ご注意を
ポカポカする、ふわふわする、安心する。
いい匂いがする、なんの匂いかは思い出せないけど最近ずっと感じていた匂い、安心する時いつも感じるあの香り。
ゴールドは微睡みから徐々に覚醒していき、目を開け──
「すぅ……すぅ……」
「────ーッ!?!?!?」
敬愛する教師、山田真耶が目の前で愛らしい寝顔を見せているのを認識すると同時に、声にならない叫びを上げながら体と共に一気に意識を叩き起した。
(え!? な、なんで山田先生が!?)
よくよく山田先生を見ると床に座りながらベッドに顔を預けている。恐らくは俺の事を見守ってくれてたのだろう。
「いやまぁ、練習終わりに風呂も入らず速攻寝てたら心配もするか……山田先生髪の毛乾ききってないし、せんせー? 山田せんせー? 髪の毛ちゃんと乾かさないと風邪引いちゃいますよ?」
「ん……はい、起きます。だからあとちょっとだけ」
「いやいやダメですから、起きてドライヤーちゃんとしてください。あと寝るならせめて自分のベッドで」
俺は山田先生の頭付近のベッド押し揺らして何とか起こそうと試みる。
「うぅん……はい! 起きます! 野上くんも、疲れてるようなので私みたくシャッとシャワーだけにするように」
「はーい」
脱衣所に行き服を脱ぎ始めるが、思考は先程の山田先生の……胸元が少しはだけたパジャマ姿に埋め尽くされていた。
「………………」
冷たいシャワーが嫌という程心地よかった。
♢
翌日、朝の挨拶が始まる前に織斑に話しかけていた。
「なぁ織斑ちょっといいか?」
「ん、野上から来るなんて珍しいな。どうした?」
「いや、その……ちょっと、男同士で相談したいことがあってさ。よかったら昼休み、2人っきりで相談できないか?」
「まぁ、それくらいなら別にいいぞ。場所はどうする?」
「あんま他の人に聞かれたくないからな、屋上に弁当持ってって事でいいか?」
「おう、じゃあまた昼休みな」
「すまんな、助かる」
俺はそうして織斑に要件を伝えたら、自分の席に戻った。
「……………………男同士の相談、ねぇ」
♢
授業が終わり、野上と織斑は食堂で弁当を貰ったら屋上におもむいて居た。
その後方には、何やら見知った顔が幾つかあったが…………
「な、なぁ……やっぱり辞めないか? わざわざ2人っきりで話したいと野上が言っていたのだろう?」
「だからこそだよ箒、こんな面白そうな事覗くに決まってるじゃん!」
「そうよ、もしかしたらついでにあのバカの弱味も握れるかもしれないしね」
「そ、それは……その」
たまたま今朝の会話を聞いていたシャルロット、そしてそんなシャルロットに呼ばれたが乗り気では無い箒とノリノリな鈴。
「箒さんの気持ちは分かりますが、もしかしたら私達でも力添えができるかもしれません。聞くだけ聞いてみる価値はあると思います」
「ワタシも、あの2人自体に興味があるからな。聞いといて損は無いだろ」
あくまでもクラスメイトを案ずるセシリアに、鈴に誘われ興味本位で着いてきた〝ついこないだ1-2に転入してきた〟ラウラ・ボーデヴィッヒ。計5人が聞き耳を立てていた。
「それで? わざわざこんな所にまで来てしたい相談ってのはなんだ?」
「その前に確認したいんだが、お前の部屋の同居人って織斑先生であってるか?」
「「「「「?!」」」」」
「あぁ、そうだけどどうした?」
「「「「「?!」」」」」
唐突な事実に驚きおののいてる出歯亀ガールズ、そんな事は知らない野上はそのまま話を進める。
「そうか、よかった……実は俺も学園に来てからはトラブル防止の為に、山田先生と一緒に暮らしてるんだ」
「そうだったのか」
「あぁ、でさやっぱりこう……年上の女性と一緒に暮らして行くとまぁその、不都合というか男性的に困る事ってあるだろ? それについて愚痴というか、お前はどうしてんのかなって思って」
「例えば?」
「あー、その……例えば、山田先生が風呂上がりで少し、ちゃんと服を着れてないというか無防備になってるかなーみたいな」
「あーはいはい、なるほどね。あるある」
「分かってくれるのか!?」
「あたぼうよ、俺もそういう時あるもん」
野上はこの時本当に、心の底から織斑の事に感謝した。同じ男性、同じ年齢、同じ境遇に同じ悩み。溜まりに溜まっていた愚痴をこれでようやく語り合えると思った。
「流石に身内とはいえそういうみっともない所は見苦しいよなぁ」
「……ん?」
その気持ちは、ろうそくの火のように儚い存在ではあったが。
「確かに普段先生として気を張ってるんだし、プライベートの事とかとやかく言いたくないけどだらしなさ過ぎるのはちょっとアレだよなぁ」
「え? あの、えっと、あれ? …………あっ」
ここで野上はようやく気づく、己と目の前にいる男の違いを。それは──
「流石にあの歳の〝姉〟に生活態度について注意は気が引けるもん」
血の繋がりのある保護者かどうか、だ。
(そりゃそうだよな! だってこの人達姉弟だもんな! そらそういう所見てもなんとも思わないよな!? なんなら風呂だって一緒に入ってた可能性あるもんな?!)
焦ってる野上を見てここいらで出歯亀ガールズも、〝野上の本当に相談したかった内容、そして唯一同じ男性でもある織斑にも話しづらくなった〟事に気づき申し訳なさと同情の念がこもった瞳で見守る事しか出来なくなっていた。
だが男野上、もうやけくそ気味になって長々と姉に対する愚痴を零す織斑に再度仕掛ける。
「それでさぁ」
「織斑先生に対する愚痴はそこまでにして、俺が相談したい本質について言ってもいいか?」
「え? あ、そうだったなすまん」
「ありがとう、いやな? お前ん所はさ、姉弟だからいいよ……俺と山田先生赤の他人だからな?」
「あ」
「それに、あんま言いたくないけどさ……俺もう高校生だぜ? 小さい純粋なガキと違って、〝そういう〟言っちゃ汚い欲求だってある訳よ? 山田先生めっちゃ美人だしさぁ……」
「そっか……お前ん所だと……」
「うん……俺、山田先生の事はめっちゃ尊敬してるしめっちゃ世話になってるから感謝しかないんだ。だから、だから山田先生に対して〝そういう風に見ちゃう自分〟がどうしても嫌で、それで今日は相談しに来たんだ」
「そっか……」
なんでお通夜みたいな雰囲気になってんだよちきしょう!
「まぁその、なんだ……俺もお前ももう年頃の男だし、〝そういう欲求〟があるかないかって言われたらそらなぁ? って感じで普通の事だと思うけどな」
「だけどよぉ……」
「どうせ俺達は最低でも1年、長けりゃ卒業した後にだってこういう立場になってるかもしれねぇんだ。今からそんな気負い過ぎても潰れるだけだよ」
そう言って織斑はサンドイッチペロッとたいらげた。
「織斑、お前…………基本的にバカでアホだけど地頭はそこそこ良い方なんだな」
「喧嘩なら買うぞこの野郎」
「悪い悪い。そうだな、確かに今から気負い過ぎてもどうにもならないよな」
「そうそう、ソレと別に〝そういう欲求〟はあんまり否定し過ぎない方がいいぞ」
「というと?」
「俺も周りから見たら淡白というか、興味無さそうに見えるのかダチに心配される事が割とあったんだよ。〝我慢しててもいつか爆発してとんでもない事をしでかすぞー?! 〟って。確かに山田先生に対し何かをしようとするのはご法度だが、思うくらいバチは当たらねぇよ」
「俺が神様だったら山田先生みたいな人で妄想する人には率先してバチ与えるわ」
「ははは、ちげぇねぇ。俺も千冬姉でそんな事考える不届き者が居たら率先してバチ与えるよ」
そう言い合って、俺らは目を合わせて笑った。おたがい、大事な人が居ると男ってのは好戦的になるんだなって笑いあった。
「んで結局どうすんだよ」
「うっせ、隠れてしろ」
「アッハイ」
「愚痴はいいが俺からはこれ以上何も言えん」
「ごもっともですありがとうございました」