とある日、ハロー、ハッピーワールド! のメンバーは次の活動内容を決めるために集まっていた。
「みんな! 一大事よ!」
珍しく真剣な表情でのこころの言葉。私含め、ハロハピのメンバー全員が何事かと息をのむ。一瞬の静寂の後、こころの口が開かれる。
「あたしのハート……、怪盗団に盗まれちゃったみたい!」
「?? ……えっと、こころちゃん。どういうことかよく分からないんだけど……」
花音さんが困惑した様子で尋ねる。はぐみは大変だー! と心配し、薫さんは子猫ちゃんのハートを盗む怪盗団……儚い! と平常運転だった。
「とりあえず、怪盗団なんてどこで会ったの?」
話が進まないので続きを促す。よっぽど興奮しているのだろう。身振り手振りを交えて話すこころ。
「CiRCLEでのライブを見に行ったんだけど、Afterglowのライブのはずだったのにそこに現れたのは仮面をつけた怪盗団だったの! そのライブがとにかくすごくて――」
なるほど。Afterglowのライブを見に行って興奮してしまったようだ。いまだに熱が冷めないといった様子。そんなすごいライブなら私も見たかったな、なんて考えていると黒服の人からDVDを渡される。
……とりあえずお礼を言って早速再生してみることに。いつの間にか暗幕が垂らされ、スクリーンとプロジェクター、スピーカーまでもシアタールームなみに準備されていたが、もはや突っ込むことでもない。
「わーい! 映画だぁー!」
「ふふ……。さぁ、私と一緒に物語の世界に浸ろうじゃないか」
映画が始まると勘違いしている二人。その手にはポップコーンまで準備されていた。黒服の人達はどこまで備えているのだろうか……。
映像が始まると映し出されるのは明るく照らし出されたステージ。中央では美竹さんが目を隠すデザインの仮面をつけて歌っていた。
他のメンバーも怪盗をモチーフにしたものをつけて演奏している。格好良くありながら可愛いデザインの衣装を身につけたAfteglow。しかし、私の目が1番惹かれたのは――黒い猫の着ぐるみだった。
『あなたのハート頂戴します』
美竹さん、もとい怪盗スカーレットの台詞に沸き立つ聴衆。ギターが鳴り響き会場が揺れ動く。ゴーグルが特徴的な衣装を着た青葉さんと、手だけ思いっきり人間の黒猫の二人のギターが旋律を紡ぎ出す。
「かっこいい……!!」
はぐみが食い入る様に画面を見つめている。キラキラとした純粋な眼差しにはあの黒猫もかっこよく映っているのだろうか。
曲の終盤に入り、美竹さんの悲痛な感情のこもった助けて、の台詞に鳥肌が立つ。一曲目が終わると会場はすでに盛り上がりも最高潮となっていた。時折カメラの前に金の頭がピョコピョコと映っているのは、こころが飛び跳ねていたからだろう。
『今日はもう寝ようぜ』
『まだまだ続くよー!!』
黒猫のなんとも気の抜ける台詞とは対照に、体のラインがハッキリと分かるセクシーな服の上原さんが盛り上げる。黒猫は舞台袖に消え、二曲目が始まった。
転調が多く、退屈しないメロディーが観客を魅了する。宇田川さんの熱いドラムと羽沢さんの軽快なキーボード。噛み合った歯車が最高の曲を生み出す。
「やっぱりすごい……」
花音さんも見入っている。黒服の人に対してドリンクのおかわりを自然に要求するなんて、普段の花音さんからは想像もつかない。
あの個性的でいつも騒がしいハロハピのメンバーがみんな集中してこのライブの映像を見ていた。……いつもこれぐらい静かで居てくれたらなぁ。
普段のメンバーの行動を思い返して思いふけっていると、数曲の後ライブも残すところは一曲に。
私が黒猫の着ぐるみにまたもや注目していると、他のメンバーに注目が集まっている一瞬の隙に水分補給を行った。
……恐ろしく早い水分補給。着ぐるみ経験者でなくては見逃していただろう。
ここで私はあの着ぐるみの正体に気づいた。あの早業は最近出来た後輩着ぐるみに伝授したものだ。
「てっくん……。成長したんだね」
後輩の成長に感動していると最後の曲が始まった。美竹さんの力強いボーカルに合った派手でかっこいい曲だった。
映像を通して見ているはずなのに会場の熱気が伝わってくるようだった。Afterglowのメンバー全員が笑顔で演奏している。
「あぁ……これが最後だなんて儚すぎる……!」
珍しく薫さんの言うことが素直にわかった。終わって欲しくない。もっと聞いていたいと思った。
映像が終わって部屋に明るさが戻っても、みんなライブの余韻に浸っていた。
「どうしよう……。あたしみたいにみんなのハートが怪盗団に盗まれちゃったわ!」
こころが言うことも今なら理解出来る。私達はあのライブの虜となってしまった。しかし、私はこころがこのまま感動しただけで終わるような人物じゃないと知っている。
「みんな! こうなったらハロー、ハッピーワールド! の力でハートを取り戻すわよ!」
「ええと、こころちゃん。ハートって取り返す必要あるのかな……?」
花音さんの疑問ももっともだ。でも、私は気づいてしまった。
「それは駄目よ! ええと……そう! 盗られたものはとりかえさないと!」
こころは燃えているのだ。世界を笑顔にするために結成したハロハピだ。いいライブを見たらそれを超えるライブをして世界を笑顔にしなければ。
「花音さん。やりましょうよ。こうなったこころはもう止まりませんよ」
「おお! みーくんがやる気だよ!」
「ふふ……、子猫ちゃんの頼みを断る事なんてしないさ」
はぐみが跳びはね、薫さんが意味深に微笑む。らしくもなく少し熱くなっているみたいだ。四人のやる気に花音さんも折れた。
「うう……。怪盗団からハートを取り返すってどうすればいいんですか……?」
確かに。具体的にどうすれば怪盗団に打ち勝ったことになるのだろうか。すると、こころは自信満々に言い放つ。
「もちろん決まってるわ! あたし達が怪盗団のハートを盗み返せばいいのよ!」
「対バンってことかぁ……」
私の言葉にそれよ!、と同調する。後ろで黒服の人達の動きが慌ただしくなってきた。また大がかりな事になりすぎなければいいけど……。
とりあえず会場を新たに作ろうとしているところから始まった会議を止めて、少しでも熱くなったことを後悔してきた私であった。
Afterglowとのライブを終え、打ち上げも終了し足取り軽くCiRCLEに向かう俺。いつもだったら騒々しく感じる蝉の鳴き声でさえも熱狂した観客の声に聞こえてしまう。
ミッシェル先輩の教えのおかげで、黒猫の着ぐるみという異様な格好での演奏もこなすことができた。今度きちんとお礼を言わなければ。
しかし、Afterglowの怪盗服はみんな可愛かった。あそこに黒猫が混じってしまったのが自分でも悔しい。
「あ、織主先輩。お疲れ様でーす!」
「ひまりちゃん。お疲れ様」
噂をすればなんとやら、ひまりちゃん含めAfterglowのメンバーと鉢合わせる。彼女達もこれからCiRCLEで練習だそうだ。
「おりぬーの黒猫姿似合ってたのにあれっきりとは残念だな~」
「今思えば、あの格好でよく演奏できたね……」
モカちゃんと蘭ちゃんからお褒め? の言葉を頂く。被り物ぐらいしてても演奏できるようにしないとね。
「確かに! そもそもあの格好よくおっけーしたよな。アタシはあのアイデアは完全にネタだと思ってたぜ」
「ええと、先輩。無理だったら言って貰っていいんですよ?」
巴ちゃんに笑われ、つぐみちゃんには心配される。……え、あの衣装ネタ用だったのか。てっくんで慣れすぎて感覚が麻痺しているのかも知れない。
「先輩はこれからどうするんですか? バンドは結局組まないんですか?」
ひまりちゃんの質問に言葉が詰まる。結局色んな人に助けて貰いながらライブに出させて貰っているが、これからのことについては何も具体的に考えていなかった。
俺が黙り込んでしまったのを見ると、ひまりちゃんは他のメンバーと目配せをしたのち俺に一つの提案をしてくれた。
「みんなで相談したんですけど……。もしよければAfterglowのライブにまた出てくれませんか? また先輩が出るときは仮面を付けちゃったりなんかして―」
魅力的な提案に俺の心が揺れる。
「……ありがとう、そのときは是非呼んでくれ」
「ふふ~。モカちゃんに呼ばれたらすぐに来るように~」
モカちゃんの言葉にはいはい、と軽く返事しながら同時に決意した。大学を出たら俺も音楽の道に進もうと。そのために今は貪欲に経験を積もう。
新たな決意を胸にCiRCLEに到着すると月島さんがいい笑顔でやってくる。……なんだか嫌な予感がする。
「織主くん、それにAfterglowのみんな。ちょうどいいところに来たわね」
「ええと、何が丁度いいんですか?」
困惑した様子の俺達に月島さんが一つの紙を差し出す。そこにはこう書かれていた。
『怪盗団へ。貴女達に盗まれたハートを取り返しに○月×日、△ホールにて対バンを申し込むわ! ハロー、ハッピーワールド!より』
――夏の波乱はまだまだ終わりそうにない。
へいでいかぷりちおはバンドリの曲の中で1番好きなのでねじ込みましたm(_ _)m
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