Re:ゼロから始めるグランドオーダー   作:タイガ原

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第8話 「サーキュレーション」

 燃え盛る街を歩く。ただしこれまでと違い、明確な『助ける』という目的がある。それだけで、心は幾分上向きになった。

 

「オタク、ちょいといいかい?」

 

「どわぁ!?」

 

 ぬるり、とスバルの目の前に影が現れる。アヴェンジャーだ。気配遮断というわけでもないだろうが、真っ黒な彼はそれだけで気付きにくい。

 

「な、なんか用か? アヴェンジャー」

 

「わざわざクラス名で呼ぶ理由は──まあ、聞かないでおくとして(知ってるってことだろうが)、アヴェンジャーはオレ以外にもいる。真名で呼んでくれていいんだぜ?」

 

「ああ、アンリ、マユ……他のアヴェンジャーって?」

 

「まず反転聖女。第一特異点の話は聞いたろ?」

 

 第一特異点──ジル・ド・レェの造った竜の魔女が邪竜を率いてフランスをめちゃくちゃにした、とか。

 

「ジャンヌ・オルタ……元々『ルーラー』とかいうクラスだったって聞いたけど、そもそもそのクラスも初耳なんだよな」

 

「へぇ、アンタの知識も完全じゃないのな」

 

「らしいな。知らないことの方が多いくらいだ」

 

 スバルの知る範囲は第四次と第五次、アンリマユの話、それから月の聖杯戦争くらい。それ以外に関しては、全くの未知だ。

 

「で、そのルーラーだったオルタは、なんやかんやあってアヴェンジャーとしてカルデアに召喚されたとかなんとか。オレもよくは知らないんですけどね!」

 

 からからと笑う影。ノリとしては割と喋りやすい方なのは分かるのだが、妙に引っかかるものがある。

 

「あとは巌窟王とかいうやつ? なんかいつの間にかいたらしいし、殆ど姿も見せねえからカルデアでも知ってるのはマスターとオレら(アヴェンジャー)くらいで」

 

「巌窟王……って、マジか。モンテ・クリスト伯だろ? 確かに復讐者だな」

 

「お、なに? 割とそういうの詳しい感じ?」

 

「時間だけはいくらでもあったからな」

 

 何もしてこなかった期間も、まあ本を読んだりはしていた。ジャンルはお察しだが。それはそうと、彼は何故話しかけてきたのだろう。

 

 考えてもみれば、アヴェンジャー……アンリマユとは、共通項が多い。ノリの軽さとか、戦闘能力のなさとか、それと──

 

「あぁ、そうそう、ナツキ・スバルだったっけ? オタク、もしかして死んだことある?」

 

 と。声の調子を変えずに、いきなり核心を突いてきた。

 

「……いやいや、なんでそんなこと」

 

「んー、なんでって言われると困るんだが……雰囲気とか、目とか? なーんか、『死』を知ってるって感じだ」

 

 そう、()()()()()。スバルは『死に戻り』と呼ぶそれを、彼はあの『永遠の四日間』を。最も大きな共通項がそれだ。

 

 そして、彼らはそのループ現象を止めるためにここに来ている、と来た。あまりにも符号しすぎている。

 

「サーヴァント連中ならおかしくはないんだがな。例外はいるが、英霊の座に登録されるんだから必ず一度は死んでる。他の聖杯戦争の記憶があれば、プラスしてもう数回はあるか? だけどアンタは英霊じゃないし、そもそも()()()()()()()()()()()?」

 

「……っ、お前」

 

 同類の気配を感じ取った、あるいは同族のニオイを嗅ぎ取った、ということか。

 

「まあ、マスターには言いませんし、もちろん他のヤツらにも言わねえんで安心してくだサイ! バレた時に話せる範囲で話せばそれでいいと思いますよ?」

 

 彼にとってはそこまで重要な会話でもなかったようだが──エミリアを助けに行く道中の無駄に気分が重くなった。似たもの同士な気もしていたが、そんな気も失せた。

 

 *

 

「──これが」

 

 スバルは赤い水晶に掌で触れる。表面は滑らかで、炎の中にありながら割と冷たい。

 

 エミリアに目を向ける。このように水晶に閉じ込められて──もしかすると、氷の中で眠っていた時もこんな感じだったのだろうか。

 

「つっても、氷じゃねえから溶かすって訳にもいかねえしな」

 

 そも、炎に包まれたこの環境で形を保っているのだ。たとえこれが氷であったとて、溶かすのは容易ではなかろう。

 

「ンなら、ぶち壊すッしかねェな」

 

「エミリアが傷つかないように頼む」

 

「おォよ」

 

 ガーフィールは拳を握りしめる。踏み込んで大きく振りかぶり、その拳を水晶目掛け叩きつける。

 

「──あン?」

 

 困惑の声を漏らす。当人にとっては、この一撃で破壊してしまえるつもりだったのだろう。しかし、水晶は僅かに罅割(ひびわ)れただけだった。彼の思うより、この構造物は丈夫なようだった。それだけではない。

 

「なんだ……?」

 

 水晶が発光する。罅割れは徐々に修復されていき、数秒後には完全に塞がった。異様な光景に、一同は息を呑む。

 

『君たちの前方で、急な()()()()()()を確認した! 閉じ込められている彼女のものじゃなく、まず間違いなく()()()()()()からの反応だ!』

 

「え──それは、どういう?」

 

 てっきり、彼女が中にいるために、その座標から生命力が感知されているのだとばかり。それでは、その言い方では水晶が生きているかのようではないか。

 

『だけど、かなり不自然な生命力だ。本来はもっと複雑なものなんだけど、これはその一端を切り取っただけみたいな──』

 

 その瞬間、水晶が一際強い光を放ち、ドクターの言葉が途中で遮られた。

 

 そして次の瞬間、赤い光線が皆を襲った。

 

 かの聖剣(エクスカリバー)のような大きな光ではなく、何条もの細い光線が、それぞれの心臓を穿たんと迫る。

 

 まずカルデアのサーヴァント達は──当然、自らのマスターを最優先に守護する。自らの身を守るのはその次。

 

 藤丸、スバル、オットーは、自身を守ることさえ満足には出来ず、もちろん他を守ることなど出来ない。

 

 そして、ガーフィールは自らの身を守り、その次に──スバルを守るか、オットーを守るか。

 

 そんな問いを投げかけられれば、どちらを優先するのではなく、『沈黙』を選ぶべきだ──が、その状況が実際に目の前で起きていれば、何もせず動かない選択肢などない。

 

 ただ、ガーフィールにとってスバルとオットー、どちらを優先するか、明確な答えは彼の中にはない。だから、彼がどちらかを優先したのであれば、それは別の要素によるもの。

 

 だから、理由などそれだけ。

 

 彼の方が近くにいた、それだけだ。

 

 *

 

「ナ……ナツキさん!?」

 

 守られたのはオットーだった。さもありなん、カルデア一行に心を開いていたスバルと、それほどでもなかったオットーとガーフィール。必然的に、位置関係がそうなるのは当然の成り行きだ。

 

「う、ぐ」

 

 胸に大穴が空いている。血がどくどくと流出し、どう見ても生きていられる量ではない。いや、それ以前にもう心臓が無くなっている。

 

 きれいさっぱり、跡形もなく。

 

「くそッ……! 目ェ開けろよ、大将ォッ!」

 

 ガーフィールが何かを──恐らくは治癒を──しようとして、しかしどうにもならない。

 

「スバ、ル」

 

 目の前で起こったことに理解が追いつかない。心のどこかで、彼は大丈夫だと思っていた。なのに、なのに、こんなにあっさりと。

 

「もう、手遅れです。これいじょ──」

 

 オットーが無為に治癒を続けるガーフィールを諌める。しかしその言葉は最後まで紡がれなかった。何故、と思って藤丸がそちらを見る。

 

「え……?」

 

 止まっていたのはオットーの言葉だけではない。彼の身体も、いや、ガーフィールの体も、もっと言えば、この空間、()()()()()()()が、カルデアの一行を除き、全てが静止していた。

 

『ループ現象! 新しい領域が構築された!』

 

「こんな時に……!」

 

 一難去らぬうちにまた一難。藤丸は血が流れるほどに唇を噛む。何も出来なかった。何もやらなかった。守られていただけだった。悔しさで身が裂かれそうになる。

 

「マスター、気持ちは分かるが──」

 

「……ごめん。大丈夫」

 

 エミヤがこちらを心配してくれる。いや、違うか。出来なかったことに囚われるな、カルデアのマスターとしての働きを全うしろ、という事。要はいつもの説教だ。

 

「……そうか」

 

 エミヤの声がまた一段低くなる。失望させてしまっただろうか。彼にそう思わせてしまうのは、心苦しい。

 

「先輩」

 

「大丈夫だよ、マシュ。ちゃんとするから」

 

「ですが……」

 

 マシュの表情が暗くなる。マシュはどんな顔でも可愛いし最高だけれど、そんな悲しい顔をさせてしまう自分に嫌気がさす。

 

『藤丸くん、こんな時で悪いけど──いいニュースと悪いニュースがある。どっちから聞きたい?』

 

「え、じゃあ……悪い方で」

 

『わかった。悪いニュースだけれど、さっきループ現象が起こったって言ったよね?』

 

「それは、はい。言いました」

 

 ループ現象──ここに調査をしに来た目的。その原因の究明と解決の為に、ここに来ている。

 

『現在、君たちは最新よりひとつ古い領域に取り残されている。それで、ここからが悪いニュースなんだけど──』

 

 現状、この時点で悪い状況なのだが、これ以上があるというのか。勘弁して欲しい。

 

『古い領域から順番に消えている。このままだと、古い領域に取り残された君たちが、その消滅に巻き込まれる可能性がある』

 

「……いいニュースは?」

 

『古い領域から消えてるから、これ以上シバに負荷がかからない、ってことなんだけど……』

 

 絶望した。そんな状況でどうしろと言うのか。どうしようもない。

 

「その、ドクター。レイシフトは出来ないのですか?」

 

『この状態でのレイシフトは危険すぎるんだ。ノイズが多すぎて、意味消失の危険性が普段とは比べ物にならない。それしかないってなれば、まあやるしかないんだけど……』

 

「そんな……」

 

 皆が絶望する中、一騎(ひとり)だけそうでない者がいた。彼はテクテクとナツキ・スバルの遺体に歩いていき、あろう事か大穴の空いた胸から、体内に手を突っ込んだ。

 

「アンリ、何を!?」

 

「まあ黙って見てなって。オレなりにこの状況を打開する手段があるってことですよ」

 

 アンリマユという影が明確な人の形に変わっていく。赤いバンダナを身に付け、特徴的な刺青を身体中に刻んだ姿に。

 

 そして、バンダナが解け、毛髪と刺青が青く発光する。

 

「──『四夜の終末』」

 




えっなんか今回めちゃめちゃ筆が乗った……一日で書き上げられたぞ今回。なんだこれ。

あと藤丸はエミヤの言葉に対して「いつもの説教」とか思ってますが、エミヤは純粋に藤丸を心配してます。藤丸もそれはわかってはいるけど悔しさが勝っている状態。

あ、前回の後書きの「気付くことや疑問点などあれば感想欄に」ですが、そうしてくれると助かるのでお願いします! あと普通に感想を書いてくれてもいいんですからね! 待ってますよ!

それではこの辺で!
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