重ねたキズナと巡る世界   作:唯の厨二好き

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第63話 一時の眠りへ

 時間は少し戻る。

 

 エヴァ達がトライヘキサと死闘を演じていた頃、伊織達の側もまさに死闘という有様だった。

 

 グレモリー眷属も、シトリー眷属も、バアル眷属も、ヴァーリチームも妖怪達もよく戦っている。満身創痍ではあるものの、誰一人欠けてはいなかった。

 

 それは、龍王と同等以上の力を持つ八坂や酒呑童子率いる力の象徴たる鬼達、そして魂さえ消滅させる神滅具級の神器【六魂幡】を操るチャチャゼロの獅子奮迅の活躍があったという事もあるが、仲間の危機にシトリー眷属の【黒邪の龍王ヴリトラ】を宿した匙が禁手に至った事と【魔人バロールの断片】を宿したギャスパーが闇ギャスパーという状態を発現したというのも大きいだろう。

 

 そんな中、伊織もまた【雷炎天牙】状態で、【雷炎槍】を乱発しながら戦場を縦横無尽に駆けていた。ミクやテトも同じだ。ソーナ・シトリーの卓越した指揮には加わらず、その穴を塞ぐように遊撃を繰り返す。付かず離れず、円を描くように戦場を転々とした。

 

 伊織を知る者が、何も知らずその光景を見れば、きっと、らしくない行動に首を傾げた事だろう。普段の伊織なら真っ先に前線へ赴くはずだからだ。

 

「っ、解放! 【巨神ころし】!!」

 

 伊織の放った雷撃の大槍が飛びかかって来た魔獣の腹部に突き刺さり、体内から千の雷で灼き滅ぼした。その脇を雷速で通り抜け、地面に着地し手を付く伊織。そこへ、更に魔獣が躍りかかる。

 

「チッ、時間がないってのにっ」

 

 悪態を吐きながら、魔力を集束し砲撃を放とうとする。先の【巨神ころし】で、この【世界の果て】に突入する前にストックしておいた遅延呪文は尽きてしまった。そして、今の伊織に新たに西洋魔法のために力を割く余裕はない。必然、魔導で対応することになるが、それでも今している事を邪魔されている事に変わりはない。

 

 苛立つ伊織。そこへ、頼もしい声が響く。

 

「ボクに任せて! ディバインバスター!!」

 

 今、まさに伊織へ、その爪牙を振るわんとしていた魔獣に、横合いから紅色の砲撃が突き刺さった。改良を加え、螺旋を描かせた魔力砲は魔獣の腹部を抉り取り薙ぎ払う。そして、横倒しなったに魔獣の頭部に銃口が押し付けられ、引き金が引かれた。

 

「テト! 助かった!」

「どういたしまして。こっちは何とかなったよ。援護するから、マスターは陣構築に集中して!」

 

 そう言ってテトは、【拒絶の弾丸】を連射し、時に数発を束ねてより強力な一撃とし、捌き切れない相手は【十絶陣】に放逐して時間を稼ぐ。

 

 伊織は頷き一つで直ぐさま行動を再開した。華麗なガン=カタで、言葉通り、伊織を死守するテトの弾幕。しかし、相手は龍王クラスだ。いくらテトとは言え、無傷で、とはいかない。テトの防衛陣を抜けて幾つもの魔力砲撃、魔力弾が襲い掛かり、やはり作業は遅々としている。

 

 その内、ミクも駆けつけて【九つの命】と魔剣達で伊織を援護するが、タイムリミットは刻一刻と過ぎていく。魔獣達の猛攻は、余りに邪魔すぎた。トライヘキサと戦っているメンバーが、一人また一人と落とされていくのを感じ取れてしまう事も、より伊織を追い詰める。

 

 残り時間は一分三十秒。構築すべき魔法陣は残り三ヶ所。しかし、運が悪いというべきか、その全てに魔獣が群がっている。

 

「どけぇえええ!!」

 

 怒声を上げて【覇王絶空拳】を放つ伊織。正面から飛びかかって来た魔獣が、粉砕された空間へ吸引されて虚数空間へ放逐される。ポイントへ辿り着いた伊織が陣の構築を始めると、隙ありと言わんばかり魔獣が殺到する。

 

「させません!!」

「行かせないよっ!!」

 

 それをパートナーたる翠と紅の少女が迎撃し、伊織を守る。代償に、二人の体も傷ついていく。

 

 残り一分二十秒。構築すべき魔法陣は残り二箇所。

 

 魔獣の魔力砲撃が、雷炎化している伊織を根こそぎ吹き飛ばす。千切れ飛んだ雷炎の体を引き戻し再び一つとなるが、そんな時間も今は惜しい。ミクとテトが魔導も魔法も念能力もフル活用して魔獣共と相対するが、単純な破壊力と数の暴力によってどんどんボロボロになっていく。

 

 残り一分十秒。構築すべき魔法陣は残り一箇所。

 

 猛烈な火炎が四方八方からポイントに吐き出される。ミクとテトが【プロテクション】を張って伊織を守る。魔獣達にとっては、ただの射撃魔法など豆鉄砲みたいなものであり、バインドも簡単に力尽くで破壊されてしまため、有効な攻撃は常に全力のものばかりだった。そのため、二人の疲弊は相当なもの。【プロテクション】も、振り絞った魔力を注ぎ込み続けているが、限界は近くビキビキとヒビが入る。

 

 と、その時、トライヘキサの咆哮が迸った。その衝撃は、伊織達にも届き、微妙な均衡を保っていたミクとテトの障壁は砕かれてしまった。幸いなのは、衝撃で火炎も止んだことだろう。

 

 伊織達が、トライヘキサの方へ視線を向けると、トライヘキサが空を飛んでいる光景が目に入った。そして、こちらに飛翔しようとしているのを蓮が正面から抑え、それでも抑えきれずに進軍を許してしまっているのが見えた。

 

 その直後、天に輝く純白の十字架が出現する。淡い光が戦場を照らし出し、気が付けばトライヘキサだけでなく伊織達の周囲の魔獣達まで、淡い純白の光に包まれて白煙を吹き上げながら動きを止めていた。

 

「エヴァちゃん!」

「さっすがっ!!」

 

 ミクとテトが、満身創痍ながらエヴァのなした事と察し、笑顔を浮かべて称賛の言葉を贈る。

 

 僅か十秒程の効果。しかし、価千金の成果だった。

 

 残り一分。魔法陣構築完了!

 

 直後、距離があってもわかる明確な殺意の奔流が伊織の肌を突き刺した。ただし、その殺意の矛先は伊織ではなく……

 

「エヴァ! させるかっ! 【強制転移】!!」

 

 エヴァだけでなく、他のメンバー達も同時に回収する。そっちはミクとテトだ。

 

 ベルカの光が間一髪のところでエヴァを包み込み、次の瞬間、伊織達の背後へとエヴァ達を引き戻した。

 

「待ちくたびれたぞ、伊織」

「悪かったな。犬っころ共が邪魔で仕方なかったんだ」

 

 お互い軽口を叩き合い、無事を喜び合う。しかし、直ぐに気を引き締め直すと、エヴァは伊織から魔力の供給を受けてある程度回復し、そのままアザゼル達の回復に取り掛かった。それを確認して、伊織は蓮に視線を向ける。

 

「蓮、頼む。何としても奴に撃たせてくれ」

「おk。任せる」

 

 蓮はビシッ! とサムズアップを決めるとドラゴンの翼をはためかせて再び前線に出た。そして、再び、蓮本気の魔力砲撃を撃つため、これみよがしに魔力を溜め始める。

 

 同時に、大きく仰け反ると、一瞬の溜めの後、その小さな口から出たとは思えない激烈な龍神の咆哮を解き放った。

 

ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!

 

 それは挑発だ。この【無限の龍神】の一撃、受けられるものなら受けてみよ! と、そんな意思を込めた咆哮。力ある存在というのは、ほぼ例外なく侮られる事を何より嫌う。挑発には挑発で返し、右の頬をぶたれたら往復ビンタで返すような者ばかりなのだ。

 

 それは、力ある存在としての矜持なのだろう。一撃をもらったのなら、一撃を以て、それも圧倒的な一撃で返さねば気がすまない。鬼しかり、ドラゴンしかり、各神話の神仏しかり。そして……【黙示録の皇獣】しかり、だ。

 

 蓮の純粋黒色の魔力砲撃が、突進してくるトライヘキサを真正面から迎え撃つ。凄まじい衝撃と共に空間が鳴動する。この世界の幾つかの存在を除いて、全ての存在が塵も残さず消滅させられる絶大なオーラ。

 

 しかし、やはりグレートレッドと同格の怪物には届かなかった。

 

ゴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!

 

 トライヘキサから咆哮と共に常軌を逸したドス黒いオーラが閃光となって放たれた。蓮の本気の一撃を正面から叩き潰し、呑み込み、蹂躙し、絶望を与えてやろうというのだろう。狙い通りに。

 

 蓮とトライヘキサの中間辺りで正面からぶつかりあった二つの黒は、周囲の地面を根こそぎ吹き飛ばし、空間にヒビをいれながら一瞬拮抗し、直ぐに蓮の方が押されていった。

 

「くぅうううううううっ!!!」

 

 蓮から苦しげな呻き声が漏れる。それを見て、トライヘキサから邪悪な嗤いが聞こえた気がした。そのまま後ろに背負う羽虫共と共に滅びろとでも言うように。

 

 しかし、

 

「ヴァカめっ! 一体いつから、我が最後の砦だと錯覚していたっ!」

 

 そんな事を言って、砲撃の最中で蓮は、さっと射線から外れてしまった。当然、トライヘキサの砲撃は、真っ直ぐ伊織達の方へ向かう。僅かに意外そうな雰囲気を滲ませたトライヘキサだったが、蓮が他の者達を見捨てたと思ったのか、喜悦を滲ませて木っ端の絶滅に力を注いだ。

 

 全てを破壊する古の怪物の砲撃。例え、二天龍であっても消滅は免れない。この世で蓮とグレートレッド以外には、正面から受け止められるものなど存在しない。ある意味、この世の法則、理と同等の絶対の力。

 

 しかし、そんな道理を捻じ曲げ、理を塗り替え、残酷な運命を叩き潰すのが英雄たる者の仕事だ。

 

「来いっ!! ジャバウォックぅうううう!!!!」

 

 戦場に、伊織の絶叫が迸る。トライヘキサの攻撃を察して、波が引くように退避した魔獣達。後に満身創痍の味方だけ。視界の全てを塗りつぶすような極大にして絶対の破壊を前に、正面に立つ伊織は、己の魔獣を召喚した。

 

――神滅具【魔獣創造】の禁手【進軍するアリスの魔獣】ジャバウォック。

 

 伊織の足元から顕現したジャバウォックは、伊織がそうしたのと同じように腕を前に突き出した。

 

 直後、

 

ドォオオオオオオオオオオッ!!!

 

 トライヘキサの絶対が、体長三メートル程のジャバウォックに正面から受け止められた。

 

 いや、正確には違う。ジャバウォックの両手の先、少しの空間を隔てて、複雑な紋様の描かれた魔法陣が展開しており、それがトライヘキサの魔力砲撃を受け止めているのだ。

 

 足元を見れば、いつの間にか複雑極まりない紋様を刻まれた魔法陣が燦然と輝いている。直径三百メートルはあろうかという超巨大な陣。それが、ジャバウォックの眼前の魔法陣と連動して、トライヘキサの攻撃をせき止めているのだ。

 

 だが、それはただ凌いでいるわけではない。

 

ドクンッ!! ドクンッ!! ドクンッ!!

 

 ジャバウォックが脈動を打つ。世界を震わせるような鼓動が響く。その音が響く度に、ジャバウォックが一回り、また一回りと肥大化していく。既に、その大きさは六メートルを超えた。

 

 そう、ジャバウォックは、トライヘキサの攻撃を吸収し、その身に取り込んでいるのである。

 

――闇の魔法(マギア・エレベア) 太陰道 敵弾(キルクリ・)吸収(アブソル・)(プティオーニス)

 

「ぐぅうううっ」

 

 呻き声を上げているのは、肥大化するジャバウォックの肩に立つ伊織だ。

 

 元々、ジャバウォックには、ものを取り込んでエネルギーに変える能力が備わっている。しかし、触れなければ取り込めないジャバウォックでは、取り込む前にトライヘキサに跡形もなく消し飛ばされるのがオチだ。

 

 そこで、伊織が考えたのがマギア・エレベアの集大成とも言える究極の技法【太陰道・敵弾吸収陣】である。ジャバウォックに魔法を扱えるわけがないので、その制御を伊織が受け持ち、吸収した力をジャバウォックに受け流すのだ。

 

 しかし、相手はトライヘキサという規格外の怪物だ。その力を想定して陣を構築すると超巨大なものとなり、準備には随分時間がかかってしまった。そして、今、こうしてトライヘキサの攻撃を取り込んでいて改めて感じるその強大さ。伊織の処理能力を超えて今にも弾け飛びそうである。

 

「「マスター!!」」

 

 そこへ、伊織の頼るパートナー達が駆けつける。同時にその身を光の粒子に変え伊織の内へと入った。

 

――ユニゾン・イン

――ユニゾン・イン

 

 爆発的に処理能力が上がる。魔獣達の猛攻の中、必死に構築した前代未聞の超巨大敵弾吸収魔法陣と相まって、トライヘキサの力を完璧にジャバウォックのものとする!

 

グルァアアアアアアアアアアアアッ!!!

 

 湧き上がる膨大な力に、ジャバウォックが歓喜の咆哮を上げた。その身は既に二十メートルを超えて尚、増大し続ける。

 

 更に、

 

「我の力も!!」

 

 蓮から大量の【蛇】が生み出された。蓮の力の化身であるそれらは、スルスルとジャバウォックに近づくと、自ら同化するように取り込まれていく。直後、ジャバウォックの力が爆発的に膨れ上がった。肥大化が一気に進み、既にその身は百メートルに届こうかというレベル。

 

「ドライグ、俺達も!」

『エヴァンジェリンのおかげでかなり回復している。いけるぞ、相棒っ!!』

 

 再び禁手になった一誠が、エヴァの治癒により回復して、その手をジャバウォックに向けた。

 

『Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!』

「受け取れぇ、伊織ぃいい!!」

『Transfer!!』

 

 赤龍帝の倍化と譲渡の力がジャバウォックに降り注ぐ。天龍の力を受けてジャバウォックの力が留まるところを知らず増大する。

 

 遂に、その全長が三百メートルにまで達したジャバウォックは、おもむろに右手を腰だめに構えた。上下に五指が現れ顎門のようになり、その奥で青白い光が集束していく。

 

 ジャバウォック――破壊の化身たる魔獣の、その最大の力。

 

――反物質砲

 

 世界を壊す破壊の光が生み出されていく。ARMSの世界では、核を取り込んだジャバウォックの反物質砲によって世界の危機となったが、今のジャバウォックは確実にそれを超えているだろう。果たして、あらゆる超常の力を取り込み、世界の理を超えて顕現した平行世界の怪物と黙示録の怪物とでは、どちらが上か……

 

 やがて、トライヘキサの砲撃が止む。全てを吸収しきったジャバウォックの右手に集まる力に、さしものトライヘキサも危機感を覚えたのか、進軍を止めて再び力を内へ引き込み始めた。

 

 ジャバウォックの凶相が青白い滅びの光による陰影によって凄惨に彩られる。牙がズラリと並んだ三日月型の口元から、排熱するように白煙が立ち上っている。

 

 一拍。俯き気味だったジャバウォックが面を上げた。そして、トライヘキサの紅玉の眼と火花を散らす。そこに宿る意志は同じ。すなわち、

 

――破壊する!!

 

 その瞬間、再び世界から音が消え、視界の全てが光で満たされた。

 

 ジャバウォックの放った反物質砲の青白い閃光とトライヘキサのドス黒いオーラが激突する。蓮の時のような、どこか余裕のある雰囲気は微塵もなく、トライヘキサから初めて本気の咆哮が放たれた。

 

 塵となって消滅していく大地。隔離結界の限界まで未だ三十秒ほどあるはずだが、既に空間が粉砕され始めている。余波だけで絶大。散らばっていたトライヘキサの魔獣が怯んでいる隙に、満身創痍の仲間達が集まって伊織の後ろで必死に防壁を張った。

 

ゴォオオオオオ!!!

 

 拮抗が崩れ音が戻る。遂に、ジャバウォックの力がトライヘキサのオーラを打ち破った。正面からドス黒い閃光を吹き飛ばした一撃が、そのままトライヘキサへ直撃した。

 

ゴガァアアアアアッ!!

 

 トライヘキサの絶叫が響き渡る。背後の仲間達が、喜色を浮かべる。これで終わりだと、自分達の勝利だと期待を膨らませる。

 

 しかし、黙示録の魔獣はしぶとかった。

 

 その身の四分の一を消し飛ばされながらも、辛うじて拮抗しだしたのだ。対応力に優れているのか、それとも再生力に力を注いだのか。分からないが、あるいは、このまま反物質砲を耐えるかもしれない。

 

 伊織達に、二の矢はない。これが正真正銘、最大最後の攻撃なのだ。伊織の表情に険しさが増す。

 

「まだ、まだ終わらんよ!!」

 

 そんな事を言って立ち上がったのは、力の大半をジャバウォックに注いだ蓮だった。その小さな手をトライヘキサに向けると純粋黒色の閃光を放つ。流石は、【無限の龍神】といったところか。力の大半を消耗しても、その放たれる力は天龍クラスはあった。文字通り、死力を尽くして絞り出した力なのだろう。

 

 それに合わせて、本当の天龍も立ち上がる。

 

「リアス! 君のおっぱいが欲しい! 吸わせてくれれば、いけそうな気がするんだ!」

『相棒……最後までそうなんだな……ああ、いいさ、思う存分に吸え! 俺達は乳龍帝おっぱいドラゴンだっ!』

 

 一誠の言葉に、遂にドライグが同調した。そして、極限の状態でリアスの乳を吸った一誠が、再び【真紅の赫龍帝】となり、かつてないほどに力を倍化させる。

 

「アルビオン、どうやら俺達にも未だ戦いの場が残っているようだぞ」

『ああ、ヴァーリ。先程は邪魔が入ったからな。存分にやってやろう!』

 

 ドライグの事はスルーしてアルビオンとヴァーリも【覇龍】の進化形態【白銀の極覇龍】の呪文を詠唱する。エヴァの禁手と同じく未だ十秒程度しか持たないが、その増大される力は各神話の主神クラスを凌駕する。

 

 そして、その二天龍の力が解き放たれた。

 

『Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!』

「うぉおおお!! クリムゾンブラスタァーーー!!!!」

 

 一誠の雄叫びと共に、赤龍帝そのものの力が余す事なく空を切り裂いた。

 

「圧縮しろ!!」

『Compression Divider!!! Divid!Divid!Divid!Divid!Divid!Divid!』

 

 ヴァーリが手を向ける先、トライヘキサと青白い閃光が衝突しているその場所がピンポイントで空間ごと圧縮され削り取られていく。

 

 紅、黒、白銀、そして青白い閃光がトライヘキサを追い詰める。

 

ガァッ、グガァアアアアアッ!!

 

 咆哮は既に絶叫であり悲鳴だ。苦し紛れに、魔獣を伊織達にけしかけようとするが、それは、エヴァとアーシアによってある程度回復した仲間達が迎撃し近寄らせない。

 

「終わりだ、(いにしえ)の怪物っ! どんな悪意を前にしても、俺達は決して滅びはしない! 可能性の灯火は決して消えはしない! 骨身に刻んで果てろぉおおおお!!」

 

 伊織の絶叫が轟いた。常軌を逸したオーラを制御し続けたせいで、ユニゾン状態でも耐え切れず体中から血を噴き出しながらも、揺るがぬ意志の炎を宿した眼差しで真っ直ぐにトライヘキサを射抜く。

 

 トライヘキサが、その言葉に反応したように、伊織へ紅玉の視線を向けた。ほとんどが砕かれ、残り一つとなっているそれは、死の間際にしてなお激烈な憎悪と殺意を宿している。

 

 だが、伊織にはどこかそれだけでないように感じた。負の感情の奥底で、何となくトライヘキサが笑ったような気がしたのだ。嘲るようなものではない。まるで、伊織の言葉を理解して、ならばこの先の未来でもその意志を貫けるかやってみろと挑発するような面白がるような、そんな気配。

 

 勘違いかもしれない。だが、伊織には何となく、真実であるような気がした。

 

 直後、

 

ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!

 

 トライヘキサが閃光に呑み込まれ、爆発するようにその絶大なオーラを肉体と共に四散させた。世界を、凄まじい閃光と衝撃が襲う。トライヘキサの獣が霧散していくのを尻目に、伊織達はトライヘキサの置き土産によって吹き飛び捲れ上がる大地と共に盛大に吹き飛ばされた。

 

 文字通り、死力を尽くした伊織は、最後に赤銅色の大地を目にして意識を闇に落とした……

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 暗闇の中、水の底でたゆたうような感覚の意識が徐々に定まり浮上していくのがわかる。黒一色の世界に、ぼんやりとした光が見え始め、伊織は、自分の意識が覚醒しようとしていることを自覚した。

 

「ん……ここは」

 

 目を開いた伊織の目に映ったのは白い天井。背中や後頭部に感じる感触はひどく柔らかだ。どうやらベッドに寝かされているらしい。

 

「伊織、そこはテンプレをしてもらわないと。我、がっかり」

 

 そんな伊織に声がかかる。聞き慣れた声のした方へ視線を向けると、そこには案の定、ベッド脇の椅子に腰掛けた我らの龍神様がいた。何故か欧米人のように肩を竦めて「やれやれだぜ」と首を振っている。地味にイラっとくる仕草だ。

 

「そいつは悪かったな、蓮。それで、ここは? みんなはどうした? トライヘキサは?」

 

 意識が完全に覚醒し、体を起こしながら矢継ぎ早に尋ねる伊織に、蓮はピョンと椅子から飛び降りると、その小さな手で伊織の額を抑えて再びベッドに寝かせた。

 

「落ち着く。伊織の疲労は半端ない。人の身では到底扱えない魔力を制御した。その反動で体がボロボロ。しばらく休む」

「いや、しかしな……」

「大丈夫。みんな無事。トライヘキサは“汚ねぇ花火”になった。あと、ここは冥界の病院」

 

 蓮の話では、どうやらあの最後の衝撃の後、討伐メンバーは仲良く【世界の果て】の片隅で昏倒していたらしい。みな、かなり酷い怪我で危ない者もいたらしいが、どうにか救援が間に合い、事なきを得たようだ。

 

 ちなみに、三世界で暴れたまわったトライヘキサの魔獣のせいで、各勢力も相当な被害が出たらしいが、取り返しがつかなくなる前にトライヘキサの消滅と同時に魔獣も消え去ったので何とか無事のようだ。。しかし、そのせいで医療関係者がフル活動となり、彼等も患者の命だけつなぎ止めてダウン状態となったそうだ。その為、伊織も回復には今しばらく時間がかかるという。

 

「エヴァが回復したら、神器で癒せる。だから、それまで大人しくする」

「あ~、わかったよ。とにかく皆無事ならそれでいい」

 

 伊織は、蓮から大体の話を聞いて安心したようで、体から力を抜いた。深くベッドに体を埋もれさせる。

 

 すると、そんな伊織を見て何を思ったのか、蓮は布団の端をめくり、いそいそとその体を滑り込ませてきた。そして、伊織の引っ付くようにして横たわり、至近距離からジーと伊織を見つめだした。

 

「蓮……何やってるんだ?」

「少年は少女の体の柔らかさを感じ、逆に体を固くするのであった」

「変なナレーション入れるなよ。龍神p」

 

 わけが分からないが、取り敢えず居心地良さそうで機嫌も良さそうなので、ツッコミを入れつつ好きにさせる伊織。そんな伊織を、やはりジーと見つめながら、やがて蓮は、ポツリポツリと零すように口を開いた。

 

「……トライヘキサはグレートレッドと同等。……我は、グレートレッドに勝てる可能性を得た」

「……そうだな」

 

 それは蓮がオーフィスだった時の願い。グレートレッドを倒し、次元の狭間に帰って永遠の静寂を得たいという寂しい目的のこと。

 

「あの時、伊織は言った。伊織達と一緒にこの世界を感じてみないかって」

「ああ。言ったな。一緒に、いろんな事をした」

「……我は、寄り添う者を得た。寄り添う事の意味を知った。無知ではなくなった。暖かいのも優しいのも、美しいのも楽しいのも、今ならわかる」

「そうか……」

 

 チクタクと時計の音だけが響く病室に、どこか優しい空気が満ちる。

 

「グレートレッドを倒せる。……でも、今の我には何の意味もないこと。静寂なんていらない。……伊織」

「なんだ?」

 

 二年前の伊織の言葉を思い出しながら、これからの未来を思って呼びかける。蓮は、当たり前のように帰ってくる返事に、胸の内が暖かくなるのを感じながら、最後の問いかけをする。答えは分かりきっているが、大切な事は言葉にしておくべきだ。それも、この二年で学んだ事である。

 

「伊織達と一緒がいい。これからも傍にいていい?」

 

 そんな蓮に、伊織はとびっきり優しい眼差しを向ける。それからしっかり目を合わせて頷くと、

 

「当たり前だ」

 

 そう言った。今更ではある。だが、きっとこの二年を締めくくる大切な言葉だった。それを証明するように、蓮がふわりと微笑む。今までで一番美しく暖かい微笑みだった。

 

 しばらく、二人して微笑み合っていると、扉の向こう側からステテテテー! という、やはり聞き慣れた足音が響いてきた。更に、その後ろから、「九重ちゃ~ん、危ないですよぉ~」とか「病院では走っちゃダメだめだってばぁ」とか「こら待たんかっ!」とか「ケケケッ」とか、そんな声まで聞こえてくる。

 

 思わず顔を見合わせる伊織と蓮。そこへ、扉をバンッ! と勢いよく開けて金色の塊が飛び込んでくる。

 

「伊織ぃ! 伊織の目覚める気配がしたのじゃ! 目を覚ましておるのか……」

 

 どうやら動物的な勘で伊織の覚醒を察知したらしい。それで急いで駆けつけたようだ。そして、飛び込んできた勢いのまま、同衾している伊織と蓮を見て固まる。

 

 そこへミク達も現れた。部屋の状況を見て「あらあら」といった様子である。蓮が時折、東雲家の誰かの布団に潜り込んでくるのは日常なので特に驚きはない。

 

 しかし、そこまで冷静になれないのが九重だ。

 

「うぅ~~~~~、九重はこんなにも心配しておったのにぃ! 蓮ばっかりずるいのじゃ!!」

 

 そんな事を叫びながら、涙目になった九重は、そのままピョンとベッドに飛び乗ると蓮とは反対側に潜り込んだ。そして、ヒシッ! と伊織に抱きつく。

 

 見た目、幼女二人と同衾する男――伊織。小猫あたりに見られたら間違いなくロリーでコンなレッテルを貼られるだろう。

 

 そんな伊織に、ミクとテトはニマ~と笑うと、それぞれ蓮と九重を挟み込むようにしてベッドに入り、ギューとサンドイッチする。更に、どうしたものかと視線を彷徨わせていたエヴァも、チャチャゼロに「御主人ダケ仲間ハズレダナ」と呟かれ、寂しくなったのか伊織の上に馬乗りなってピタリとくっついた。

 

 キャッキャッと騒ぐミク達。

 

 その後、騒ぎを聞きつけてやって来た病院のスタッフにしこたま怒られ、その騒ぎを聞きつけて入院していた一誠達グレモリー眷属やシトリー眷属、バアル眷属、ヴァーリチーム、御使い達、妖怪達が集まって来た。

 

 そのまま、伊織の病室に溢れんばかりに人が互いの健闘をたたえて話に華を咲かせ始め、半ば宴会のような様相を呈し始めた。そして、流石に病室では狭いと誰かが文句を言い始め、伊織に【別荘】コールを送る。

 

 伊織は、苦笑いをしながらも、戦勝祝いだ! と【別荘】と共に溜め込んだ食料や酒を全開放し、女性陣には【美肌温泉】なども開放した。

 

 途中、サーゼクス達魔王方やアザゼル率いる堕天使幹部、天界のセラフメンバーや各神話の神仏達がこぞってお見舞いに来て、そのまま宴会に加わり、最終的には、やんややんやの異種族神仏入り混じっての大宴会となった。

 

 レーベンスシュルト城のテラスから、そんな大騒ぎを見つめる伊織。

 

 騒がしくはあるものの、とても美しい光景だと感じる。

 

 魔法球内にはとっくに夜の帳が降りており、夜天からは月が包み込むような優しい光を降り注いでいる。伊織は、そんな月明かりの下で、そっと嬉しげに幸せそうに目を細めるのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「あれから、どれくらい経ったのかな?」

 

 大きな桜の木の下で、幹にもたれ掛かりながら呟いたのは老人だった。しかし、老人といっても、一見すると初老の男にも見える。それは、肉体の限界が来てなお、魂が輝きを失っていないからだろう。

 

 老人は、今、死の淵にいた。本人もそれを自覚し、【世界の果て】に自ら植えた桜の木の下で最後を迎えようとしているのだ。同時に、大切な家族を待ってもいた。

 

「忘れたのかの? およそ八百年といったところじゃよ、伊織」

 

 老人――伊織に答えたのは、妙齢の美女だった。長くふんわりした美しい金髪に、可愛らしいキツネ耳がぴょこんと生えている。また、正面からでもわかる立派な九尾が、風に吹かれてふわふわと動いていた。大きく着崩した着物からは、こぼれ落ちそうな双丘と細く引き締まった美しい脚線が覗いている。

 

 とても扇情的で、その瞳に宿る理知的な光や優しげな色と相まって、途轍もない魅力を放っていた。傾国、あるいは絶世の美女という表現が、これほど似合う女性もそうはいないだろう。

 

 そんな彼女の正体はもちろん、

 

「九重、遅かったじゃないか。危うく、このままポックリ逝くところだった」

「冗談にしては笑えんのじゃ。妾を置いて行ったりしたら、異世界侵略でも何でもして追いかけるからの」

「はは、恐いなぁ。流石、九尾の狐様だ」

 

 伊織は、笑みを浮かべながら傍らに腰掛けた九重に視線を向けた。大人になった九重は、あの頃のちんまい姿が嘘のようで、今ではエヴァにその双丘を涙目で弄ばれるくらいだ。ミク達との仲も良好で、小さい時の〇〇さんのお嫁さんになるぅ! という夢をそのまま叶え、伊織の妻となった。

 

「何が、恐いじゃ。人の身で仙術を極めた挙句、八百年も生きる奴の方がよっぽど恐かろう。神仏達も、『あれは人間じゃない。東雲伊織という生き物だ』とか言っとったろ?」

「ああ~、孫悟空殿に修行を付けてもらって皆伝を貰った辺りで、そんな事を言われたなぁ」

 

 伊織は、トライヘキサとの戦いで、その身に余りに膨大で、かつヘドロのようなオーラを一時的にでも取り込んだ事で生命力を著しく減らしてしまった。それを回復するために元々【念】という仙術に近い技能を有していた伊織は、仙術と妖術のエキスパートである闘戦勝仏孫悟空に師事したのである。

 

 結果、回復するどころか半ば仙人化してしまい、人の身でありながら何百年という年月を生きる事になったわけだ。

 

 その間、伊織という人間を手に入れようと様々なアプローチがあった。中には力尽くでどうにかしようとしてきた者達もいたが、その全てを伊織は排除した。

 

 結果、神仏ですら手を出せない人間――いや、あんなの人間じゃない――じゃあもう【東雲伊織】っていう生物だと思えばいいじゃない、という結論が世界に浸透したのである。

 

「さて、九重、そろそろ限界みたいだ。……本当に、一緒に……」

「今更、言うてくれるな。子供達と離れるのは寂しいが、ギリギリまで時間を貰った。十分じゃ。伊織もそうじゃろう?」

「ああ、みな立派になった。思い残す事はない」

「うむ、妾もじゃ。だから伊織、どこまで連れて行っておくれ」

「……ああ、一緒に行こう、九重」

 

 九重が、少し別れを惜しむように、その唇を伊織のそれに重ねる。そして、潤んだ瞳で微笑むと、【ダイオラマ魔法球】の転移陣が発する光に包まれその姿を消した。

 

 伊織は、【ダイオラマ魔法球】を【魂の宝物庫】に格納すると、再び、視線を世界に巡らせた。

 

 かつて世界の命運をかけて戦った【世界の果て】は、人の手が入り、赤銅色の荒野から緑あふれる世界へと変わっていた。もう、忘れ去られた世界ではない。これは、かつてテラフォーミングした時の知識を利用して伊織が主導で行った事だ。

 

 世界には、まだまだ神話同士のいがみ合いや、不穏な組織が蠢いている。

 

 それでも最後には、あの決戦の時のように手を取り合って共に歩めると伊織は信じていた。そんな時、種族に関係なく共に過ごせる世界があればいいと、そう思ってこの【世界の果て】の再生に取り組んだのだ。

 

 その意志は、伊織の子孫達や、最上級悪魔となって世界を引っ張る人物の一人となった一誠達が受け継いでくれている。

 

「ああ、本当に、思い残す事はない。……さて、次は一体、どんな世界かな?」

 

 そんな呟きを最後に、伊織は、穏やかな表情のまま、そっと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 このとんでもない世界で新たに加わった二人の家族。彼女達と共に、伊織は再び、どこかの世界へと旅立ってゆく。

 

 

                                         終わり

 

 

 




いかがでしたか?

はい、ようやくハイスク編が完結と相成りました。
沢山の感想、本当に有難うございました。
皆さんのおかげで、楽しい執筆が更に楽しいものとなりました。。
読んで下さった方々も、こういう終わり方にしましたが、最後まで楽しんで貰えたなら嬉しい限りです。
完結のご挨拶は活動報告にもさせて頂きますので、宜しければそちらをご覧下さい。

一応、補足。
蓮ちゃんと九重は連れていきます。
九重も色々と超強化してたりします。能力が、ですよ? 断じて夢のオッパオのことではないですよ?

まぁ、とにかく、蓮ちゃんも九重も伊織の妻として旅立ちます。
新たなメンバーとの新たな旅……どうなるかわかりませんが、書く事があればまた読んで貰えると嬉しいです。

それでは、またいつか!
有難うございました!

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