ウルトラソッ・・・!   作:たい焼き屋台

6 / 16
さまーう゛ぃーなす→わたがし→なつのとかげ

 

 

 夏祭り当日。燦々と太陽が照りつける中、バンドのステージイベントが始まろうとしていた。奇しくも俺はあみだくじでトリを引いてしまい、順番まではまだまだ時間がたくさんある。

 

 

 しかし俺は、一組目のバンドも準備中だというのに、暑さと緊張で体調を崩しそうになっていた。

 

 

「先輩顔白いよ? 大丈夫?」

 

 

 見かねたリサちゃんが心配そうに俺の顔を覗き込む。人の機微に敏感なリサちゃんには俺が緊張していることがバレバレのようだ。

 

 

「はは……。大丈夫だよ。ちょっと外の空気吸ってくる」

 

 

「そうですか……。何かあったらすぐ言ってくださいね!」

 

 

 リサちゃんにお礼を言って夏祭りの会場に繰り出す。このお祭りは地域の人達にも開放しており、人の数はそれなりにいた。

 

 

 お昼時ということもあって、各サークルの出店が声を上げて焼きそばやたこ焼きなんかの定番商品を売り捌こうと必死に客を取り合っていた。

 

 

 なにかを食べる気にもなれずぶらぶらと歩きながら、友人達にメッセージを送る。ステージのトリになったと報告すると見に来てくれるとのこと。

 

 

 ほっと一息。これで観客が0人という心配はなくなった。日菜ちゃんにも送ってみたが、時間的にぎりぎり間に合うか怪しいそうだ。

 

 

 さっきから考えがネガティブな方ばかりに向かってしまう。日陰のベンチに腰を下ろし、人混みを眺める。

 

 

 すると、ステージから歓声があがる。どうやら一組目の演奏が始まるみたいだ。時間が経てば俺もあそこのステージに立つと思うとやはり不安がよぎる。

 

 

「隣、いいかしら」

 

 

 顔を上げると、夏祭りでよく見かける狐のお面をつけた湊さんの姿が。Roseliaのみんなは有名人の為、こうして顔を隠している。

 

 

 湊さんは俺の隣に腰掛けると、ステージをお面越しに真剣な目で見つめる。そして、顔をこちらに向けると静かに俺に問いかける。

 

 

「私はやるからには一番しか目指さない。あなたはどう?」

 

 

「俺は……」

 

 

 面の奥の黄金色の瞳が俺を見据える。少ない言葉だったが湊さんの思いは伝わってきた。――私は全力を出す、ならあなたは?、と。

 

 

 ……年下の女の子に発破をかけられるなんて自分が情けない。俺がしたいことは決まっている。

 

 

「俺はみんなと最高のライブがしたい。湊さんにも今までやったライブの中で一番と言って貰えるようなライブを」

 

 

 俺はみんなと最高のステージを作りたい。観客が0人だって関係ない。湊さんが、Roseliaのみんなが協力してくれて実現した今回のステージで、俺達しか出来ないことをやりたい。

 

 

「そう。出番が楽しみね」

 

 

 微かに微笑んだ湊さんに一瞬見とれる。お面をつけていてもさまになっているのがずるいところだ。

 

 

 目標が決まればうじうじ悩んでいる時間はない。まずは腹ごしらえをして活力をつけなければ。

 

 

「何か食べるか。湊さんは屋台で好きな食べ物ある?」

 

 

「……ベビーカステラ」

 

 

 意外と子供っぽいものが好きなことに笑ってしまう。笑われたことに不服そうな湊さんを連れ、歩き出した俺の中からは緊張は消え去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「織主の出番いつだっけ?」

 

 

「トリだから次だよ、次」

 

 

「はぁ~。もう終わりか。あっという間だったな」

 

 

 織主からメッセージを受け、結局最初からバンドのステージを見ていた友人の三人。いよいよ次が織主達のバンドの出番である。

 

 

「そういや、メンバー結局見つかってよかったな。大学でなかなか見つからなくて苦労してそうだったし」

 

 

「ガールズバンドの知り合いの伝手で見つけたらしい。俺もギター始めたらRoseliaと知り合いになれないもんかな~」

 

 

「流石に無理だろ。Roseliaレベルまでいったらライブチケットを取ることすら難しいってのに」

 

 

 だよな~、と落胆する友人A。彼はRoseliaファンであった。

 

 

「織主が歌上手いのはカラオケで知ってるけどギターはどんだけ出来るんだ?」

 

 

 カラオケに行くと必ず採点機能を入れる友人B。彼はポピパファンである。

 

 

「あいつが上げてる動画見たことないのか? 普通に上手かったぞ。曲のクオリティもめっちゃ高かったし。てか、さっき日菜ちゃんに似てる子がいたんだけど」

 

 

 フェスでお酒を飲んで脱水症状になってから禁酒した友人C。彼はパスパレファンである。

 

 

 やいのやいのと騒ぎつつ、ちゃっかり一番先頭の列まで到達する三人。人の間を縫うようにすり抜けるスキルはフェスでは必須である。

 

 

「ちょ、織主のバンド名『フォックス・マスク~狐の饗宴~』って……」

 

 

 堂々と二つ名をバンド名に付けてしまう勇気に敬意を示しつつも、あいつこんなキャラだっけと心の中で首を傾げる三人。当の織主本人は、あこに命名を任せたことを後悔していた。

 

 

 やたら長く感じるインターバルも終わり、いよいよ彼らの出番がやってきた。

 

 

「織主ー!!」

 

 

 知り合いからの歓声。皆が手を挙げ音楽を待ち望む。

 

 

 バンドの名を表すかのように、メンバー全員が狐の面をつけた異色のバンド。ボーカル以外が全員女子というのも目を引く。彼女たちは黒い浴衣に身を包み男を支える。

 

 

――ステージが始まる。

 

 

 男が手拍子を誘い、観客が合わせる。今までのバンドが盛り上げていた会場のボルテージが下がらぬうちに、観客をステージに巻き込む。

 

 

 演奏が始まり、男が歌い出す。軽快なリズムに乗せられた夏の歌が聴衆の心を躍らせる。そして、曲が盛り上がりサビに入る前のEDMで心だけで無く体も踊らせる。

 

 

 サビに入ってからは祭りだった。跳びはね、叫び、手を叩く。各々が自由に楽しむ。

 

 

「すげぇ……。織主の歌、めちゃくちゃ楽しい……!」

 

 

 感嘆の声をあげるC。AとBはサークルを作ってどこかへ流されていった。一曲目が終わると体は汗でびしょびしょであった。

 

 

 一曲目で高まった勢いのまま二曲目が始まる。しかし、二曲目は一曲目と打って変わってスローテンポな歌であった。

 

 

 キーボードの音が会場の熱をゆっくりと冷やす。気づけばあれほど騒がしかった観客達が皆静かに男の歌を聴いていた。

 

 

 初々しい恋模様を時に優しく、時に力強く歌ったその歌は会場を包み込む。一つのバンドがステージをコントロールし観客を虜にする。

 

 

「聞き入って泣きそうになったわ」

 

 

 涙目で感想を言うB。いつの間にか酒を飲んでいたCは泣いていた。

 

 

『どーも! フォックス・マスクです! 挨拶したいんですが時間もないので最後の曲いきます!』

 

 

 MCが始まったかと思えば、次が最後の曲であると告げる男。観客から不満の声。男はその声に嬉しそうに応える。

 

 

『じゃあ、最後の曲だけど盛り上がる準備は出来てるかぁ!!』

 

 

「「「イエー!!!!」」」

 

 

『おーけー!!最後まで楽しんでいこう!!』

 

 

カッカッカッ

 

 

 スティックの音を合図に最後の曲が始まる。二曲目からまた一転。アップテンポの曲が観客の熱を再び呼び起こす。先ほどの爽やかな恋ではなく、燃え上がるような激しい恋の歌。

 

 

 疲れを忘れたかのように騒ぐ観客と、そんな観客を引っ張るバンド。音楽が人々を繋ぎ、会場が一つになって今年一番の熱さとなる。

 

 

「せんぱーい! おねーちゃーん! 最高だよー!」

 

 

「「「織主ーー!!」」」

 

 

 こうして、彼にとっての初ライブは歓声の中、幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライブ後、俺は友人達にもみくちゃにされ、バンド名でからかわれ、ようやく開放されたと思ったら写真撮影会がなぜかはじまり、あっちこっちに引っ張り回された。

 

 

 Roseliaのみんなに注意が向かないように急いで先に帰した結果、俺一人があちこちに駆り出され、自由になった頃には日が暮れていた。

 

 

 当初は、みんなで打ち上げに行く予定だったが遅くなってしまったので延期することに。俺はもうへとへとだったので正直ありがたい……。

 

 

 それにしてもライブが上手くいってよかった。湊さんの一番のライブを超えられたかはまだ聞けていないが、最高に楽しいライブだった。始まりからライブを思い返して一人でにやけているとスマホが震える。

 

 

『先輩。一人で笑ってると気味悪いですよ』

 

 

 メッセージの送り人を探すとすぐに見つかった。こちらを見て手を振る日菜ちゃん、そして隣には帰ったと思っていた紗夜の姿。二人とも浴衣を着ている。

 

 

「日菜ちゃん!来てくれたんだ! ライブどうだった?」

 

 

「もう、最高でした! ずっとるんっ♪って気分が止まんなかったよ~。おねーちゃんも先輩もかっこよかったですよ!」

 

 

 日菜ちゃんの真っ直ぐな言葉に照れてしまう。紗夜も褒められて居心地悪そうにしている。

 

 

「紗夜はどうしてここに? 先に帰ったのかと……」

 

 

 俺の言葉に紗夜がため息をつく。

 

 

「あなたを待っていたからに決まってるじゃ無いですか。……ほら、暗くなったら顔を隠さずに一緒に回れるでしょう?」

 

 

 そういう紗夜の顔は薄暗くなった今でも、はっきりと分かるほど赤くなっていた。

 

 

「もちろん日菜も一緒だよ! 先輩、両手に花だね~」

 

 

 そう言って俺の手をとる日菜ちゃん。ふわりと香る女子の香りにどぎまぎしていると、不満げな顔をした紗夜が反対側の腕をとる。

 

 

「日菜は先に帰っててもいいのよ。仕事のあとにここに来たんでしょう? 疲れてるんじゃ無い?」

 

 

「ええ~。おねーちゃんが帰るなら一緒に帰ろうかな~」

 

 

 ……二人とも。俺を挟んで言い合うのをやめてくれないかな。

 

 

 仲良し姉妹を引っ付けながら夜道を歩く俺は、今年はいつもとは違う夏になりそうだと笑顔で祭り会場に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。