今日はサッカー部が他校との練習試合をするらしい。
相手は確か...尾刈斗高校とか言った東京の学校らしい。
一部人間が喜びそうな名前の学校だな。
「尾刈斗高校と戦った相手には呪いがかかっていると
されているらしい」
「そんな相手に勝てるのかよ...」
隣で観戦している生徒がそんな事を言っていた。
最近の少年サッカーは突然暴風が吹き荒れたり、グラウンドに穴が空いたり、突然巨大な岩が現れたりと訳の分からない事になっている。若倉も「グレネードショット」とか叫び青い気が溜まったボールを蹴り出したりするが。あれは一体どんな原理が働いているんだ?
「よっす、和倉...応援に来たのか?」
「若倉か...アップはいいのか?相手は余裕そうだが」
「あの余裕根刮ぎ奪ってやるさ」
八番を背負う彼の言葉は自身で溢れていた。
あれなら大丈夫だろうか。
「さて、もう試合だ...行ってくるよ」
「おう、頑張れよ」
試合もいいけど、グラウンドに入って試合するのも楽しいのだろう。そんな事を思いながら、俺は試合の行く末を見続ける。
「和倉君も来てたのね」
「篠宮か...生徒会か?」
「そんな所よ...相手、強いらしいけど」
「そんなの関係ないよ...あいつらは」
聖櫻学園は、全国の切符を手にしなくても、県内でベスト四に入る程の実力だ。尾刈斗高校も都内でベスト四。神奈川とは違うかもしれないが、互角に戦える。
なら残りは応援するだけだ。
「なら、私たちでしっかり応援しないとね」
「そうだな」
見渡すと聖櫻学園の生徒、村上先輩や望月先輩、椎名とか明音の姿も見受けられた。
「あいつらには、応援する仲間もいるんだ」
試合前日、若倉は俺に「今日はみんなで完成させたトリプルブーストを決めるんだ!」と意気込んでいた。トリプルブーストってなんだ。
『聖櫻学園VS尾刈斗高校の練習試合が、今
スタートを切りました!』
試合が始まった。先攻は聖櫻学園、キャプテンマークを背負った九番が攻める。ここのキャプテンは中学時代は元々帝国学園と言う学校にいて、そこの二軍だったらしい。二軍ってどんなサッカー部なのだろうか。あまり想像がつかない。まあ、そんな考えはいい。今は試合を集中して観戦しないと。
しかし相手のプレイ...こっちのボールをあまり取れていない。いや、わざと取らないでいる。まるで手を抜いているかの様に。こちらの応援席は「おぉ!」となっているが、これはよく見ると手を抜いている様に見える。
随分と舐めた真似する様だ。油断をさせる気なのか、将又相手を挑発しているのか。
そしてボールが若倉に渡ると九番、十一番の背番号の選手が前に出る。直列になった時に若倉が蹴り出し、それに力を加えるかの様に他の二人が蹴りをプラスする。
なるほど、これがトリプルブーストと言う奴か。
『おぉっと!聖櫻の新必殺技、トリプルブーストが
炸裂したぁ!』
キーパーが止めに入ろうとするが、そのボールはキーパーの横を通り過ぎ、ゴールネットを揺らした。
『ゴールッ!!聖櫻先制点!尾刈斗高校から一点を
奪い取ったぁ!!』
実況の生徒が興奮した様子で伝える。そこから聖櫻スタンドの熱援が強くなり、ボルテージも高くなる。
しかし相手はどう考えても手を抜いているのだが、誰も気付いていない...。相手の実力を知らない俺からしたら、その手抜きに何かが隠されているようで恐ろしい気分だ。しかし思いの外相手が弱いと思った聖櫻チームの皆が浮かれていた。応援席にいる篠宮でさえもこのプレイに興奮を浮かべている様だ。周りも、普段は落ち着いている村上先輩も喜んでいて、それを望月先輩が逃すもんかと写真を撮り別の意味で興奮している。
なんと言うか、ブレない人だな。
見渡す限り、醒めた様子で試合を眺めているのは俺だけだった。集団心理に呑まれているのか、ただ俺だけが相手の手抜きに気づいているのか。まるで自分がイキっているかの様に思えるが、事実だ。
「和倉君...あまり喜んでないみたいだけど...」
篠宮が不思議そうにこちらを見る。
「いや...相手が手を抜いている様にしか見えなくね」
こちら側はどこか、これなら楽勝だと思っている。
証拠は今のシュートと相手の実力と言う偶像。
そんな試合が動いたのは、今だった。
『なんと言うか事でしょう!聖櫻、一歩も動い
ていない! 』
突如聖櫻学園の生徒の動きが固まった。まるで呪いか催眠術がかけられているかの様に。
そしてそのまま、シュートを決められた。
『ご、ゴール!これが尾刈斗の必殺タクティクス
ゴーストロックなのでしょうか!』
聖櫻は攻めようとしても、ゴーストロックを使われ、前半を終えた頃には三点も決められてしまった。
「これが、尾刈斗高校...」
隣で篠宮が驚きの声と、勝てるのか分からないと言った不安の表情を浮かばせていた。
「これが隠された力か...思ったよりもやばそうだが...」
欠陥が一つも無いなんて事は有り得ない。中学の頃いた帝国学園のキーパーのパワーシールドは近距離の技に弱く、若倉も使えるキラースライドはジャンプされたら意味を成さない。他にもヒーローだって変身中に狙われたら負けるかもしれない。ゴーストロックにも穴があると考えた。あの監督が臭い...。ゴーストロック中、何か唱えている感じがした。
声は良く聞こえなかったが...。
「なんだ?まーれまーれまれたまえーとか敵の監督、
頭可笑しいんじゃねぇの?」
「それよりもなんでうちは動けなくなってるのよ」
まれたまえー?暗示か?
「ちょっとあいつらの所に行ってくるわ」
「え?うん...分かった」
きっとそこに何かが隠れているのだろう。
―――
「若倉、大丈夫か?」
「...トリプルブーストは決まった。でもあの後
一歩も動けなかった...」
「大丈夫じゃ無さそうだな。しかしあの監督怪しいな。
急に人が変わったように...。挑発でもされたか?」
「あぁ、挨拶する時はなんか見下した感じだった」
相手を興奮させ、思考力を低下か...。
「これって練習試合でしたっけ...助っ人って有りですか?」
「お、おい和倉...お前、何言って...」
「鍵を見つける為な。それにサッカーは未経験ではない」
「...なにか察している様だな...。分かった。認めよう」
『えぇ!?』
これは勝つための手段だ。今回限り、少し暴れますか。
「和倉はポジション、どこなら行ける?」
「キーパー以外なら」
「...ならFWに入って下さい!」
九番の背番号を背負う一年だ。足が腫れて試合に出れないと悔しそうに口にしていた。
「分かった...力不足かもしれないが、トリックを暴いて
くる」
気合いは充分...。技なら一応、中学の奴とかと開発した一人用のがある...。
『後半に入り聖櫻は助っ人の和倉を入れた!?』
『えっ!?和倉君!?』
『あの聖櫻の幻想殺し!?何故グラウンドに!?』
「素人?僕達に勝てるとでも思ってるのかい?」
観客の驚きと相手の見下すような視線...。
「そのトリック暴いてやるよ」
それは宣戦布告だった。
―――
前半必殺技とかどんな原理で動いているんだとか言っていたが、俺が使えないとは一言も言っていない。
ただ足を止められれば何も出来ない。
あと呪文はあれか...「まーれまーれまれ止まれ」...止まれ?あぁ、なるほど...自己暗示的な何かか。
なら目を閉じて...「動け動け!...動いてよ!」
どこかのパイロットの様に叫ぶと動ける様になった。
『なに!?』
観客、敵陣、味方...唖然としていた。俺はその隙をついて敵からボールを奪うと敵陣地に攻め込む。突然の事に立ち直れない相手チームを他所に攻めると、俺は口笛を吹きペンギンを呼ぶ。
「行くぜ...皇帝ペンギンX!!」
ペンギンを足に咬ませ、俺はボールを蹴る。
相手キーパーの手元が歪んだが、力の暴力でねじ伏せた。そしてボールはゴールネットを揺らした。
『な、何ということでしょう!助っ人の和倉が
見た事も無い技でゴールをこじ開けたぁぁ!!』
「ど、どうやったんだ...?」
「そげぶでもしたのか?」
「いや、あの動かなくなるあれ、ただの暗示だ。
止まれ止まれって。思考力の低下したその頭に
ゴーストロックって合図と共に止まるようにって
暗示をぶち込んだだけだ。だから落ち着いて
動けるように自分に暗示を掛けた。俺がやったのは
催眠術を催眠術でねじ伏せただけだ」
「た、短期間でそんな頭を回したのか?」
「それよりも必殺技の方に注目した方が...?」
そんな事もあったが、この助言から流れはこっちのものとなり、その後二点を決めてこっちが勝った。
後日談、と言うか今回の落ち。
「和倉君!サッカー部入って!君ならエースを狙える!」
クラスメイトの早見英子に勧誘されて。
「和倉君!試合のインタビュー記事書きたいんだけど
取材させてくれる!?」
南條筆頭の新聞部に取材を迫られ
「和倉!皇帝ペンギンXを伝授して欲しいんだ!」
若倉に教えを頼まれ、俺の周りが騒がしくなった。
今日はオフ会を推奨する日らしいですね。私はボッチなものでして、開催したところで誰も来ませんが...。