Re:ゼロから始めるグランドオーダー   作:タイガ原

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第15話 「異世界の魔法」

「ベアトリスなのよ。スバルが世話になったかしら」

 

「こちらこそ。藤丸です、よろしく」

 

 スバルの契約精霊ベアトリスを水晶から救い出した。藤丸としては、聞きたいことは色々とあったのだが──その中で、たった一つだけ、衝動的に口をついて出てしまった質問がひとつ。

 

「で、ちょっと聞きたいんだけど、スバル。さっき、言ってたよね。俺が『シャマク』をくらった時──」

 

「……? なんか言ったっけ?」

 

「『俺が使えば目くらましみたいなもん』……って」

 

「ああ、確かに言ったな。それがどうかしたのか?」

 

 藤丸の心臓が強く脈打つ。最も気になった部分、『俺が使えば』──つまり、スバルは。

 

「スバル、魔法が使えるの?」

 

「ああ、なるほど。そういう質問か。というか、使えるって普通に言ったと思うんだけどな」

 

「……そうだっけ? 話の流れでスルーしちゃったかも」

 

「お前な……でも、話したいことは分かった」

 

 質問の意図を理解し、納得する。──そこに、横から口を挟む者が。

 

「──使えないかしら」

 

 ベアトリスだ。これまでの話を裏切るその答えに藤丸は困惑し、スバルへと疑問を投げかける。

 

「え? ……スバル?」

 

「使えなくなった、って方が正しいかな。元々資質があったわけでもねえんだが、色々と無茶した結果、ゲート──まあ、魔術回路みたいなもんがぶっ潰れちまった。なんで、俺一人じゃ魔法は使えねえ」

 

 あちらの魔術体系の専門用語を、こちらにもわかるよう言い換えてくれるスバルの細やかな配慮に感心しつつ、その内容を咀嚼する。

 

「ってことは、裏を返せば『使えてた』んだよね? それに、一人じゃなければ今でも使える?」

 

「まあ、そうだな。ベアトリスの助力あってこそだが」

 

「スバルは、魔術師の家系とかでは……」

 

「ない。間違いなく一般人」

 

 ここまで話を進めて、スバルの方もおそらく藤丸の聞かんとしていることを理解したのだろう。質問への回答が早くなってきた。

 

「……じゃあ、俺もその魔法、使えたりしないかな」

 

 勇気を振り絞って、そう聞いた。やれることなら、なんでもやりたい。サーヴァントに頼りきりなだけでは、無力感に苛まれる。

 

「ゲートは全ての生命に備わっているかしら。あとは、開いているかどうかの問題なのよ」

 

 その疑問にはベアトリスが答えた。ゲート、というものは魔術回路のようなものとスバルは言っていたが、完全に同一という訳ではないだろう。用途の似た別物、くらいに考える。

 

「というかお前、魔法について知らなすぎるのよ。屋敷に来たばかりのスバルと同じ程度かしら」

 

「そりゃそうだろベア子。いや、ろくに説明もしなかった俺が悪いんだが。ここは俺の故郷……みたいなもんだ。大瀑布の向こう側、ってやつだな」

 

 その言葉を聞いて、一瞬だけベアトリスは驚いたような表情を見せた。が、そのあと妙に悲しげな顔をしてスバルを見つめる。

 

「ど、どうした? 元の場所が恋しくなったか?」

 

「まさか、スバルの故郷がこんなに過酷な場所だとは思っとらんかったのよ……よく頑張ったかしら」

 

「憐れみ!? いやベア子、今ここが特殊なだけで、本来は大して地位が高くないのに綺麗な手をした人間を大量生産できるレベルの安心安全平和な場所だから。こんな世紀末みたいな感じじゃないから」

 

 キャッキャ、と聞こえんばかりにはしゃぐスバルとベアトリス。放っておけば永遠に脱線し続けそうだったので、藤丸はもう一度聞く。

 

「それで、俺は……」

 

「悪い悪い。脱線しすぎたな。ん、じゃあベア子、ちょっと魔法の説明してくれるか? 俺も人に説明できるほど魔法について知ってるわけでもねえし」

 

『ふむ……異世界の魔法、なかなか興味深いところではある』

 

 ダ・ヴィンチちゃんはかなり知的好奇心を刺激されたようで、通信越しではあるが身を乗り出すようにして聞き入る。

 

「スバルがそう言うなら、仕方ないのよ」

 

 そう言うと、ベアトリスは藤丸に向き直り、一呼吸おいてから説明に入る。

 

「魔法には基本の四属性があるのよ。それくらいは知ってるかしら?」

 

「え、と……火、地、水、風、空……? だと五つになるか」

 

 キャスター達や魔術師上がりのカルデアスタッフから聞きかじった『五大元素』を思い浮かべるが、ベアトリスの言うそれは『基本の四属性』だ。数からして違う。

 

「熱量関係の『火』属性。生命と癒しを司る『水』属性。生物の体外に働きかける『風』属性。体内に働きかける『土』属性の四つ。普通のニンゲンなら、その中の一つに適性があるのよ。あと、それとは別に『陰』と『陽』があるかしら」

 

 四つと言いつつ、二つ余計に六つの属性があることを明かすベアトリスだが、付け足した二つは恐らく特殊なものなのだろう。こちらで言うところの『虚数』や『無』といった『架空元素』にあたるものだろうか。

 

「ちなみに、スバルとベティーは『陰』属性に適性があるかしら」

 

「……あれ? じゃあエミリアさんの氷はどの属性になるの? 水?」

 

「ううん。火のマナよ?」

 

「そこ引っ掛けポイントな。熱いのも冷たいのも熱量関係だから、『火』属性が司ってるんだとさ。で、さらに引っ掛けで『水』属性にも氷の魔法がある」

 

「頭がこんがらがってきた……」

 

 カルデアに来てから知った魔術世界のこと、今回知った異世界の魔法のこと。共通点も多いが、大きな相違点もある。魔術世界のことはよくわかっていないので、藤丸の中では正確に比較できないのだが。

 

「『火』属性の氷魔法は凍らせる魔法、『水』属性の氷魔法は氷を生み出す魔法なのよ」

 

「わかったような、わからないような。で、どの属性に適性があるかとか、調べる方法はあるの?」

 

「にーちゃやベティー、ロズワールくらいの魔法使いなら触るだけで適性がわかるのよ。スバル、ちょっと持ち上げるかしら」

 

「へいへい」

 

 腕を横に広げたベアトリスの脇下にスバルが手を入れ、そのまま藤丸の顔あたりの高さまで持ち上げる。

 

「じゃあ、ちょっと見てやるかしら」

 

「は、はい」

 

 ベアトリスの小さくて柔らかく、ひんやりとした指先が藤丸の額に触れる。

 

「みょんみょんみょんみょんみょんみょん」

 

「効果音、自分で言う感じなんだ……」

 

 正直、自分がどの属性に適性があるのか、全く想像がつかない。

 

「……結果は?」

 

「どう言ったらいいか微妙な感じなのよ。全ての属性に適性があるとも、無いとも言えるかしら」

 

「どゆこと?」

 

 疑問を口に出したのはスバルだ。藤丸としても意味がさっぱりだったので、即座に聞いてくれるのは助かった。

 

「全ての属性と、ほぼ均等に繋がりがあるのよ。ただ、一点特化でない分それぞれの繋がりは弱めかしら」

 

「となると……」

 

「補助のできる魔法使いがいれば、どの属性の魔法も使えるかしら。ただ、繋がりが弱い上に魔法の才能も見込めないのよ。大した魔法は使えないかしら」

 

 ベアトリスから残酷な事実が告げられる。それでも、やれると言うならやってみたいと思うのが本音だ。

 

『こちらで言うところのアベレージ・ワン……いや、口ぶりからして、そんな大層なものでもないのかな?』

 

『ふむ……その、多くのものと繋がれる性質があるからこそ、古今東西の英雄をまとめられているのかな? あるいは逆に、多くの英霊と契約しているから、そういった性質として君に現れているのだろうか』

 

 ドクターとダ・ヴィンチちゃんが、藤丸の属性適性について色々と話している。聞こえてきた会話のうち、理解出来たのは半分と言ったところだ。

 

「……ところで、才能が見込めないって具体的には?」

 

「属性を一つに絞って、その上で二十年くらい魔法の鍛錬に費やせばギリギリ二流くらいにはなれるかしら」

 

「絶望的では?」

 

 どう頑張っても、人理修復に際してその『魔法』を大きく役立てることは出来ないと悟る。

 

「いやそれでも、魔法使ってみたい……!」

 

「わかったかしら。『火』ならエミリア、『水』ならガーフィール、『風』『土』ならオットー、『陰』ならベティーが補助できるのよ。『陽』はいないから諦めるかしら。どうするのよ?」

 

 興味のある属性が一つ、既にある。が、なんとなく気が引けるというか、なんだか悪いような気がして、少し悩む。好奇心とそのモヤモヤを天秤にかけた。

 

「『火』の魔法を使いたいな。エミリアさん、お願いできる?」

 

 ──結果、天秤は好奇心に傾いた。

 

「藤丸てめぇこの野郎、おい!?」

 

 スバルが食い気味に食ってかかる。憎悪とまでは行かないが、納得が行かない、という叫びを藤丸にぶつける。

 

「俺だって……俺だってなぁ……! 『火』に適性があれば、エミリアたんに魔法を手取り足取り教えてもらったりなぁ……!」

 

「その場合もにーちゃが教えてただけだと思うのよ。それに、陰属性で良かったこともあるはずかしら」

 

「それは確かに。シャマクさんには危ないところを何度も助けてもらったしな」

 

「……それだけじゃないはずなのよ」

 

 不機嫌そうにそう呟いて、ぷいとベアトリスが横を向いてむくれる。

 

「ホントに可愛いなぁ、お前!」

 

「むきゃー!」

 

 ベアトリスの頬をぐにぐにと弄り、彼女の細い胴体をしっかと掴んで持ち上げ、くるくると回転する。

 

「それじゃフジマルくん、始めるわね?」

 

「あれ!? 俺がベア子とはしゃいでる間に話が進んでる!?」

 

 不意を突かれたような顔をするスバルだが、自分から脱線していっただけで、話は当然進んでいる。

 

「────」

 

 エミリアの掌が藤丸の背中に触れる。と、全身が熱くなるような感覚を得た。体の中を巡る、形持たぬ奔流──感覚としては、特異点Fのセイバーオルタ戦で初めて令呪を使った時に近い。

 

 あの時のような痛みはないが、自分の体内を何かよくわからないものが暴れ回るような感覚は、まさにそれだ。

 

 そしてそれが、自分以外の意思で動いているのがわかった。エミリアの手によるものだ。

 

「フジマル、想像するの。私が補助してるけど、いちばん大事なのは使い手の意思だから」

 

「想像……」

 

 火の魔法を使うのだから、分かりやすく火をイメージ。幸い、イメージの材料はそこかしこで揺らめいている。炎上汚染都市冬木。未だ燃え上がっている謎の特異点。

 

「使いたいのは火の魔法よね? 氷じゃなくて」

 

「うん。シンプルに火を出したい」

 

「なら、使うのは火属性の『ゴーア』ね」

 

「得意なわけじゃないことを頼んで申し訳ないけど」

 

「ううん、いいの。それで、ゲートを通してマナを体の外に出すの」

 

 体内にゲートをイメージする。そうすると、体内を暴れ回るような感覚が、出口を求めて奔る。

 

 藤丸は右手を前に突き出して、魔力をその方向へ誘導する。そして、感覚が最高潮を迎えると、藤丸は叫びと共に外へと押し出した。

 

「────ゴーア……!」




今回はちょっと箸休め。話は進んでないので拍子抜けかもですが、それはまあ次回をお楽しみに!

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