そんな君に   作:秋の月

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筆が…


修学旅行編
22話 修学旅行編〜初日〜


梅雨時期の日の出頃。見るに重そうな荷物を肩にかけるいの家の前に寄りかかっていた。今日は修学旅行初日。三泊四日の長旅の始まりだ。

 

しかし梅雨時期なのにも関わらずなんだか雨が少ない気が…。

 

「ごめん、待たせたかしら?」

 

「このくらい苦じゃ無いよ。そんじゃあ迎えに行くか…東雲と姫島を」

 

二人とも昨日のうちに用意させたから後は服を着させて連れ出せば大丈夫…。姫島の家も東雲の家も近いから大丈夫だろう。

 

そんな時に手持ちの携帯が震えた。電話だった。

 

「もしもし」

 

『あーもしもし、東雲だけど』

 

「東雲か?起きてるなんて珍しい」

 

『…偶然起きただけだよ。そ、そんな事より僕もう準備出来て姫島の家行ってる最中だからそこで合流しような』

 

「既に準備を終えてる…?まあ、分かった。そっちで合流な」

 

『了解』

 

電子音と共に電話が鳴り終わると、もうそろそろ姫島の家に着く頃だった。

 

「もし姫島が寝てたら叩き起してやってくれ」

 

「分かったわ」

 

万が一まだ寝ていたとしても余裕を持てる様に家を出て来たから大丈夫だし、楽しみにしてたのか彼女らにとって早い時間に設定したのにも関わらず片方は既に家を出ていた。姫島もそうなら良いけどな。

 

「着いたか」

 

呼び鈴を鳴らすと中からドタバタした音が聞こえてきた。もう起きてる?それとも今飛び起きた?

 

「…おはよう」

 

驚いた。既に制服に着替え終わって、しかも荷物も既に準備済みだった。

 

「…ん?どうしたんだ?」

 

「いや、寝坊するかまだ準備してるかのどっちかと思って来たから…意外だなと」

 

「失敬だな君、あたしだってやる時はやるんだよ」

 

「でもこの子ったら珍しく修学旅行楽しm「ママん!?これ以上言うな!」あらあら、うふふ」

 

…まるで正反対な親子だ…。

 

「翠君、東雲さん来たわよ」

 

「おはよう翠…おっ、姫島もう準備終わってんのか」

 

「なんだなんなんだ皆の反応は!そんなに珍しい事かー!」

 

そりゃあねぇ…。

 

「皆さん木乃子の事、よろしくお願いします。特に和倉君」

 

「え、俺ですか」

 

「よ、よ余計な事言うなってば〜」

 

姫島があわてふためき、何だか珍しい感じがするな…。

 

「はぁ…ちゃんと面倒見ておきますよ」

 

「き、君も何言うんだよ!」

 

…何故慌てるんだ?

 

「出たよこれ…なぁ上条さん」

 

「本当に治らないかしら…ねぇ東雲さん」

 

後ろからぶつくさ聞こえるが気にしないようにするか。

 

「じゃあ行くか」

 

「…そうね」

 

四人で歩いているとさながら某RPGみたいに感じるなぁ…。

 

遠い空の暗さが取り除かれ、梅雨の時期に似合わない澄んだ青空と日に照らされた空のグラデーションが広がっていた。

 

「こんな時間まで起きてるのは良くあるけど…たまにはこうして歩くのも…良いかもな」

 

「殊勝な心掛けじゃないか東雲。まあ、無理はいけないがな」

 

そろそろ寝静まった住宅街が起き始める頃。何時もと違う静けさだけど、冷たくて気持ちい空気で癒される。

 

「…うぅ、眠い」

 

「徹夜でもしたのか?」

 

「まあ、な…。ゲームが離してくれなかったのさ」

 

姫島は平常運転らしい。

 

「コンビニ寄ってエナドリでも買うか?」

 

「そうする〜…おぶって〜」

 

…流石に甘やかすのはなぁ…。

 

「自力で歩け。学校まではそこまで離れてないから頑張れ」

 

「ケチー」

 

かくいう俺も何時もより寝てなくて若干寝不足だが。

 

―――

 

「カフェイン無いとキツいのう…」

 

「体に障るぞ」

 

カフェインはトイレが近くなるだけでなく、耐性が無いと動悸がおかしくなってしまう。だから本当に眠いとか、夜中まで気合いいれるぞって時以外の飲用はあんまりオススメしない。珈琲がちょうど良い。苦味で目覚めるし。

 

「なんか早く着いちまったなぁ…朝食べてないんだけど、なにかあるか?」

 

「そう言うと思って紙容器にサンドウィッチ詰めてきた。容器は学校のくず箱にでも捨てれるからな」

 

荷物が多いと…環境には悪い事をしているが、そうせざるを得ない。恨むのは環境に無頓着な彼女にしておけ。

 

「おぉ…用意周到だな…」

 

「だから弁当作る時より早く起きれば間に合う所をもっと早く起きてたのね」

 

なんでもっと早く起きてた事を知っているのか。…まあ、いいか。

 

「おぉ、この安定した美味さ」

 

「お褒めに預かり光栄です」

 

思いの外問題児方の行動が早く、ゆっくり飯食う時間があった。叩き起して準備させる時間を二人分作ったのだが…要らなかったか?

 

「姫島さんと東雲さんが早く来てるなんて…修学旅行雨かしら…」

 

八束と霧生が仲良く驚きながら集合場所に来ると、気が障ったのか名指しされた二人は顔を顰めていた。そりゃ単位ギリギリ生活送ってたらそうなるわ…。

 

「…和倉君の朝食…」

 

「…悪いがもう無いぞ。また今度な」

 

日が昇った空に、『雨』と言う文字は無かった。

 

ちなみに目的の京都は明け方まで雨らしい。

 

「皆さんおはようございます。集合時間までまだあるのに皆さん早いですね」

 

「よーこちゃんおはよー」

 

「月白先生おはようございます」

 

「皆さん修学旅行楽しみだったんですね。私たち教師陣も皆さんが楽しんで学べるよう、全力でフォローしますね」

 

先生少し硬い…。自分たちも楽しむ勢いでやらないと。

 

「先生も楽しまないと、折角なんですから」

 

「…それもそうね。みんな楽しむわよ!」

 

確かにここの問題児をしっかりと見守らないといけないのも分かるんだ。でもそれだけじゃ折角の修学旅行も楽しめないだろう。察しの良い根は真面目な子が多いからなここ。東雲も姫島も誰かが悲しんでると結構あたふたするし。普段から「面倒くさい」とか言ってるのにな。

 

「…あたしゃ眠いから寝るぞ…」

 

大分限界が来たのか人の膝を枕替わりにしやがったぞ姫島め…。

 

 

続々と生徒が集まり、その際こちらを見て睨み付ける様な視線が来たが、スルーをした。姫島は小さく寝息を吐いているが、もうそろそろ先生が前に出てきて話す時なので起きて欲しい。ぐっすり寝るなよ…無警戒な奴だ。東雲もうとうとして寄りかかるな、るいは何故悔しそうにするんだ。

 

「ほら起きろ二人とも。そろそろ全体会だぞ」

 

「…ぐー」

 

「えー…来たんだから良いだろ〜…」

 

良くない、ちっとも良くない。

 

「旅先まで叱られたく無いだろ?はいシャキッとするの」

 

「うぅ〜…分かったよ」

 

「…仕方無し、起きるかのぉ…」

 

「相変わらずモテモテだなぁ。翠くんは」

 

「明音、そんなんじゃ無いよ。単に良いように使われてるだけだ」

 

まるで猫だこいつら。猫と戯れる…にゃー。

 

「明音…?翠くん…名前呼び…?」

 

名前呼びが悪かったのだろうか、そこからるいはぶつぶつと自分の世界に入り込んで行った。おーい、帰って来い。

 

「…はっ!?ねぇ翠君」

 

「ん?どうした?」

 

「いつの間に櫻井さんと仲が良くなったの?」

 

「あぁ、るいが部活に行ってる時の長期休み中に、バーベキューに行ってたんだ。その時にな」

 

「……ブツブツ…厄介ね…」

 

「なにが厄介なんだ?」

 

「な、なんでもないわ!」

 

…るいの事は、偶に訳が分からなくなる。本当に何だったのだろうか…俺の存在?ついに不満がバルカン半島?

 

―――

 

修学旅行、学生生活の中で一位二位を争う程思い出に残るイベント。ただ歴史や見聞を深めに行くだけがこのイベントではない。青春を謳歌する誰かの願望や思慮や陰謀が交わる…そんなイベントだ。その事に彼は気付いていない。そんな朴念仁な彼と、その周囲による争奪戦がここに起ころうと…

 

「へぇー、翠くんって昔から変わってないんだ!」

 

「いじめっ子に絡まれた時に真っ先に駆けつけてくれたのは先生じゃなくて翠君だったのよ」

 

「風邪引いて参っちゃった時も、和倉君が看病しに来てくれて嬉しかったな…」

 

「まるでヒーローキャラだな、翠は。不登校のボクを外に連れ出したりしてな」

 

「まるで物語の主人公よの〜。鈍感なのも含めて」

 

「そうだわ!みんなとの親交を深めるのも含めて一緒に回らない?」

 

「あっ、良いねぇ〜!賛成!」

 

「私も行くわ」

 

「まあ、良いんじゃねぇ?」

 

「あたしもついて行こう」

 

…争奪戦は起きないだろう。多分。

 

 

 




修学旅行編、またまだ続きます。

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