ウルトラソッ・・・!   作:たい焼き屋台

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ふっかつのじゅもん

 

 パスパレのみんなと動画を作り終えてから少し日が空いた。あの後、取り終えた動画を大和さんの手を借りながらも編集し、なんとか完成に漕ぎ着けたのが一昨日だ。

 

 

 そして昨日にはパスパレのみんなにチェックしてもらい、OKのサインが出たので今日動画を投稿した。みんなの力を借りたおかげでプロ顔負けの出来上がりになったと思う。

 

 

 一仕事終えた気分にCiRCLEにむかう足取りも軽くなる。今日の夜には動画にコメントついてるかな~っと、スタジオで軽く演奏しているとドアの向こうに人影。

 

 

「てっくんせんぱーい!」

 

 

 猫耳型の髪型をぴょこぴょこと揺らしながら駆け寄ってくる少女。見ているだけで元気が貰えそうな笑顔をいつも振りまいているのはポピパの香澄ちゃんだ。

 

 

「俺はてっくんを着てないのにてっくんって呼ばれ続けるのか……?」

 

 

「てっくん先輩って響きが可愛くてよくないですか?」

 

 

 屈託の無い笑顔でそう言われると悪くない気がしてくる。でも女子の可愛いって言葉はたまに理解出来ないんだよなぁ……。

 

 

 香澄ちゃんと気軽に話すようになったのは少し前からだ。ポピパのメンバーにてっくんの姿で勧誘されてからもCiRCLEで何回かハロハピのライブのお手伝いをしたので、香澄ちゃんに正体がバレるのもあっさりだった。

 

 

 彼女本来の明るい性格と親しみやすい雰囲気によって打ち解けるのに時間はかからなかった。

 

 

「てっくん先輩! 前のライブも見に来てくれてましたよね? どうでしたか!?」

 

 

「最高だったよ! とくに二曲目の入りが格好良すぎて鳥肌がたった……」

 

 

 CiRCLEで働くようになってからガールズバンドのライブもよく見るようになったが、ポピパのライブには足繁く通っている。何回見ても元気が貰えるし、香澄ちゃんがアドリブを頻繁にやるので飽きないのだ。

 

 

 俺の言葉で喜んでくれた香澄ちゃんが楽しそうに話す。あの部分はみんなで考えて、当日にちょっと変更したから気になっていたらしい。

 

 

 ライブを思い出して興奮してきたのか猫耳も荒ぶっているように見える。表情をコロコロ変えながら楽しげに話す様子を見ているだけで朗らかな気持ちになれる。それからもライブの話に花を咲かせる。

 

 

「今度はショッピングモールのステージでライブをすることになったんですけど、家族連れが多い中でどういうパフォーマンスをすればいいか悩んでるんですよ~……」

 

 

 話題は次のライブのことに。場所がショッピングモールか……。人が多いけど年齢層もばらけやすくて、通りかかる人すべての足を止まらせることはとても難しい。

 

 

「うーん。ポピパはポップな曲が多いから若い人は全力で楽しめるから心配しなくてもいいと思うけどな」

 

 

「折角のステージなので小さい子にも楽しんで貰いたいんですよね~。チョココロネを配る案は却下されたし……」

 

 

 チョココロネは美味しいけどそれは流石に……。頭を悩ます香澄ちゃん。色んな人に楽しんで貰う、か。

 

 

 ステージに立つ上でとても重要なことだ。好きな曲を思いっきり弾いていただけの自分も反省して考えてみることにした。

 

 

 子供の好きなものか。俺が小学生ぐらいのころは公園に集まって毎日けいどろやらドッジボールやら、思えばよくあんなにもアクティブだったなと我ながら呆れてしまう。

 

 

 しかし、今外を見るとベンチで集まって携帯ゲーム機で遊ぶ子供達。……時代だな。遊ぶ公園もすくなくなってきているらしいし。

 

 

 ゲームと言えば俺も昔はドラ○エなんかよくやったな。特に5。誰を嫁にしたかで言い争っていたのが懐かしい。

 

 

「チョココロネ作戦以外で他に案は出なかったの?」

 

 

「えーとですね。目で見て分かりやすいように劇っぽい感じでやろうみたいな話は出たんですけど、細かいことは何にも」

 

 

 劇、ミュージカルっぽくするってことか。確かにそれなら子供でも飽きずに見てくれるかも知れない。

 

 

 ……ドラク○っぽい歌なら覚えがある。

 

 

「香澄ちゃんド○クエって分かる?」

 

 

「えーと、スライムとか出てくるやつですよね? 私5やったことありますよ! お嫁にフ○ーラ選びました!」

 

 

 ビア○カじゃない……だと? 異議を申し立てたかったがこの話題は戦争が始まるので保留だ。後できっちりと決着をつけよう。

 

 

 俺は曲の準備をすると同時に、香澄ちゃんに一つの提案をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私がてっくんにまた会えるよって言った数日後、てっくんと再会した。

 

 

 私はまた会えたことが普通に嬉しかったけど、有咲は早すぎだろって項垂れてた。早く会えた方がいいと思うけどな~。

 

 

 てっくんの正体はCiRCLEで色々なお手伝いをしてくれる織主さんだった。織主さんはRoseliaやAfterglowのメンバーと仲がよくてライブを一緒にやったこともあるみたい。

 

 

 私達もライブの時には機材の設置等手伝って貰ったことがあったり、ギターを教えて貰ったりしたこともあったので先輩とはすぐに仲良くなれた。

 

 

 先輩はよく私達のライブを見に来てくれた。ポピパのライブが活力になるそうだ。私が目指すキラキラのステージに近づけた気がして嬉しかった!

 

 

 あるとき、ショッピングモールでのライブが決まって私達は悩むことになった。いつものライブハウスとは違って私達を知らない人の方が多い環境でやるのだ。

 

 

 その人達を楽しませるにはどうしたらいいのかな~。さーやの家のパンの力を借りる作戦はボツにされた。むむむ、匂いだけでもつけていったらお客さん寄ってこないかな?

 

 

 おたえのみんなでうさ耳つけて触れあいコーナーをやる案も駄目だった。有咲のうさみみ姿可愛かったのにもったいない……。ポピパのグループのトプ画にしておこう。

 

 

 結局ライブの方向性は決まってないけど、ライブまでの日数は決まっているので練習あるのみ!

 

 

 そんなとき、CiRCLEで練習を行う日に先輩を見かけた。先輩もライブしたことがある経験者なので相談してみることに。

 

 

「香澄ちゃんド○クエって分かる?」

 

 

 普段ゲームはあんまりやらないけれど、そんな私でも一作ぐらいプレイしたことがあるタイトルだった。

 

 

 先輩は劇みたいなライブでド○クエをモチーフにしたステージを一曲やるのはどうか、と提案した。しかも、曲までもう準備してあるとか先輩のレパートリーの広さは未知数すぎる!?

 

 

 曲はすっごくよかった! 軽快なリズムにノりやすい合いの手。しかも幅広い年齢が分かるゲームを思い出させる歌詞はみんなを虜にする。私も久々にゲームやりたくなってきたかも?

 

 

「勇者は香澄ちゃんだね」

 

 

「え、勇者って男じゃないんですか?」

 

 

 大体のゲームの勇者が男なイメージがある私は勇者をやることにちょっと違和感があった。

 

 

「性別なんて関係ないよ。みんなに勇気を与えるのが物語の中の勇者。俺はいっつもライブで香澄ちゃんから勇気と元気を貰ってるから勇者役にはピッタリじゃないか」

 

 

 こうもストレートに言われると嬉しいけれど恥ずかしさもこみ上げてくる。先輩も言ってから恥ずかしくなったのかばつが悪そうにしている。

 

 

「……うん! じゃあ私が勇者になる! それでお客さん全員に勇気をあげる!」

 

 

 気まずい雰囲気を払拭するように力強く宣言すると、その言葉に満足気に頷く先輩。私達の音楽が多くの人達をドキドキさせてその人達の力になる。そんなライブを作りたい。 漠然としていたイメージが固まってきた。

 

 

「ええと私が勇者なら僧侶がさーやで、魔法使いがりみりん。戦士が有咲で、おたえは……魔王?」

 

 

 私の言葉に笑う声。うぅ……、おたえはファンタジー世界でもあのままっぽいから難しいよ……。

 

 

「もしよかったらそのライブ手伝わせてくれないか? 着ぐるみでもなんでも着るぞ」

 

 

 先輩からのありがたいお言葉。着ぐるみを着てパフォーマンスが出来る人なんてそうそういないのでとても助かる……!

 

 

 とりあえずポピパのみんなの意見を聞こうとメッセージを開くと何件かの通知がたまっていた。

 

 

 おすすめスイーツ見つけた、あそこの服屋のセールがやばい、話題になってる動画見た? 蔵の中から宝物発見。色々な話題が飛び交う中、指先でメッセージを送りながらも私は次のライブへと思いを馳せるのであった。

 

 

 

 


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