ウルトラソッ・・・!   作:たい焼き屋台

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幕間2 ほっとりみっと

 

 澄み切った青空の中で燦々と輝く太陽が身を焦がす。子供は大きな浮き輪を持ち、ウォータースライダーには多くの人が並んでいた。

 

 

 周りを見渡せば人、人、人。夏休み真っ只中、大学の友人達に誘われて俺はプールにやってきていた。

 

 

「うわ、人の数やばいな。でもその分可愛い子もいっぱいいるだろ!」

 

 

「でかいプールとは聞いてたけど予想以上だな……。ステージイベントもあるみたいだぞ」

 

 

「ここのチケットを譲ってくれたおじさんには感謝だな。今日は泳ぐぞ!」

 

 

 友人の親戚がチケットを持てあましていたのを譲って貰ったおかげで今回急遽このプールに来られることになった俺達。ナンパ、ステージ、遊泳と各々がやる気を見せる。

 

 

「ステージってなにやるんだ?」

 

 

 気になった言葉があったので俺もパンフレットを眺める。繁忙期は毎日のようにイベントを行っているようだ。

 

 

 ……ええと、今日のイベントはRoseliaとパスパレのライブ!?

 

 

「Roseliaとパスパレのライブとかまじかよ! 今のうちから場所取りしとくか?」

 

 

「いや、整理券配布するみたいだぞ。どちみち並ばないといけなそうだけど」

 

 

 沸き立つ友人達。まさかここでライブを見られると思っていなかったのでテンションが上がっても仕方が無い。

 

 

 とりあえず整理券を手に入れるために並ぶことにした。時間もまだ早かったため余裕をもって券は貰えそうだ。

 

 

「織主はこのあとどうする? 俺とナンパしにいかないか?」

 

 

 行列に並ぶ中次の予定を決めることに。俺も最初は泳ぐ予定だったがこんなにも人が居ては自由に泳ぐことは難しいだろう。泳ぐ気満々だったBは室内の競技用プールで泳ぐらしい。

 

 

 さっきからスタイルがいい女性の水着姿を見る度に鼻の下を伸ばしているAに誘われて考える。競技みたいに本気で泳ぎたいわけじゃないしなぁ……。

 

 

「Cはどうするんだ? ステージまで時間あるけど?」

 

 

「俺は売店行って推しのサイリウム買ってくる。パスパレのライブがあると分かっていたらこんな軽装備で来なかったのに……!」

 

 

 いや、こんな暑い日に重装備で来たら熱中症になるぞ。既に戦闘モードに入っているCの周りは温度が1~2℃上がってそうだった。

 

 

 消去法的に俺もAのナンパに付き合うことに。俺が加わったところで戦力になるかは怪しいところだが一応やってみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――一時間後

 

 

「……なぁ織主」

 

 

「……なんだ」

 

 

「……可愛い子には彼氏いるんだな」

 

 

 ずーん、と効果音が聞こえてきそうなほど落ち込んでいるA。Aがピンときた子に声をかけまくってみたもののその悉くが彼氏持ちという有様。

 

 

 目の前で仲睦まじげに去って行く後ろ姿を何組も見送っているうちにAの心はぽっきりと折れてしまったようだ。

 

 

 哀愁漂う背中になんと声をかけるべきか悩んでいると、ぐるりと振り向いた虚ろな表情のAと目が合う。

 

 

「織主はいいよな、バンドやってるとモテるだろ。前もガールズバンドと一緒にライブしてたし」

 

 

 感情のこもってない平坦な声が怖い。周りが楽しげな歓声で包まれているぶん、Aの哀しみが強調されている。

 

 

「バンドマンだからモテるってわけじゃないぞ、うん。それに俺はステージに立つようになったの最近だしな」

 

 

 これ以上友人を暗黒面に落とさない為にも当たり障り無い返答を返す。Aもなんとか納得してくれたようで元気を取り戻す。

 

 

「そうだよな! 前まで動画投稿しかしてなかったしそんな急にモテるわけ……」

 

 

「あ、織主せんぱーい! 奇遇ですね! おねーちゃん、先輩いたよ!」

 

 

「なっ!? ちょっと待ってください! この格好を見られるのは……」

 

 

 この声は……日菜ちゃんと紗夜!?

 

 

 声が聞こえた方に振り返ると見覚えのある二人の姿。距離があるため最初の日菜ちゃんの呼びかけしか聞こえなかったが、その声は友人にも届いていたようだ。

 

 

 不味い! 最悪のタイミングで日菜ちゃんと紗夜に出会ってしまった。話の流れとは逆の事象がおきたのと同時に、氷川姉妹の正体がバレるのもよろしくない。

 

 

 俺は未だ遠くでハッキリとは見えない距離の二人に急いで駆け寄る。後ろから聞こえてきた裏切り者-! という声は空耳に違いない。うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は屋外のプールでのイベントといつもの環境とはかなり異なったステージを行う予定だった。

 

 

 しかもパスパレとの合同イベントらしく、朝からテンションが高い日菜と真夏の日差しに当てられて、ステージが始まる前からぐったりとすることに。

 

 

「おねーちゃん! 見てあれ! ウォータースライダー! でっかくない!? 折角だから並ぼうよ!」

 

 

「並んでる人の数を見なさい。下手したらステージに間に合わないでしょ」

 

 

「おねーちゃん! 流れるプール! 入ろう!」

 

 

「歩いてるだけでもはぐれそうになるんだから駄目よ」

 

 

 少しだけプールの雰囲気を味わいたいという日菜のわがままに付き合わされて人混みの中を歩く私達。

 

 

 準備のいいことにステージ衣装とは別に水着も用意されていたので、そこから選んだものを着ている。

 

 

 日菜は爽やかな水色のオフショルダー・ビキニ。肩を出した開放的なデザインで日菜の活発な性格を知っているとより似合っていると言えるだろう。

 

 

 私は紐を首の後ろで固定するタイプのビキニを選んだ。なるべく目立たないようにと無難な白色を選んだのだけれど周囲からチラチラと目線を感じる気がする。

 

 

 二人ともサングラスをしているため簡単にはバレないと思っていたのだけれど。なんにせよ早く日菜を満足させて戻ろう。

 

 

 そう考えて日菜の言うとおりにあちこち連れ回されて、そろそろ疲労感を感じてきた頃だった。

 

 

「あ、織主せんぱーい! 奇遇ですね! おねーちゃん、先輩いたよ!」

 

 

 え!? 日菜の言葉に視線を先に向かわすとそこには確かに織主さんの姿が。そして、次に頭に浮かんだのが今の自分の格好だった。

 

 

 知り合い、それも異性に見せることになるなんて思ってもいなかった私の頭の中には後悔しかなかった。

 

 

 日菜のような可愛い子でしかも水着姿の隣に自分がいることを想像しただけで今までの敗北の記憶が甦る。

 

 

 不安と緊張で体が動かない中、彼が目の前まで近づく。水着姿の彼は想像よりたくましく、私の沈んだ心の内とは裏腹に胸がどきりと高鳴った。

 

 

「先輩! ライブ見に来てくれるなら一言ぐらい言ってくれてもいいんじゃないですか~?」

 

 

「ごめんごめん。俺もこのプールに来るのが急に決まってさ。今日来るまでライブがあること知らなかったんだよ」

 

 

 日菜の軽口に合わせたあと、彼がこちらを見る。日菜と比べられるのが怖くて思わず体を手で隠してしまう。

 

 

「紗夜……。その格好……すっごい似合ってる。ナンパとかによく声をかけられたりしなかったか?」

 

 

 少し照れたような表情から発された言葉は、プールで騒ぐ人々の喧噪に混じっていたはずなのにハッキリと耳に届いた。

 

 

 彼の言葉の意味を咀嚼するのには時間がかかった。似合ってるって……。そしてその意味を理解すると、既に太陽で熱くなっていた体がさらに熱を帯びる。

 

 

「先輩! あたしは? あたしは?」

 

 

「うん、可愛い可愛い」

 

 

「なんかあたしだけ雑じゃないですか!?」

 

 

 騒いでいる二人を見ているとなんだか心配していた自分が馬鹿みたいに思えてきてしまう。未だに比べることに固執している私。でも、彼はありのままの私を受け入れてくれる気がした。

 

 

「ごほん……。心配されずともナンパはされませんでした。どうやら私達を誘う勇気ある人達はいなかったみたいですね」

 

 

 意味深な言葉と共に彼に視線を向ける。開放的な場所が私を少し大胆にさせてくれる勇気をくれた。

 

 

「それはもったいない。俺が二人を誘ってもいいかな?」

 

 

 彼の言葉に私は頷く。この夏の思いでは胸に刻もう。それに私をプールに連れ出してくれた日菜には後でかき氷でも買ってあげよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紗夜と日菜ちゃんと軽く遊んだ後、俺はまた友達と集まってライブが始まるのを待っていた。

 

 

 ……それにしても二人の水着の破壊力はすさまじかった。日菜ちゃんは元気いっぱいな性格も相まって白い肩が眩しい水着姿は流石アイドルといったところか。

 

 

 そして紗夜。紗夜の白のビキニ姿はやばかった。いくらサングラスで目元を隠しているからって大胆すぎではないだろうか。

 

 

 すらっとした脚線美から視線をあげれば無防備な背中を晒している紗夜を他の男の視線から守ってしまうのは当然のことだった。……紗夜はもうちょっと自分の魅力に気づいて欲しいな。

 

 

 Aの追及をなんとか逃れ、後はステージが始まるのを待つばかり。今日を振り返ってみれば一日中翻弄されていた気がする。

 

 

 帰りの車の中でかける曲は決まったな。今度ライブをするときはあの特徴的すぎる衣装をリスペクトするのも……、それは止めておくか。

 

 

 マーメイド達のステージが始まる。俺は声を張り上げライブを心の底から楽しんだのであった。

 

 

 

 

 


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