「コレで、ガーフィールが合流して、ついでにその辺にいたオットーも回収できた。って訳で、満を持してエミリアを助けに行こうと──」
「別にうるさく言うつもりはないんですが、僕はついで扱いなんですね……」
文句を垂れながら苦笑を浮かべているのは、灰色の髪を伸ばした中肉中背の青年。名を、オットー・スーウェンと云う。
ガーフィールを助け出した所から比較的近くの建物の中、隅で怯えて震えていた所をスバルが連れ出した。
「それはともかく、エミリア様を助けるって言うなら出来るだけのことはしますけどね。できることがあるかどうかは別として」
「おお! そりゃ助かる! 頼りにしてるぜ、武闘派内政官どの!」
「それ言ってるのナツキさんだけですし、毎度のことなんですが向けてくる信頼が僕の能力と釣り合ってないと思いません!?」
そんなことはない、能力に見合った信頼を向けている、むしろ足りないぐらい──などと思いつつ、口には出さずに曖昧に笑って受け流す。
そこまでのことを面と向かって言うのは、少しばかり気恥ずかしい。
掛け合いもそこそこに、一同は歩を進める。今度こそ、エミリアを助け出すために。
「待ってろよ、エミリア。俺が、必ず──」
──お前を、救ってみせる。
*
「は、あぁぁぁーっ!」
「オォ、ラァァーッ!」
二人の盾使いが骨兵を薙ぎ払う。一人は乱暴に、本能の赴くままに。一人は大胆かつ繊細に、もう一人の盾使いをフォローするように。
完全な連携とまでは行かないが、初対面のそれではない。当然だ。ガーフィールにとってはそうでも、マシュにとってはそうではないのだから。
「盾使いッなんだな、あんた」
「はい、
「おォ、そうッだなァ。そっちァ、盾使いをシールダーって呼ぶのか。それァ、かっけェなァ」
「え、ええと……」
会話が上手く続かない。『前』の記憶を持つマシュと、持たないガーフィールのギャップが、会話のキャッチボールを困難にしている。
会話が上手く続かないのは、それだけが原因ではない。大量の骨兵への対応に追われているからだ。
「────! ちィ!」
骨兵の放った矢をガーフィールが打ち払う。一体一体の戦闘力は大したことないが、何しろ数が多い。
「──部分獣化ァ!」
叫んだ瞬間、急激に右腕が膨れ上がる。そう易々と使う芸当でもないが、この数に対応するために獣の血を覚醒させる。
「ッラァ!」
凶悪な爪を携えた獣の右腕が、大きく人振りされる。それだけで周囲の骨兵はバラバラに砕け散り、力の奔流はそれ以外の骨兵も大きく吹き飛ばした。
それでも、未だ数は多い。サーヴァント複数体とガーフィールがかりでも対応に追われっぱなしだ。
「なあオットー、お前でも何体かはどうにかなるだろ? 助けると思って行ってみない? 武闘派内政官だろ、お前」
「本気で言ってるならぶん殴りますからね!? 一体づつならともかく、あの状態に殴りこもうもんなら僕もナツキさんも一瞬でボロ雑巾ですから! あと何度も言うようですがそれナツキさんしか言いませんからね!?」
「悪い悪い、冗談のひとつでも言わなきゃ心が押し潰されそうでな」
「だったら真剣な顔で言わないでくださいよ! 本気かと思うじゃないですか!」
こんな状況でも、普段と変わらず話せるのが心の平穏をより強固にする。弦は強く張りすぎては切れてしまうものだ。
「……沈黙に耐えかねたのはわからないでもないが、もう少し緊張感を持ってはくれないかね。君達を守っているこちらの身にもなって欲しいものだ」
そこに、アーチャーの言葉が刺さる。まあ、弦の張りが弱ければ音は出ない。気を抜きすぎてもいけないということだ。
今は、骨兵の群れから少し離れた場所、かつアーチャーの背後で守ってもらっている。アーチャーは
双剣を得意とする彼なので、こんな風に狙撃に徹する彼は滅多に見られるものではない。その代わり、双剣を扱う姿があまり見られていないのがスバルとしては残念でもあった。
そして、槍を振るうクー・フーリンと、何やら影を操っている藤丸。そして、敵をちまちまと一体づつ倒しているアヴェンジャー。
皆の力が在って、スケルトンの群を退けるのにそこまで時間はかからなかった。
だが、それで終わりではない。先程のスケルトンなどとは比べ物にならない殺気を放つ魔獣たちが、そこに佇んでいた。
「……気のせいか? あれ、すっげー見覚えある気がすんだけど」
「気のせいじゃないですよ。メィリィさんはいないようですし、彼女の仕業ではないでしょうけど」
クレマルディの聖域を中心とする一連の事件の時に、屋敷に攻め込んできた魔獣たちだ。
その中でも最も大きな威容を放つ──『森の漆黒の王』。キマイラ、キメラと呼ばれるものに酷似した魔獣。
「ギルティラウ……」
スバルは腰の鞭に手を掛け、その感触を指先で確かめる。ギルティウィップ──まさにあのギルティラウから、某ひと狩りゲームよろしく剥ぎ取った素材から作られた武器だ。
「前にアレとあった時、なんか変なことやろうとして失敗してましたよね。粉塵爆発、でしたっけ?」
「なんで失敗したのか未だにわっかんねえんだよなぁ、あれ」
無駄口を叩いていると、横からアーチャーが口を挟む。
「粉塵爆発に失敗したと言うのであれば、粉塵の密度が高かったか、低すぎたかだろう。それの起こる環境は限定的だ。素人が精緻な計算もなく意図的に起こせるようなものではない」
「あるいは、異世界の物理法則がこっちと違った、とかな」
「それもないとは言いきれないが、どちらにしても極めて危険な現象だ。もし成功していたとして、君が巻き込まれない保証はなかろう。二度とやらない方が賢明だ。君も、そんなことで命の価値を落としたくはないだろう?」
自分の身を削る戦いはスバルの戦い方の基本で、そうしなければ届かないものがこれまでに沢山あって、これからもあるだろうことは想像に難くないが、調子に乗って現代知識で無双しようと言うのは軽率なようだ。
「まあ、あの時はそれ以外に選択肢が……」
「ありましたよね!? 結局油かけて燃やしましたよね!?」
「──そこまでにしておくといい。魔獣たちの殺気が濃くなったようだ」
ピリ、と空気がひりつく。ギルティラウを初めとする多くの魔獣が、明確にこちらを敵と定めた。
「前回は、非戦闘員ばっかりだったんで搦手で何とかしたけど……」
今回はガーフィールばかりか、サーヴァントという、戦闘のプロフェッショナル達がこちらについている。負ける気が、しない。
「数の力──思い知って貰うぜ!」
*
──最初にあったのは、静かな怒りだった。
忌々しい炎に囲まれた地で、ただじっと待っていなければならない、などと。
何もかもわからない。なぜ、自分が炎を忌々しいと思うのかすらわからない。ただ揺れ動くだけの熱の塊。それに、なぜこれほどの憎悪を感じるのか、全くわからない。
なぜ待っていなければならないのか。誰かに命令された訳ではない。しかし、何かをここで待っている事が今の自分に与えられた至上命題だということは、本能で理解していた。
しかし、本能が理解しても理性がそれを拒む。わけがわからない。角を折られたわけでもないのに、本能に刻み込まれたかのように、その使命を呑み込もうとしている。
そして、角を折られたわけでもないのに、角は既になかった。初めから角などなかったのか、と思ってしまうほど。しかし、ありえない。
角があるのが正しい姿だという確信がある。であれば、角を折られた後に、記憶になんらかの干渉を受けた可能性もある。
カタカタと笑うような音を立てる者共の行軍が耳障りだ。ヒトと呼ばれるものとは違う、二本足で歩く脆き者たち。肉を持たない分軽く、簡単に吹き飛ぶ弱きもの。
──腹立たしい。
この身を満足させるほどのものが、ここにはない。
──腹立たしい。
あるのは、忌々しい炎、うるさい骨、そして取り巻きの小さな魔獣たち。
──腹立たしい。嗚呼、腹立たしい。
そんな影獅子を、退屈から救い出す突然の大きな音。それは、多くの骨が砕かれ、吹き飛ばされる豪快な音だった。
歓喜。
これこそが、この場所で退屈と戦いながら待っていた意味なのだと。
その足音で、相手が強者であると理解する。それだけに留まらない。圧倒的強者の足音が、いくつも。
刹那、迷いが生まれる。このまま戦ってしまえば、死が待っているのではないかと。
しかし、次の瞬間には怒りが込み上げてきた。何に対するものか、それは紛れもなく躊躇った自分への怒りだ。
退屈を殺してくれる者たちがやってきたのだ。それを、死にたくないなどという浅い思いで無駄にするやもしれなかった自分がどうにも許せなかった。
「──ルゥッ?」
その者達に飛びかかろうとした瞬間、この歓喜に水を差された。鼻に絡みつくようなおぞましい悪臭。強者たちのはるか後方に、その臭いを放つものがある。
──弱い。
足音を聞くまでもない。佇まいだけで、奴が弱者であることは明白だった。憎らしい。あのように馬鹿らしいほど弱い者が邪魔をするなど。
何よりもまず初めに、この牙でもってあの悪臭を放つ根源を噛み砕かねばならない。血を啜り、肉を喰い散らかしてやろう。
──覚悟するがいい。我の歓喜に水を差した報いだ。凄惨なる死に様を晒せ。
『ギルティウィップ』
【イベントアイテム/霊基再臨素材】
リゼロコラボイベント「Circulation in the Singularity ─純白は死の輪廻と共に─」で手に入れた、魔獣ギルティラウから取れる素材で作られたスバル愛用の鞭。
ギルティラウさんが何をしたというのだ……