「──ここ、もしかして日本、か?」
その予想に、明確な根拠があった訳ではない。なんとなく、倒壊している建物をみて、そうかもしれないと思っただけだ。日本以外という線も考えられたが──どちらにせよ、スバルの元いた世界だ。
「『試験』の一環...いや、それにしちゃ急すぎる」
もともと、この試験は墓所での『試練』と似たようなところがある。なので、同じようなことが起こっても不思議はないのだが──、
二層『エレクトラ』の試験──
『──天剣に至りし愚者、彼の者の許しを得よ』
レイド・アストレアの許しを得る──その試験がまだ終わっていないのだから、新しい試験が始まるとは考えにくい。あの『棒振り』が、幻術かなにかを使って見せている夢、と考えれば試験内容と矛盾はしないが、そんな回りくどいことをするとは思えなかった。
「それとは関係なく、別の厄介事に巻き込まれた...ってのが有力か? いや──それより」
他の皆は、と辺りを見回そうとしたところで、スバルはあることに気が付いた。
──かしゃん。かしゃん。かしゃん。かしゃん。
「なん、だアレ...」
スバルが目にしたのは、死者への冒涜だった。既に死した者──骸骨が、歩き回っている。プリステラのことが思い出された。既に白骨化しており、元の人間が分からないのがせめてもの救い──とは思わない。
「う──うわっ!?」
骸骨の中の一体が、こちらに向けて矢を放ってきた。ギリギリのところで躱すことは出来たが──、
「気付かれてる、か。畜生」
岩陰、と言うよりは崩れた壁に隠れる。このまま、こちらへの関心を失って離れてくれるのが理想なのだが。
──かしゃん。かしゃん。かしゃん。かしゃん。
「近付いてきてるじゃねえか……!」
このままやり過ごすのは不可能と悟る。向こうがある程度近付いたのを見計らい、スバルは腰の鞭に手をかける。
「う、らぁ!」
思い切り腕を振りぬき──逃げるための時間稼ぎ、くらいに思っていた鞭の一撃だったが、思いのほか効果的だったようだ。骨の腕は外れ、地に落ちた。
「おらぁ! もいっちょ!」
二回、三回と鞭の攻撃をぶつけると、骸骨はその活動を完全に停止した。そんなつもりはなかったが、『時間を稼ぐのはいいが、別にアレを倒してしまってもかまわんのだろう?』を、実現できた形になる。
「とと、油断はしないようにしねえと……」
周りに警戒しようとして──もう手遅れと気付く。囲まれている。弓を持った骸骨だけではなく、剣、槍を持った骸骨が、合わせて30ほど、スバルの周りに集まってきていた。
──弓が、四方八方からスバルへと殺到した。
「がっ...」
動けなくなったスバルを、骸骨が蹂躙する。剣で斬られ、槍で突かれ、骸骨たちの重みで呆気なく潰された。
*
サーヴァントを見繕えとの指示に従い、藤丸はカルデアの廊下を歩いていた。頼りになるサーヴァントが着いてきてくれればいいのだが。
「冬木で、ループ、か……」
「ヒヒヒ、そりゃまた、聞き捨てならない話ですねえ。マスター?」
「アンリマユ……久し振り、かな? 『残骸事件』以来だっけ?」
残骸事件──そう呼んでいるのは、ある時冬木で起こった出来事のことだ。アンリマユによく似た微弱な霊基、アンリマユが自らの残骸と称したシャドウサーヴァント。それが、2000以上も現れた事件だ。その事件は、アンリマユの協力を得て、無事に解決した。
「もしかして、今回もキミ絡み? ……そう言えば、ドクターが……アンリには、冬木限定で『死んでもやり直せる』スキルを持っていた可能性がある……とか言ってた気が」
「いやいや、違いますよ? 今回は俺とはなんの関係もないですって。いやホント。でも、確実にオレが役に立てる案件なのは間違いない。もちろん、連れてってくれますよね、マスター?」
「まあ……そう言うなら。でも、今回は他のサーヴァントも連れてくからね?」
「ああ、そこは問題ない。今回は、戦闘では役に立ちそうにないですからね」
と、それだけ言うとアンリはどこかに言ってしまった。「1時間後にはオレも行きますからねー」と言い残して。
*
「──で、ここに戻ってくる訳か」
スバルの眼前に広がるのは、先程と変わらず炎上する炎の都市だった。今回のループは、この場所が舞台となるという訳だ。
死ぬ寸前の事を思い出そうとして、身震いする。生者を求めて徘徊する、死者への冒涜──その姿を思い出しただけで、死の恐怖が蘇る。
「と、ともかく、見つかんねえように……」
先程は暫く考え込むのに使っていた時間を、移動のために使う。崩れた壁などに隠れつつ、スバルは移動する。どこへ行けばいいのかも分からないので、闇雲に動くことになるが、動いていなければ前回と同様になるのは明白だった。
それにしても、暑い。燃えているのだから当然といえば当然なのだが、ここに来るより前と環境が大きく違っていることもあって、かなり体に負担をかけていた。
「……ふぅ、ひとまずこの辺にはいない、か……?」
かろうじて原型を保っている建物の中に入り、中に骸骨のような敵性存在がいないことを確認する。
「うわっ!? だ、誰ですか!?」
──どうやら、先客がいたらしい。
「第一村人……というか、生存者か? あー、俺は怪しいもんじゃなくて──いやちょっとまて」
第一村人、もとい第一生存者が、スバルを凝視する。同じくスバルも、その生存者をじっと見つめる。中肉中背、ギャルゲーの主人公ほどに長くのばされた灰色の髪。その見た目は、スバルのよく知る人物に似ていて──
「って、オットー!? 本物!?」
「えええ!? ナツキさん!? 本物!?」
*
「頼りになるサーヴァントか……」
アヴェンジャー、アンリマユがついてくることは決まったが、それ以外に──あと、
冬木と言うことなので、縁深い
強いサーヴァント、ということで大きい方の
「ええと……あと聞いてないのは……」
指折り数えて、しかし数え切れるわけもないと投げ出す。もうすぐで1時間だ。早いところ、サーヴァントを見繕わなければ──と、食堂に顔を出す。朝飯時なので、
「おうマスター。さっきの呼び出し、なんだったんだ?」
何人か、と思ったのだけれど、今日はクー・フーリンしかいないみたいだ。あとはカルデアスタッフさん達が数人、朝食をとっているくらい。
「えーと、それがね……」
*
「オットー! 何してんだよこんな所で!」
「そりゃこっちのセリフですよナツキさん! 監視塔に行ってたんじゃないんですか!?」
オットーの言う通り、スバルは──いや、スバルたちは、確かにプレアデス監視塔へ辿り着き、その試験に挑んでいる途中──だったのだが。
「俺だって、まだよくわかんねえんだよ……」
「ナツキさんもですか……話を聞いてみようにも、『言霊の加護』が効く相手がいなくて……」
「あの骸骨は?」
「意思がないみたいです。いくら呼びかけても反応がなくて」
知り合いと出会えたのはいいが、あの骸骨相手に『言霊の加護』なしのオットーではあまり期待は出来ない。それと、あの塔にいたから飛ばされたと言うわけでもないらしいこともわかった。何せ、同行していないオットーが呼ばれているのだ。
「……なんか失礼なこと思ってません?」
「あん? 気のせいじゃね?」
兎も角、何か行動を起こさないことには何も始まらない。あの骸骨たちに見つからないように周囲の探索をするのが、状況の打開に繋がるだろう。
「今んとこ、どっちも非戦闘員だからな。武闘派内政官はいるけど」
「それ、ナツキさんしか言いませんからね……?」
*
「ほーん、冬木でねえ。いいぜ、俺がついて行ってやるよ。正直、暴れ足りなかったところだ」
「……話は聞いていた。私も同行しよう。本来ならば、私はそこのランサーと共に行動するなど御免なのだがね」
「二人とも……! ありがとう!」
*
「サポートサーヴァント登録──アヴェンジャー、アンリマユ。アーチャー、エミヤ。ランサー、クー・フーリン。──登録完了。レイシフト証明を開始する」
淡々と、サポートサーヴァントの登録を告げるのは、ロマニ・アーキマンだ。普段ふわっとしている彼が真面目な雰囲気になると、こちらも身が引き締まる。
『アンサモンプログラムㅤスタート。
霊子変換を開始ㅤします』
アナウンスが流れる。レイシフトをする度に聞いた、幾度目かになるいつものアナウンス。
『レイシフト開始まで あと3、2、1……』
『全行程
グランドオーダー 実証を 開始 します』