6話目、ゴールデンウィーク編です。
6話 ゴールデンウィークの川遊び 前編
世間はゴールデンウィークに突入した。バイトのシフトもゴールデンウィーク仕様になっていたが、店長のご好意で五月三日から連休に入る。ホワイトバイトで良かったと強く思うが...。
「暑い...」
何故河原でテントを張っているのか。
何故河原でバーベキューの準備をしているのか。
そしてそんな中何故彼女たちは川辺で涼んでいるのか。
何故男は俺一人なのか。
―――
それは遡る事一昨日の出来事だった。
バイトまでの時間があった俺は教室で少し涼んでいた。
まだ五月の頭だと言うのに外の気温は25度を超えていた。地球温暖化の影響が表れているおかげだ。本当に大迷惑過ぎて溜め息しか出ない。
そんな少し気分が暗い時に彼女たちは来た。
「和倉君って五月三日空いてる?」
櫻井からお誘いが着たことが事の発端だろう。
その時にクラスの男子から嫉妬の視線があったのは蛇足だろう。
「空いてるけど...どうした?荷物持ちか?」
「...まあ、ある意味そうなるけど、椎名さんとかと
バーベキューに行こうって話になって、良かったら
一緒に行かない?」
「バーベキューか...いいな。俺もお邪魔させてもらうよ」
「本当?じゃあ新百合ヶ丘の駅に朝の七時半に集合ね」
「持ち物とかは?」
「設備は向こうにあるけど、まあ追々メールするよ」
「了解」
―――
張り終えたテントの中で一緒に来たメンバー、櫻井や椎名、相楽、佐伯を眺めている。午前中、まだ涼しい時間にと九時あたりに着くようにと電車に乗ったのだが、着いた頃にはコンクリートの道路から熱を放出していた。
自然に調理されているのかと思ってしまった。
「和倉君もこっちおいでよー!涼しいよー!」
そちらの方に行きたいが、生憎とこちらは着替えを持ってきていないため水辺ではしゃぐ事が出来ない。まあ、この暑さなら服も乾きそうだが、もしもの為だ。
まあ、木陰にテントを張ったから、日向の方よりは涼しい。しかし、普通着のまま川で遊んでいると何がとは言わないが透けて見える。下は水着っぽいが。まあ、普通はそうだよな。でも並の男性はそれが良いとでも言うのか、遠くから見ていてお互いに親指を立てていた。奥さんとお子さんが見ていますよ?そこのお父さん。
「和倉君、着替え持ってきてないの?」
相楽が戻りそう聞いてきたので、俺は肯定の意を示した。すると隣に「ちょっと休憩」と言いながら座ってきた。髪や服に水滴が乗っている姿は少し官能的な気分になってしまう。煩悩退散。持ってきていたタオル、本来は汗ふき様だったが、濡れたままでいると風邪を引くかもしれない。水遊びを想定して水着を着ているくらいならタオルくらい持ってきていると思うが、一応だ。
「ありがとう」と礼をこっちに送りながら、髪から軽く拭いていた。バーベキューまで暇だ。しかしこんな時に一人だけスマートフォンを弄るというのもどこか寂しいし、折角来たのに勿体ない。何もしない事自体がもはや勿体ないのではと思ったのはここだけの話。
「ねぇ、退屈そうだけど...もしかして、楽しくなかった
かなぁ...」
心配そうにこちらを伺う。まだメインのバーベキューもしていないのに気が早い奴だ。
「気にすんな。お前らが遊んでいるのを見ていると
目の保養にもなるし、着替えを持ってこなかった
俺が悪い」
「で、でも...」
「本当に気にしてないぞ?それに別に着替えが無くても
水遊びくらい軽く出来る。ただ少し疲れて黄昏ていた
だけだ。相楽が気にするような事じゃない」
まだ申し訳無さそうな感じだ。まあ、彼女やりの思いやりなのだろう...。
「...バーベキュー、楽しみだな」
「...!う、うん!」
本当の事を言うとそこまでは疲れていない。ただ今日の暑さに気力がごっそり持っていかれただけだ。
それでもバーベキューは楽しみだ。むしろそれが今日一番の楽しみだったりもする。
「あ、ただ釣竿あるから先に釣りしに行くが」
折角渓谷の清流に来ているのだから、川釣りとかも楽しまなければ。事前にお金は払った。釣り放題で、お店にお金と一緒に持っていけば塩焼きにしてくれるらしい。
釣具と餌を持ち、まだ遊んでいる椎名たちに釣りに行く旨を言うと「私達も着いていく!」と声が帰ってきた。
釣竿二本しかないんだけども。と言うかテントは?貴重品とかは持っていくけど。
―――
テントはそのまま置いて、一時間くらい暇潰し程度に釣りに来た。友達連れて。棒付きキャンディーを加えながら釣りをしている姿はさながら煙草を吸って釣糸垂らしているおっさんに見えるのかもしれない。知らんが。
五分くらい釣糸を垂らしているがまあ、勿論引きに来ない。綺麗な川なので山女魚を狙いたいがここまで降りては来ないのだろうか。虹鱒が釣れたらいいとしよう。
更に釣糸を垂らしている。周りも集中しているが、今風の君らはこれでいいのか?そんな事を思った時に竿が引っ張られた。これはかかったぞ。
それに気づいた彼女らも「頑張って」と声援を送るが、海釣りと違い引き上げるのに時間はかからない...。
竿を引っ張り上げると、水面から姿を表した。これは...
「...岩魚だ」
もっと上流の方にいるものだと思ったが、釣れた。
一応ここら辺にもいるのか。
「やりましたね!」
椎名が自分の事の様に喜んでいる。
「へぇー...初心者にしてはやるようだな」
キャップを被った見た目三十代の男性が上から目線でこちらを見下してくる。それをみて櫻井たちはどこか不愉快そうな顔をしている。それを見て男性は顔を顰めたが
「まあ、俺の方がでけぇの釣れるからな、嬢ちゃんたち
見てな!」と自分が強いアピールをしてくる。本当に
「下らねぇ」
出鼻をくじかれたのか、顔が引き攣っているようだ。
「あぁ?俺のやり方にケチでも付ける気か?」
「違う違う。大きいのとか、小さいのとかそんな
枠組みに囚われてるのが下らねぇって事だ」
時間潰せて、美味しいもの食えるならそれでいいのに。
「でけぇの釣るのがいいに決まってるだろ!」
横から「この人怖い」とか聞こえてくる。
まあ、ブラックバスとかは大きさを競うが、その場では無いだろう。そういう大会もないし。
「別に俺が下らないって思っているだけですよ。
そんなに競いたいなら他の所で別の人と釣れば
いいじゃないですか」
「へぇ...俺に負けるのが怖いのか?」
どこで俺が負けるのが怖いと出てくるのか。思考回路はどうなっているの?人の事あまり言えないが。
「いや、俺競うと言うより時間潰せて何か美味いもの
釣れればそれでいいって人間なので」
それに競うとか面倒だ。
「そうか...なら俺の不戦勝って事で嬢ちゃんたちは
俺が頂いていくぜ」
『え!?』
「...は?」
こいつ何言ってるの?
「何故そうなる...」
「誰と付き合ってるか知らねぇが、俺より弱いお前に
可愛い女の子といる資格はねぇよ!」
「なんでそんな事言うのよ!」
「そうですよ!翠くんも私たちも関係ないですよ!」
「なんなのこの人...何か嫌な感じ」
「私も思うな」
四人からのバッシングを受けると「それなら!」と
あからさまに何か提示してきそうな雰囲気を作り出した。
「俺とお前のどちらかが、川の主を釣れたら勝ちだ。
俺が勝ったら嬢ちゃんたちは俺の言う事を聞いて
もらうぜ!」
「何勝手な事を言っているのか」
「逃げるは許さねぇからな......さあて、嬢ちゃん立ちには
どんな事をしてもらおうかな...」
もう買った気でいやがる。女子四人は男の舐め回すような視線から守るためか身体を抱くように抑えてる。
......何か癪だ。俺の中の何かが切れそうだ。
「...勝った気でいるなんて、随分と傲慢な事だな。
こんな奴に負けるなんて恥ずかしいな」
あくまで冷静にいる。それで相手の冷静さを欠く。
「...その落ち着いた顔を絶望に染めてやるよ」
釣竿を構える。主と言うくらいならでかいのだろう。
掛け声はない。間を空けて俺らは釣糸を垂らした。
助けてマイヒーロー