日曜日
幼馴染みでもあるるいに「折角だから出かけよう」との事で、お互いに弁当を作り外で食べようとなった。所詮ピクニックだ。るいは定番の唐揚げや卵焼きなどのおかずとおにぎりを作るらしいので、こちらはBLTサンドとアップルパイやマカロンと言った洋菓子、紅茶を持っていく事にした。
「それじゃあ行きましょ」
家を出て小田急線の駅に向かう。近場でも良いかなと思ったけど、折角だからと言う事で足を伸ばし多摩川方面に向かう事となった。俺が定期内と言う理由で選んだわけでは無く、小さい頃から上条家と和倉家のピクニックは稲田多摩川公園だからだ。思えば昔はうちの両親も俺に構っていたなと思うが、今では仕事一筋の立派な社畜として向こうで元気にやっている事だろう。
「そう言えば、翠君って中学の頃の友達と遊んだりするの?」
「唐突だな。偶に遊ぶよ...一人は口を開けば『我孫子!カラアゲ!』だけどな」
「あびこ...?からあげ...?」
「有名な駅そばでね。唐揚げそはなるものかあるんだ。その唐揚げが大きくてね」
一度食べに行ったことがあるけど、あれは中々中毒性がある。麺自体はどこにでも売っているような安いものだが、唐揚げは独自のものだ。
「我孫子って偶に見かける駅名よね」
「一応線路一本で繋がってるし、向こうまで行くのもあるからね」
「でも千葉県だっけ」
「そう、だから遠いんだ」
小田急線から千代田線を乗り通して、常磐線だ。しかも各駅、全て止まるから時間がかかりすぎる。何処かで絶対に乗り換えなくては辛い。しかし、普段から長い間電車に乗り、休日も電車を乗り倒してよく飽きないよなと心から思う。その趣味を否定する気はない。寧ろ肯定する。ただ程々に楽しむのが一番だと俺は思う。財布に優しく、身体に優しく。
「降りる駅って登戸だっけ」
「まあね。川を渡った向こう側じゃないし、快速急行が止まるしね」
追加するなら俺の定期範囲...まあ、公園は登戸側だから、無駄足にならずに住むのだがな。
―――
空を見上げると、澄んだ青空だ。陽も出ている。今日は雨の気配も無い、快晴との事だ。付近のサッカーグランドからは子供たちが一生懸命ボールを追いかけている。
「キラースライド!!」
「ジャッジスルー!!」
『デスゾーン!!!』
「バーニングキャッチ!!う、うわぁぁぁ!!」
...一生懸命、本当に命懸けで。しかし最近の小学生はデスゾーンも使えるのか...いやはや、凄いものだ。
「最近の小学生は凄いのねー」
「...あそこだけ超次元だよな」
持ってきたレジャーシートに腰掛け、川の方を眺める。そこには川に入り釣り糸を垂らしているおじさんたちが何人か見受けられるが、他に人影は無く、超次元フィールドを除くと比較的静かな雰囲気が流れている。五月も半ば、いや下旬頃だろうか...暖かさが丁度良いが、少し陽射しも強く感じる...絶好の行楽日和なのだが、これは東雲や姫島にはキツイものがあるだろう。
「少しのんびりするか?軽く遊ぶか?」
「そうね...偶には童心に返って遊ぶ?」
「そうだな...今もってきてるもので...バトミントンなんかどうだ?」
「いいわね、これでも運動部だから、絶対に負けないわ!」
彼女は昔から負けず嫌いだ。昔から俺が勝つとすぐに勝負を仕掛ける。だから次はこっちが負ける。きっと小さい頃から思っている何かがあるのだろう。
「ほら!」
ネットもラインも無い、本当に羽を繋げるためだけの遊戯、五回落としたら負け...それだけのゲーム。小さい頃はるいがよく落としていたが、久し振りにやった今は、るいも技術が上がったのか中々落とさなくて、粘ってくる。
ラケットが羽を打ち返す、その音だけが流れる。サッカーの方は休憩に入ったのだろうか。その場には緊張感なんてない、ただ穏やかで、もっと羽を繋げよう...それだけの気持ちが流れる。なんで分かるかだって?
間があるからと言って、こっちが何年彼女の幼馴染みをやっていると思っているんだ。
「中々続くなー」
「そうねー、そろそろ辛くなってるでしょー」
「いんやー、全然」
ラリーは続く。八十を超えた頃から数えるのを辞めたけど、終わる気配も無い...。お互い「辛くなってるだろ?」とか「そろそろミスるんじゃない?」とか煽ったりはするが、決してキツイ場所に打たないという暗黙のルールがある。これは楽しむ為の勝負なので、強調しているけど遊びなのだ。
「終わらないわねー」
「止めるか?」
「それもそうね...」
「じゃあこれで終わり!」
とラケットを下ろした所に打ち込む。
「あー!!卑怯よ!!」
「勝てばよかろうなのだ...まあ、ズルだからナシだけどな。飯にしようぜ」
時計は十二の針を差していて、腹の虫は飯を求めている。るいは不満そうな顔をしているが、時間も時間という事で納得した顔になった。
荷物を置いている場所まで戻ると、持ってきたお手拭きで手を拭き、弁当の蓋を開ける。
「相変わらず翠君の作るお菓子は美味しそうね〜」
「そう言うるいの唐揚げと卵焼きは美味くて何個でも食えるよ」
偶にるいが弁当を作るのだが、唐揚げと卵焼きは必ず入れてくれる。自信の表れなのか、俺の好物が分かってるからなのかは、聞かなくても分かる事だ。
「お米とパンってアンバランスだよねぇ...」
「分かってはいたんだが、こっちも米なのはちょっとな...」
相手のも食べるのがこのピクニックだから、例えアンバランスだろうが食べるのだ。決して味が悪い訳じゃない。と言うかどうやったらBLTサンドやおにぎりが不味く作れるのだろうか。なんて考えてるいの作ったおにぎりを食うと、強い刺激が口の中を襲った。
「ブハッ!?辛っ!?塩っぱっ!?ゲホッ!?ゲフォ!?」
「あ、一つだけ中にハバネロと多量の塩を混ぜた奴があるんだ」
「先に言え馬鹿!!」
訂正、おにぎりは不味く作れる。これは不味いと言うより、出来栄えが悪い方の拙いだな...こんなもん食わすなよ。死ぬぞ。
「の、飲み物...あかん、口ん中がヒリヒリするのと、首筋がゾクゾクする...」
お茶でおにぎりを流すと、るいを睨む。
「ごめんごめん」
反省せず笑っているるいを見ると何言っても聞かねぇなと思い、その場に寝そべる。
「しっかし本当天気が良いよなぁ...」
「食べてすぐ寝っ転がるのは行儀が悪いわよ」
「んなもん関係ないわ...今ので疲れた...」
「うふふ、ごめんね」
肝が据わってやがる...まあ、るいが何時か振りに茶目っ気を見せたのだから、そこを叱るのも気が引ける。そもそもそんな怒ってないし。まあ、るいは分かっててそれを食べなかったと思うけど、それを引いてしまった俺の運の悪さもあるからな。
「機嫌直してよ、はい、卵焼き」
卵焼きを箸で掴み、俺の口に持っていく。所詮あーんと言う奴...らしい。ライトノベルからの情報だが。バーベキュー行った時にもやられたが、恥ずかしさもあり中々出来ない事らしい。楽で良いから恥ずかしくは無いと思うのだが、そこは気持ちの問題なのだろう。
「あー......美味しいぞ」
「反応薄いわね...」
「味が変わったらそれはそれで駄目だろうが...」
「...まあ、翠君に分かれというのが酷な話よね...」
表情に曇りが見えた。馬鹿にしているのだろうか?まあ事実分からないのだがな。
「...まだ食べる?」
「くれるなら」
口を開けて待っていると唐揚げにおにぎり...と入れられる。BLTサンドは気付いたら無くなっていた。新鮮なもの選んだから美味しい事に確信はあったけど、まさか無意識で無くなるとは...。
「んん〜!翠君の作るアップルパイは美味しいわ!」
「...食べ過ぎると太るぞ」
「甘いものは別腹だし、ちゃんと運動しているから大丈夫よ」
痩せ過ぎも如何なものだと思うが、だらしないのもな...。まあ、るいもそこら辺は分かっているか...。
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