今年のゴールデンウィークも濃いものだった。
バーベキューに行ったら変な釣り人に絡まれ対決することになるし、秋葉に行けば太陽にやられて迷惑かけるし、そして大事をとって休んだ翌日、気分の良さからサッカーの助っ人に出たりして勝利に導いたり何をしているのだろうか。今日くらいは家で休みたい。
「しかし、昨日から翠君人気者ね」
「あれは目立ちすぎた...バックトルネードにしとく
べきだった」
「そう言う問題ではないと思うわ」
るいの所は両親が夫婦水入らずで日帰り旅行に出掛けていて、今日は部活が休みなるいと家で過ごしている。
「そう言えば図書館で借りた本、読み終わったし返却
しようと思うんだ」
「そうなの?なら私も着いていくわ」
「分かった。なら着替えて来いよ」
取り敢えず玄関までるいを見送ると、俺は部屋で征服に着替えた。休日でも学校に行く時くらいは制服でいないといけない。流石に私服で通えるほど学校は緩くなかった。実際校則もあるが、教師陣も理事会陣もPTA陣も緩く、それでいて荒れない...なんてことは無いが、結局周りも巻き込み良い意味でバカ騒ぎしている。教頭先生は頭を抱えているが、本人も楽しんでいる。それでいいのか聖櫻学園とその周辺。
「着替えたし行きましょうか」
「そうだな」
最近はるいの方も朝練が始まり、一緒に通学する事が少なくなっていた。そんな中、休日に制服で学校に行くのは新鮮な気持ちだ。
「こうして歩くのも久しぶりだなぁ」
「そうね...」
俺らの通学は、あまり会話が弾まないが、そこに気まずさは無く、寧ろ心地よい感じがする。
遠くはない通学路を、時折会話を混ぜて歩く。るいの部活がない日はそんな感じで登校して、途中で人を呼び込む...そんな感じだ。しかし今日は休日、道中歩いている知り合いの姿も無く、俺達は学校に着いた。
「一年の最初以来かしら、二人きりで学校に来るの」
「あぁ。まだ色々な奴と出会って間もない頃だな」
喧嘩をした訳では無いが、思春期特有の気恥しさがるいは強く持っていたらしく、中学時代から関わる事が少なかった。俺が公立高校受験に失敗して、聖櫻に来たのも入学式に知ったと聞いた。その頃にはお互い大人に近付いていたから、気恥しさも気にしない事にしようとなった。別に俺は気恥しさを持っている訳では無いのだが。
ただ...。
「べ、別に毎日二人きりで居たいとか、そんなんじゃ
ないんだから、勘違いしないでよね!」
気恥しさは消えたけど、顔を赤くして怒る回数が小さい頃より増えた気がする。
―――
聖櫻学園の構内には他よりも大きめな図書館がある。もはや教室ではない。通学鞄に入れた二冊の本を取り出し、受付に行く。そこには聖櫻学園のミスコンで一位に躍り出た図書委員の村上文緒先輩が居た。本人は人見知り気味で謙虚な人間だ。入学した時から図書館には足を運んでいたのもあり、村上先輩とは知り合いもとい、読書中まである。
「村上先輩、本返しに来ました」
「あ、和倉君、こんにちは。昨日のサッカーの試合
お疲れ様です。かっこいいなって思いましたよ」
挨拶の後に人を褒めに来る村上先輩は流石だなと思う。
「いえいえ。俺はただ相手のトリックを暴いただけです」
「普通はそう言う事が出来ないと思うんですけど...。
それより、漢文の書物を借りて、一週間で
読めましたか?」
「一応は。オマージュの方も読んだことあったので
原作はどんなもんだろうと思っていました」
「そうだったんですか...はい、受け取りました。
今日は本を借りていくんですか?」
オススメの本がと村上先輩が取り出そうとするが、テストも近付いている事や、バイトもあり断る。
「そう言えばもうすぐテストでしたね。和倉君なら
大丈夫だと思うんですが...」
「油断しているといつ点数落とすか分かりませんから」
「そうですか...今回のテストも頑張って下さいね」
「先輩こそ、ここで落として痛い目みたら駄目ですよ」
口ではそう言うが、村上先輩は運動神経は無いが成績はとても良い。文系科目に関していえば順位は一桁だ。
文系科目程では無いが、理系科目も出来る。
テストと教え方がそれを語っていると望月先輩が言ってた。流石望月先輩。村上先輩をよく見ているなぁ。
―――
二階に上がるとるいが席に着き本を読んでいた。
その姿は様になっていると言うか、絵になる。
図書館の中なので写真を撮るわけにもいかないので、これは自分の心の中に残しておこう。
「るい、終わったよ」
「終わったのね。本は見なくて大丈夫?」
「今日は借りる予定無いからね。それよりどこかで
お昼でも食べてから帰る?」
「私はどっちでも良いけど、翠君がどうしてもって
言うなら外食でもいいわよ」
別に家で食べたいならそう言ってくれればいいのに。
「外食は嫌なのね。ならお互い家で食べるか」
「え?」
「え?」
お互いに何故と言う顔をしている。それはこっちの台詞なんだが。
「べ、別に外食が嫌な訳じゃなくて...えぇと...っもう!
行くわよ!」
え?急に顔赤くして怒って俺を引っ張ってくる。俺何か悪い事でもしたのか?
「なんか、気に障るようなこと言ったならごめん」
「別に怒ってないわよ!」
これ絶対怒ってると思うんだけど。
引っ張られている中、この後どうなるのだろうと思いながら、空を眺めるのであった。それは雲一つ無く、ただ青々としていて助けようとしなかった。空に助けを求めるって変人でしか無いよなぁ。
―――
近所のファミレスに入るとエアコンの効いた店内が出迎えてくれた。昼時にも関わらず店内は閑古鳥が鳴いている。大丈夫かこのお店。
席まで案内されると、注文をする前に少し雑談をする事にした。
「弓道部の方はどんな感じなんだ?」
「大会も近づいてきてるし、みんな力を入れているわ。
私も負けられなくてね。県大会とか勝ち進んで
先輩たちにいい所見せたいなって思ってるの」
るいは朝練にも積極的に参加し、部活がある日はサボらず参加する真面目な性格で努力家。勉強も怠らずにやるのだから流石である。
「大会近いのか...絶対とは言い切れないが、応援に
行こうと思う」
「ほ、本当?ちゃんと来ないと承知しないからね!」
絶対行けるとは言っていないのだが。
「まあ、何か頼むか」
メニューを取り出すと、他と違い色々な種類のメニューがあった。パスタもあれば麻婆豆腐もある。材料足りるのか?利益取れるのか?なんて思いながらレビューを見たら夜、酒も出す時間帯が最も盛り上がるらしい。ここはファミレスじゃないのか?居酒屋なのか?
「この店、たこ焼きもあるわね...」
るいは自身の好物を見つけて嬉しそうにしていた。全てのメニューにお時間かかりますと書いてある。まあ、これだけあれば作り置きも厳しいからなぁ...。
少し迷って麻婆豆腐丼と餃子にした。値段も安くていい感じだった。潰れない限り通おう。
るいはたこ焼きとお好み焼き。曰くこれがコンビ的に良さそうだったからとの事。
「そう言えば翠君、昨日のサッカー部の練習試合観て
思ったんだけど、あんな必殺技もあるんだし
サッカー部に入れば良かったんじゃない?」
確かに俺は技を持っているが、全国レベルに通じるとは思えないし、出過ぎると仲間外れって事もあるかもしれない。そんな環境ではやりたいとは思えない。まあ、あの部活はレベルがそこそこ高いし無さそうだけど。それに部活やると言うよりも、助っ人として動く方が性に合う。程よくやるのが良い気がする。
「器用貧乏だからな。色んな事をやってるのがいいんだ
よ。それにずっとサッカー部ってのも気が滅入る」
若倉には悪いけど。
「貧乏の基準が他とは違うと思うんだけど」
「?気の所為だろう」
別に俺は他より勉強できるだけの人間だと思うのだが。
「...これ以上言っても駄目そうね...」
るいはこれ以上言う事は無かった。何故?
ただこの店、メニューの豊富さより何よりも味が良かった。誰かに紹介する事が決定した瞬間だった。
可愛い幼馴染が欲しいと思った頃には声も変わっていました。現実というものは辛いとです。