重ねたキズナと巡る世界   作:唯の厨二好き

72 / 73
大変お待たせしまた。
お正月で時間ができたので何とか更新。
内容が薄くてすみませんです(汗

エタらせることだけはありませんが、次の更新も先になりそうです。
2、3カ月したらいろいろ落ち着きそうなので、そしたら一週間に一話くらいで更新できたらと思います。

まだ読んでくれている方がいるかは分かりませんが、ハーメルン民の皆様、今年もよろしくお願い致します。




第68話 御神の剣士とベルカの騎士

 なのは達の戦闘に介入した翌日から、伊織達は本格的な調査に乗り出した。

 

 調査項目は、地球に存在する転生者の数と、派閥、およびその主義・思想、それから可能ならば能力だ。

 

 同時に、転生者達が目をつけそうな人物達――生き残った御神・不破の者達、神咲や妖狐の久遠とその周辺の人物達、フィアッセ・クリステラなど高町家と関わりの深い“とらいあんぐるハート”の登場人物達の存在確認と存在する場合の現状、八神はやて一家の痕跡、バニングスや月村家の周辺、そして海外と周辺次元の海。

 

 海外や周辺の次元の海は、転生者達が拠点を築いている可能性を考慮したものだ。原作では、テスタロッサ達は次元の海にある時の庭園を拠点にしていたし、転生者の何かしらの能力なら、そんな奇抜な場所に拠点を作っていてもおかしくないからだ。

 

 そんなわけで、海鳴市の転生者達に気取られないように、調査を進めること半日。既に日が傾きかけ、夕日がオレンジの神秘で世界を照らす頃、伊織達は自宅で早めの夕食にありつきながら情報の整理をしていた。

 

「取り合えず、バニングス家と月村家は問題ないようだな」

「そうですね。“俺の嫁ぇ~”って言いながら追いかけてくる如何にもな転生者くんはいましたが、意思を縛られたりしている様子はありませんでしたし」

「他にも、まるで見計らったようなタイミングで現われて“止めろ、アリサ達がいやがっているじゃないか”なんてテンプレなことを言っていた子もいたね」

「ような、ではなく実際に、隠れて見ていただろう。下心が隠せておらんわ」

「アリサ嬢もすずか嬢も、物凄い逃げっぷりじゃったのぅ。しかも、凄腕の護衛つきじゃ。あれ、全員、御神の剣士とやらじゃろう? スグハ嬢と動きがよう似ておった」

 

 伊織達が調査に向かったとき、ちょうどアリサ・バニングスと月村すずかは行動を共にしていたのだが、そこへちょうど、転生者がテンプレなちょっかいをかけにきたのだ。

 

 そして、いかにも偶然通りかかりましたという様子で、止めに入った他の転生者もいたのだが、アリサとすずかは、彼等を見るなり、一言もしゃべらず、脇目も振らず、いっそ見事と言いたくなるような逃走ぶりを見せた。

 

 当然、置いてけぼりを喰らった二人の転生者は、アリサ達を追いかけたのだが……実にさりげなく追撃を妨害されまくったのだ。突然、角から人が出てきてぶつかったり、車が道を塞いだり、足元に糸が絡みついてずっこけたり(一瞬で巻きついて、一瞬で回収されたので本人達は気がついていない)……

 

 俯瞰していた伊織達が気づいたところでは、六人の護衛がさり気なくアリサとすずかを護衛しているようで、全て彼らの仕業だった。

 

 九重の予想通り、彼らの動きは洗練された武人のそれで、明らかに御神の人間と分かった。どうやら、高町スグハが回避した御神家の悲劇は、こういう形で活かされているらしい。

 

 健在な幾人もの御神の剣士が、高町家と関係の深い人物達の護衛を務めているのである。

 

「正面から能力をフルに使われては、御神の剣士と言えど勝利は至難だろうけど……流石は、“守り”を掲げる流派なだけはある。能力勝負にならないよう戦闘そのものを避けているようだったし、おそらく、戦いになれば不破流のように暗殺型で行くんだろうな。能力に頼り切った中身が未熟な転生者では、戦いを認識する前に下されることもありそうだ」

 

 伊織が、御神の剣士達の、実に合理的だった動きから予想を語り、感心したように頷く。それにエヴァが同意するように頷きながら続いた。

 

「経験がダンチだろうからな。それに、いざとなれば、直ぐに高町スグハを呼び出す方法も確立しているのではないか? あいつには非常識な転移魔法があるようだからな」

「そうだな。おそらく、その辺りが、これまで高町家やその周辺の者達を、転生者が好きに出来なかった理由だろう」

 

 ちなみに、“とらいあんぐるハート”の登場人物達も、幾人かの存在を確認することができたのだが、そこにも御神の剣士が護衛についていた。

 

「妾としては、久遠という妖狐が気になるところなのじゃが……八束神社にはおらなんだし、この町にも気配が感じられん。存在する者としない者がおるのかのぅ?」

 

 九重が、同じ妖狐である久遠の存在を思い、難しげな表情をする。“原作”では、神咲家が多大な被害を出しながらもどうにか封印し、子狐状態となっている久遠が、神咲那美に養育されながら八束神社で過ごしているはずなのだ。

 

 だが、八束神社に久遠はいなかった。それどころか、神咲那美もおらず、代わりに初老の女性が神社の管理をしているようだった。久遠も神咲那美も、とらいあんぐるハートの中では重要人物だ。故に、他の登場人物が実在するにもかかわらず、二人だけいないというのは腑に落ちない。何とも嫌な予感が湧き上がる。

 

「……結論づけるのは早い。海鳴に存在する転生者の中に、久遠を連れている者はいなかった。もしかしたら、海鳴市の不穏な気配を察して移住したのかもしれない。海鳴の現状は大体把握できたし、これから地球全体の調査に入るから、その過程で見つかるかもしれないしな」

 

 伊織の言葉に、九重も頷く。

 

 それから二、三、海鳴市の転生者達について話し合ったあと、白兎がコロッケを頬張りながらウキウキしたように尋ねる。

 

「それで伊織。明日からは日本の各地や世界を回るんだろう? 取りあえず、香港のマフィア連中とか、フィアッセ・クリステラ辺りとか、存在が確認できているところから」

「まぁ、そうだね。とらいあんぐるハートでも出て来た香港系マフィア“龍”の動向は気になる。あるいは、御神の剣士が健在である以上、既に壊滅させられている可能性もあるけど、直接聞きに行くわけにもいかないしな。クリステラさんも、転生者には手を出されやすい立場ではある……メディアに出ている情報からすると特に大きな問題はなさそうだけど、念の為、周辺は探っておこうと思うよ」

 

 伊織の言葉に我が意を得たりといった表情になった白兎は、一つ、提案を口にした。

 

「そうだよな! よし、それじゃあ調査ついでに、ここは北條家初! ワクドキ世界一周旅行! とシャレこもうじゃないか!」

「え? いきなりどうしたんだ、父さん。家には転移座標を設定してあるから、海外へ調査に出ても日帰りは簡単だぞ。普通に、毎日、帰ってくるつもりだったんだが……何日も海鳴の町を放置していくのは気が進まないし」

 

 戸惑うように眉を下げる伊織に、白兎はチッチッチッとわざとらしく指を振る。なかなか、イラッとくる仕草だ。

 

「伊織、そう真面目なことを言うな。数日、旅行に行くくらい構わないだろう? 確かに、俺達はお前に使命を預けたが、それに縛られて欲しいなんて思っちゃいない。せっかくまた生まれて来てくれたんだから、十分に楽しんでくれないとな」

 

 仕草はイラッとくるが、白兎の言葉は実に父親らしいものだった。よくよく考えれば、今まで、旅行先で転生者に遭遇し、伊織の魂の大きさに気が付かれて、覚醒する前に殺されるかもしれないという心配から、遠出の旅行はしたことがなかった。

 

 白兎も三月も、普段から飄々とした態度を取っているが、伊織が前世の記憶を取り戻すまでは、それこそ常に気を張って生きていたのだ。万が一にも、伊織の存在を知られるわけにはいかないと、戦々恐々としながら。

 

 だが、それももう終わりだ。これからは、こそこそと隠れながら生きる必要はない。しかも、今はミク達もいて本当の意味で家族が揃った状態だ。だからこそ、調査のついでに、北條家初の長期旅行に行こうというのである。

 

「白兎とね、ずっと話していたのよ。伊織が自分を取り戻したら、まず家族旅行に行こうって。当然、伊織のお嫁さん達もいるはずだから、一気ににぎやかになって、すごく楽しいに違いないって」

「母さん……」

 

 三月がニコニコと笑いながらそんなことを言う。伊織は、二人がただ伊織をこの世界に産み落とすためだけ降りて来たわけではないと、改めて実感した。白兎も三月も、使命だけでなく、確かに家族になろうと決意してこの地に降り立ったのだ。

 

 そして、伊織の軌跡を全て理解した上で、父と母になろうと、そう誓って伊織を生んだのだ。それこそ、前世の記憶に目覚めず、無力な少年に過ぎなかった伊織を、命がけで守ってきたように。

 

 そんな今世の両親からの素敵すぎる提案を、伊織が断るわけもない。伊織が、視線を巡らせば、ミクも、テトも、エヴァも、九重も、蓮も……蓮はニヤニヤしながらギャルゲーをしているが、とにかく他のメンバーも、嬉しそうに、楽しそうに頷いている

 

 伊織は、取りあえず、「空気を読め」と言いながら、蓮にジャーマンスープレックスを決めつつ、白兎の提案に乗る返事をした。

 

「引っ越し早々、家族旅行か……まぁ、時期的にはちょうど春休みだし、ちょうどいいな。一応、高町家には、チェシャとクイーン、それと……手数重視でドーマウス辺りにでも護衛を頼んでおこう」

 

 ちなみに、今の魔獣ドーマウスは、ボテボテと歩く、非常に愛嬌のあるずんぐりしたハリネズミである。ただし、普通のハリネズミと違って、普段は毛もモフモフだ。自由に硬化、軟化と変化させられるのである。瞳もつぶらでラブリーだ。鳴き声は、女性陣のリクエストで「もきゅ」である。

 

「うふふ、楽しみですね、マスター。私、エベレストの天辺でピクニックしたいです! デザートに、山頂の氷で作ったカキ氷を食べましょうよ。マンゴーシロップ持っていかなきゃ」

「マスター、僕は、太平洋で海底遊覧したいな。この世界にもムー大陸があるのか探してみようよ。それから深海魚料理を堪能しよう」

「むっ、では私は、アラスカをリクエストしよう。オーロラ酒というのも悪くないだろう? なに、オーロラが発生しなくても、私が自力で起こしてやる。過去に類をみないほどのな」

「妾は、崑崙がよいのぅ。奥地に行けば、人の入り込めぬ秘境くらいありそうじゃ。あそこの静謐さが好きなんじゃよ。なんなら妾が異界を作って、霊脈と風水を利用した秘境を創ってやるのじゃ。北條家の避暑地にしようぞ」

「我はこの世界の聖地――秋葉原の現状が知りたい。果たして、そのレベルは如何ほどのものか、龍神pが、直接確かめてくれる!」

 

 次々とリクエストされる旅行先。白兎と三月が笑顔のまま冷や汗を流す。「もしかして、俺達が今はただの人間だって忘れてね?」と。そして、リクエスト先や要望がいちいちぶっ飛んでいることに比べ、秋葉原を指名した龍神様の何と庶民じみたことか。

 

 そして、そんな彼女達の無茶な要求を、紙にいちいちメモしながら、「うぅ~ん、どういうルートで回ろうか?」と、普通に旅行日程に組み込んで悩んでいる伊織に、「悩むところはそこじゃないだろう!」と白兎と三月はツッコミたくなった。いつもと立場が逆転している。

 

「な、なかなか楽しい旅になりそうだ」

「……そうね。問題は、私とあなたが、五体満足で帰ってこられるか、ということだけど、ね」

「……」

 

 旅行先に、北極や南極、火口からの地底探索、各国の軍事機密基地見学、月面旅行などを加えていく息子、娘達に引き攣った笑み浮かべる白兎と三月。

 

「伊織、何故、我を無視する。アニメイ○ととら○あなとメロンブ○クスと、ゲー○ーズ。さぁ、旅行先に加えて。早く加えて! さぁ、さぁ!」

 

 龍神様が、伊織の袖をグイグイと引っ張りながら要求を突き付けている姿に、何故か、白兎と三月は凄く癒された。旅行から帰ったら、いくらでも連れて行ってあげるからね、と。

 

 翌日、調査兼初の世界旅行に出発した北條家。

 

 彼等の旅行が穏便に済むわけもなく、普段着のままエベレストの山頂でカキ氷を楽しむ一家が目撃されてニュースになったり、

 

 中国の奥地で巨大な九尾の狐と漆黒の龍が目撃されて、「すわっ、傾国の危機か!? それとも神龍による中華の救済か!?」とニュースになったり、

 

「謎の凄腕路上バンド現る! サックス奏者は、あの世界の歌姫フィアッセ・クリステラの恋人か!?」と世界中のファンを阿鼻叫喚させるニュースが流れたり、

 

「怪奇! 北極と南極の陸地が三パーセントも増加した!? 突如、凍てついた海の謎」とか、

 

「歴史上、類を見ない大規模オーロラ発生。太陽に異常が!? 地球の危機!!」とか、

 

「ムー大陸は実在した!? 衛星に映った幻の大陸! 調査団の派遣が検討される!」とか、

 

 そんなニュースが一週間の間に世間を騒がせた。

 

 犯人は言わずもがな、である。大体の調査が終わった後だったので、もう、いつ伊織達の存在が知られてもいいのだが、白兎と三月の胃が、ある意味強靭になったのは言うまでもないことだった。

 

 ちなみに、ネットの2chや専門店のコミュニティでは、「爆買美少女現る! 一人称が“我”という極まりっぷり! 大変フレンドリーなので、見かけたら声をかけてみよう。何も言わずともポーズまで取ってくれます!」という噂が流れたりしていた。

 

 そうして、おおいに世間を騒がせつつ、十日ほどの調査旅行を済ませて帰ってきた伊織達。

 

 帰宅前に近くのスーパーで買い出しをしてから、わいわいと旅行の思い出話に花を咲かせて道を歩いていると、伊織が「おや?」という表情をして視線を遠くへ向けた。

 

「マスター?」

「どうやら、お客さんのようだ。家の前に、誰かいる。これは……」

 

 他のメンバーも気が付いたようで顔を見合わせた。そして、少し急ぎ目に歩き、自宅に続く最後の曲がり角を曲がったところで、その待ち人の姿を確認する。

 

 北條家の玄関の、その塀に背を預けて静かにたたずむその人物は、

 

「……ようやく帰ってきたわね。黒ネコと、妖精さんと、ハリネズミの飼い主さん?」

 

 そう、高町スグハ、その人だった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「粗茶ですが……」

「……ありがとうございます」

「お菓子もどうぞ。アラスカのお土産で“白い恋人”といいます」

「……………どうも、ありがとうございます」

「あ、椅子にクッションはいります? これ、中国の秘境で、自称“仙人”という人から買った、座っているだけで金運が上がる座布団なんですが……」

「…………………いえ、お気遣いなく」

「あ、私としたことが、せっかく手にいれたアトランティス製の空気清浄機のスイッチを入れ忘れてわ。ごめんなさいね。直ぐに新鮮でおいしい空気にしますから」

「……」

「おお、そうだ、三月。せっかくだから、エベレストから仕入れた氷で作ったかき氷も出して差し上げたらどうだ?」

「あら、それもそうね。直ぐに用意するわ。ついでに、海底遺跡に潜んでいた深海魚もお出ししましょうか」

「いやいや、かき氷と魚は合わないだろう。お土産に持って帰ってもらったらいいじゃないか」

「あら、やだ、私ったら!」

「はははっ。いやぁ、すみませんね、うちの妻はうっかりさんなもので。あ、それとも、かき氷と魚、一緒にいける口だったりします?」

 

 北條家のダイニングテーブルには、現在、訪ねてきた高町スグハと伊織、そして白兎が座っている。三月は、スグハに出す飲み物やお茶請けを用意するためパタパタと動き回っており、ミク達はリビングのソファーから「パパさん、ママさん。スグハちゃんがドン引きしてるよ~」と心配そうな表情を向けていた。

 

 世界旅行から帰宅した伊織達を待ち受けていたスグハを、取り敢えず、落ち着いて話ができるようにと家に招き入れたのだが、何故か妙に下手に出ながら、まるで会社の上司を家に招いた部下とその妻のような雰囲気で接待する白兎と三月に、スグハの精神は早くも追い詰められているらしい。

 

 その証拠に、遠い目をしながら明後日の方向を見ている伊織に対して、スグハは疲れたような表情を向けながら助けを求めた。

 

「………………ねぇ。確か、北條伊織くんと言ったわよね? そろそろ助けてくれてもいいんじゃないかしら? 私、初めてよ。転生者じゃなくて、そのご両親に追い詰められるのは」

 

 その言葉に反応して、白兎が何かを口走ろうとするのを察知した伊織は、テーブルの下で足をグリグリと踏むことで黙らせる。隣から「ひぎぃ!? 息子が反抗期ぃ!?」という声が響いてきたが、無視だ。

 

「いや、まぁ、何というか……二人の歓迎の気持ち? みたいなものっていうか。悪気があるわけではないというか、これが普通っていうか」

「これが普通? ……ハワイとかにありそうな木彫りのお面をつけて、北海道の定番お土産をアラスカのお土産だと言い張り、中国の秘境やらアトランティスやら海底遺跡やら日常会話で出るはずのない単語をボロボロ零して、八歳の子供相手に接待するのが普通? ホントに? ねぇ、ホントに? っていうか、ここ数日のニュースで、聞き覚えのある単語ばかりなのだけど……。私、あなたの能力で、不思議ワールドとかに飛ばされたりしてない?」

 

 ちょっと本気で不安顔になっているスグハが身を乗り出すようにして伊織を詰問する。戦闘においてあれほど冷静沈着だったというのに、この狼狽ぶり……伊織の両親はそれほどまでに衝撃的だったのか……

 

 もっとも、玄関前でスグハを発見した瞬間、どこからともなく取り出した木彫りの民芸品らしきお面をかぶり、そのまま普通に挨拶すれば、確かにドン引きしても仕方がない。

 

「そんな能力はないから安心してくれ。っていうか、俺も、なんで父さんと母さんが、こんなお面をつけて接待なんてしてるのか、よく分からないんだが……二人共、どうしたんだ?」

 

 伊織も、ちょっと困惑したように白兎と三月を見ながら怪しさ満点の理由を尋ねる。すると、白兎は、やれやれといった様子で肩を竦めながら、

 

「分かっていないな、息子よ。ここにいる方は、御神最強の剣士様だぞ? お前が言っていたんじゃないか。転生者複数人を相手取って圧倒していた、と」

 

 その言葉に、スグハの目元がピクリと反応する。やはり、十日前の戦闘を見られていたのか、と僅かに警戒心を孕んだ表情になる。

 

 それに気がつきつつも、取り敢えず、白兎の話を聞こうと、伊織が視線で先を促すと、

 

「伊織達の内、一人でもいれば問題はないけどな。……たとえば、ちょっとビールが飲みたくなって、俺と三月だけでコンビニに行ったとする。そこで、スグハ嬢と遭遇するわけだ。そのとき、顔を知られていて、俺や三月が転生者の存在をよく知る転生者の親だとわかったら……」

「――『どうもこんにちは、高町さん』『あら、奇遇ですね。転生者のご両親さん。お買い物ですか?』『ええ、主人と今夜の酒盛り用のビールとつまみを』『まぁ、それは素敵ですね。では、御神流最終奥義【閃】ッ!!』となる可能性があるわ。恐ろしい……」

「あるわけないでしょう!! 私はどこの殺人狂よ!」

 

 失礼千万な発言に、冷静沈着さをかなぐり捨てたスグハがウガー! と怒声を上げた。しかし、それを華麗にスルーした白兎と三月は、スグハに恐ろしそうな眼差し(お面の目の部分の隙間から覗いている)を向けつつ、ガクブルしながら続けた。

 

「いくら伊織達が強くてもな、俺と三月だけのときに、神速の御神に『こんにちは【閃】ッ!!』をされたら助からない」

「こんにちは【閃】ッ、ってなによ!? それじゃあただの通り魔でしょう!?」

「それだけじゃないわ。私達もいつかは翠屋に行ってみたいけど、そのとき『いらっしゃいま【閃】ッ』とか『お待たせしました、シュークリームで【閃】ッ』をされる可能性も……」

「あるかぁーーー!! 御神の剣士を何だと思ってるのよ!? ねぇ、本当は、馬鹿にしてるでしょう!? そうなんでしょう!?」

 

 スグハの精神がレッドゾーンに突入している。明らかにキャラが崩壊しかけていた。どうやら二人は、伊織達が傍にいないときに、御神の剣士に“ミカミ”されるのが恐ろしいらしい。なので、取り敢えず、面割れだけは避けておこうというつもりらしいのだが……明らかに、御神との関係は悪化していた。現在進行形で。

 

 伊織は、深い、それはもう深い溜息を吐くと、テトへ視線を向けた。それだけで正確に意味を汲み取ったテトは、神速でアルテを抜き撃ちする。一発の激発音が響くと同時に、「おふっ!?」とか「あはんっ」といった悲鳴が響き、白兎と三月が綺麗な弧を描きながら吹き飛んだ。

 

 夫婦仲良く並んで倒れた二人の顔から、パカリと割れた怪しげなお面がずり落ちる。クイックドロウにより、テトがゴムスタン弾で二人のお面を撃ち割ったのだ。ついでに、強烈すぎるデコピンにより、二人は完全に目を回した。

 

 倒れた二人を、しゅるしゅると伸びてきた九重のモフモフ尻尾が巻きついて、そのままリビングの方へ回収していく。

 

「まぁ、その、なんだ。両親に代わって謝罪するよ。御神の剣士を馬鹿にしたわけじゃないと思うんだが……あれでも、内容を抜きにすれば、デフォルトの言動なんだ。一日のうち、半分以上の時間をふざけていないと落ち着かないという」

「そ、そう。なんというか、大変なお家に生まれてしまったのね。というか、スルーしそうになったけど、今、狐の尻尾が……」

「うん。その辺も含めて、本題に入ろうか。取り敢えず、どうして我が家にたどり着いたのか、それだけ先に教えてもらっていいかな? チェシャ達が教えるわけがないし」

 

 伊織が静かな声音でそう尋ねれば、コホンッと咳払い一つ、スグハも居住まいを正して口を開いた。

 

「あの黒ネコ……チェシャというのね。確かに、あの子達が教えてくれたわけではないわ。魔法的な何かで探したわけでもない。というか、最初はそうしようと思ったのだけど、どういうわけか、私の魔法も上手く発動しなかったのよね。おそらく、術的な防衛をしているのでしょうけど……」

「そうだな。簡易ではあるが、奇門遁甲の一種を施してある。悪意や害意のある者が近づけば、知らずあらぬ方向へ歩かされることになるし、術的な探査も惑わされることになる」

 

 さらりと出てきた有名な術法に、一瞬、スグハは目を細めるが、話を進めるべく質問はせずに続きを口にした。それによると、どうやら至って現実的な手段を取ったようで、要は最近海鳴市に来た者がいないか調べたというのだ。

 

 具体的には、近場の宿泊施設の利用客や、不動産業者、役所の住民票などを調べたのである。御神家の伝手を使えば、大して難しいことではなかった。その結果、あの原作遵守派との戦いの当日に、海鳴市へ引っ越してきた者がいることを突き止めたのだ。

 

 これは怪しいと、さっそく家を訪ねて来たらしいのだが、ちょうど伊織達は世界旅行中で留守だった。仕方なく、二、三日、周辺を張って待っていたのだが、一行に帰ってくる気配はなく、どうしたものかと考えていたところ、ご近所さんと遭遇。

 

 八歳のスグハが、最近ウロウロしているところを見て、ピ~ンと来たご婦人は、聞かれもしないのに北條家のあれこれをペラペラ喋ってくれたらしい。

 

「私を、あなたのハーレムメンバーに入りたい新たなお嫁さん候補として見ていたわね、あの目は……。で、好奇心を迸らせているおば様の話の内容が、金髪の外国人美少女を含む五人もの美少女と、彼女達は全員息子の嫁だと両親が(・・・)断言する同じ年の男の子がいるという話だったから……確信したのよ。そんな非常識な集団と価値観を持っているのは転生者に違いない、と」

「返す言葉もない。しかし、如何にも典型的な迷惑系転生者のような事前情報を与えられておいて、よく一人で訪ねて来たな。御神の剣士達が家の周辺に張り込んでいる様子もないし……」

 

 少々、無用心ではないかと眉を潜める伊織に、スグハは肩を竦める。

 

「命の恩人だもの。最初から、疑いと警戒心だけで接するなんて仁義に悖るわ。それに、下心があって助けてくれたのなら、普通は名乗り出るものでしょう? なのに、あなた達と来たら、翌日から一家総出で海外旅行じゃない。それもご丁寧に、護衛にチェシャちゃん達まで置いて。これで、詰問なんてしようものなら……それこそ恥知らずというものよ」

「……なるほど」

 

 そして、実際のところは自分の目で確かめる、ということらしい。伊織の感心まじりの頷きに、リビングの方ではミク達も「おぉ、スグハちゃん男前です!」と称賛の小声が呟かれていた。

 

 しかし、中々に立派な心意気ではあるものの、そんな考え方を前世で十代、今世で八歳のまだ若いといえる年齢の女の子ができるものなのか。彼女の洗練された武技やハリー・ポッター魔法の熟練した使いこなし方と相まって疑問は高まる。

 

 そんな疑問が顔に出ていたのだろう。スグハは、お互い様と言いたげな様子で己の数奇な軌跡を話した。

 

「私の記憶の中の最初の人生は、御神美織という御神家の女だったわ。美由紀姉さんとは、再従姉妹(はとこ)に当たる、ね。もちろん、この世界ではなく、おそらく平行世界と呼ばれる世界よ」

 

 高町スグハは、元々、御神の人間だったらしい。御神家最強の剣士である御神静馬や、不破流に精通する強者であり静馬の妻でもある美沙斗に師事したこともあり、最終奥義には届かなかったものの、十七歳にして【神速】の初段階には手をかけていたほどの腕前だったのだという。

 

 そして、平行世界でも御神家に対する悲劇の序章は進んでいたのだが、どういう因果の流れを辿ったのか、御神家の会合に向かう途中で、偶然、香港系マフィアである“龍”の構成員を発見したのだそうだ。

 

 当然、本家に連絡を入れつつ、見失わないよう追跡し、紆余曲折を経て御神本家への爆弾テロ自体は阻止することが出来たのだが……その代償は、美織(スグハ)本人の命だったらしい。

 

 そうして死んだはずの美織だったが、気が付けばイギリスのとある裏路地で目を覚ましたのだという。どうやら、生まれつき特殊な能力を持っていて、どこぞの町の裏路地に捨てられていたのだが、争いに巻き込まれて頭を打ち付けた際に、前世の――御神美織の記憶を取り戻したのだそうだ。

 

 それから色々あったものの、その特殊能力は実は魔法であり、ホグワーツ魔法学校で魔法を学びつつ、これまた小説七巻分になりそうな大冒険を繰り広げたそうなのだが……最終的にきちんと往生できたらしい。享年八十八歳だったというから、精神年齢的には百十四歳といったところか。

 

 一世紀に及ぶ剣術の研鑽と、一生をかけた魔法の鍛錬……それが、高町スグハの強さと、精神の成熟性の理由だったのである。

 

 ちなみに、観測者という存在には会っていないし、転生特典とやらも貰った覚えはなく、自分の魔法が“ハリー・ポッターの魔法”と呼ばれていることも、実は、前世も“原作”とやらが存在している世界だったということも、今世で他の転生者の言葉から察したらしい(リリカルなのはの“原作”知識も、襲ってきた転生者にOHANASIをして聞き出したものだったりする)。

 

 本人的には、夫の名前(・・・・)を連呼されて何とも言えない微妙な気分らしいが。

 

「夫? ……まさか、前世での君の伴侶は……」

「ええ、ハリー・ポッターその人よ。まぁ、確かに、あの人に降りかかる理不尽なあれこれとか、分かりやすい悪役とか、その辺のことを考えると、如何にも物語の主人公っぽいけれどね。生まれ直しても、夫の名前が見ず知らずの人達に周知されている挙句、魔法を使う度に、“ハリポ”と略されて連呼されるのも……実に複雑な気分よ」

 

 リビングから「告白はどちらから!?」とか「子供は何人!? 御神流教えた!?」と、興味津々な声が飛ぶ。ハリー・ポッターの原作知識を持つ、ミクとテトだ。女として、ワクドキせずにはいられないらしい。

 

 そんな二人に、ちょっと苦笑いしつつ「猛烈なアプローチに、ほだされたのよ」と返すスグハ。どうやら、平行世界のハリーは、異世界から転生してきた少女剣士に夢中だったらしい。「おぉ~~!!」と声を上げて盛り上がるミク達。

 

 このままガールズトークに突入されては困ると言いたげに、スグハは、視線を伊織へ戻した。

 

「さて、私の素性は話したわ。今度はこちらから聞かせてもらっていいかしら。あの異常なほどの力を秘めた使い魔? らしき子達は何なのか、あなたは、あなた達は何者なのか。そして……私達、高町家を、どう思っているのか」

 

 真剣な、あるいは緊張を孕んだ表情と眼差しで、スグハが切り込んだ。伊織としては、第三者的立場であるスタンスを崩すつもりはなかったが、そのこと自体も含めて、隠すようなことは何もない。なので、包み隠さず、彼女の質問に答えることした。

 

 最初の人生では、不幸体質故に十五歳で死んだこと。恩人とも言える観測者に助けられ、この世界のベルカの地に生まれ直したこと。聖王や覇王と出会い、ベルカの騎士となり、ベルカの戦争を止める過程で別の世界へ飛ばされたこと。そこで作った能力を利用し、出会った家族を連れて再び別世界に転生したこと。

 

 その世界では神仏悪魔妖怪といった超常の存在が跋扈しており、伊織はそこで退魔師をしていたこと。そして、聖書の神が創った神器、その中でも世界のバランスを崩すとまで言われた神をも滅する具現――神滅具【魔獣創造】を宿したこと。スグハ達の護衛に回したのは、それぞれ“不思議の国のアリス”をモチーフ(実際には、アリス物語を更にモチーフにしたARMSだが)に創造した、神殺しの能力を秘める魔獣であること。

 

 そこで割と長く生きて往生し、この世界へ再び転生したこと。

 

 ここまで簡単にまとめて話したところで、伊織はスグハが妙に汗をかいていることに気がついた。体調が優れないのかと心配そうに声をかける伊織へ、引き攣り顔のスグハが静かに尋ねる

 

「……ね、ねぇ。あのチェシャネコちゃん……神殺しなの?」

「うん? いや、いい線はいくだろうし、位階の低い神仏や眷属くらいなら問題ないだろうが……戦闘系の神話を持つ神仏相手では厳しいだろうな。まぁ、能力の性質上、負けることはないだろうが」

 

 超常の存在が普通に存在する世界というだけでも仰天なのに、「神殺ししてます」など言われては冷や汗も掻きたくなる。なので、実際には神殺しをしていないと言われて、少し安堵の吐息を漏らした。

 

 そこへ、我らのドS女王がニヤニヤしながら口を挟んでくる。

 

「おいおい、何をホッとしているのかは知らんが……高町スグハよ。神殺しならチェシャについて確認するまでもなく、目の前にいるだろう?」

「……え?」

「そうじゃのぅ。確か、闘戦勝仏殿に皆伝を貰った辺りで、悪神を屠っておったのぅ。一人で」

「……え?」

「それを言うなら、最初の酒呑童子さんの件も、殺してはいませんが下したわけですから、一応、神殺しに当たるんじゃないですか? 鬼神レベルと言われていたんですし」

「……え?」

「聖書の悪魔リリンを下したのもカウントできるね。神殺しじゃなくて、魔王殺しだけど」

「……」

「その神仏魔王ですら一蹴できる伝説の皇獣666(トライヘキサ)を、ジャバウォックと共闘したとはいえ消し飛ばしたのは、人生最大の戦果ですね」

「……」

 

 思い出話に花を咲かせるように、キャッキャッ言いながらとんでもないことを口走っていくエヴァ達。スグハの顔色が青ざめていく。

 

「……あの、失礼ですが……伊織く――伊織さんの年齢をお聞きしても?」

「別に、今世においては同い年なんだから敬語なんていらないんだが……まぁ、一応答えると、そろそろ千歳に届くっていうくらいだな」

「せっ!? ……あの、彼女達も?」

「そうだな。ミクとテトは俺と同じくらいだが、エヴァは千六百年くらい、か。九重が一番若いな。八百歳くらいだし。ちなみに、みんなが長生きなのは、ミクとテトはユニゾンデバイスだからで、エヴァが真祖の吸血鬼だからで、九重は妖狐だからだな」

「……そう、ですか。彼女達の話は事実、なんですよね?」

「……まぁ、そうなんだが……本当に、敬語とか不要だからな? 同い年の女の子に畏まられたら、ご近所さんから変な目で見られる」

 

 神殺しが、何を所帯染みた心配をしているのかと思わないでもないが、それでも自分の十倍は生きていて、神仏やら魔王やらを下してきた人間だと言われれば、自然と態度は改めたくなる。

 

 年功序列という常識もあるし、チェシャ達の圧倒的な力を見た後では話の信憑性も高い。下手な態度を取って逆鱗に触れては事である。必要ないと言われても、なかなかに難しい注文だ。

 

 思った通りの反応をするスグハにドS心が満たされて満足げな表情をするエヴァに、神速の指弾により角砂糖狙撃をしてお仕置きをしつつ、伊織は、緊張を隠しきれていないスグハへ、それをほぐすための言葉を紡いだ。

 

「……超常の存在を討つのは、いつだって人だった。それは、人々が、超常の存在がもたらす理不尽に対し、譲れない、奪われるわけにはいかないと奮い立ったからだ。その意志が、不可能を可能に変えた。その気持ち、スグハさんなら分かるだろう?」

 

 君は、誰かの娘であり、友人であり、妹であり、姉であり、何より、“御神の剣士”なのだから、と。

 

 スグハの緊張した表情が少し和らぐ。

 

「……ええ、分かります」

「ならば、君にも神殺しの資質はある。その気持ちを知る者は、誰もが神すら超えられる可能性を秘めているんだ。故に、俺もスグハさんも変わらない。神殺しなんて、所詮は結果に対する大仰な名称だよ。ただ、戦わねばならない相手が神だったっていう、それだけのことだ」

 

 伊織のどこか優しげな表情と、確信を抱いた言葉に、スグハもようやく緊張を解くことができた。それでも、武人として、母親の経験も、祖母の経験もある常識人として、遥か年上の、それも強者に対し、気軽な態度で接していいものか迷いはある。

 

 それを見越したように、伊織は、肩を竦めて冗談めかした表情をしながら、必殺の言葉を放った。

 

「それに、神ならさっきからずっと傍にいるんだぞ?」

「え?」

「ほら、あそこで白ジャージをだらしなく着崩しながら、だらしなくソファーに寝そべって、ネトゲに興じているだらしない女の子――あれでも歴とした神だぞ」

「え、ええ? いや、でも、えぇ? そういえば、さっきの説明で、年齢とか聞いてないけど……」

 

 伊織が指さした先にいるのは、今日もぶれない、白ジャージのゲーマー蓮ちゃん。二人の会話が聞こえたのか、視線を画面から上げて「何かしらん?」と小さく首を傾げる。

 

 一見して、ただの怠惰で可愛い女の子にしか見えないのだが……

 

「あのダメ人間を体現したような女の子の名前は蓮。正体は、無限の龍神様(ウロボロス・ドラゴン)。文字通り、無限を司る龍の神で、その気になればただ一人で世界も滅ぼせる存在だ。年齢は不明。万は軽く超えているだろうけど」

「うそん……」

 

 スグハさんのキャラが軽く崩壊した。その視線の先で、白ジャージの龍神様は、無意味にソファーの上に立ち上がると、無意味に腕をクロスさせ、無意味にドヤ顔しながら、無意味に「ふっ」と不敵な笑みを浮かべた。

 

「な? 神なんてあんなもんだ。なんだか、気が抜けるだろ?」

「おい、伊織。我を“あんなもん”と申したか、失礼な。我こそ、ネット界を席巻する龍神Pなるぞ!」

 

 香ばしいポーズを取りながら、抗議の声を上げる龍神様。スグハが何とも言えない表情をしながら、「龍神P?」と首を傾げれば、伊織が「ネット動画の投稿をするときのユーザー名だよ」と説明を入れる。

 

 世界すら滅ぼせる龍の神が、おかしなポーズとドヤ顔を晒しながら、自分はネット動画界の神であると主張する……。スグハは思った。「確かに、案外、勝てるかもしれない」と。

 

 そんなスグハの様子に笑みを浮かべつつも、伊織は居住まいを正して話を戻した。

 

「さて、俺達の素性や経歴を知ってもらったところで、高町家に対するスタンスについて話したいと思うが」

「……ええ。聞かせてください」

 

 スグハの表情も引き締まる。正直、第一印象から、今、話を聞いたところまでで、伊織達が勝手な正義を振りかざし、スグハ達の生き方を強制するような人柄には見えなかった。

 

 だが、伊織の話が本当なら、否、今、こうして向かい合っている間にも何となく感じる強者の雰囲気に、スグハは思わず息を呑まずにはいられなかった。一度、伊織達が高町家に対し、「こうであれ」と要求を突きつけてきたら……スグハには、それを退けられるイメージが出来なかったのだ。

 

 それこそ、人が、不退転の意志を持って、神に挑むが如く。そんな印象すら受ける。

 

「そんなに緊張しないでくれ。俺達のスタンスは、他の人達に対するものと何も変わらない。高町家を特別視することもないし、逆に、助けを求められれば喜んで貸す。人道に悖る行為だと思えば諌めるし、外道に堕ちたのなら討滅する」

 

 絶対的な高町家の味方ではない。されど無関心を貫くわけでもないし、必要なら手を貸そう。己の誓いのために。

 

 伊織からベルカの騎士として立てた、そしてその生き方の根幹となった誓いを聞かされていたスグハは、ストンと胸に落ちるものを感じた。

 

 守護の御旗を掲げ、誓いと共に生きる。それは、御神の剣士も同じこと。歩んできた道程も、得られた経験や力も異なるが、それでも、本質的に自分と伊織は同じなのだと、そう心で理解したのだ。

 

「高町家の敵となるものを容赦なく殲滅するようなことはできないが、少なくとも、スグハさん達を傷つけるようなことはない。……(あかし)は立てられないが、信じてもらえると嬉しい」

「ストレートなんですね」

 

 スグハは、真っ直ぐに自分へと向けられる伊織の眼差しに、微笑みをもって返した。そして、一つ、しっかりと頷くと「信じます」と返答し、静かに手を差し出した。

 

「改めて、私は高町スグハ。永禅不動八門一派、御神魔闘流(・・・)小太刀二刀術師範。私と、貴方のかかげる心は同じだと信じます」

「……ありがとう。俺は北條伊織。特に肩書きがあるわけじゃないが……そうだな、この世界に帰って来たのなら、こう名乗らせてもらおうか。――ベルカの騎士だ」

 

 今、御神最強の剣士と、ベルカ最強の騎士が、手を取り合った。

 

「どぅえきてぇるぅうう~~?」

 

 残念すぎる龍神様が、巻き舌で茶化す。伊織の、「対龍神様用――愛の拳」が脳天に炸裂した。蓮ちゃんは「頭がっ、頭がぁ~」と床を転げ回っている。「おのれ、伊織めぇ。毎度、毎度、我の耐久力を軽く無視してぇ~」と涙目で頭を抱える姿に、もはや龍神としての威厳は皆無だった。

 

 伊織さんの()は、容易く龍神様を撃ち抜くのだ!

 

 ミクとテトが蓮の両足を掴んでリビングへと引き摺って行く。

 

 こうして、高町家と北條家の初会談は、なんとも微妙な空気で終わりを迎えるのだった。

 

 




特に進展なし。なろうの方ばっかり更新しててすみませんです。
でも、今年の抱負として、今年中にリリなの現代偏を終わらせたいと思う。

カンピ世界とか、ワンピ世界とか、ブリーチ世界とか、いろいろ行かせたいのです。

趣味全開、亀更新ですが、一緒に楽しんでもらえれば嬉しいです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。