Re:ゼロから始めるグランドオーダー   作:タイガ原

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第4話 「魔術礼装・カルデア戦闘服」

「ガ──」

 

 飛びついてくる白い兎。その目はやたらと殺意(しょくよく)に満ちていて、その鋭い牙を藤丸に向ける。そう気付いた時には、もう間に合わ──

 

「──ンド!」

 

 間に合わ──なくなる所だった。藤丸がそれに気付いたのは、ある種の直感、あるいはここまでの経験ゆえか。咄嗟に礼装を起動し、『ガンド』を目の前の兎に向かって撃ち込んだ。

 

 カルデア戦闘服を着ていて良かった、とつくづく思う。カルデア技術の粋を集めて作成された戦闘服。ルーン魔術を利用した『ガンド』は、他のエネミーと同様に、目の前の兎の動きを縛り付けた。

 

「はぁ、はあ...」

 

 額から玉のような汗が零れ落ちる。一瞬、死すら覚悟したほどの殺気。ガンドが遅れていたら、腕が無くなっていてもおかしくなかった。

 

「不用意に近付くなって言ったろ、マスター。だがまあ、悪くない反応だった。無事に済んだってならそれに越したことはないだろうよ」

 

 そう言って、クーフーリンは動けなくなっている兎を槍で一突き。小さな断末魔とともに、その場に小さな血溜まりが出来た。

 

「すみません、先輩。私がついていながら、あれを危険なものと気付けませんでした。動物が冬木(ここ)で生きている、と言うだけで十分に警戒に値すると言うのに...」

 

『いや、それはこちらにも非があるよ、マシュ。済まなかった藤丸くん。こちらでも、あれを危険なものと判断できなかった。藤丸くんの咄嗟の反応がなければ、ここで終わっていてもおかしくなかった』

 

 確かに、飛びついて牙を向けてくるまで、ただの兎と同様に見えていた。あれが危険なエネミーだとは到底思えなかったが、カルデアの探知でもそうだったのか。

 

『うん、あの兎自体は大して強い訳じゃない。魔力反応は本当に微弱で、その特異点に満ちる魔力で掻き消される程度だ。でも今回は不意打ちみたいなものだったからね』

 

「しぬかとおもった」

 

『...本当にごめん。とりあえず、あの兎は解析に掛けておくよ。結果が出たら知らせるから』

 

 *

 

 意識が戻り、一番に脳裏に浮かんだのは死の直前の感覚だった。身体中が食われていく感覚。自分の体が、ただの肉片へと貶められていく感覚だ。

 

「う...ぶ、おえ」

 

 腹の中のものを全てぶちまけ、それでも足りないと胃液を絞り出す。それに伴う痛みなど、死ぬ間際の痛みに較べてしまえば、無いも同然だった。

 

「何、で...アレが」

 

 忘れられない。忘れるはずもないあの姿。大兎。多兎──転じて大兎。スバルと、ベアトリスとで殲滅したハズの魔獣。ベアトリスが溜め込んでいた魔力を全て使い切ってまで殲滅したアレが──なぜ、こんなところに。

 

「...クソ」

 

 口に付いた胃液を袖で乱暴に拭う。うじうじ考えていても仕方がない。ともかくこの場所を動かなければ。それから、さっきの場所には二度と行かないように。

 

「せめて、誰が来てるのかさえ分かれば...」

 

 頼りになる奴と合流出来るのに、と。現状スバル一人ではほとんど何も出来ない。相手があの骨だと、一体ならばともかく複数に囲まれると、

 

「囲まれる、と──」

 

 ──かしゃん。かしゃん。かしゃん。かしゃん。かしゃんかしゃんかしゃんかしゃんかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃ。

 

「ぐ、が...」

 

 油断、していた。この場所に留まっていればすぐに囲まれるという事実は、ここに来てから全く変化していないと言うのに。

 

 蹂躙される。

 

 骨の波が、ナツキスバルを呑み込んでいく。

 

 *

 

「召喚サークル、設置します」

 

 マシュの持つラウンドシールド、円卓由来の盾を起点として、召喚陣が敷かれる。カルデアとの物資のやり取り、藤丸の使役するサーヴァントの『影』の召喚などを円滑にするためのものだ。

 

「あれ? 前にも設置しなかったっけ?」

 

「はい。ですが、以前設置したものは既に効果を失っているようなので」

 

 単に時間経過による劣化か、それとも常に炎上しているこの特異点の性質ゆえか。ともかく、これでさらなる戦力の向上が見込めるという訳だ。

 

「...その、エミヤさんにクーフーリンさん、...あと、アンリマユさんがいらっしゃるのは心強いのですが、やはりできるだけ戦力は多い方がいいかと...」

 

「なに、正しい判断だ。気にする必要はない。我々だけでは、マスターを守りきれる保証はないのでね。もちろん、最善を尽くしてはいるが」

 

「いつもありがとう、エミヤ。頼りにしてるよ」

 

 戦闘面もそうだが、主に食事に関して。エミヤがいてくれるおかげで、いつも美味しい食事ができている。長いグランドオーダーの旅、その精神を支えてくれているものの一つだ。それ以外だとマシュの笑顔とか。

 

『──話の途中ですまないが、スケルトンの群れだ! それだけじゃない、後ろにシャドウサーヴァントも控えている! くれぐれも、油断はしないようにね!』

 

 と、そんな所にロマニからの通信が入る。

 

「よし! じゃあ...戦闘だ!」

 

 今回のレイシフトでは初の、サーヴァントの影を使役する戦闘だ。先程までとは別に、さらに影たちへの指示もしなくてはならない。より早い頭の回転が求められる。

 

 *

 

「今回、難易度高くねえか...?」

 

 スタート地点から既に死の危険が潜んでいるので、死に戻りをして直ぐに行動しなければならないようだ。いや、わかり切っていたことではある。単に、その前の『死』があまりにも酷いものだっただけで。

 すぐに移動を開始する。あの場所に限らず、1つの場所に留まっていれば死は免れない。早いところ、誰か戦闘を任せられる者と合流しなければ。

 

「いつにも増してキツいな...」

 

 生存の難易度、死に戻りと死の間隔が短いのもそうだが、何よりこの環境が辛い。常に燃えているこの空間は、呼吸も辛く体力の消耗が早い。

 同じ場所には長くとどまれないのに、こまめに休憩を取らねば普通に倒れてしまいそうだ。

 

「...オットーと合流するか?」

 

 現在、居場所が分かっている者はオットーのみ。というか、それ以外の人物はここに居るのかすら分からない。であれば、わかっているオットーと合流した方がいいのでは。

 切り抜けられるかということ以前に、そろそろ精神的に不味い頃合いだ。独り言ばかりだと思考がドツボに嵌る。

 

「なんにしろ、早くここを動かないとな」

 

 とりあえずはまだ行っていない方向へ。オットーと合流するのは、もう少し周りを探索してからでもいいだろう。

 

 ──かしゃん。

 

「おっと」

 

 音の聞こえた方とは逆の方向へと進路を変える。何度も殺されたせいで、小さな音でも聞き逃さないようになってきた。ちょっとしたトラウマみたいなものだ。

 

 ──かしゃん。

 

「今度はあっち側へ...」

 

 ──かしゃん。

 

「今度は...」

 

 音が聞こえる度に、それを避けるように進路を変える。あまりにもその回数が多かったので、最初の位置からどう進んだか把握できない。

 

「途中までは覚えてたんだがな」

 

 がりがりと頭を掻き、独り言を零しつつまた耳が音を拾う。同じように、逆の方向へと進み──遂に、燃える建物ばかりの景色から解放される。

 

「おお...? 川、だ」

 

 向こう岸を見れば、こちら側とはまた様子の違った建物の残骸が見られる。街を大きく二分する川のようだった。

 

「ん?」

 

 流れる川を見渡していれば、もちろん見えてくるものがある。橋だ。さらによくよく見れば、その橋は──

 

「あの橋...もしかするとここは...」

 

 *

 

「タイミング合わせるぞ、マシュ!」

 

「──はい、先輩!」

 

 マシュが白亜の城壁(ロード・キャメロット)を展開するのに合わせ、影のひとつ──白き聖女(ジャンヌ・ダルク)が、同胞を守護する旗(リュミノジテ・エテルネッル)を発動させ、波のように押し寄せるスケルトンを押し留める。

 

「エミヤ!」

 

「いいだろう!」

 

 エミヤが無限の剣を内包した固有結界(アンリミテッド・ブレイドワークス)を展開する。無数の剣による多方向からの攻撃は、スケルトンでは避けられない。

 さらにその上から、もうひとつの影──サンタ姿をした小聖女(ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ)の、大量のプレゼント(ラ・グラスフィール・ノエル)が降り注ぐ。

 

「クー・フーリン!」

 

「任せな!」

 

 呼び出した三つのサーヴァントの影、その最後のひとつ──竜の魔女(ジャンヌ・ダルク・オルタ)が、その宝具──憎悪によって磨かれた魂の咆哮(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)を、後方のシャドウサーヴァントに叩き込む。

 

 さらにそこへ──

 

「その心臓──貰い受ける!」

 

 クー・フーリンの呪いの朱槍(ゲイ・ボルク)が突き刺さる。霊核を貫かれたシャドウサーヴァントの霊基は砕け散った。

 

「へぇ、いやあやっぱり英霊のお歴々は凄いねぇ! オレの出番が全くなかった! なあマスター!」

 

「頼りになる仲間だよ。もちろんアンリもね」

 

「嬉しいこと言ってくれるねぇ! んじゃ、どっかでしっかり役にたたなくっちゃあな」

 

 スケルトンを全て打ち倒し、その後ろに控えていたシャドウサーヴァントも消滅した。ひとまずは戦闘終了だ。

 

「...」

 

「マシュ? どうかした?」

 

「その、エネミーが...いつもより多いような...」

 

 確かにそうだ。この特異点にスケルトンが多くいるのはわかりきっていたことだが、これ程──波のように押し寄せるほどではなかった。

 

『うん。それに、攻撃性も通常のものより高い。今回の異常になんらかの形で関わっているのは確かだろうね』

 

「そう言えばドクター、解析の結果は出た?」

 

『ごめん。まだかかりそうだ。あの兎、どうにも特殊みたいでね』

 

 明らかに普通の兎でないことはわかっていたが、解析の結果がすぐには出ないとなると、魔術的にも特殊なものということか。

 

『ともかく、こちらは解析を進めておく。君たちには、引き続き調査をお願いするよ』

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