ウルトラソッ・・・!   作:たい焼き屋台

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ざ びぎにんぐ

 

 

「紗夜ー、次のとこに移動するよー」

 

 

「今行きます」

 

 

 互いの気持ちが通じ合ってから数年後。私はRoseliaとして活動を続けながらも大学へ進学し、忙しない日々を過ごしていました。

 

 

「えーと、今日は愛知で次は大阪……最後が東京って移動が多いと結構しんどいね~」

 

 

「仕方ありません。夏はフェスの時季ですから呼んで頂けるだけありがたいですよ」

 

 

 今井さんと軽口を挟みながら荷物を持って移動する。この時期の長距離移動にも慣れたものだ。

 

 

 新幹線に乗り込み、疲れた体をソファーに預けると睡魔が襲ってくるが、寝てしまう前に次のステージの確認をしなければ。

 

 

 事前に渡されていた資料を開き読み始めていると、隣に暑さで溶けたアイスのようにぐったりとした今井さんが腰をおろす。

 

 

「あ~。最近ほんと暑いね。プール行きたいな~」

 

 

 外の熱気から逃れ、涼しげな車内に入って夢見心地な今井さんの言葉で思い出すのは懐かしい記憶。感傷に浸りながら口を開く。

 

 

「そうですね。他の人も誘ってプールにいけたらいいですね」

 

 

「日菜は? 最近会ってないから久々に会いたいな~」

 

 

「あの子は……呼べば来るんじゃないかしら?」

 

 

 私達Roselia以外でもCiRCLEでともに演奏していたバンドは活動を続けている。パスパレもアイドルバンドとして確固たる地位を築きあげて多忙なはずなのに、日菜を誘うと天才的なマネジメントで予定を空けてしまうので、今となっては素直に妹の才能を羨ましいと思える。

 

 

「折角だから他のガルパのメンバーも呼びたいよね~。中々あの大人数だと予定を合わせるのが難しいんだけど」

 

 

 今井さんの言葉に頷く。ポピパやAfterglowのメンバーは私と同様に大学に行きながらバンド活動を続けているので長期休暇の際に集まれる機会があるかもしれないが……。

 

 

「ハロー、ハッピーワールド! の皆さんは今どこで活動しているんでしたっけ?」

 

 

「えーと……、南アフリカ共和国だって。美咲のSNS、顔が死んでるんだけど大丈夫かな」

 

 

 苦笑いを浮かべながらスマホの画面を見せてくれる。そこに写っていたのは、どことも知れない部族の人々と笑顔で踊っているハロハピの写真であった。

 

 

 ……ミッシェルがどうみても祭壇で祀られているようにしかみえないのだけれど何があったのだろうか?

 

 

「でも、こんなに遠い場所にいるのに呼んだら来てくれそうって思えるのも凄いよね」

 

 

 その言葉を否定出来ないのがハロハピの凄いところである。過去を思い出しながら他愛ない話を続けているとスマホが震える。画面に表示された名前に思わず笑みが浮かぶ。

 

 

「先輩からのメッセージ? 最近会ってなかったっけ?」

 

 

「……どうしてすぐに分かるんですか。最後に会ったのは一月ぐらい前です」

 

 

「いや、その顔見たら誰でも分かるって」

 

 

 釈然としない思いを胸にメッセージの返信を綴る。

 

 

「あ~あ。先輩も東京のフェスに出るからな~。アタシ達ももっと頑張らないと本当に抜かされちゃうかも」

 

 

 言葉とは裏腹に嬉しそうな表情を浮かべる今井さん。私も同じような表情になっていることだろう。

 

 

 ようやく同じ場所まで来てくれた。

 

 

 彼は大学を出ると直ぐにライブハウスに突撃してはメンバーを募り、メンバーが集まってからは地道に活動を続けていた。

 

 

「先輩のバンドメンバーに可愛い女の人がいたときの紗夜の目は今でも夢に出てきそうなぐらい鋭かったよね~」

 

 

 ……もう、どうしてそんなことばかり覚えているんですか。

 

 

 自分では自覚がなかったがそのときの私は相当恐ろしい形相になっていたようで、彼のバンドのお披露目ライブの後に出迎えたら、ライブ後にも関わらず青白い顔になってしまっていた。

 

 

 結局話を聞けばその方は彼氏がいましたし、私自身も話してみたところ、むしろ今では彼が他の女性に手をだしたら連絡してくれるとの約束までしてくれました。彼のことは信用していますが、悪い女性にひっかかるかもしれないですしね。

 

 

「先輩のステージ二番目に大きいとこだもんね。タイムテーブルもずれてるし見に行けそうでよかった~」

 

 

 二番目に大きいステージといっても、ここにたどり着くまでは簡単ではありませんでした。機材トラブルやメンバーとの衝突、作曲スランプに重なるオーディションの落選。

 

 

 壁にぶつかる度に私は彼にそこまで頑張らなくていい、と言いたくなりました。けれど、彼は決して諦めませんでした。

 

 

『紗夜が頑張ってるなら俺もまだ頑張れるよ。紗夜が俺の前で輝いていてくれるから俺は迷わずに進むことが出来るんだ』

 

 

 あるとき、落ち込んだ彼を励ますとこんな言葉が返ってきました。私は彼の覚悟の強さを知りました。寄り添うだけなら簡単にできる。でも、共に歩むためにはどちらかが歩みを止めてはいけない。

 

 

 それからの私は導となるべくステージを全力でこなしました。

 

 

 時には息抜きで彼の趣味の動画制作に付き合うこともありました。いつ聞いても心を震わせる音の数々。彼のバンドの動画より、趣味の動画の再生数の方が伸びて嬉しいやら悲しいやら、そんな日々が続いていました。

 

 

 でもそのうち、彼のバンドが軌道に乗り始めると、彼のバンドの曲も再生数は徐々に伸びていき、投稿した動画と肩を並べる頃には、彼もステージに立つようになっていました。

 

 

「見に行くときは私にも声をかけてくださいね」

 

 

「もちろん!」

 

 

 今から次のライブに思いを馳せ心が高鳴る。窓の外を流れる景色をぼんやりと眺めているとスマホが震え、画面を見ると動画が添付されていました。タイトルを見て彼らしいな、と思いつつもイヤホンを挿し、曲をかける。

 

 

 流麗な英語に響くギター。感じていた睡魔も吹き飛ぶような旋律に体がリズムを刻み始める。この感覚を彼も味わっているだろうか。例え場所は遠く離れていても音楽で繋がっている気がする。

 

 

 そう、まだ始まったばかりなのだ。これからも私達は進み続ける。

 

 

 隣にあなたがいると思うだけで私はどこまでも先に行ける気がする。

 

 

 ……あなたもそう思ってくれてたらいいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






これにて本編終了です。
これまでお付き合いいただき本当にありがとうございました。
今後はifとして日菜ed、てっくんedあたりを投稿する予定です。

ばんぷ、ゆにぞん、ふぉーりみ、ごーばに、ぶるえん、どろす、わにま、きゅうそ、べがす、よるだん等々好きなバンドはまだまだあるのですが区切りがよかったのでここで終わることになりました。

最初は短編として投稿する予定だったのですが、感想が嬉しい余りこんなにも続いてしまいました!

気づけばお気に入りやら評価やらがとんでもないことになって自分でも面白いものを書けてるか不安になったりもしましたが、ひとまず完結させることが出来て本当によかったです!

最後に改めて貴重な時間を使って拙作を読んで頂いたみなさんと、モチベを爆上げしてくれるお気に入り登録、評価、感想をくださったみなさんに感謝を

本当にありがとうございました!

よろしければifも読んで頂けると嬉しいです。長々と失礼しました!


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