「どういうことだ、これ……」
青い水晶に囚われたガーフィールを、スバルはその目に映す。あまりにも
「前はこうじゃなかったの?」
「ああ、スケルトンをちぎっては投げちぎっては投げ、って感じだった」
まさに文字通り、殴りつけてバラバラになったスケルトンの欠片をまた別のスケルトンに投げつける、なんてことをやっていた。そのはずだったのだが。
『私達が別の関わり方をしたことで結果が変わった、ということかな。ふむ……スバルくん、前回より遥かに早くここに辿り着いた、ということでいいんだよね?』
「ああ、間違いねえ。体感だが、二時間くらいは早いと見ていいハズだ」
『なら、その二時間の間に彼は自力でここから脱出した、とも考えられるね。まあ、私達以外の条件は変わっていない、という前提ありきの結論だが』
ガーフィールに視線をやる。身動き一つ取れそうにないが、彼ならば内側から無理矢理にでも破壊してしまえるだろう、という確信もある。
「だとしても、ガーフィールはうちの大事な最高戦力だ。できるだけ早く助け出したい。次のための予行練習も兼ねて……」
「わかった。エミヤは引き続きスバルの護衛、クー・フーリン、マシュ! 水晶の破壊をお願い!」
「悪い、俺は偉そうに言っといてなんも出来ねえ」
「充分だよ。何も出来ないのは俺も一緒だ」
令呪が熱くなる。カルデアとの魔力のパスが強く繋がり、サーヴァント達に魔力を回す。
さらに、カルデアに滞在するサーヴァント達の
それを使役する
「さて、それでは私達は少し離れるぞ、スバル君」
「え──おわぁああ!?」
がっしりと、その太い腕で持ち上げられる。まるで荷物か何かのように、肩に抱えられた。お荷物なのは間違いないが、こういうことではない筈だ。
その瞬間、景色が目まぐるしく移りかわった。
跳躍。エミヤは、スバルを抱えたまま、地上から高層ビルの屋上へと跳び乗った。
「し、死ぬかと思った」
「おや。氷の魔術に乗って空を飛ぶ魔獣の背に飛び乗った──などと話していたので、この程度は平気と踏んだのだが、買い被りすぎだったか?」
「あの時は覚悟キメてたんだよ。今回はいきなりだったもんで、マジビビった」
「それは悪いことをした。詫びと言ってはなんだが、アレの攻撃からは完全に護り切ることを約束しよう」
そう言うと、
「カラドボルグ……」
「投影武器すら把握済みか。空恐ろしいな、異世界の千里眼とやらは」
剣を矢につがえ、水晶目掛けて打ち放つ。宝具を一発限りの爆弾として使う、
あの
水晶の自己修復がなされてゆく。それと同時に、アーチャーは盾を投影する。
「
ビルの屋上目掛けて放たれた二条の光線を、アーチャーの投影した盾が完全に防ぎ切る。
攻撃を受けると、自己修復と周囲にある生命反応への攻撃を行う、それがあの水晶の性質であるらしい。
ビルの下、藤丸達の無事を確認しつつ、アーチャーは次の攻撃に移る。
「やっぱ、すっげえ……」
アーチャーの矢が、ランサーの槍が、マシュの盾が、アヴェンジャーの短剣が、藤丸の操る影が、水晶の自己修復速度を超えて破壊していく。
わかってはいたことだが、それを──ガーフィールを助けるのを、ただ見ているだけというのは歯痒いものだ。
「……む?」
何かが、おかしい。アーチャーも同じことを思ったようで、疑問の声を漏らしていた。
「このペースなら、もう破壊できててもおかしくない筈だ。なんで……」
「修復速度が速く──攻撃も変わっている。自衛機構のひとつだろう」
一人一人を狙ってくる光線ではなく、無差別に撒き散らす光弾。防ぎにくいが、一発の威力は控えめだ。が、スバルなら十分に致命傷だ。気を抜いてはいけない。
「つっても、俺はアーチャーの後ろで震えてるだけなんだがな」
「そうも言っていられないな。修復が速くなっている以上、現状の魔力提供では少し心許ない。マスターの近くに寄る必要がある」
「つまり飛び降りろってことだな! 任せろ、パルクールの特訓で、高所から飛び降りるくらい──いや、この高さは無理だったあぁぁぁあ!」
ビルの屋上を蹴り、足場を失ってから後悔する。この場の熱気とテンションとで熱に浮かされていた頭から、急激に熱が抜ける。
「あ、ああアーチャー、ちゃ、ちゃ、着地!」
「了解した。しかし考えなしだな君は。この高さからの落下もだが──『
七枚の花弁を持った花が、アーチャーとスバルの前で花開く。アーチャーが盾を展開したのだ。投擲物が相手ならかなりの強度を誇る盾。それが、スバルを光弾から守ってくれていた。
「落ちている最中の攻撃への対処も考えていなかっただろう。全く、守られている立場を忘れないで欲しいものだ」
「……悪ぃな。マジでそこまで頭が回ってなかった」
光弾を防ぎつつ、無事に着地。衝撃はなく、スバルの落下死は免れた。
「このままだと埒が明かない、一気に行くよ!」
藤丸の声を受け、サーヴァント達がその意識を一点──水晶に集中させる。そして、藤丸は強い意志を言葉に込め、
「
サーヴァントの一時的な強化。カルデア制服を着ている時に使える『
魔力が迸る。サーヴァント達の目の奥がギラギラと輝き、攻撃対象を見据える。
「皆! 一斉攻撃だ!」
掛け声で空気が張り詰め、その空気は次の瞬間に爆発する。砂塵を舞い上げ、暴風が荒れ、影が踊り、骨子は捻じれ狂う。
視線と意識の集中、彼らの存在が混ざり合い、破壊を引き起こす光と化す。
圧倒的な熱量の
「────ッ」
目の奥がチリチリと焼けるような感覚が止んで、後を引く光の残滓がしつこいことにうんざりしながら、
ほとんど破壊し尽くされた水晶と、剥き出しになったガーフィールがそこに見えた。少しばかり水晶に埋まってはいるものの、無理矢理引き剥がせてしまえるだろう。水晶が修復を始める前に、一刻でも早く助け出さなくては。
「──は?」
思わず、素っ頓狂な声が出た。それも致し方なし。ここまでやっとの思いで破壊した水晶が、
「くっ、マスター!」
「『
エミヤの呼び掛けに、藤丸は令呪使用の決断を迫られる。
既に一画を消費してしまっており、カルデアにいる時であれば補充できるが、レイシフト先での令呪補充は基本的に不可能だ。慎重に使い所を選ばねばならない。
──今は、本当に令呪を使うべき場面だろうか。
「いや、待て!」
耳をつんざくような冷たく鋭い音が響き渡り、辺りは静寂に包まれる。
音の出処に目を向けると、水晶に大きなひび割れがあるのが分かった。まるで自らの存在を諦めたかのように、ひび割れは加速度的に広がってゆく。
最後に一際大きな音を立て、砕け散った水晶の欠片が光の粒子となり──ガーフィールへと収束する。
「た、大将ッ!」
水晶から解放された彼は、重力に従って下に落ちる。目を覚ましたガーフィールは難なく着地し、スバルを見つけると一も二もなく駆け寄った。
「なんッで大将がいンだよォ、大将は……」
「俺もお前も、遠い場所に飛ばされちまったらしい。んで、一人で途方に暮れてた俺を助けてくれたのがこいつらだ。今まで捕まってたお前のことも助けてくれたんだぜ?」
スバルがカルデア一行を指し示す。やはり、ガーフィールはこちらのことを覚えていない。本当に、ループ前の記憶は全く残らないのだ。
「おォ、よッくわかんねえが、ありがてェ。その礼に、俺様にできることがあンなら何ッでも頼まれてやらァ。『エシャレーアは恩を忘れない』ッてな」
「……ごめん、なんて?」
──ガーフィールが、仲間に加わった。
ん? 今何でもって(自重)
『全体強化』のルビやガーフィールの謎慣用句は俺が勝手にでっち上げたものです。『全体強化』については公式で別のルビが付いたりしたらそちらに差し替えます。ガーフィールの方は、なんか似たような意味のやつが出ればそっちに変えるかもしれません。(もうあるなら教えてくれるとありがたいです)