5話目、どうぞ。
土曜日の午後
午前のみの授業も終え、昼食を食べ終えた俺は駅前にあるカフェでバイトをしていた。高一の二学期頃から始めて火・水・土曜日にシフトを入れた。面接と軽い筆記試験という名のアンケートを受け、受かった。
駅前と言う好立地の為か周辺の学校の生徒や、地元の企業の社員さん、地元の主婦などが足を運ぶ為、土曜日のお昼時から店内は賑わう。
そんな喫茶店のホールで働いていると、色々と客に絡まれてしまう。
「和倉さん!ここ教えてくれませんか?答えが合わないんですけど」
「どれどれ...これあれですよ、ここが逆になってます」
「え!?そんな理由だったんですか!?」
ケアレスミスがテストの点に響いてしまう...なんてよくある話だ。実際入試でもケアレスミスをしてしまった。
「幻想さん!こ↑こ↓教えて下さい!
オナシャスセンセンシャル!」
「しょうがねぇなぁ...って電気は専門外です」
「ンアーッ!!」
主に学生から「勉強教えてください!」と言われる。珠に電気や簿記とか聞かれるが俺は知らない。
「こう言うのもExcelがあればパパッと出来ちゃうんですよ!」
どこか気味の悪いイキリ顔をしながら指を鳴らす動作をしていた騒がしいお客もいる。もう少し静かにしてもらいたい。後指パッチン出来てない。
他にもMOCPCを持ってきてブラックコーヒー片手にエリート気取っているお客様がいるが、大体はネットサーフィンか十八禁サイトを閲覧している。偶偶視界に入れてしまったバイト仲間が顔を真っ赤にしていた。まあ、気恥しいからな。
「和倉君はOfficeで一番使ってるのってなに?」
「Wordです」
前年の生徒会から、役員じゃないのに扱き使われたからなぁ...資料制作とか慣れてしまって、やらされた文化祭実行委員でも広報と雑務の仕事をやっていた。いくら早く終わるからって仕事を押し付けるのはやめて欲しい。
「和倉はプログラミングやらないの?」
「パソコンの処理能力が弱いので厳しいです」
東雲の家でプログラミングとかハッキングを見させてもらったが、覚えるのに苦労しそうだ。やる気的な意味で。飽きがきそう。
「トーストとアメリカンコーヒー下さい」
「かしこまりました」
注文を受けながら客の要望に答えるのは俺だけじゃない。
「お姉さん!あれ!萌え萌えってあれ!やって下さい」
「ちょっ!?おま自重しろよ!?」
「分かりました!萌え萌えキュン!」
「「グハッ!!」」
「お、お客様!?」
ここでは客の要望に可能な限り答えるため、通常の仕事プラスアルファが必要になってくる。別に無くてもいいのだが、そのプラスアルファが給与に上乗せされるのだ。お陰で財布の中は潤っている。
「和倉君上がっていいよ」
「はーい」
まあ、生活費は送られてくるし、小遣いも含まれてるけど使う機会がないってのも理由だけど。
―――
駅前と言ったが正確には自宅、学校の最寄りから五駅先の登戸と呼ばれる所で働いている。快速急行に乗ったら一駅、六分もあれば着いてしまう。交通費も支給されるので遊びに行くのにも使わせてもらってる。(職場がそれを許してくれている)主に川崎や立川まで出るのに。
時計の針は二週目の七を指している。
家に帰って何か作ろうかと思っているとブレザーの内ポケットが揺れた。どうやら誰かが呼んでいるらしい。メールかと思ったが長さ的に電話だ。
「はい和倉です」
『和倉くんこんばんわ』
「風町か、夜分にどうした?」
風町陽歌、クラスは違うが中庭で鼻歌交じりにリズムに乗っていたのを見ていたら捕まった。今では彼女のやっている作曲の手伝いをしている。
『今から暇かな?』
「あぁ、バイトが終わったからな」
『本当?実は一緒にご飯食べに行きたいなぁって』
「そうだったのか。家に帰って飯にしようと
思ってたからな、都合が良い。どこに行けばいい?」
『えっと...新百合ヶ丘駅の改札の所で』
「分かった。今から行く」
電話を切ると駅まで歩く。小田急線と南武線の客で駅は混雑していた。時間帯的に快急はラッシュ程ではないが混んでいるだろう。疲れている訳では無いが、数分だけでも座っていたい。ジジ臭い?知らない。
改札を抜けると電車が到着したのか人が波のように流れていて、押し流れそうになった。どっかの路線が事故でも起こしたのだろうかと、人混みを抜けた後に見ると並走する路線が人身事故を起こしていた。だからか、異様に人が多いのは。
ホームに抜けるとスーツを来た男性からおしゃれに決めている若者などで溢れていた。制服姿をしているのは俺と運動部に入ってそうな生徒くらいだ。土曜日だから別の時間に人は散ると考えるべきか、土曜日だから人が集まると考えるべきか...。
『間もなく遅れてました快速急行到着します』
遅れていると言われて腕時計と電車の発車時刻を見比べると十分遅れていた。それくらいどうしたと言いたいが、その遅れでホームに人が溢れてしまうと考えるといかに鉄道が重要で遅れてはならないものだと考えさせられる。だからよ...止まるんじゃねぇぞ。
―――
新百合ヶ丘の駅に着いた。さっきの快速急行は混みすぎて乗れなかった。改札を出ると風町の姿を見つけた。
相手もこっちの事を見つけると笑顔で手を振ってくる。
あれはそうだな...。世の男を勘違いさせる行動だな。
そんな風町を見た周りの男からの嫉妬の視線が強い。
『あ、あんな可愛い子と夜に出会うなんて...』
『あの子真面目そうに見えて...』
『普通に食事行くだけじゃない?』
『あの顔どこかで見たことあると思ったら登戸の
喫茶店で働いてる人だ』
『じゃあ大丈夫だね』
嫉妬の視線がなにか微笑ましいものを見る視線に変わった。え?何があったの?服装おかしい?
「悪い、電車が遅れた」
「ううん。こっちこそごめんね?突然誘ったりして」
「いや、気にするな。連絡も無しに人の家に上がり込む
輩も居るからな」
「あ、あはは...」
誰とは言わんが連絡くらい入れて欲しいものだ。
「そう言えば軽音部の方は最近どうなんだ?」
バンドを結成すると彼女は言っていた。それがどうなっているかは聞いていない。
「後輩の子達も入れて結成したんだよ!
にゅーろん★くりぃむそふとって言うんだけど」
頭悪そうとか思ったのはここだけの話。
「おぉ、良かったじゃないか」
「先輩後輩の壁を無しにして仲良く頑張ろうって
グループなんだ。曲が出来たら和倉くんをライブに
招待するからね」
「曲が出来るのはいいが演奏出来るようにしないとな」
曲が出来たらライブじゃなくてまず練習だろうよ。
それを忘れていたのか「そうだった」と言う顔をしていた。ライブに招待して貰えるのは嬉しいけどね。
「じゃあ、それまで楽しみに待っててね!」
気の早い奴だ。でもまあ、楽しそうに話しているのを見てると、なんだか面白いものが見れそうだ。相当自身があるのだろうか、あるいは能天気なのか...。
「ところで何処に行くんだ?」
食事に行くとは言っていたが、何処とは聞いてない。
「そこら辺のファミレスでゆっくり話そうって思ったの」
道中でゆっくりと話していたけどな。
「まあ、遅くならないようにな」
少し歩くと店の看板が見えた。風町はそれに指を指して「ここだよ」と教えてくれた。
...今夜はミラノ風ドリアか...。
サイゼ、安くて美味しいので贔屓にしています。