スバルは、急に与えられた信じ難い情報を前に、それを脳内で整理することに必死になっていた。
「待て、冬木って、マジであの冬木?」
「『あの』が何を指すのかは分かりかねますが……はい。ここは冬木で間違いないはずです」
大盾を携えた少女がそう答える。スバルとしては、確かに引っかかってはいたのだ──どこかで見たことがあるような、盾を持った少女。それから、彼女が後ろの少年を『マスター』と呼んだことも。
そこまで考えて、スバルは別のことに気付く。
「その、後ろにいるのって……」
後方の群れと交戦していた三人。スバルがガーフィールを諌めたあたりで、こちらに戻ってきていた。さして気に留めてはいなかったのだが、よくよく見れば気付くことがある。
まず一人は、赤い外套こそなく、髪も下ろしているが、その特徴的な眉の形、見間違うはずもない。
もう一人、青いタイツは全身を覆ってはおらず半裸で、短髪だが、何よりもその手に持つ
最後の一人に至っては、見たことのある姿そのままだ。
「アーチャーに、ランサー!? アヴェンジャーまで!?」
もうこの時点で、ここが冬木であることも、サーヴァントが実在することも疑ってはいない。コスプレという線もないではなかったが、コスプレイヤーがあれほどの戦闘力を持っているものか。
「えっと……エミヤ達のこと、知ってるの?」
「真名呼びなのか!? いや知ってるも何も、あの『Fate/stay』──」
night、と続けようとして、それが不可能であることに気付く。世界が静止して──いや、静止しているのはスバル自身だ。
──どこからか、
その手は、スバルの肉体を容易くすり抜けて、その一番奥、どくんどくんと脈打つそれを。
──心臓を。
「──っ!?」
現実へと回帰する。体が動く安堵、解放感。それでも、苦痛はなお残った。
「嘘、だろ……? 禁則事項が増えてんじゃねえか……」
「大丈夫ですか!? どこかお怪我でも……」
盾の少女がこちらを心配して駆け寄ってくる。だが、それどころではない。
「問題ねえ。心臓を握り潰された気がしただけだ。それより、またあいつらが来る」
──かしゃん。かしゃん。
スバルの『匂い』が強くなったからであろう。こちらへと向かってくる足音が、どんどんと増えてきている。
『気を付けてくれ、藤丸くん! スケルトンの数はさっきほどじゃないけど、シャドウサーヴァントが複数体いるぞ!』
「了解! 迎撃だ、マシュ! みんな!」
「はい! 戦闘準備、完了。行けます!」
少年の掛け声とともに、盾の少女とサーヴァント達が駆けてゆく。
「ガーフィール! お前も……」
「おォよ、言われッなくてもやッてやらァ」
*
そして藤丸は──三体の影を召喚する。
「百貌さん!」
──アサシン、百貌のハサン・サッバーハ。
「アヴィケブロン!」
──キャスター、アヴィケブロン。
「ゴールデン!」
──バーサーカー、坂田金時。
皆、対多数を相手にするのに長けたサーヴァントたち。スケルトンの群れを前に、その力を
百貌のハサンは、その数を利用してスケルトンを各個撃破して行く。ただ、人格によって差があるようで、『怪腕のゴズール』『迅速のマクール』などは上手くやっているようだが、『基底のザイード』あたりは微妙だ。敵の攻撃を躱すことばかりに集中しないで欲しい。
アヴィケブロンの作った即席のゴーレムは、敵を撃破しては自壊してゆく。それでもその力は凄まじく、頼もしい。
「……ふむ。やはり即席ではこんなものか」
「ゴールデン……タイフーン!!」
エミヤ、クー・フーリン、アンリマユ、マシュ。そして、ガーフィールがそれぞれスケルトンを倒して、数が少なくなってきている。そろそろ後ろのシャドウサーヴァントが出張ってくる頃合い。
それを見て、藤丸は魔術礼装に魔力を通す。
「
魔術礼装、カルデア戦闘服の機能の一つ──オーダーチェンジ。指定は百貌のハサン。令呪による転移とはまた違う、対象がサーヴァントの『影』であるからこそ可能となる、強制的な撤退と召喚の同時行使。
「ドレイク船長!」
──ライダー、フランシス・ドレイク。
「いける?」
「もちろんさね」
「よし。みんな、射線から退避!」
ドレイクの正面、数騎のシャドウサーヴァントとの間にいるサーヴァント達を避難させる。
「それで──令呪を以て命ずる、ライダー! 宝具、『
「あいよ!」
令呪による命令に、快活な声が返ってくる。
「う、ぐっ……!」
令呪を使ったことで、身体中の魔術回路を走る魔力。そして、それに伴う痛み。慣れてきてはいるが、痛みがなくなる訳では無い。
現れる
残るは深手を負ったシャドウサーヴァントのみ。それも、エミヤ達やガーフィールがトドメを刺した。
「シャドウサーヴァントって、普通のサーヴァントと同じように、神秘のない攻撃は効かないはずだよね?」
単純に疑問に思った藤丸はドクターに問い掛ける。
『うん。魔力反応こそ無いけど、彼も何らかの神秘を行使しているんだろう。あるいは、彼自身が神秘の塊なのかもだ』
ドクターの言葉を受けて、ガーフィールの戦闘を思い出す。拳法を修めているという風ではなく、純粋に力強かった。魔術による身体強化でもないらしいとくれば、彼自身が神秘である、ということは納得できる。
「ともあれ、これで戦闘終了だ」
*
「紹介が遅れて申し訳ねえ! 俺の名前はナツキ・スバル! 万物不当の一文無しにして、天地未踏の異世界帰り! ってことで、ヨロシク!」
「ええっと……?」
『ふむふむ。興味深いね』
「興味深いって……何が?」
通信の向こうから、ダ・ヴィンチちゃんが話し掛けて来た。かの天才が興味を示すからには、なにか意味があるのだろう。
『異世界、それに、〈万物不当〉や〈天地未踏〉といった耳慣れない言葉。細かくはあるが、私たちの世界との相違点と……』
「やめて!? 俺の適当な発言を真面目に考察しないで!? そんな言葉ねえから!」
「ダ・ヴィンチちゃん? わかっててからかったでしょ……」
『さあ、それはどうだろう?』
にっこりと、あるいは、にやりとしているようにも取れる笑顔。初対面からそんな対応をされると、藤丸としても困る。
「しっかし……」
『どうかしたかい?』
「いいや、なんでもねぇ。ある奴にちょっとばかし声が似てて、あんまり嬉しくない記憶を思い出しちまうってだけ」
『ふうん?』
スバルの言葉にダ・ヴィンチちゃんはほんの少し疑問を浮かべるも、そこまで興味が湧かなかったのかそれ以上は詮索しなかった。
「えっと、オットー・スーウェンと申します。以後、お見知り置きを」
「あ、これはこれはご丁寧に」
灰色の髪をした、どこか頼りなさげな青年だ。見た目から、どこか苦労人らしき雰囲気を感じる。ロビンフッドから不真面目さを抜いたらこんな感じかもしれない。
「俺様ァ、ガーフィール・ティンゼルだ。さっきは……」
「もう済んだことだし、気にしないで」
ガーフィール・ティンゼル──彼の凄まじい強さは既に
「デミ・サーヴァントのマシュ・キリエライトと申します。こちらは、マスターの──」
「藤丸立香です。よろしく」
カルデアを代表し、マスターである藤丸と、そのサーヴァントであるマシュが自己紹介。ぺこりと頭を下げ、その後で三人の顔を見やる。うち二人、オットーとガーフィールはまだ気を許していないようだ。
「デミ……? ところで、アーチャー達のマスターは来てないのか?」
「……うん? エミヤ達のマスターなら俺だけど」
「はぁ!? 普通サーヴァントは一人一騎じゃ……」
彼は目を丸くして声を荒げる。そう言われても、藤丸からすればサーヴァントが一人一騎というのは、むしろ特殊事例だ。それこそ、孔明──を宿した、ロード・エルメロイⅡ世と共に行った1994年の冬木くらいのものだ。
「あ、いや、でも〈だがここに例外が存在する〉ってのはよくあることだしな……」
「あの、すみません。スバルさん、でよろしいでしょうか」
「え? ああ。
ブツブツと独り言を言う彼にマシュが話を切り出す。名前からして、彼も藤丸と同じく日本人のようだ。それはともかく、マシュはスバルに何か聞きたいことがあるようだ。
「では、スバルさん。サーヴァントをご存知のようでした。それから、フェイト、との発言。スバルさんは……私たちの、カルデアの英霊召喚システム〈フェイト〉のことを知っているのですか?」
「カル、デア……? いや、俺は
スバルは、慎重に言葉を選ぶ。今回新しく追加された
この禁句について、ある程度予測はついている。今までに発した言葉のうち、『Fate/stay night』だけが引っかかった。それ以外は全てセーフ。これを踏まえて考えれば、自ずと答えは見えてくる。
要は、この世界──Fate世界、あるいは
「聖杯戦争……それは、過去に一度
「……一度? いや、俺が知ってるのは、過去に五回あったうちの、第四次と第五次の聖杯戦争だ」
正直、この辺りの発言はスレスレだ。あまり詳しすぎると、禁句と判断されかねない。
「過去に五回……? それって……」
「……はい。ロード・エルメロイⅡ世さんと共に行った、1994年の冬木。あれが、五回のうちの四度目だったかと」
この男、どうにも巻き込まれたただの一般人、という訳ではないようだ。どうにも底が知れない。
「ナツキ・スバル、あなたは一体……」
『はいはいまあまあ、その辺で。立ち話もなんだし、腰を落ち着けるところ……は、あるか微妙かな? 学校あたりは少しは落ち着けそうだけど、ともかく話の続きは屋内で。あんまり外で立ち止まってると、敵に囲まれるよ?』
とまあ、ダ・ヴィンチちゃんの助言で、話し合いは一旦中断することになったのだった。
スバルがエミヤをエミヤと判断したのが眉毛の形だってところ、笑いどころさんです。
藤丸のセリフですが、ほとんど二つに区切れるようになってます。選択肢の上と下に分かれるようなイメージ。
今回藤丸が呼んだ影は四騎士です。
オーダーチェンジの効果はゲーム内効果から考えてでっち上げました。この辺はかなり適当なのでつっこまれたらなんも言えない。公式設定が何も言わないのでどうしようもない。
あと「礼装起動」、漫画版のルビかっこよかったのでそのまま使いました。
あと、2部行ってないのにアヴィケブロン先生がいますが、これはこのカルデアの藤丸は人理修復前にアポイベ(インヘリタンスオブグローリー)を経験したマスターです。ゲームの進行度によってジーク君のセリフが「シャドウ・ボーダーで~」と「カルデアで~」と変化するので、どっちでもいいと解釈しました。
故に、このカルデアにはケイローン先生やアキレウス、ジーク君もいます。アタランテさんはカリュドーンの皮の使い方を知っています。アヴィケブロン先生もいる。
そういうことでお願いします。同じくセリフ差分がある今年のバレンタインイベントですが、こちらはさすがに経験してないマスターなので、紫式部はいません。
今回もお楽しみ頂けましたでしょうか! 感想待ってます! 正直評価ポイントも嬉しいけど感想の方が嬉しい! 感想待ってます! 感想乞食です! ください!