そんな君に   作:秋の月

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後編です。


15話 聖櫻商店街物語 後編

二日目、朝に打ち合わせを終えると、昨日の様に見回りを兼ねてぶらぶらしていた。子供が集っている場所を見つけて、近付いて見ると...確かくちびるおばけと言うゆるキャラなのだろうか...それが子供と戯れていた。そしてそれを眺める高校生が...あれは鴫野か。

 

「どうしたんだ、混ざりたいのか?」

 

「わぁ!?わ、和倉先輩!?」

 

「驚き過ぎだぞ...それでどうしたんだ?」

 

「い、いえ!な、何でもないです!」

 

どこか羨ましそうに、子供を見ているが、まさかあのゆるキャラと混ざりたいのか?

 

「...あれと写真撮ってやろうか?」

 

「いいんでsじゃなくてべ、別に大丈夫ですよ!」

 

本音が漏れているぞ鴫野よ...。

 

「遠慮はいらないから、それに誰かに言いつけようとかしないから」

 

「...そ、それなら...仕方なくですが、お言葉に甘えさせて貰います...」

 

素直じゃ無いなぁ...普通に可愛い...と言っていいのかは分からないが、趣味を持ってるんだから...恥ずかしがる必要は無いと思う...。

 

「撮るぞー」

 

ちゃっかり抱き着いてるし...中の人が少し慌てている様に感じる。そりゃそうだ。中々の容姿を持っている鴫野に抱き着かれているんだ。と言う事は中の人はそう言うのに慣れてない男だろう。心做しか、少し離れた神楽坂先輩がドスの効いた睨みを決めている様に見えるが、まさか鴫野をネタに新聞でも書くのか?まあいいか。持っていたカメラで撮り終わると、鴫野に見せた。

 

「おぉ...デジカメやスマホのカメラと全然違う...」

 

驚く所はそっちか?まあ、口に出してないだけで嬉しそうにしているが。

 

「じゃあ、今度データ送るよ」

 

「ありがとうございます!」

 

二日目は騒がしさは残るものの、目立った騒動は見当たらないな...平和で良いが、これが壊れるとなると面倒だ。

 

「お兄ちゃんお疲れさま!これそこで配ってるジュース!」

 

「お、少年気が利くなぁ。ありがとうな」

 

「がんばってね!」

 

そこのお店の子か知らないけど、フルーツジュースの差し入れだった。今日も暑いしこう言うのは有難い。

 

「あ、先輩!ちょっと良いですか?」

 

「えっと、芙来田だったか。何かあったのか?」

 

「実は...おじいちゃんが張り切り過ぎちゃって...腰を...」

 

ぎっくり腰か...一度なった事あるけど、もうなった日は立てないんだよなぁ...。

 

「店の手伝いした方が良いか?」

 

「はい...牛乳の配達があって...私が店番をやる代わりに手伝って貰えませんか?」

 

「あぁ...力仕事は男の役目だしな...手伝うよ」

 

「本当ですか!?それじゃあ、そこの物をお願いします。重いので気を付けて下さい!」

 

まあ、牛乳瓶が空瓶じゃないからな。一気に持つ事は出来ないだろう...孫の前で調子こいて全部持とうとしたらやってしまったあれだろう...。ぎっくり腰は重いもの持ったり、普段の何気ない動作で起きるって聞くし。

 

「よっと...重いな...」

 

芙来田がいつもこれを持っていると考えると、強いなぁと思う。女は強しなのか...。違うな。

 

「...運ぶか」

 

遠くでカップルらしき二人組が、キャッキャと騒がしかった。

 

―――

 

「お疲れ様です。先輩は確かコーヒー牛乳がお好きでしたよね。良かったらどうぞ」

 

「ありがとう。しかし暑いと作業が辛いねぇ...」

 

暑い中、疲れが溜まったまま歩いていると、秋葉原に行った時みたいに立ちくらみを起こしてしまう。やはり休憩は重要だな...。

 

「いつもやってるんだろ、大変だな」

 

「いえいえ、もう慣れましたからー」

 

...それは強いなぁ、慣れは怖いねぇ...。

 

「あ、お祭り終わった後にここを貸し切り、温泉で疲れを取ろうと思うんですけど、先輩もいかがですか?」

 

「お、いいねぇ。俺も参加させてもらうよ」

 

「それじゃあ、お祭りが終わった後にこちらで!」

 

「ほいほい。それじゃあ見回り戻るわ。コーヒー牛乳ありがとな」

 

「お気を付けてー」

 

一応、昨日トラブルメーカーには脅しを効かせたから、大丈夫だと確信していたが、本当に問題は無かった。真島のおっちゃんと桐生の兄ちゃんが対峙していた時は驚いたが、祭り会場を廡下にするのは気が引けるとの事で、街の平和は保たれた。だから頭文字ヤの職業の人なのかカタギ?なのか知らないがぶっ飛ばしてしまえと言う視線はやめてくれ。この人達一般人相手に危害加える所か滅茶苦茶良い人だから。それよりも俺じゃ勝てないから。

 

「さっきの怖そうな人、何だったんですか」

 

「...きっと別次元の人だろう」

 

「は、はあ...それじゃあ閉会式行ってきます」

 

「おう」

 

一悶着はあったが、祭りは無事に終わりそうだ。閉会式に足を運ばず、一足先に帰路に戻る人混みに逆らい、歩く。

 

「あ、和倉君...こんにちは」

 

「村上先輩?どうしたんですか」

 

「いえ、見かけたものでして...」

 

精肉店の前に設置してある仮設テントの下でエプロンを着ていた村上先輩と...お姉さん?

 

「あら?貴方が文緒の言っている和倉君?」

 

「村上先輩が本当に話しているなら多分私ですが...」

 

「あら、やっぱり!私は文緒の母の文乃です」

 

お母様でしたか...少々若く見られますが...でも雰囲気が姉って感じじゃない。大人の余裕と言うのだろうか、この人はそれを持ち、恐らくだが会話の苦手な村上先輩を揶揄うだろう。

 

「どうも、ご存知かと思われますが村上先輩の後輩の和倉翠です」

 

「翠君って言うのねー。で、文緒との関係は?」

 

「ちょっとお母さん!?」

 

「いえ、校内の図書館で知り合った先輩後輩ですよ」

 

友達とは違うし、同士って言うのもおかしいし...。

 

「文緒ってばいつも貴方の事話しているのよ、この間なんか「お、お母さん!だ、ダメ!」あらあら、慌てちゃって」

 

村上先輩の口から後輩である俺の事が出るなんて、後輩冥利だなぁ...。

 

「そうでしたか。所で今何か売ってるんですか?」

 

「ええ、牛丼を売っているのよ」

 

牛丼か...そう言えばまだ昼飯食ってなかったなぁ...。

 

「それじゃあお一つ貰えます?」

 

「大丈夫よー、それじゃあ文緒、よそって上げて」

 

「うん」

 

しかし村上先輩はエプロン似合いますねぇ...男が着けると違和感しか無いから俺はあまり人前で着けたくないのだが。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

牛丼はシンプルに美味かった。流石精肉店のお肉だ。下手なお店のものよりも断然こっちの方が良い。

 

「そろそろ閉会の時間なので、食べたら戻りますね」

 

「もうそんな時間なのね...二日間が早く感じたわ」

 

「この二日間は大変でしたけど、とても楽しく感じました」

 

「それなら良かったです...それじゃあ」

 

「食べるの早いわね、流石男の子って所かしら」

 

「まあ、この位の量ですしね...ご馳走です。村上先輩方それでは失礼します...」

 

閉会式までは五分位だろうか、カメラの電池も一応はあるし、撮れるかな...。

 

「あ、いいカメラあるじゃない、私達も撮ってくれない?」

 

「お、お母さん!」

 

「大丈夫ですよ。写真は後日村上先輩に渡します...はい、チーズ」

 

村上家は家族間の仲がよろしい様だ。慌てていた村上先輩も、写真の中では少し微笑んでいた。楽しめていたなら何よりだ。俺はそのまま会場に向かう。すれ違う人混みの中からは「楽しかった」とか「また来たい」とか聞こえて来るし、このイベントは成功だったのだろう。最後にゴタゴタも無く、葉月の表情も達成感と、高揚感が見えてくる。まあ、あれだ...。手伝って良かった。葉月の視線がこちらに向いた気がしたので、俺は逃すものかとカメラを構え、シャッターを切った。

 

余談だが芙来田の所の銭湯で一悶着あったのは別の話




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