重ねたキズナと巡る世界   作:唯の厨二好き

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前話と同様に回想です。


第5話 聖王様 覇王様

 学校長の話は、ついに3度目のループに突入した。既に、学生達の目は虚ろになってきており、保護者や教員達からは殺気が漂い始めている。

 

 そんな場の空気を華麗にスルーして、イオリアは当時のことを思い出し苦笑いをしそうになり、慌てて無表情を取り繕った。

 

(あれから、さらに可聴領域も広がって半径1kmは聞き分けられるもんな。化物と言われても仕方ない。自分でもそう思うし……もう某ホーンフリークさん超えてるんじゃなかろうな……そういえば、あの人達にも化物扱いされたっけ? あんな最強レベルの使い手にまで……ていうか、何で俺、歴史上の英雄達と素で親交持ってるんだよ、何かやたら気に入られてるっぽいし……)

 

 イオリアは、まさか邂逅するどころか、親交を持つことになるとは微塵も思っていなかった人達との出会いを思い出した。

 

 学校長は、ノリに乗って話を続けている。まだ、しばらくは掛かりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 その日、イオリア達は、ここ1年ほど定期的に行っている路上ライブに来ていた。

 

 始めてすぐの頃から、一定のファンが付いたようで不定期公演であるにもかかわらず、イオリア達が演奏の準備を始めるとワラワラと人が集まり、直ぐさま連絡網が回されさらに人が集まってくる。

 

 かなり広い場所でなければ確実に交通妨害になるので、イオリア達は当初、場所の確保に随分苦労した。郊外にある大きな森林公園が現在のライブの定番の場所になっている。

 

 その日も既に大勢の人々が、イオリア達のライブを今か今かとキラキラした瞳で待っていた。

 

 一体、こんな短時間でどうやって集まってくるのか。イオリアは内心疑問に思いながらも、自分達の演奏を心待ちにしてくれることを嬉しく思った。

 

「え~、皆さん10日ぶりのライブです。初めての人もそうでない人も存分に堪能していって下さい!」

 

 イオリアがそう声をかけると、観客は爆発したように歓声をあげた。

 

 その様子を見て、イオリア達も楽しげな笑みを浮かべる。そして、ミクがハンディタイプのキーボードを肩に掛けながら前に出た。イオリアはヴァイオリンを持ってミクの左手の若干後ろに、テトはギターを肩に掛けミクの右手側後ろに控えた。

 

 初手はミクがボーカルだ。観客の歓声に応えるように最初はアップテンポな曲でいく。三人は顔を見合わせ、一つ頷くと一気に楽器を掻き鳴らした。

 

 イオリアのヴァイオリンが伸びやかに響き渡り、テトのギターとミクのキーボードが演奏に深みを与える。セレスにあらかじめ音源を取っておいたドラムや他の楽器がさらに華を添える。

 

 演奏が始まった瞬間、今まで歓声を上げていた観客は一斉に静まり返った。どんな雑音も出すまいと、ただの一瞬も聞き逃すまいと、楽しげでありながら真剣な表情でイオリア達の音楽に浸る。

 

 そして、我らの歌姫がついに歌いだす。どこまでも澄み切った声。高めの声のはずなのに、全く不快さを感じないどころか快楽すら感じてしまう。観客は陶然としながらその美声に聞き惚れる。

 

 終始、心底楽しげに歌い休みなく次の曲に移行する。今度の曲は同じようにアップテンポな曲ではあるが、先の曲と異なりどこか悪戯さが含まれている。歌詞も悪戯好きの少年少女を歌っているようだ。ミクの表情もどこか悪戯めいている。

 

 観客たちの内、それなりの人数がその表情を見て頬を赤らめていた。主に男だが。

 

 それからさらに数曲演奏し、ボーカルをテトが代わったり、観客のリクエストに応えたり、暴走した一部の男性ファンがミクとテトに近づこうとして他のファンに叩き出されたりしながら、その日のライブを終えた。

 

 イオリア達が、その場に残った幾人かの友人やファンと雑談をしていると、不意に近づいてくる二人がいた。ものすごく怪しい二人が。

 

 その二人は、揃いのサングラスをかけ、帽子を目深にかぶり、口元をマスクで隠していた。どう見ても不審者である。イオリアは危機感が働かないので様子を見ることにしたが、他の皆は警戒心を露わにした

 

「いや、そんなに警戒しないで欲しい。怪しいものではない。少し君たちと話がしてみたいのだ。」

 

 そう言って、両手を上げながらなお近づいてくる男。

 

「君が怪しくなければ、世の中に不審者なんて存在しないよ?」

「う~、マスター! こんな格好しながら、自分は怪しくないって堂々というこの人の神経が怖いですよ~」

「ミクさん、テトさん、近づいちゃダメだ! 下がって! おい、お前、それ以上近寄るな!」

「そうですよ、ミクさん。ここは僕に任せて先に行ってください! なに、直ぐに追いつきますよ(フッ)」

「あっ、てめぇ、何一人カッコつけてんだ! MTF(ミクテトファンクラブ)鉄の掟第2条を忘れたのか!」

「あ、イオリア。お前はもう帰っていいぞ。二人のことは俺たちに任せろ!」

 

 場は一瞬でカオスと化した。不審者への混乱というより、ミクとテトを巡る欲望がダダ漏れになっているせいだろう。

 

 イオリアは、友人関係を見直すべきかもしれないと半ば本気で考えながら、頬をヒクつかせ、取り敢えずミクとテト以外の騒いでいる全員を殴り倒した。

 

「アホか、お前ら。欲望ダダ漏れじゃねぇか! いいから、今日はもう帰れ! シッシッ!」

 

 イオリアは、まるで犬でも追い払うかのように手を振った。

 

 殴り倒された連中は、ブツブツと文句を言いつつもイオリアの強さを知っている連中ばかりだったので大人しく帰っていった。

 

 去り際に、

 

「夜道には気をつけろよ、このリア充が。」

「何時までも、お前の天下と思うなよ、爆発しろ」

「これだからモテるヤツは……空気読めよ、今のはミクさんが僕に惚れるシーンだろ?ったく」

 

 イオリアのこめかみに青筋が入る。そして無言で構えた。

 

「覇王断――」

 

「わ~マスター、ダメですよ~! 皆さん、逃げて~早く逃げて~!」

「落ち着いてマスター、それはマズイ。彼らがタダの肉片になっちゃうよ」

 

 イオリアがキレたのを察した友人達は「わ~」と気の抜けるような掛け声とともに蜘蛛の子を散らすように逃げ帰っていった。

 

 その間、完全に放置されていた不審者は、イオリアが出そうとした技に少し驚いたような素振りを見せつつ、放置されたことにどことなく悲しそうな雰囲気でイオリアに声を掛けた。

 

「あ~、愉快な友人達だな。それで、そろそろいいか?」

 

 その声に、ようやくこの場には二人の不審者がいることを思い出し、イオリア達は気を取り直して不審者に向き直った。

 

「さっきから、やたら不審者と連呼されている気がするのだが……」

 

 的確にイオリア達の心情を察知する不審者その1。

 

「クラウス……だから言ったではありませんか。この格好は逆に目立つと。不審者以外の何者でもありませんよ……」

 

 ため息をつきながら、そう指摘し、サングラスやマスクを取る不審者その2。その素顔は、優しい顔立ちの少女だった。だが、驚くべきはその瞳である。右が翠、左が紅というオッドアイだったのだ。帽子の隙間から見える髪の色は綺麗な金髪。

 

 どうみても聖王様だった。

 

「そうはいいますが、オリヴィエ。一応お忍びなわけで、変装は必須ですよ。怪しいのは認めますが、逆にこれだけ怪しければ誰も近寄ってこないでしょう」

 

 そう言って弁明しながら、サングラスとマスクをとった男の瞳は、右が紺、左が青で、帽子から除く髪は碧銀色だった。どう見ても覇王様だった。

 

「何で、ここに聖王様と覇王様がお揃いでいらっしゃるのですか?」

 

 イオリアは、内心、冷や汗を大量に掻きながら必死に表情を取り繕い、違うといいなぁという無駄な願望を抱きつつ確認の意味も含めて尋ねた。

 

「突然の訪問、申し訳ありません。最近シュトゥラに素晴らしい演奏する者達がいると聞いて、クラウスと聞きに来たのです。申し遅れましたが、お察しの通り、私の名前はオリヴィエ・ゼーゲブレヒト。聖王家の人間です。」

 

「私の名は、クラウス・G・S・イングヴァルトだ。まだ、覇王などと言われるほどではないと思うがな。」

 

 そう言って、クラウスは手を差し出した。イオリアは緊張しつつ、やっぱりかと思いながら握手に応じた。

 

「イオリア・ルーベルスです。こっちの二人はミクとテト。私達の音楽をわざわざ聴きに来て頂けるとは光栄です。」

 

「そんなに畏まらなくともよい。今は、私もオリヴィエも一個人だ。それにしても、ふむ、やっぱり武術をする者の手だな。先ほど繰り出そうとしたのは断空拳か。その年で既に会得しているとは大したものだ。しかし、君は音楽家だろう? 音楽と武術、いささか不釣り合いな気がするが……」

 

 クラウスの最もな疑問に、イオリアは苦笑いを浮かべた。

 

「母であるアイリス・ルーベルスが元軍属でして、覇王流を修めているので幼少の時より教わっていました。音楽は純然たる趣味です」

 

「あれだけの素晴らしい演奏が、ただの趣味なのですか? イオリア君はプロを目指しているのではないのですか?」

 

 聖王姫に君付けで呼ばれたことにくすぐったさを感じながら、イオリアは「あくまで趣味です。将来は、わかりませんが……」と応えた。

 

 古代ベルカの歴史を詳しく知らないイオリアだが、そのままの歴史を辿るなら、いずれ本格的な戦争と悲劇が起こる可能性が高いと考えているので、それらから大切な人達を守り切るまでは将来のことに気を回せなかったのだ。

 

「ふむ、将来は未定か。ならイオリア、私の騎士にならないか?」

 

 クラウスは突然、とんでもないことを提案した。覇王様直々のスカウトなうえ、ニュアンスから言って直属でという意味だろう。

 

 ありえない提案に、今度こそ頬が引き攣るのを隠せなかったイオリアは、クラウスに真意を確認した。

 

「……どういうおつもりですか。覇王様の直属って意味ですよね? 俺みたいな初等部も卒業してないような子供にそんな……」

 

「クラウス、私にもお聞かせ願えますか? もし、いたずらに興味本位でそんなことを言っているのなら……あなたの提案は、彼の人生を決定づけてしまいかねないものなのですよ?」

 

 クラウスは、そんなイオリアとオリヴィエの様子に落ち着けと手で制した。

 

「気が付きませんでしたか? オリヴィエ。イオリアは相当できますよ。おそらく、その辺の騎士より強い。おまけに音楽は天上。まだこの年齢で、です。王家の者として、これほどの人材を放置する方がどうかしています。」

 

「それは……、確かに彼からは強者の力を感じますね。音楽に気を取られすぎて気が付かないとは、相当浮かれていたようです。しかし、イオリア君の意思は……」

 

「もちろん、強制じゃありません。ただ、少なくとも、将来の選択肢として上位に入れておいて欲しいのです」

 

 何やら、勝手に話が進んでいく上に、戦ってもいないのにやたら戦闘力を高評価され、イオリアはどうしたものかと頭を捻った。

 

「あの~、なんか随分と高評価頂いてますけど、覇王様の直属になれるほどでは……買いかぶりでは……」

 

「クラウスでいい。私は、相手の力量を読み誤るほど未熟ではなないつもりだ。・・・あまり自分を下に見るべきではない。過ぎた謙虚は、君を信頼する者に対する侮辱にもなるぞ」

 

 そういったクラウスは、チラリとミク達を見た。その視線を辿ったイオリアは二人と目が合い、彼女達が随分と得意げな表情をしてイオリアを見つめているのに気がついた。

 

 ミクもテトも、自分達のマスターが王様に直接スカウトされるほど評価されていることが誇らしかったのだ。

 

「マスター! すごいじゃないですか。王様直々のスカウトですよ。考えて見てはどうですか」

「そうだね。マスター、音楽ができなくなるわけでもなさそうだし、せっかくそんなに鍛えたんだから考えてみてもいいと思うよ?」

 

 ミクとテトは、イオリアが何のために強くなろうとしているのか知っている。それは、いずれ訪れるであろう悲劇から大切な人達を守るためだ。だが、戦争がいつ起こるか分からない以上、イオリアはそれまでにも多くの人々と出会い大切に思うことだろう。

 

 もう、家族だけとは言っていられないはず。イオリアとはそういう人間なのだ。だからこそ、一番情報が入りやすく事態に介入しやすいだろうクラウスの提案は渡りに船と思えたのだ。

 

 一方、イオリアもミク達と同じ結論に達していた。

 

 初めは家族さえ無事ならいい、いざとなれば家族だけ連れてさっさと逃げようとさえ思っていたが、今はもうそんな決断ができるとは思えなかった。

 

 学校で出会った友人たちや、毎回、自分たちの音楽を楽しみにしてくれるファンの人々、よく行く店の人達、彼らもまた、既にイオリアの大切に含まれてしまった。

 

 甘い考えではあるだろう。しかし、前世から培った性質はもはや変えようがない。

 

 イオリアは決断した。

 

「クラウス様、その話、お受けしようと思います」

 

「おお~、そうか。それは嬉しいことだ。では、さっそく関係者に……」

 

 はやるクラウスは早速手続きでもしそうな勢いだ。オリヴィエも心配そうであるが、どことなく嬉しそうだ。音楽が身近で堪能できるからだろうか? 

 

 だが、そんな二人に、イオリアは待ったをかけた。

 

「待ってください。クラウス様。話はお受けしますが、今すぐはお受けできません。便宜を図って頂く必要もありません」

 

「それはどういうことだ?」

 

 訝しそうな表情を見せるクラウス。オリヴィエも疑問顔である。そんな二人にイオリアは真っ直ぐ視線を向け宣言した。

 

「自分で行きます。その場所へ」

 

 イオリアの宣言に、その意図を察したのであろうクラウスは思わず瞠目した。

 

 ベルカの騎士といえば、いわばエリートだ。騎士学校を出て試験を受け、何れかの国で叙任を受けなければならない。その道は容易ではなく厳しい訓練が待っている。

 

 ただ例外的に、三王家・四皇家・四帝家の血族が直接認めた者もベルカの騎士を名乗ることができる。

 

 クラウスがイオリアに提案したのはそういうものだが、別段珍しいことではない。これらの家と縁のある者は、コネを使って騎士となるのが普通だ。騎士学校で何年も勉強するなどコネを全く持たない平民などが普通である。

 

 クラウスには、なぜわざわざ面倒な道を選ぶのか疑問に思った。

 

「理由を聞いていいか? 私の叙任では不満か?」

 

「いいえ、評価して頂けたことは素直にうれしいです。しかし、俺はまだ子供です。戦闘力はあっても、俺はこのベルカについてまだまだ無知の域をでないんです。騎士の心構えもあり方も知りません。最近少し余裕が出てきて、これから色々知っていこうと考えてました。だから、俺が自分でそこに行くまで待っていてもらえませんか?」

 

 クラウスもオリヴィエも、イオリアの言葉を聞いて一体どこが子供かと心中で反論した。

 

 自分を無知と断じ、漫然と力を振るうことを許さないなどと言える者が、そんな考え方をできる者が子供のはずがない。大の大人ですら難しいことだ。

 

「そのような考え方ができるなら心配ないと思いますが。確かにあなたは騎士になるには相当若いですが、王家の縁者ではそれほど珍しくはありませんし、騎士をしながら学ぶこともできると思いますよ?」

 

 オリヴィエは、率直に自分の考えを話した。クラウスも頷いている。

 

「そうかもしれません。……でも、頑張れば自分でできることを投げ出したくない。……俺はもう十二分に与えられているんです。大切なものは全部全部、与えられたものなんです。だから、〝できる〟なら、自分で手に入れる。もう、与えられるだけじゃない。誰かに与えられる人間に俺はなるんです」

 

 ミクとテトをチラリと見て優しげな表情をしたあと、再びクラウス達に視線を向けたイオリアに、今度こそクラウス達は何も言えなかった。

 

 詳しい事情はわからない。だが、その言葉に、その瞳に、宿る意志は間違いなく本物だった。

 

 見つめ合うイオリアとクラウス達だったが、不意にイオリアはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「それに、聖王と覇王が認めた相手が、本当に何年も騎士学校に通うとでも?余裕で飛び級でも何でもして、そこに行ってやりますよ」

 

 その、今までとは打って変わった傲岸不遜な宣言は両王をして破顔させた。

 

「ハハッ、そこまで言うなら、私はただ待つとしよう。もう何も言わんさ」

「ふふ、ここまで清々しい言葉を聞くのは久しぶりですね。騎士になる日が楽しみです」

 

 その後、「興が乗った。イオリア、一手付き合ってもらおう!」といい、半ば強制的に模擬戦が開始され、大人しそうなオリヴィエですら遠慮がちではあるものの、やはり武人の血が騒ぐのか「わ、私も一手よろしいですか?」と聞いていながら、やはり半ば強制的に模擬戦をはじめ、奇しくもイオリアの実力が二人に示された。

 

 結果は、当然、イオリアの敗北だったのだが、両王にかなり本気を出させるほど健闘し、二人は実に満足気な笑みを見せていた。ブッ倒れているイオリアの傍らで。

 

 イオリア達と別れた帰り道、また不審者ルックに戻ったクラウス達は、イオリアを主題に盛り上がっていた。

 

「それにしても、イオリアは、実に面白い少年でしたね」

「ふふ、まるで弟でもできたみたいですね?あなたのそんな表情は初めて見ました」

 

 いつも真面目で落ち着いた雰囲気のクラウスが、どこか少年のように浮かれながら話す姿は、オリヴィエの言う通り、まるで弟を自慢する兄のように見えた。

 

 それに、クラウスは照れるように頬を掻いた。

 

「そういうオリヴィエも、相当気に入ったようですが?」

「ええ、あの年で、あれほど強い意志を示せる者などそうはいません。彼が騎士になる日が本当に楽しみです。……それに」

 

 一瞬、言葉を止めたオリヴィエに、クラウスは続きを促す。

 

「『与えられるより与える人間になりたい』――それはもう、民の考え方ではありません。どちらかといえば、私たちに近い。……ふふ、本当に楽しみな少年です。長い付き合いになる、そんな気がするのです」

 

「確かに。」

 

 二人は、再び笑い合って、新たにできた楽しみに思いを馳せた。

 

 その日のルーベルス家食卓にて、

 

「今日のライブはどうだった? まぁ、大成功でしょうけど」

「そうだな、お前達三人の演奏はすごいからなぁ、うん、流石俺の息子」

「坊ちゃんは正真正銘の天才ですからね! 当然です」

「お兄ちゃん、今度は連れてってね?」

 

「うん、何か聖王と覇王が来て、連絡先交換したよ。あと、俺、将来、騎士になることにした」

 

「えっ?」

「えっ?」

「えっ?」

「ほぇ?」

 

 

 

 

 

(あの後、大変だったな。父さん達からの質問攻めが。でも、リネットの「騎士様になるの?お兄ちゃん、カッコイイ~」は嬉しかったな。リネットは天使だな。むしろ女神だな。セレスに頼んで録画しておけばよかった)

 

 いよいよ、耐え切れず気絶する人がちらほら現れ始めた講堂で、イオリアは過去から意識を戻した。

 

 先程から、副校長の「うぇぉほぅんっ!」という咳払いが響いている。最初は、「ごほん」とか「んっんっ!」とかだったのに、今は何だか奇怪な生物の鳴き声みたいになってきている。

 

 そんな鳴き声など効かんわ! と言わんばかりにお話を続ける学校長の話は、既に4週目、しかも、細部が微妙にアレンジされている。講堂の隅で、教員達が円陣を組んでいることから、そろそろ強行手段に出るかもしれない。

 

 そんな様子をボーと眺めているイオリアだが、初等部を無事卒業し、騎士学校の入学も決まっている。しかも、宣言通り、飛び級して4年制のところを、3年生で入学である。この経緯についても紆余曲折があったのだが別の機会に置いておく。

 

 それより、今のイオリアには気がかりがあった。イオリアの耳に家族の音以外にも、よく知った二人の音が聞こえているのだ。

 

 その内の一人が大分苛立ってるようだ。教員より先に強権を発動するかもしれない。イオリアが、「まさかなぁ~」と思っていると、ついに教員達が動き出した。

 

 咳払いし過ぎてグッタリしている副校長の脇を通り、壇上にあがる階段に脚をかけようとした瞬間、

 

「では、これをもって挨拶と代えさせていただく。卒業生諸君、卒業おめでとう!」

 

 と、学校長は挨拶を締めくくり、実に清々しい笑顔で意気揚々と壇上を降りて行った。

 

 硬直する教員達、ドヤ顔の学校長。

 

 お前らの間に一体何があったんだ、と思わずツッコミを入れずにはいられないイオリアであった。

 

 

 

 

 

 

 家族と合流したイオリアは、先に行くよう促して、人気のない方に歩みを進めた。そこで待っている二人に会いにいくためだ。

 

 そう、クラウスとオリヴィエである。

 

 ここ1年ちょっとで二人とは定期的に連絡を取り合い、ライブにも度々訪れていたのでかなり親しい関係になった。今では、二人のことを、さん付けで呼んでいる。もちろん本人達だけの場合に限られるが。

 

 ちなみに、聖王家のオリヴェエが長くシュトゥラ(覇王家の領地)にいる理由は政治的理由から留学しているからである。

 

「とりあえず、卒業おめでとう、イオリア。しっかり飛び級もしたみたいだな」

「ご卒業おめでとうございます。イオリア君。万事順調のようで喜ばしい限りです」

 

 そういって、クラウスとオリヴィエはやって来たイオリアに笑顔を向けた。イオリアも、二人に笑顔を向けて、わざわざ出向いてくれた二人に礼をいった。

 

「クラウスさん、オリヴィエさん。わざわざ、来てくれてありがとう。でも、途中、クラウスさんが何かしやしないかヒヤヒヤしました。相当苛立っていたでしょ?」

 

「やっぱり、聞こえていたか。あの学校長はどうにかならないものか? いくらなんでも長すぎるだろう」

 

「それを言っても仕方ありませんよ、クラウス。もう過ぎたことです。それより用意したものを渡しましょう」

 

 苦笑いしながら、オリヴィエはクラウスを促す。クラウスも気を取り直し、イオリアのために用意した卒業祝いを取り出した。

 

「ささやかなものだが、お祝いだ。受け取って欲しい。」

 

 イオリアは、そんなものまで用意してくれたのかと驚きながら、二人の好意に感謝し「ありがとうございます」と礼を言って、それを受け取った。中を見ても? と視線で問いかけ、了承をもらったので早速開けてみる。

 

 中に入っていたのは、三対のイヤリングだった。小さな十字架の中心を囲むようにリングが付いていて、中心に小さな石がついている。それぞれ、図ったように翠・紅・濃紺である。「これは?」という疑問を視線で訊ねる。

 

「それは魔法具だ。例え次元が異なっても三対のイヤリングは其々引き合う性質を持っていて相手の位置が分かる、近い次元世界なら通信も可能だ……魔力はなくてもな」

 

「そんな高性能なものを……本当にいいんですか?」

 

「ええ、ぜひ貰ってください。あなたと、ミクさんとテトさんの力になります、きっと」

 

 イオリアは、かなり高性能な魔法具に、貰うのを一瞬ためらったが、「人の好意は遠慮せず受け取れ」という前世の母の教えを思い出し、ありがたく受け取ることにした。

 

「ありがとうございます。ミクとテトも喜びます」

 

「ああ、それじゃ私達は行く。長話で時間が削られてしまったからな」

「では、失礼しますね?どうか無茶はなさらずに」

 

 そう言って、二人は帰っていった。不審者ルックで。

 

「あれ、気に入ってるんだな」

 

 イオリアは、自分と会うたびに不審者ルックでやってくる二人にいい加減、やめるよう忠告すべきか迷ったが、ここ1年スルーしてきたので今更かと思い直した。そして、イオリアもまた家族の元へ帰るのだった。

 




いかがでしたか?

聖王と覇王の口調がよくわからない。
設定では、互いに親しく呼び捨てだったが、王族同士ということから敬語を使っていたようです。
ただ、流石にイオリア達にまで敬語は使わないだろうと、こんな口調にしました。
違和感ないといいのですが。

次回は、いよいよ戦争が始まります。

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