7話目、どうぞ。
この川の主は大きな鯉らしい。その体長は一メートルを軽く超えるらしい。そんな鯉が居るならお目にかかりたいものだ。試合は一時間、連れた方の勝ちだが、お互いに釣れなかったら勝負は無かったことにするらしい。
反応の薄い竿を見つめる。相手はさっきから主とは違う鯉や山女魚などを捕まえては彼女達に自慢をしてる。
「リードを強く引けばいいんだよ!」とか抜かしているが、釣りは運の要素も強い。餌があっても魚がいなければ釣れない。
「おやおや?大口叩いた癖に一匹も釣れないなぁ...。
嬢ちゃんたちをこっちに寄越せば解決だぞ?」
「そんなに下衆オーラ放ってるから主とかは
来たくても来れないんだよ。今までもそうだったん
じゃ無いのか?」
「...勝ったらお前を絞める」
ピリピリとした雰囲気を流していると、竿が強く
引かれた。重さからして波の魚ではない...。魚影もさっきのよりも一回り以上余裕で大きい。これはもしかして来たんじゃないか?ここで気を弱めてはいけない。
釣竿の先を見つめながら、俺は弱ってきたタイミングで
釣り上げようと試みた。しかしこの魚引きが強すぎる。
簡単に釣れそうにはない...。ただ焦りは禁物だ...。
それと期待をし過ぎてはいけない。相手がバてるのを待つ...生憎と俺の釣針は食らいついたら離れない様な設計だ...。抜け出すのは難しい。少し動きが弱まると俺は持つ力全てを使う勢いで竿を引っ張った。およそ一メートルと二十センチはある様な見た目の鯉だ。隣で男はあほ面して信じられないものを見るように見てきた。
「ま、まさか本当に釣るとは...恐るべし主人公補正と
フラグ回収」
「メタ発言はお控えください」
開始から四十分以上経ち、決着が着いた。まさか一匹目が主だったとは...何が起こるか分からないなぁ...。
「迷惑かけたな、帰っていいぞ」
釣った鯉を川に逃がし、餌を巻いた。
「それじゃあ行くか」
荷物をまとめ、呼びかける。
時計を見ると結構いい時間だ。釣った魚の入ったバケツを持ち上げるとやけに重い。
見ると俺が釣った魚の他にも別の魚が入ってた。
ふと顔を上げると男は去っていた。
どんな意図があって譲ったのか分からないが、取り敢えずは貰っておく事にする。
これは店に持って行って塩焼きだ。
―――
バーベキュー用の食材を取りに行く次いでに釣った魚を塩焼きにしてもらった。歩きながら食べていると祭りに来た気分になる。
借りてきたバーベキューグリルを設置し、木炭を入れて点火させる。すると段々と炭の匂いが漂い始める。
「そろそろ焼くか」
脂の少ないタンの他に、とうもろこしなどの野菜を乗せる。肉の焼ける音を楽しみながら、俺は鉄板を眺める。
横で櫻井たちが皿や箸を回していたり、魚を食べてたりする。焼き魚を食べながら肉を焼く...至福の時間...!
「タン焼けたぞ」
「わぁ〜!美味しそうです!」
「いい感じに焼けてるね〜」
ネギ塩は家にあるやつを用意してきた。
和倉家オリジナル。
「んー!美味しい!」
「このネギ塩、お店にあるやつを食べてるみたい」
見ていると結構好評みたいだ。ただのバーベキュー用の肉とは違うと思ったが、値段以上の質だったらしい。
俺も食べてみたいぜ。取り敢えず俺の分は紙皿の上に乗せておく。落ち着い頃に食べればいい。
「翠くん、はい...あーん」
『なっ!?』
そう思っていたが、椎名が代わりに食べさせてくれるらしい。助かるが、周りは少し驚きすぎではないか?
「おぉ、ありがとう......うん。美味い」
「それは良かったです!」
焼いたの俺だけどね椎名さん。いや美味しいけど。
しかし食べさせてもらえるのは個人的には冷めていない状態で食べられて嬉しいのだが、視線が集まる。特に櫻井の。ジト目と言うのかなんと言うのか...不機嫌そうにこちらを見ているので、少し辛い。
相楽や佐伯もこっちは「良いもの見れたね!」とか「これは写真に撮らないとね」とか不吉な言葉が聞こえる。
「和倉君!私からも...あーん」
櫻井もか...助かるがそんな二人も要らないぞ...。
ご厚意だから受け取るけど...。しかし周りの目線も増えてきている気がする。
「あの若造...女子を数人も侍らすとは怪しからん!
...儂の若い頃はそれはそれは一人の女子に一途に...」
「リア充が...滅びろ」
恐ろしい声や視線が来るが、櫻井や椎名はそれに構わず食べさせてくる。少しは気にしないのだろうか...。
「...野菜も焼けたぞー、次はこの赤身ステーキって
こんなのまで置いているのか...凄いな...」
得した気分だ。得が出来るなら越したことは無い。
「あと米も美味いな...」
焼きながら食べれるおにぎりタイプの白飯も、ご飯の甘みが出ていて美味しい...。これは肉に合う。
「この焼肉タレも美味しいよね」
少し甘く見ていた...最近のバーベキューは進化しているんだな...。
―――
「はあ...食った...」
殆ど食べさせて貰っていたが、まあ気にする所では無いだろう。途中相楽や佐伯も悪ノリしてきて更に視線が集まったが...。
食い終わった後なのに元気な彼女たちはまた川遊びを始めた。気分は子連れの父親だ。若いっていいな。
同い歳の筈なんだが、体力に差があるらしい。
さっきからこっちに来なよと誘われるが、食休みはさせて欲しい。本来ならはをここで一服したいが、生憎と麦茶しか持ち合わせていない。残念だ。
「しかし...暑いな...」
テントの中は軽くサウナ状態だ。しかし外は鉄板で焼かれる気分になる。せめて涼しくならないだろうか。
憂いの籠った顔で空を睨む。雲一つない、絶好の行楽日和だった。
「俺も水浸りに行きますか...」
暑くてどうしようもない。なら身体を一部分でも冷やさないとだろう。打ち水とかもしたい。少しばかり早いが、まあそこら辺はいいだろう。
「おぉ...冷たい」
外気とは比べ物にならない程川の水は冷たかった。
「気持ちいね」
「ホントだな...」
足を水に浸けているだけでも違うのか...。
隣に来た佐伯と共にただ弛れる。
着替えを持ってこなかったことを何度悔やんだ事か。
まあ、足だけでも充分か...。
「ねぇ、今日楽しかった?」
「相楽にも言われたな...まあ、楽しかったぞ。
お前らを人質に決闘を申し込まれた時は驚いたが」
あんな体験は二度と御免願いたい。
嫌がっている子を無理矢理連れて行こうと考える野郎には負けたくなかった。あの場で逃げれば良かったのかもしれないが...。
「でも、立ち向かってい行く君の姿、かっこいいなって
思ったよ。助けてくれてありがとう!」
そんな事言われたら、考えるのもやめてしまう。
―――
あれで良かったのかと思う所もあるが、帰りの電車、お互いに寄りかかりながら、幸せそうな顔して寝ている彼女たちを見ると、それは無粋な考えなのだろうと思う。
誘われた側だけど、彼女たちが楽しければそれで良いのだろう。しかし...俺も疲れた。始めは着替えが無くて水遊び出来ずに暑くて辛いところもあったが、まあ肉は美味かったし魚も美味かったからそれで良いよな。
『次は新百合ヶ丘です』
十分に満たない区間を、電車に揺らされながら景色を見る。もうじき陽が沈む。
―――
親に教わった事なのだが、女の子だけだと心許ないから、家まで送るのが男の仕事だと小さい頃から言われた。あんまり鵜呑みにしていないが、もう遅い時間だったので家まで送ることにした。皆最寄りは新百合ヶ丘の駅で、家もそう離れてはいないらしい。
「......」
「......」
最後に残ったのはお互いの家が一番近い櫻井だ。
他の三人はもう送り届けた。家が近いから後回しになったのだが、あまり俺と一緒に居ても気分は良くないのだろうか。さっきから黙っていて気まずい。
「あ、あの...和倉君ってさ...」
「ん?」
櫻井が話かけてきたが、顔を赤くしたまま、視線が定まらない。
「どうした?熱でもあるのか?」
「ち、違うの!...あのね、和倉君ってさ、上条さんと下
の名前で呼びあってるよね...」
「?それがどうしたんだ?」
まさかるいがそれで気分を悪くしているのか?確かに学校で名前呼びすると顔を赤くして怒るが...。
「あ、あのね...それで何だけど...私も名前で呼んで
欲しいな...なんて...」
「?それだけの事か?別にいいぞ、明音」
「し、下の名前覚えててくれたんだ...えへへ...」
破顔している...何故だ...。
「そ、それじゃあ私の家ここだから...じゃね、翠くん!」
まあ、機嫌がいいならそれで良いのか...良いのか?