい。

 

 一方の蓮は、伊織が謝罪したことに物凄く不満そうな表情となった。唇を尖らせて、文句を言う。

 

「……伊織、謝る必要ない。こいつは危険。調子に乗る前にヤキを入れとく必要が……」

「あのなぁ、蓮、何ヤンキーみたいな事言ってるんだ。和平同盟を結んだって言っても、そもそも聖書の神に領域を犯された神々が腹に何も抱えてない分けないだろう? 危険性で言えば、全ての神話の神々が等しく危険なんだよ。最初から覚悟してるから、わざわざこっちから吹っかけるような事しなくていいんだ。……でも、まぁ、俺達を想ってしてくれたのは嬉しいよ。ありがとな」

「むぅ……仕方ない。おい、ファンキージジイ。伊織に免じて“受け”は勘弁してやッブッ!?」

 

 伊織の言葉に渋々頷いて、しかし、物凄く不遜な態度で帝釈天に上から目線の言葉を送る蓮に、全く話を理解していないどころか、その言葉から蓮が帝釈天を“腐”の餌食にしようとしていた事を知り伊織のゲンコツが炸裂した。

 

 某七武海の見下しすぎな女帝のポーズをとっていた蓮は、頭部にゲンコツを受けてそのまま地面をのたうつ。

 

「……蓮。後でOHANASIがあるから、取り敢えず、これ持ってなさい」

「伊織は我に厳しい……」

 

 伊織は、どこからともなく取り出したボードを蓮に持たせる。何だかんだで素直に受け取った蓮は、唇をアヒルみたいに尖らせてボードを胸の前に掲げた。そこには達筆な文字で「龍神は聞き分けのない子です。只今、猛省中」と書かれていた。

 

 そんな二人の仲睦まじい? 様子に唖然としていた帝釈天は、傍らの闘勝戦仏が堪えきれずに吹き出したのを皮切りに、同じように爆笑し始めた。それに、「おのれ……」と蓮が怨嗟のこもった呟きを漏らす。

 

「いやぁ~、いいもん見れたぜぇ! ここまで笑ったのは久しぶりだ。【魔獣創造】の坊主よぉ、お前さん、中々いいZE! 取り敢えず、手は出さずに人間と龍神の行く末ってやつを見ててやんよ!」

「うむうむ。赤龍帝や白龍皇といい、今代の若もんは面白い。気張れよォ、坊主。おじいちゃんは応援してるぜぃ!」

 

 帝釈天と闘勝戦仏から機嫌のいいお言葉を貰った伊織と蓮は、彼等が転移術で消えるのを見送った。そして、改めて、蓮に気遣ってくれた事への礼を述べつつ、“腐”に関してささやかな家族会議をしながら、皆のもとへ戻るのだった。

 

 

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 その後、一誠達の見舞いを行ったり、会議の後片付けや、八坂とセラフォルーの具体的な和平条約締結の手伝いをしたりして時を過ごした。

 

 一誠達に関しては、伊織一人にやられたことでギクシャクしたりしないかと心配したが、どうやら杞憂だったらしい。お見舞いに行けば、意欲旺盛に意見交換を行い、むしろ、いい経験になったと礼を言われたくらいだった。

 

 特に、一誠が【赤龍帝の三叉成駒】に目覚めた事、そして、魔獣ナイトとの戦闘で佑斗が新たな禁手に目覚めた事で、二人からは盛大に礼を言われた。ナイトは、ジャバウォックに次ぐ戦闘力を持っているので、佑斗としては良い切っかけになったようだ。

 

 一誠達は、その後、何事もなく修学旅行に戻り、リアス達もサーゼクスと共に駒王学園に戻っていった。

 

 それからしばらくして、駒王学園学園祭を間近に控えた一誠達がサイラオーグ・バアルとのレーティングゲームに挑み、カオス・ブリゲードの残党や、地下に潜った正体不明の集団が襲撃する可能性に備えて、伊織達が応援がてら警備を引き受けたり、その戦いで一誠が更なる躍進を遂げた挙句、リアスに公開告白を行って見事恋人同士になったり、という何とも記憶に残る出来事があった。

 

 また、学園祭では、伊織達が遊びに行き、“ストック”のサプライズライブを行うという出来事もあった。駒王学園がプチパニックになったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 それから幾月かは、割と平穏な日々が続いた。未だに潜伏中のカオス・ブリゲードが、まるで嵐の前の静けさのようで不気味ではあったが、テロ続きの日常にうんざりしていたこともあって、伊織達は平和を満喫していた。

 

 そんなある日、再びアザゼルから連絡が来る。珍しい事に伊織宛ではなく、エヴァ宛だった。

 

 その内容は、

 

――吸血鬼の特使との会談に同席して欲しい

 

 というものだった。

 




いかがでしたか?

五千字書いて、少なっと思う今日この頃。
まぁ、閑話的な話だとでも思って頂ければ……

次回から、いよいよハイスク編の最終章に入ります。
また、沢山戦闘を書きます。
作者、ヒャッハーして気持ちよさそうだな~と思いながら、一緒に楽しんで貰えれば嬉しいです。

更新は18時です。

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