ウルトラソッ・・・!   作:たい焼き屋台

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こんじきぐらふぃてぃー

「よし! いったん休憩にしよう!」

 

 

 巴の言葉に思わず腰を地面に落とす。ずっと練習続きで体はへとへとだった。他のみんなも流石に疲れていたのかぐったりとしていた。

 

 

「はぁぁ、疲れたぁ。ぶっ続けは中々体に来るよ~……」

 

 

「ひーちゃんは軟弱だなぁ~。かわいいモカちゃんはこんなに元気だっていうのに~」

 

 

 みんながへたっている中でも変わらないモカの言葉にいつもどおりだな、と笑ってしまう。軽く水分補給をし、小休憩の間に私は最近気に入っている動画を見る。

 

 

「ひまりちゃん何見てるの?」

 

 

 つぐが気になったのか覗き込んできたので、イヤホンを片方渡す。画面内に映るのは狐の面を被った風変わりなバンドのライブだ。

 

 

 ある大学の夏祭りで行われたステージの演奏がSNSを通して話題になっていた。見た目のインパクトもさることながら、楽曲や演奏技術のレベルの高さが動画からでも伝わってくる。

 

 

「うわぁ! すごい盛り上がりだね!」

 

 

「でしょ! でしょ! 私すっごくハマっちゃって、特に一曲目の歌がノリノリで何回も聴いちゃうんだよね~」

 

 

「どの曲もかっこいいね~。それにしても、後ろで演奏してる人達どこかで見た覚えがあるような気がする……」

 

 

 つぐの言葉につられ、バンドメンバーをしっかりと観察すると確かに見覚えがあるような……。二人でウンウンと唸っていると、話を聞いていた巴が教えてくれる。

 

 

「ああ、後ろで演奏してるのはRoseliaのメンバーだよ。そのライブの後の日にあこから何回も聞かされたからな」

 

 

「そうか~Roseliaだったんだ! だから見覚えが……ってえぇ!!」

 

 

 笑って話す巴の言葉にさらっと納得しそうになったが、色々と待って欲しい。面をつけていたのでこのバンドのメンバーは誰なのか謎に包まれていたのだ。

 

 

 大学の親しい友人なら特定することも出来るであろうが、その他の部外者には誰であったか分からない。

 

 

 そんな素性の分からないバンドがいきなり現れたことも、話題を攫う一因であったのに、あっさりとその謎を解かれては困惑するのも無理はない。しかも、Roseliaが演奏しているなら新たな疑問が生まれる。

 

 

「後ろで演奏してるのがRoseliaってことは分かったけど……。じゃあ、ボーカルの男の人は?」

 

 

「ああ、その人ならみんなも知ってる人だよ。ほら、CiRCLEでライブするときに色々手伝ってくれる織主さんだよ」

 

 

「えぇ!!!!」

 

 

 今日一番の驚きだった。いつもライブの時にセットの準備をしてくれたり、ベースの練習に付き合ってくれたり、よく分からない着ぐるみを着てハロハピのライブで踊ったり……。正直、最後のイメージが強すぎてライブをするなんて想像がつかない。

 

 

「あの人、こんな曲書くんだ……。意外」

 

 

「お菓子を恵んでくれるいい人だよね~」

 

 

「モカちゃん、餌付けされてる……?」

 

 

 蘭含め、他のメンバーも驚いていた。……モカはいつも通りだった。その後は巴にライブの様子を問い詰めたり、モカだけ何を貰っていたのかを聞いたり、蘭がRoseliaに対抗心を燃やしてやる気を出したりと一悶着あった。

 

 

「でもいいなぁ~。仮面をつけてライブってなんかかっこよくない?」

 

 

「……そうかな。あたしは無い方が歌いやすいと思うけど」

 

 

「蘭も満更じゃないって顔してる~」

 

 

「モカ、適当なこと言わないで……!」

 

 

 蘭とモカのいつものじゃれ合いが始まってしまったので、つぐと巴にも聞いてみる。

 

 

「二人はどう? 仮面ライブ、かっこいいと思わない?」

 

 

「アタシはいいぜ。ひょっとこの面をつけて熱いライブにしてやる!」

 

 

「巴ちゃん、ひょっとこはちょっと……。私もやってみたいかな。色んな事に挑戦してみたい」

 

 

 気づけば、仮面ライブをやる前提で話は進み、仮面や衣装のデザインをどうするかなんて話まで盛り上がり、時間があっという間に過ぎていった。

 

 

「すいませーん。Afterglowのみなさん。そろそろスタジオの終了時間です……って、どうかした?」

 

 

 いつの間にか時間が来てしまったようだ。でも、知らせに来てくれた人物を見て、みんなでアイコンタクトを交わす。話題の人物も丁度現れたことだし、今日はファミレスでじっくり予定を練らなくちゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライブから時は過ぎ、あの熱気が嘘だったかのように穏やかな日常が続いていた。面をつけた謎のバンドということでSNSで話題になってしまい、Roseliaのみんながバレるのではないかとヒヤヒヤしたが杞憂に終わりそうでよかった。

 

 

 あの後、打ち上げを行ったが、湊さんにも満足がいくライブだったようで、またやりましょうと言われたときは本当に嬉しかった。

 

 

 しかし、そう何度も都合よく一緒にライブを出来る機会が来るわけでも無いので、俺は再びいつも通りの生活に戻っていたのであった。

 

 

 今日も今日とて、てっくんを身に纏い、ハロハピのライブのお手伝い。弦巻さんの行動を予測するのも慣れてきた。ダイブしそうになったら、ミッシェル先輩にアイコンタクトし止めて貰う。北沢さんが駆け回ったら怪我をしないようにすぐさま床を整理。瀬田さんのMCが長くなりそうになったら、松原さんにカットしてもらう。

 

 

 ……ふぅ。無事にライブが終わるとミッシェル先輩と一息。最近ミッシェル先輩との友情を感じる。てっくんの姿でミッシェル先輩の大きな背中を見送り後片付けする。

 

 

 元の姿に戻り、上がろうとするとスタジオでまだAfterglowが練習中なので上がるように声をかけて欲しいとのこと。

 

 

 Afterglowとの接点はそこそこある。ひまりちゃんにはベースと合わせてもらったり、モカちゃんにはお菓子をあげたりしているうちにそこそこ話すようになった。

 

 

 今日の手持ちのお菓子をチェックしながら呼びに行くと、笑顔のひまりちゃんに捕まる。相変わらず幸せそうな顔でお菓子を食べるモカちゃんに癒やされつつ、気づけばファミレスに連れてかれていた。

 

 

「というわけで織主さん。私達の次のライブ、『仮面ライブ(仮)』に出ませんか!?」

 

 

「出ます」

 

 

「そうですよね……。すぐにはって……えぇ!! 決断早くないですか!?」

 

 

 ノリがいいひまりちゃんは話していて楽しい。正直、ライブの楽しさを知ってしまった身としては機会があったらこちらから頭を下げて出させて欲しいくらいだ。

 

 

「おお~。流石おりぬー話が分かる」

 

 

 表情の読めない顔でモカちゃんがいう。いつの間にかおりぬーというあだ名が定着してしまった。

 

 

「そうと決まればすぐに準備しなきゃね! まずは衣装の準備してそれから……」

 

 

「……つぐがまたツグってる」

 

 

 羽沢さんが張り切り、美竹さんが呆れた表情をしながらも楽しそうに笑っている。本当に仲がいいのだろう。Afterglowはこの関係性が曲にもよく出ている。だからこそ、観客の心をあれほどまでに掴むのかもしれない。

 

 

「はは! そうと決まれば練習だな! 曲はどうするんだ?」

 

 

 宇田川さんが快活に問う。Afterglowは夕焼けという意味があるらしい。それならばピッタリの曲がある。俺はスマホを操作するとみんなにある曲を聞いて貰うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 織主さんが曲を聞かせてくれる。

 

 

――夕焼けを思い浮かべる歌だった。

 

 

 私達にとって夕焼けは特別な光景だ。バンドを組もうとなったときに見た夕焼けが綺麗だったから。みんなでまた見ようと決めた。誰一人欠けること無く。

 

 

 ガルジャムの出場が決まったときに、つぐが倒れて、巴と蘭が喧嘩して、一度はバラバラになっちゃうかも知れないって思ったこともあった。

 

 

 でも、みんなが自分の思いをぶつけ合ったらまた一つになれた。私達はお互いのことを思いすぎて言いたいことも言えなかった。あれから私達はすこし変わった。

 

 

 いつも通りが最高だった。でも、変わらないことなんてない。私達は進まなければいけない。

 

 

 ――また、夕焼けを一緒に見るために。

 

 

「エモいね~。モカちゃん感動して蘭と一緒に泣いちゃいそ~」

 

 

「……な、泣いてなんかいないし」

 

 

 モカと蘭のいつも通りのやりとり、それを見られることが嬉しい。

 

 

「かっこいい曲だね……。上手く弾けるかな」

 

 

「大丈夫だって。つぐが頑張り屋なのはみんな知ってるんだから、焦らずみんなで練習すればいいさ」

 

 

 かっこいい歌で引っ張ってくれる蘭がいる。マイペースで場を和ましてくれるモカがいる。努力家でみんなをやる気にさせてくれるつぐがいる。いつもみんなを支えてくれる巴がいる。

 

 

 そして、そんな最高のメンバーがいるAfterglowのリーダーが私だ。みんなに助けられてばかりでリーダーらしく無いかもしれない。けど、そんな私でも支えてくれるみんなが大好きだ。

 

 

「織主さん……。この曲最高です! 早速練習しましょう!」

 

 

「よかった。でも今日は遅いからまた今度な」

 

 

「ひーちゃんやる気だしすぎ~。もっとのんびり行こうよ~」

 

 

 むむむ。折角やる気が湧いてきたのに仕方ない。でもいいことを思いついた。

 

 

「ねぇねぇ。仮面つけるなら怪盗団ってことにしない? お客さんのハートを盗むぞーって感じで」

 

 

「……いいね。かっこいいじゃん」

 

 

「うんうん! それいいよ!」

 

 

 私にしては冴えてる。得意気に胸を張っても許されるだろう。

 

 

「怪盗団か……。俺はどんな役を貰えるんだ?」

 

 

「織主さんは……マスコット?」

 

 

 困惑する織主さん。どうもてっくんのイメージが強すぎてそっちのイメージになってしまう。あ、あとで織主さんにもお守りをあげないと。

 

 

「じゃあ、ライブの内容も決まったことだし、みんな! 頑張るぞ-! えいえいおー!」

 

 

「「「「「……」」」」」」

 

 

「えぇっ!! 織主さんもやってくれないの!?」

 

 

「だってここ店内だし……」

 

 

 涙目になった私に気まずげに常識を説く織主さん。その様子を見てみんなが笑い出す。

 

 

 うう……。最後は締まらなかったけどライブではしっかり締めてみせるんだから……!私は決意を胸に抱いて次のライブへの闘志を燃やすのであった。

 

 

 

 

 


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