連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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76.FDからの支配

「うそだ……」

 

 ナツメは額から流れる血にも構わず、ムーンベースの巨大モニタを見上げていた。彼女の手には(シャープエッジ)(シャープネス)が握られている。

 周りには執行者が三体。つい先程まで、ナツメと息も吐けぬ攻防を繰り広げていた。

 

 それなのに――

 

 映像から、目が離せない。

 

「アレン……さん?」

 

 ナツメは、顔色を失った。目の前にいる三体の執行者は腿の周りについている棘を地面に巡らせると、ガンッと鋭い音を立てて剣山のように棘を辺り一面に鋭く建てた。

 数百本の棘山が、容赦なくナツメの全身を貫く。大量の血が雨の如く飛び、カランと音を立てて、(シャープエッジ)(シャープネス)が手から滑り落ちる。

 ナツメの頬を、涙が伝う。

 目を見開いた少女は、画面を見据えたまま――動かなかった。

 

 ××××

 

 ――二時間前。

 

「ソレイユ、被弾しますっ!」

 

 マリエッタの悲痛な声に、ディプロ艦内にいる者は誰しもが息を詰めた。

 テトラジェネシス旗艦――ソレイユ。

 宗主オフィーリアの艦が墜ちれば、最早人類に明日は無い。

 

 アールディオン、バンデーン、銀河連邦……

 

 それまで人類史上最高の科学力を持つ組織が、惑星ごと消滅させられた。防衛行動をとる前に、前者二つは消し飛ばされた。

 そして今、この混乱の中にあって皆を集結させたのが、オフィーリア・ベクトラだ。

 彼女が死ねば、銀河の組織的な動きは死ぬ。

 そして人類に残されるのは、ゲリラ的な執行者との戦いだけ。

 星を消し飛ばすような化物を相手に、小さな反抗を続けるだけ――。

 

(アレン……っ!)

 

 アルフすら思わず、息を詰めた。呼んでも無駄なのは分かっている。それでも、ディプロ艦内で絶叫する皆の気持ちが――それとは少し異なるアルフの心境が、彼の頬に冷汗を浮かべさせる。

 

(お前っ、ナツメを――……!!)

 

 

 殺す気か。

 

 

 続く言葉を、アルフは思わず飲みこんだ。

 

 アルフ達が所属する銀河連邦軍、特殊任務施行部隊。

 

 これは実際の所、『地球人が銀河で最強である』という事を示す為だけに創られた。

 さまざまな惑星人が跋扈するこの宇宙時代において、地球人が宇宙に対し、ある程度の影響力を持つ為に創られたのだ。

 アレンの実家である――『ガード流』創設と理由を同じくして。

 そしてこのエリート部隊は、その存在理由の為に、宇宙で最も過酷な任務を強いられる。

 

 生存率、三割未満。

 

 そんな特殊部隊の中でナツメを泣かせない為だけに――『一人』にさせない為だけに、アレンとアルフはオフィーリアに彼女を預けた。ナツメの剣術は名目上、オフィーリアの護衛役として役立つ。

 そう、ジェネシス宗主に入れ知恵して。

 

 万が一――自分やアレンが帰らなくなったとしても、ナツメが無事なように。

 

 それを、

 それを――……

 

「……っ!」

 

 アルフは拳を握った。映像の中で、光が消える。

 この広い宇宙上で一際存在感を放つ赤黒い朱雀は、人類の希望をたった今、消した。

 一人の少女の、帰るべき居場所と共に。

 

「ソレイユ……沈黙」

 

 マリエッタの重々しい声が響く。皆、言葉を失い――項垂れた。

 だが、沈黙は次の言葉で緊張に変わる。

 

「ソレイユ、損傷率80%。第三、第四エンジンに被弾したそうです」

 

「――何?」

 

 アルフはミラージュの言葉に瞬き、マリエッタを見る。すると、マリエッタは目を皿のようにして続けた。

 

「まだ……! まだ持ちこたえてますっ!! リーダー!!」

 

 嬉しそうに振り返るマリエッタに対し、マリアの表情が険しく歪む。このディプロも酷い損傷を受けており、“動かない”というのが現状だ。

 アルフはマリエッタに駆け寄り、ルノワールに通信を繋いだ。

 

「提督っ!」

 

 鋭く呼びかける。同時に、ルノワールはクリエイション砲を朱雀に向けて放った。

 違和感に気付いたのは――一人だけ。

 

 フェイト・ラインゴッドだけだった。

 

「おい、ちょっと……待てよっ! アルフ!」

 

 フェイトが顔を真っ青にして叫ぶ。だが制止は遅く、クリエイション砲は『彼』を貫く。

 光の砲撃は『彼』を呑みこみ――そして、

 

『そんな……っ!? 馬鹿な……!』

 

 ブレアの声が通信機から聞こえてくる。

 彼女はぐっと息を飲むと、巨槍を握る青年を抱えて、クリエイション砲の光と共に姿を消した。

 同時に、周りに五萬と居た執行者や断罪者も消える。

 

 …………

 

 沈黙が降りた。

 クリフは長い息を吐くと、両腕を組んでフェイトに向き直った。

 

「とにかく、なんとかなったみたいだな……。で、どうした? 急に叫びやがって」

 

 そう問うと、フェイトは眼を見開いたまま、クリフを見上げた。

 

「――戻ってたんだよ」

 

「あ?」

 

「朱雀の色が」

 

 途端、息を詰めた。無論、この言葉を理解したのは、フェイトと共にエリクールで苦労を共にした仲間だけだ。ディプロ艦員は、首を捻って不思議そうにフェイトを見る。アルフが無表情に、問いかけた。

 

「確かか?」

 

 低い声で尋ねるアルフに、フェイトは固い面持ちで――頷いた。

 

 

 ……………………

 ………………

 

 ブレアの転移で、『彼』らは惑星ストリームに来た。

 『彼』は力なく膝を付くなり、肩で息をする。大量の血が脇腹から流れ、口からも吐き出た。

 

「……無様ね」

 

 ブレアは冷ややかに『彼』を見下し、つぶやいた。『彼』が顔を上げる。

 蒼穹のように澄んだ、意志の強い――怒りの眼差しで。

 

「覇ぁっ!!」

 

 『彼』は手にした槍を一閃すると、ブレアに向かって斬りかかった。――が。寸前で『彼』の腕から先が、すぅ、と透けて、消える。

 『彼』は――アレンは目を見開いた。

 

「!?」

 

 右腕を失った青年に歩み寄り、ブレアは冷めた声で言う。

 

「まだ分からない? あの方の望む以外の行動を取れば、自分がどうなるかと言う事が」

 

「……どういう、意味だ」

 

 アレンの瞳の殺気が深まる。ブレアは長い溜息を吐き、両手を広げた。

 

「本当に馬鹿ね、貴方。さっきの攻撃、あの方の望み通り艦隊を消し飛ばせば良かったのよ。そうすれば、そんな風に血を吐く事も、腕が消える事も無かったのに」

 

「…………これが、貴様らFD人のやり方か……」

 

 ぎり、と奥歯を噛む。ブレアは失笑した。

 

「一端に、あの方々と同じ存在になれたつもりなのかしら? データのくせに」

 

「っ!」

 

「私達は架空の存在。消えたって誰も困らない。――足掻いているのは、架空のバグだけ。考えてもみなさい? 自分の作ったシミュレーターが、自分と同じ世界に来て、その世界の方々を殺傷せしめる能力を得た。……そんな存在が、許されると思う?」

 

「だから、黙って死ねと? エクスキューショナーに怯えながら逃げ惑って、そして死ねと!?」

 

「見解の相違ね。所詮、私達の存在なんて、あの方々の娯楽に過ぎない。娯楽が娯楽と言うカテゴライズから逸脱した以上、消されるのは当然だわ」

 

 ブレアは両腕を組み、首を横に振った。どこか諦観の漂った、憂いの表情。

 アレンは眼を見開いた。

 

「――まさか、お前も……?」

 

 言葉は途中で切れた。

 呆然と目を丸くする青年を見下し、ブレアはしっとりと笑う。

 少し、邪悪に。

 

「ええ、貴方と同じ存在よ。ただ――貴方の場合は、基となるキャラクターが居て、そこから創り換えられたみたいだけれどね」

 

「創り、換える……?」

 

「そう。宇宙と言うフィールドの大きさは、貴方も知っているでしょう? その中にあって、バグとなる存在と、同じ惑星に墜落する確率はどれくらいのものかしら? 何か(・・)の力が働いたと考えた方が妥当ではなくて?」

 

 ブレアの蒼瞳が細められる。

 アレンは背が、ぞっと冷えるのを感じた。

 

(墜落――……?)

 

 バンデーンと戦い、負傷した自分が墜落した先――エリクール。

 そこで目が覚めるのと同時に、彼はフェイトと接触した。

 それが偶然などではなく、

 

「――必然、だったのか……?」

 

 血の気の引いた顔でブレアを見上げると、彼女は穏やかに微笑んだ。

 

「そう。――だって貴方は、あの方(・・・)の代行者だもの」

 

「あの、方……?」

 

「スフィア社のオーナー、ルシファー・ランドベルド様よ」

 

 アレンは息を飲む。

 

 ルシファー。

 

 口にすると、よりはっきりと、その存在を認識できるような気がした。

 と。

 荒野広がるストリームの大地で、赤茶けた地面に突き刺さった――黒鞘の剛刀が、アレンの目に入った。

 

 

 ………………

 …………

 

 

 ヴィスコムが駆る最新鋭艦ルノワールに乗り換えたフェイト達は、ロビーに首を揃えた。

 

「ともかく、私達はこれより貴方々を、そのエリクールという惑星に送るわ。――と言っても、送迎役はヴィスコム提督に任せるつもりだけれど」

 

 ジェネシス星系宗主、オフィーリアはそう言って、細い腕を組む。マリアが瞬いた。

 

「オフィーリア嬢はどうなさるおつもりです?」

 

「勿論、前線に戻るわ。ソレイユは撃墜寸前まで追い込まれたけれど、リュナはまだ無事だから」

 

「提督なしにもつんですか?」

 

 アルフの問いに、オフィーリアは眉を寄せた。

 

「特務とは言え、私達を見くびらないでもらいたいわね。確かに銀河随一と言われるアクアエリークルーに比べれば、ジェネシスの腕は未熟かも知れないけれど、それなりに戦ってみせるつもりよ。エクスキューショナー(かれら)とね」

 

 アルフは沈黙し、横目でマリアを見た。

 視線を受けたマリアが、深い溜息を吐いた後、オフィーリアに向き直る。

 

「よろしければオフィーリア嬢。私達に一隻、艦をお貸し願えませんか? エリクールに向かうのであれば、私達だけでも十分かと思われます」

 

「楽観は良くないわ。貴方達は銀河の希望、絶対に失う訳にはいかない」

 

「しかし……」

 

「大丈夫。――私を信じて」

 

 微笑むオフィーリアに、マリアは言葉を濁した。アルフを見やって、マリアは肩をすくめる。

 と、

 その反応を受けたアルフが、深い溜息を吐いた。

 マリアは視線を――ソファに座っているフェイト達にやる。

 円形ソファの背面に取り付いた大型モニタが、エクスキュショナーによる被害状況、避難先の案内などをひっきりなしに伝えていた。最初はそれを固唾を呑んで見守っていたフェイト達だが、次第に事が深刻過ぎてモニタを見る気力もなくなったらしい。

 小難しい表情で俯いたまま、誰一人喋らない。

 ただ、モニタの中で悲痛なニュースキャスターの声が響く。

 オフィーリアはそんな彼等を見、悲しげに目を細めた。

 

[緊急速報です]

 

 と。

 モニタが切り替わって、キャスターが女性から男性へと変わる。灰色がかったスーツを几帳面に着こなした壮年のキャスターは、神経質そうな目を手許の原稿からカメラに向けた。

 

[ラーク・ギュスターブ連邦議長が亡くなった現在、事実上、銀河連邦政府のトップとなったエイダ・アトロシャス星系防衛長官による声明が、先程発表されました]

 

 画面が切り替わる。

 映ったのは、巨大ドームの中。緑色の円盤状の演壇に、男が立っている。

 七十近い地球人だ。星系防衛長官、エイダ・アトロシャス。顔が四角く無骨で、黒子(ホクロ)とニキビ痕がいやに目立つ男である。肥満と言うほどでもないが、痩せ型とは言い難いエイダは、大きなハト胸を茶褐色のスーツの下にしまっている。

 映像の中のエイダは、特設会場にでも居るのか、並み入る群衆をぐるりと見渡して、大仰に言い放った。

 

[皆さんっ! この度はエクスキューショナーの猛攻を耐え凌ぐ日々に追われ、心身ともに疲れ果てておられることでしょう! ですが、私はここで、エクスキューショナーの大本を摘発することに成功した! 終わりの時は近いのですっ!! 銀河連邦はここに、S級犯罪人アレン・ガードの極刑を宣言する! 奴こそは全銀河の癌、執行者(エクスキューショナー)の支配者であると!]

 

「――何?」

 

「これは……!」

 

 息を呑むフェイトとマリアを置いて、クリフが目を瞠りながら顎に手をやった。

 

「エイダ・アトロシャス……! 地球が消滅した今、連邦は死に体かと思っていたが、そうでもなかったみてぇだな」

 

「落ち着いてる場合かよ、クリフっ!? この人――今、なんて言った!?」

 

 フェイトはソファから立ち上がるや、モニタを睨み据えた。エイダ・アトロシャスによる声明は、更に過熱さを増している。

 アレンの顔写真が映されるのも、数秒先の未来でしかなかった。

 フェイトはモニタを見据え、拳を握る。――アレンならまだ、戻るかも知れないと言うのに。

 

「完全に、あいつを見捨てるってのか……。連邦は、組織ぐるみで!?」

 

「どうして? アレンさんがおかしくなっちゃったのは、数時間前――それも変になっちゃったのを知っているのは私達だけです! それなのにどうして、この人がこんなこと――」

 

「『ガード』だからだ」

 

 ソフィアの問いを途中で制し、アルフが答えた。紅瞳が静かに冷えている。モニタ上で得意げに演説している――『義父』を見据えて。

 クリフが顎に据えた手を離した。

 

「どういうことだ?」

 

「アレンの実家、『ガード家』はここ十数年で勢力を拡大させた――叩き上げの武闘派一家でね。ガード家当主のリード・ガードを筆頭に、あそこの一門は連邦政府の脅威(テキ)となる存在を誰であろうと斬り殺す。――それを大っぴらにしない賢さもある。そんなガード家を支援してるのが、反アトロシャスのギュスターブ派。地球が消滅する瞬間まで、太陽系元首だったラーク・ギュスターブ連邦議長だ。この議長が亡くなった今、ガード家の後ろ盾は無い……。保守派最大武力と言われるガード家を潰すには、今を置いて他にないって事だろう」

 

「でもさっ!? それでなんで標的がアレンにされるんだ!? おかしいだろ!」

 

 フェイトの問いに、アルフは首を横に振った。

 

「それが、おかしくはねえのさ。ガード家で今、一番所在がはっきりしないのがアレンなんだ。バンデーンの襲撃を受けて、未開惑星に墜落したなんて誰が思う? そこのオフィーリアさんほど酔狂な人でもない限り、行方不明者の捜索なんてしねえよ。連邦はハイダ襲撃以降ずっと天手古舞いだったんだ。それに、アレンを乗せたアクアエリーは消滅。ヴィスコム提督すら連邦本部には戻ってねえ」

 

「……つまり、アレンさんがエクスキューショナーに関係があるのかどうかも分からない状況で、この人はこんなことを?」

 

 声を震わせながら、ソフィアが問う。アルフは静かに頷いた。

 

「そう言う事だ。恐らくな」

 

「こんな……皆死ぬかもしれないって状況で、権力闘争だって!? 何考えてんだよっ! このじいさんは!」

 

 フェイトは鋭い眼差しをエイダ・アトロシャスに向けた。フェイトの後ろで、両腕を組んで悠然と立っていた筈のオフィーリアにも緊張が走っている。

 エイダ・アトロシャスの後ろ――八十近い禿頭の男は、少し前のジェネシス会議に出席していた反ベクトラ派の首相。

 惑星ミトラのカナド首相だった。

 

「……どうやら、造反はアトロシャスだけではなさそうね」

 

 つぶやくオフィーリアに、アルフも頷く。クリフが頭を掻いた。

 

「ったく! 次から次へと!」

 

「落ち着いて、クリフ。現状、反銀河連邦(クォーク)に出来る事なんて大してないわ。エイダ氏の声明は残念だけど、連邦のゴタゴタに付き合っている場合じゃないと思う」

 

 マリアの冷静な意見に、クリフは瞬くと、深い溜息を吐いた。

 

「そりゃそうか」

 

 そう言って、握った拳を下ろす。

 フェイトが息を吐いた。

 

「くそっ……! これじゃ、あのバカを正気に戻しても一緒に帰れるかどうか分からないじゃないか!」

 

「だが、今そんな心配してる場合じゃねえのは確かだ。あのブレアってのが敵と分かった以上――銀河存続自体が怪しくなって来てる」

 

 つぶやくアルフに、ソフィアがびくりと肩を震わせた。

 ネルが声を潜める。

 

「その話なんだけど。アンタ達はやっぱり、あのブレアが敵だって言うのかい?」

 

「味方に見えたのか? あれが」

 

 逆にアルフが問い返すと、ネルは顎に手を据えて目を細めた。

 

「それが――どうも変な気がするんだよ……。私達があの“えふでぃー空間?”とやらで出合ったブレアと、さっきのブレア。本当に同一人物なのかい?」

 

「…………」

 

「自分の観察眼だけを頼りにしちゃダメだって、私も分かってるさ。けど、どうしても、えふでぃー空間……とやらで出合ったブレアが、悪い人間には見えなかったんだ」

 

 ネルの言葉に、アルフは溜息を吐いた。

 ブレアが敵か、味方か――。

 普通ならば敵と見る。自分達を潰す勢力と懐柔する勢力。どちらもスフィア社内に配置させておいて、実際は裏で繋がっている――などと言う事は、珍しくないからだ。

 真っ向から潰しに来る勢力――つまりFD人が、直接倒せればよし。

 倒せない場合は、懐柔した勢力が自分達をエターナルスフィアに還す。

 そうすれば、先程のブレアの言葉にも納得がいく。

 

 ――このエターナルスフィア内であれば、あの方(・・・)の力が存分に発揮される。

 

 『あの方』と言うのは、間違いなくスフィア社オーナーの事だろう。

 そして、アレンが敵に回った切っ掛けを作ったのも、ブレア達が手渡したアンインストーラーだ。

 偶然にしては、出来過ぎた一致。

 ――だが、

 ネルのように違和感を覚えている者は、他にも居た。

 

「私も……、出来ればブレアさんを信じたいです」

 

 ソフィアだ。

 彼女の感性は、限りなく一般市民に近い。人の真偽を見定められるような経験も無い。――それでも、このメンバーの中で、否、このエターナルスフィアの中で一番、FD人に近い存在であるようにアルフは考えていた。

 

(あの平和ボケした女の顔に、敵意や殺気を感じなかったのは、こいつ等の言う通り確かなコトだ。……だが、あの空間に居る奴らに、俺達の常識が果たして通じるのか? アイツ等にとって俺達は所詮、ただの“データ”だ。それを相手に、敵意や殺気――あるいはそれに類する警戒心を抱くだろうか? 争い事など、一度もした事が無いような世界の腑抜けた連中が――)

 

 ちなみにブレアが敵だった場合、銀河消滅はほぼ確定する。何故なら、FD空間にオーナーを探しに戻っても、出合える確証が無いからだ。FD空間の全体規模も分からない。そこを隈なく探して、エクスキューショナーを止めさせる。

 そんな時間が、この銀河に残っているとは考え難い――。

 それに、FD空間(むこう)のブレアは言っていた。

 

 ――セフィラを探せ、と。

 

 もしブレアの言う通り、オーナーがこの世界に特殊空間を作っていたとしたら、FD空間に戻るのは本当にただの無駄骨となる。

 そして、特殊空間に行く鍵があの『セフィラ』であることが何より気がかりであった。

 

(セフィラ――……)

 

 アルフが初めて確認した、アレンの異常。それを引き起こしたのがセフィラだ。

 

 セフィラをもう一度、調べたい気持ちはある。

 

 だが、敵の大元――オーナーの思考がまるで読めない。今までの行動は全て部下伝いで、オーナー自身は姿すら見せない。FD人がどれほどこちらに干渉しているのか、その影響はどれくらいなのかもアルフは把握していない。

 相手の真意を読み取るには、圧倒的不利な状況――。

 ブレアが善か悪か。

 これははっきり言って、この時点ではいくら考えても答えが出せない状況にあるのだ。

 

 ――すべてにおいて、時間が足りない。

 

 銀河という命が、輝いていられる時間が。

 

「ムーンベースに行こう」

 

 ふとフェイトが言った。アルフは顔を上げる。

 

「FD空間の事なら、父さんが一番知ってる筈だ。ブレアさんも完全に信用できない以上、一度父さんに相談してみるべきだと僕は思う」

 

「……そう、かもな」

 

 アルフは答えながら、これはただの時間潰しに終わる可能性を強く感じていた。根拠はない。

 ただ――そんな予感がしていた。

 フェイトはアルフの気配に気づいたのか、振り返ると――ニッと不敵に口端を歪めて見せた。

 

「アンインストーラー。ブレアさん達の装置を、父さんに見せようと思うんだ」

 

 それが現状においてフェイトが叩きだした、エクスキューショナーへの対抗策だった

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