1話 幼馴染みとプロローグ
「ほら、起きなさい」
強く耳に入った女の子の声が合図となり、黒く染まった視界に光が差し込む。覗き込む様にこちらに視線を送る彼女は幼馴染みの上条るいと言う少女だ。小学校入学前位までよく遊んでいたが、成長するに連れ壁が出来てしまった。そんな女の子がここにいるのは、壁が払われたからだろう。
同じ高校に進学し、ふとした事があってまた、昔の様に話すようになった。
「まだ寝させてほしいけど...時間も時間か」
時計を見ると朝飯を食べる時間はあるものの、ゆっくりする時間はあまりない。
「そうよ。朝食も出来てるから早く準備してね」
るいが部屋を出ると急ぎ目で着替え始めた。
髪が跳ねているがいくら直してもまた跳ねるので放置している。どこかの無能力者の劣化版みたいな感じだが、まあ、この一年学校に通ったが問題はなさそうだ。
「ふぅ...今日も一日頑張るぞい」
日課の台詞を棒読みで読むと、リビングの方に向かう。
「食べてれば良かったのに」
目の前の食事に手を出さずに待っていた幼馴染みがいた。
「一人で食べると...味気ないし......それに......」
「最後なんて言ったの?」
「な、何でもない!」
顔を赤くして否定してくる。何を必死になっているのか。まあ、一人で食べるのも悲しいからな。
「まあ、一人だと寂しいもんな」
「......はぁ」
ジト目で見てきたと思ったらため息を吐かれてしまった。訳が分からん。
「まあいいや...頂きます」
焼き鮭を主菜とし、ほうれん草のお浸し、きゅうりの浅漬けと言った副菜に油揚げとわかめの味噌汁。そして白米...。最近の食卓じゃ見当たらなくなった和食の朝食メニューだった。この幼馴染みは料理が出来るようで、良くお世話になっている。
「いつもすまないねぇ...」
「それは言わないお約束でしょ。それに食費はちゃんと
貰ってるし、私も食べるし...」
うちの両親は都内の会社に勤める社畜で、社内結婚したらしい。いつも朝早くに家を出て、帰ってくるのは遅い。自分で何とかしようと思っていたら親が幼馴染みのるいに「息子の面倒を見てくれ」と頼んだそうだ。
壁が払われた後だけど。
「あと髪の毛ボサボサよ。しっかりしなさい」
これはいつもの事だし、直しても直しても元通りになるから諦めてるんだよなぁ...。
「治ったら苦労しませんよ...」
「...それもそうね」
ある程度、事情は分かってくれているが彼女はあまり納得していなかった。妥協してくれてるから良しとしよう。
―――
「行ってきます」
誰かいる訳でもないが日課だ。挨拶は大事だと教わり続けた産物だ。家から学校までは歩いて十数分くらい。
いつもある程度余裕があるからゆっくり歩いている。
るいは弓道部の方に顔を出しに行った為、この場にいない。だからこうして一人で歩いている。
これもほぼ毎日の事だ。朝から誰かと話すより、こうして一人のんびりと歩くのが心地良い。
『朝の静けさ』と言う鉄道の発車メロディがあるが、それが合うような雰囲気だ。それを頭の中で再生していると学校が見えてきた。
私立聖櫻学園
森の中にあるこの学園は、男子よりも女子生徒の方が多く在籍していて、その女子の殆どが容姿などに恵まれている。この地域では楽園的な存在らしい。
個人的にはあまり興味がないのと、何故公立の高校に行かずにここを選んだんだと言う気持ちがある。
と言う俺は公立受験に失敗して、滑り止めで、受けていた近所のこの高校に入学した人間なのだが。やっぱり自分の身の丈にあった高校を受験するべきだった...。
特待生を受けられるほど頭も良くないし...。学費が想像より少ないことが救いだった...。
そんな俺だが、自由な校風が思ったより合っていた。
今では楽しいと感じる。公立落ちたことは引き摺るけど。倍率が二倍くらいあったから辞めとけと担任にも言われたのに関わらず受けたけど。担任曰く「あと五点取れてれば受かってた」と言われたけど。
「和倉君?早いわね。髪の毛はボサボサだけど」
「八束か、春休みぶりだな...あとこれはノーマルだ」
一年の頃のクラスメイトだ。八束由紀恵、最後に会ったのは彼女の誕生日の時、クラスメイトで委員長だった彼女の誕生日パーティーを行ったのだ。本人は驚いてはいたが、内心ものすごく喜んでいたらしい。
「えぇ。誕生日パーティー、ありがとうね」
「企画したのは俺じゃないよ。例を言うならば
企画した本人に言ってくれ」
「もう...そう言うのは素直に受け取るのよ」
「そうか?まあそう言う事にしとくよ」
「......またクラス、同じだといいわね」
「だな。知り合いが居るのは心強い」
「......そう言う事じゃ......」
最後何を言っているかは分からなかった。るいといい八束といい最後までハッキリと話して欲しい。
いつまでも校門前にいる訳にもいかない。そろそろ新クラス発表会場に行かないと。
今年もるいや八束と同じクラスになれるのだろうか。
仮にならなかったとしても、まあどうにか頑張るが。
会場には多くの生徒が集まっていた。所々知り合いや有名人が居る。同じクラスだったとか、違うクラスだったとか...彼らは一喜一憂している。ウェイウェイ盛り上がっているのは少し耳障りだ。落ち着きが無くなるのは分かるけど、もう少し視線を気にしたらいいのでは...。
「...二年C組か」
出席番号が最後なので席が窓側最後部と言うのが決定した。しかしあの席周辺はクラスの溜まり場になり、あまり静かに出来ないし、陽気で眠くなりあまり好きじゃないんだよなぁ...真ん中当たりがいい。
「また同じクラスね」ヨカッタ
「そうだな」
他にも見吉奈央や、ミス・モノクロームなどの有名人がいるが、るいの名は無かった。
「るいとは別クラスか...宿題見せてもらう相手が...」
「...和倉君はちゃんと宿題やってくるでしょ。
確認なら他の人に頼めばいいのよ」
確かに家にいてもやる事はあまり無いし勉強するけど、それが必ず合ってるかは分からないから不安だ。
「学年でも上位の学力なんだから」
「と言われても自信は無いからなぁ...」
成績表を見ても八以下はないが、それが自身に繋がるわけではない。ソースは中学時代。美術以外全て五で、学年20位くらいだったが志望校落ちた。
「ふむふむ。今年もお主がいるから宿題事情は安心だな」
「姫島...最初から人に頼むな」
姫島木乃子、よく人の家に上がり込んではゲームを夜遅くまでやるし、夕飯を要求するし、そのまま人のベッドの上で寝おちするし、起きたら朝飯を要求するとんでもない奴だ。
「とか言っときながらお主は見せてくれるではないか」
「うぐ」
こちらが甘やかし過ぎるからこうなってしまう。
厳しく躾ないといけないのだろうか。
「和倉君は姫島さんたちを甘やかし過ぎよ」
八束にも何度も注意されるが...こればかりは癖なのだ。
仕方がないのだ。見逃して欲しいのだ。
「所で東雲は?流石に今日くらいまともに来るだろう。
普段サボるけど」
「最近はサボってないだろう、全く...」
噂をすれば出てきた。東雲レイ、始めの頃は必要最低限だけ主席するとか言ってあまり学校に来ない奴だった。
今でも宿題はサボるしたまに学校をサボるが。頭のいい奴で強く言えない教師も多い。
「おはよう。今年も同じクラスだな」
「スルーするなよなー」
少し不機嫌気味になっていた。
「ボクは不機嫌になったからなー、機嫌治すには
何か奢ってくれないとなー」
つまり何か奢れと言うことか。
「ちょっと東雲さん...奢らせるのは流石に」
「分かったよ。学校終わったら連れていってやるから
高い所以外好きに選んでくれ...」
「本当だな?約束だからな!」
春休みはこれと言った旅行をしていない。強いて言うならば百四十円切符で同じ駅を通らずに旅したくらいだからな。
「財布に余裕があるからな、大丈夫だ」
財布の中には頼れる諭吉さんが四人いる。野口さんもいた気がするし大丈夫だろう。東雲はそんな大食らいでは無いしな。
「まぁ、取り敢えずクラス行くぞ」
「そうね」
「東雲ばかりずるいぞ!」
「お前はいつも何か奢らせてるだろ...」
困った友人に囲まれた俺の二年生ライフは、今から始まるようだ。
ストックは(自分の中で)多めにありますので、忘れない限り早めに投稿します(ストックのあるうちは)
この作品を読んでいただき、ゲームの方に興味を抱いた方がいれば、同志が増え嬉しい気持ちです(リズムゲームの方は未プレイですが...)
後書きまで読んで頂きありがとうございました。