Re:ゼロから始めるグランドオーダー   作:タイガ原

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第23話 「過去からの来訪者」

 スバルの命が打ち砕かれようというその瞬間、横槍が入れられた。いや、横槍ではなく横鉄球とでも言うべきか──ともかく、レムの持つ護身用棘鉄球(モーニングスター)が、シャドウライダーを吹き飛ばしたのだ。

 

 ──であれば、もちろん言うまでもなく。

 

「あ……」

 

 揺れる青髪と、その下から覗く青い瞳。

 

「スバルくん、お怪我はありませんか!?」

 

 そして、長い間聴けなかったその声。

 

「レ、ム……」

 

「はい。スバルくんのレムです。お身体に異常はありませんか?」

 

 今までどうやっても得られなかったものが、そこにはあった。言葉にならない想いが胸の奥から溢れてきて、スバルは暫し呆けてしまう。

 

「スバルに怪我はないのよ。褒めてやるかしら」

 

 言葉の出ないスバルの代わりに口を開いたのは、スバルの契約精霊──ベアトリスだ。その手はスバルの手と繋がれており、その様相は兄妹のようですらあった。

 

「あ、ありがとうございます、ベアトリス様……?」

 

 困惑を隠せない、といった顔のレム。その視線は、繋がれた二人の手に注がれていて。

 

「……スバルくん」

 

「れ、レムさん?」

 

 少しの間考え込むような態度を見せ、それから覚悟を決めたようにまっすぐスバルを見据える。

 

「レムにも、あとでお願いします!」

 

 彼女が沈黙を破りそう言い放つと、踏み込みで足元が爆ぜる。

 

「しゃあぁぁァ──ッ!」

 

 吹き飛ばされた先から復帰したシャドウライダーに、レムが正面から立ち向かう。鬼の剛腕が鉄球を振り抜き、その鎖と敵の鎖とを絡ませて武器を封じる。

 そして出来た隙を逃さず、その鉄拳を──

 

「──ッ!?」

 

 叩き込もうとして、その身が硬直する。隙を作ったつもりで、逆に誘い込まれていた。敵の真正面で、致命的な隙を晒していた。

 

「……と、とにかく援護だ! ベア子!」

 

「わかったかしら。『ミーニャ』なのよ!」

 

 紫炎を纏う破滅の杭。狙いは頭部、あわよくば眼を。頭を潰せば勝利なのはもちろん、掠るだけでもそれが眼なら魔眼を封じられる。

 そうでなくとも、頭部を狙われれば当然避けるだろう。視線を一点に集中させないことで──

 

「──動く!」

 

 少なくとも、隙だらけのレムが一方的に嬲られるようなことにはならない。させるつもりもない。

 身体の自由を取り戻したレムは、すぐさま胴に蹴りを入れた。体勢を崩しつつ、反動を利用して距離をとる。

 

「……さて」

 

 アレを倒すのに、一手足りない。アヴェンジャーは完全にスペックで負けていて、それはオットーも同じ。レムとベアトリスでどうにか、やられないように立ち回れる程度。

 

「……あ」

 

 考えを巡らすスバルの頭に、一筋の閃光が走る。

 

「アヴェンジャー! 怪我は!?」

 

 そういえば、と思い出した。先程、シャドウライダーがスバルを狙った時。それを阻止せんとした彼が()()()()()()()()()ことを。

 

「オレの心配か? 結構だけど、今は他にすることあるんじゃない?」

 

「そんなことねえよ。今、一番重要なことだ」

 

 スバルの迷いない言葉に、一瞬だけ浮かべていた疑問を撤回する。彼の言葉の意図を理解したアンリマユは、観念したとでも言うように自身の状態を声に出す。

 

「右足が動かねぇ。マスターが近くにいりゃまた違うんだろうが、そうじゃなきゃ聖杯転臨もほぼ無意味。最弱英霊の面目躍如ってとこだよ」

 

「──魔力は?」

 

 その問い掛けに、アンリマユはニッと口角を吊り上げて言う。

 

「足りねえ」

 

「嘘だろ!?」

 

 流れが完全に断ち切られた。想定と違う返しにスバルは困惑、つい声を荒らげてしまう。

 

「嘘じゃねぇ。マスターから離れてるせいで魔力供給が途絶えてるからな。だが、方法が無いわけでもない」

 

「その、方法ってのは……」

 

「何、難しい話じゃない。()()()()()()()()()()ってだけだ」

 

「……できるのか?」

 

 お世辞にもスバルの魔力は褒められたものでは無い。才能もなく、ゲートすら無茶のせいでズタボロになっている。そして、なけなしの魔力も──、

 

「スバルの魔力はベティーが貰ってるかしら。そう簡単に渡せるものでもないのよ」

 

「いいや、そうでもねえさ。今、オレとスバル(こいつ)は同調──魔力の経路(パス)が繋がってる。要するに、サブマスター的なことになってるわけよ」

 

「だとしても、お前にやれるだけの魔力がない……と、思うんだが」

 

 たとえ繋がっているとしたって、先程も言ったようにそのなけなしの魔力はベアトリスに持って行かれている。

 それでも、可能だと彼は言葉を続ける。

 

「サブマスター、とは言ったが単純な主従関係じゃねえ。こっちも、ある程度そっちの状態は理解出来る──もっと言えば、今のアンタが気付いてないことについても、だ」

 

「気付いてないって……何のことだ?」

 

「それについては後回しで。ともかく、魔力については実は問題ないのさ。オレが魔力を消費しようとすれば、不足分がアンタから強制徴収される」

 

 黙っていても別に良かったんだが、一応確認をとっておくべきだと思った──と続ける。

 

「で、やっていいのか?」

 

「ああ。問題ねえ」

 

 自分の身を削る行いだが、そんなものは慣れっこだ。これで、奴に決定的な隙を作ることが出来る。

 

「レム! こっちでそいつに隙を作る! そしたら思いっきりぶち込め!」

 

「──はい、スバルくん! 合図は任せます!」

 

 シャドウライダーと打ち合いながら、レムはスバルへと声を届ける。全幅の信頼を、彼女の英雄へと傾ける。

 

「……頼む」

 

「ああ、頼まれた」

 

 アヴェンジャーがそう答えると、スバルの肉体から──否。精神や魂──そういった所から、大事なものがごっそりと持っていかれた感覚があった。

 

「──悪心は山頂にありき」

 

 彼の魔力が高まっていくのが分かる。それは、悪神の偽物である彼の持つ宝具。

 

「──偽典は万象を遍く示し記さじ」

 

 経典の写本たる偽書。自らの傷を相手に返す、『報復』という原初の呪いにして『共有』の呪い。

 

「──悪を以て疵に報いを」

 

 ただ悪神の名を『被せられた』だけの彼にとって唯一の、悪神『らしい』力。

 

「逆しまに、死ね」

 

 呪いを口にする。

 

「『偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)』──!」

 

 宝具、展開。『動かない右足』が、共有される。無論、先程吹き飛ばされた際に負った傷はそれだけではない。それらもろもろ全部を、そっくりそのまま引っ被せる。

 

「──ッ!?」

 

 レムとの打ち合い──勝負をかけようとした彼女が踏み込もうとしたその瞬間、右足が完全に静止した。支えを失った体はそのまま地面へと叩きつけられる。

 

「今だ、レム!」

 

「はい! 『アル・ヒューマ』ぁ──!」

 

 極大の質量を持った氷塊がシャドウライダーを襲う。一瞬の隙を突かれた彼女は回避も防御も出来ず、なすすべなく氷に呑み込まれてゆく。

 

「終わっ、た……」

 

「そうですね。では、スバルくん」

 

「へ? あ……レムさん?」

 

 レムがスバルの隣──ベアトリスと手を繋いでいる方とは反対側に並び立ち、手を差し出してくる。

 

「その、ベアトリス様と……随分、距離が縮まったんですね。レムは……」

 

「ああ、そうだな」

 

 レムがそれ以上何かを言う前に、その手を取る。指は細く、強く握りしめれば折れてしまいそうな錯覚に陥るほど。この指で、この手で、彼女はあの鎖棘鉄球を振り回しているのだから驚きだ。

 そして何よりも──暖かい。熱い血が通っている。手首に触れれば、血液が脈動するのを感じる。

 

「色々あったんだ。本当に、色々あったんだよ。それで」

 

 話したいことが沢山ある。レムが『暴食』の手によって眠らされたあと。聖域でのこと。ベアトリスと契約したこと。エミリアとのこと。屋敷に新しいメイドが来たこと。

 

「え、と……」

 

 沢山ありすぎて、何から話していいか分からない。オットーのこと。ガーフィールのこと。ユリウスのこと。水門都市のこと。まだまだある。

 

「……スバルくんの手、ごつごつしてますね」

 

 話の切り出し方に迷うスバルに、レムは優しく言葉を掛ける。

 はにかみながら、彼女は言う。彼女の声、仕草、その一つ一つが劇的で。ようやく取り戻したそれは、まるで劇薬のようでもあって。

 

「少し離れているうちに、スバルくんがすごく大きくなったみたいです」

 

 レムが眠ってしまってから、一年以上が経過している。その時間は、残酷な程に大きくて。

 

「スバルくん」

 

 呼ぶ声が耳に届く度、嬉しくて泣きそうになる。

 

「本当は、こうしている時間も惜しいんですけど……スバルくんと手を繋いでいると、うっかり忘れてしまいそうです」

 

「忘れるって……何を?」

 

「もう。スバルくんまで忘れてしまったんですか? その……レムとの時間をそれだけ想ってくれてるのは嬉しいですけど……」

 

 レムの言葉がいまいち要領を得ない。確かに、レムと手を繋いでいるこの時間が泣くほど嬉しくて、うっかり零れてしまわないように気を張っているのは確かだが。

 

「……大事な話だ。レムは今、何の話をしてる?」

 

「スバルくん……?」

 

 レムの顔に、困惑の表情が浮かぶ。

 

 そんな顔をさせたいわけではないのだが──二人の間にある、致命的なズレ。それを放ったまま、なあなあにして話を進めたくはなかった。

 

「あの、ですから」

 

 スバルはレムが何の話をしているのか分からなくて、レムはスバルの言葉の意図が読めない。その認識をすり合わせるために、ちゃんと話しておかなければならない。

 

 その結論は、思いもよらぬものだった。

 

 

 

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「──は?」




アンリマユの宝具前口上を捏造しました。解釈違いだったらごめんね。
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