ウルトラソッ・・・!   作:たい焼き屋台

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にくたべいこう!

 対バン。文字だけ見るとあたかも対決するバンドのように思えるが、実際は単に一緒にライブを行う共演者として用いられることが多い。

 

 

 Afterglowとハロー、ハッピーワールド!の対バン。リーダーのひまりちゃんがすんなりと承諾したので話はとんとん拍子に進むことになる。

 

 

 わざわざ怪盗団と果たし状? に書かれていたので黒猫姿の俺にも出番があるかもしれない、とひまりちゃんに言われ、わくわくしているとハロハピにもてっくんとして呼び出される。

 

 

 そこには対バンの準備をするために集まったメンバーが。俺もてっくんとして参加するのだろうか?

 

 

 ミッシェル先輩こと、美咲ちゃんに聞いてみる。着ぐるみ繋がりでなんだかんだ仲良くなったのだ。

 

 

「Afterglowとの対バンのセトリとかってもう決まってるの?」

 

 

「あはは。そんな簡単に決まるわけないじゃないですか。てっくんが呼ばれたのは違う理由ですよ」

 

 

 ぐったりとした様子の美咲ちゃんにとりあえずお茶を差し出す。本当によくこのメンバーを上手く纏めているものだ。

 

 

「聞いたわてっくん! あなた曲が書けるそうね! そういうことなら遠慮しないで言ってくれればよかったのに、あたしてっくんの曲を聞いてみたいわ」

 

 

 弦巻さんがてっくんを呼んだ理由はこれだったみたいだ。どこからかてっくんが作曲してるという情報が出回っているらしい。別に隠しているわけでは無かったのだが、個性的なハロハピに刺さる曲かぁ……。

 

 

 弦巻さんと北沢さんがキラキラとした瞳でこちらを見つめる。ミッシェル先輩がなんでもこなすので着ぐるみに対するハードルが上がっているのでは無いかと不安になる。

 

 

 そういえば北沢さんの家は精肉店だと以前聞いたことがある。ならばと、スマホを操作して曲をかける。

 

 

 うん、相変わらず聞いているだけでお腹が空く曲だ。それに合いの手が頻繁にあるからライブで聞くとめちゃくちゃ楽しい。

 

 

「うわー! お肉の曲だよ! 家に帰ってコロッケ食べたくなってきたよ~」

 

 

「そうだね。はぐみの家のコロッケは言葉に言い表せないほどの美味……すなわち、儚い……!」

 

 

 北沢さんのお腹がぐるぐると鳴り、瀬田さんの難解ながら美味しそうな食レポ。とりあえず今度時間が出来たらコロッケを買いに行こう。

 

 

 そんな決意をしていると目の前にコロッケが。……早い。そしてまだ熱いのはどういうことなんだ。コロッケを準備してくれた黒服の人達は曲を気に入ってくれたらしく合いの手を研究していた。

 

 

 お礼を言い、コロッケをみんなで頂く。ジュワッと口の中に広がる油が体を幸せにする。着ぐるみの中で食べると熱かったがそれでも大満足できた。

 

 

「……決めたわ! この曲を次のライブでやりましょう! 怪盗団にもはぐみの家のコロッケを食べさせればみんな笑顔になれるわ!」

 

 

「こころちゃん、ライブ中に食べ物食べたりしたら駄目だよ……」

 

 

 松原さんの涙目の反論も騒がしさにかき消される。美咲ちゃんはミッシェルを装備して場を収めに行ったところを抱きつかれ撃沈していた。

 

 

 ……ライブ本番、大丈夫だろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Afterglowとハロー、ハッピーワールド!の対バンライブ当日。会場の外には人々が集まり徐々に熱を帯びていく。

 

 

 私達は控え室でそれぞれ準備をしていた。私もミッシェルを装備して動きを確かめる。外でははぐみの家が出店を出してくれたそうだ。後でお礼を言いに行かなければ。

 

 

「てっくん、最初から出られないなんて忙しかったのね。他にも仕事してるのかしら」

 

 

 今日の対バン相手の黒猫として働いてるよ。こころの問いに心中で答えているとAfterglowのメンバーも控え室にやってきた。

 

 

「きゃー! 薫先輩その衣装素敵です! 後で写真撮ってもらってもいいですか?」

 

 

「もちろんだよ、子猫ちゃんも怪盗姿似合っているよ。私の心が奪われそうだ……」

 

 

 上原さんと薫さんがはしゃいでいる横で、青葉さんははぐみとコロッケを食べている。……自由だなぁ。

 

 

「来たわねスカーレット! 今日は貴方からみんなのハートを取り戻すわ!」

 

 

「やってみれば? 簡単じゃないと思うけど」

 

 

 こころの宣戦布告に意外と美竹さんも怪盗役として乗ってくれてるようだ。ただ、その自信満々な態度を見ると私もAfterglowを超えてみたいと思ってしまう。

 

 

「ははっ! 蘭っじゃなくて、スカーレットもいうように簡単には返さないぜ」

 

 

「うぅ……。負けません……!」

 

 

 イケメンの宇田川さんの相手が花音さんというのも心配に見えるが、花音さんはやるときはやってくれる人なので心配いらないだろう。

 

 

 そんなやりとりの向こう側、黒猫がうずくまり羽沢さんに心配されていた。

 

 

「先輩、大丈夫ですか? 調子悪いなら無理しない方が……」

 

 

「大丈夫だ。つぐみちゃん。我が輩、少し風に当たってくる……」

 

 

 織主先輩は着ぐるみが変わる度にキャラを変えているのだろうか? ともかく気になった私は後を追う。

 

 

 自販機の前のベンチで着ぐるみの頭を取った先輩がコーヒー片手に項垂れていた。隣に腰を下ろす。遠くでは観客のざわめきが聞こえてくる。開演の時間が近い。

 

 

「ミッシェル先輩か……。情けない所を見られたな」

 

 

 ライブ前だというのに疲れた様子の先輩。今回のライブで先輩は何度も着ぐるみを着替えて出演する予定だ。着ぐるみを着るのは中々重労働だ。

 

 

 それに先輩は着ぐるみライブを始めて日が浅い。私には先輩の元気が無い理由に目星がついていた。

 

 

「そんなこと無いですよ。私、先輩の今の気持ち分かりますから」

 

 

 二人で顔を見合わせ同時に口を開く。

 

 

「「暑い」」

 

 

 当たり前だが着ぐるみを着ていると暑い。私も経験や黒服の人達に何度も改良してもらったから慣れてきてはいるが、初めのころは辛かったものだ。ましてや、ライブ前などの緊張する舞台前では三割増しだろう。

 

 

「ミッシェル先輩はやっぱりすごいな。大変なことを大変そうに見せない。どうしてそこまで強いんだ?」

 

 

 私としては別に平気でやっているわけではないのだけれど、外から見る分にはきちんとこなせているらしい。

 

 

「いっつも大変ですよ。でも、なんですかね。ほら、私達って世界を笑顔にするために活動してるじゃないですか。だから私が笑顔じゃないと駄目なんですけど、ミッシェルだと表情分かんないし態度だけでも、なんて……」

 

 

 思わず話してしまった。やはりライブ前は気分が高まっていけない。ミッシェルを装備していてよかった。らしくもないことを言ったせいで顔が熱い。

 

 

「それに強いのはこころの方ですよ。普通いいライブを見たら、かっこいいとか参考にしたいとか、そんなことしか思い浮かばないのに、こころはそのライブを超えたいと思えるんですから」

 

 

 凡人なら諦めてしまうところだがこころは違う。私達ならもっと出来ると信じている。だから、私も頑張れる。こころが信じてくれるハロハピのみんなを信じてるから。

 

 

「やっぱりミッシェル先輩も強いよ」

 

 

 先輩の言葉とともにアナウンスが流れる。

 

 

 ――ステージが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二つのバンドによるステージは交互に曲を演奏するスタイルで行われた。

 

 

 Afterglowの結束力を表すような力強い旋律で観客の心を掴んだと思うと、ハロー、ハッピーワールド!の独特な世界観の曲が観客達を笑顔にする。二つのバンドが噛み合い、新たなステージを生んだ。 

 

 

 俺は代わる代わる衣装を変えてステージに立っては演奏を繰り返した。バンドが変われば音も変わる。当たり前だが実行するのは難しい。

 

 

 それでも、最高に楽しく有意義なライブとなった。例の肉の歌で黒服の人達が全力で合いの手をしてくれたり、瀬田さんまでもが途中で怪盗になったりと、今まで見てきたライブとは異なる新鮮なものになった。

 

 

 ライブが終わると弦巻さんと蘭ちゃんが握手を交わし、互いに認め合える最高のステージになったと思う。

 

 

 ライブ後は北沢さんの家のご厚意でみんなにコロッケが振る舞われた。弦巻さんの言葉通りみんな笑顔で食べていたのが印象的だった。

 

 

「先輩。今日はお疲れ様」

 

 

「美咲ちゃん」

 

 

 外はすっかりと暗くなり、冷たくなった風が心地よい。俺が外で涼んでいると、同じ理由で外に来たのであろう美咲ちゃんと出会う。

 

 

「先輩何回も着替えるから、途中で背中のチャック空いてましたよ」

 

 

「うわ、全然気づかなかった」

 

 

 他愛ない話をしながら時間を潰す。ライブの後はこうして誰かと話していると落ち着く。サイリウムの光のように街には光が灯り始める。

 

 

「……先輩は、これからどうするんですか? Afterglowのライブにお手伝いで出るって聞いたんですけど、てっくんとしてハロハピのライブには出ないんですか……?」

 

 

 美咲ちゃんの心配そうな声。後輩着ぐるみがいなくなって寂しく思ってくれるなんて優しい子だ。

 

 

「いや、ハロハピのライブにも呼んでくれれば出るよ。むしろ、どのバンドのライブにも端役でもいいから出させてもらいたい。将来の為に少しでも経験を積みたいんだ」

 

 

「将来……」

 

 

 Afterglowのようないつも通りを目指すこととも違う、ハロハピのような世界を笑顔にすることとも違う、俺にしか出来ないことを探したい。

 

 

 それが見つかったときに少しでも実現できるようにするための努力が今は必要だ。

 

 

「先輩になら見つけられますよ。なんたって私の後輩ですから」

 

 

 一瞬でミッシェル先輩の姿になっている美咲ちゃん。……まだまだ敵いそうにない。

 

 

「よし! 今日はみんなで焼き肉食べに行こう!」

 

 

 とりあえずは腹ごしらえだ。学ぶことはたくさんあるが、腹が減ってはなんとやら。今日は日頃の感謝の意を込めてみんなを焼き肉に連れて行こう!

 

 

「おお~。みんな~先輩が焼き肉奢ってくれるって~」

 

 

「おお! 先輩ご馳走になります!」

 

 

「こころん! あのお店行こうよ! あの口に入れたら溶けるお肉出てくるところ!」

 

 

「いいわね! 早速電話しておくわ!」

 

 

 え、ちょっと待って。俺の発言を聞き取ったモカちゃんの発言が巡り巡ってとんでもない事態になっている気がする。とりあえずそのお店に電話するのは待って!

 

 

「あ~、あのお店は0が多くて大変だったな~。とりあえずこころ、そこのお店は止めよう」

 

 

 ミッシェル先輩から姿を戻した美咲ちゃんも後輩モードになっていたが、俺の財布を助けてくれる。

 

 

 スッと黒服の人達からクーポンが差し出される。ありがたや、財布のダメージは大きいが彼女たちの笑顔が見られるならば安いものだ。

 

 

 俺は先に焼き肉屋を目指して歩き出したみんなを追いかけるのであった。

 

 

 

 

 


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