連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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81.分断

 ソフィアが目覚めた先は、巨大なトンネルの中だった。壁は先進的な機械類と、ディスプレイ、パネルで覆われている。ソフィアはその中に浮かぶ、薄い床板の上で眠っていたのである。

 衣擦れの音がして、左の方を見た。長身の、金髪の男が、こちらに背を向けて立っている。

 

「ここ、は?」

 

 ふらつく頭を押さえながら問いかけると、彼はふり返らず、トンネル内の広間――奥に据えられた装置を指さした。床に据え付けられた円形状の転送装置。スフィア社のエレベータに似ている。

 ソフィアは首を傾げた。

 

「あの、あれって」

 

「いずれ君が開くものだ」

 

 彼――アレンが答えた。視線が合うと、まるで別人のように見える。彼の眼はかつての輝きを失い、死んだ魚のように暗く濁っていた。着ているのものは白い法衣で、スフィア社員の服よりも連邦軍服に近い。胸部から胴回りが甲冑のようになっていて、金色の肩章から伸びる総が、刃のようだ。彼が動くと、カシャ、と甲高い音を立てた。

 ソフィアは眉を下げた。

 

「私が、開くんですか?」

 

 ――タイムゲートのように。

 ニュアンスを込めて問うと、アレンは頷いた。

 

「そうだ。君が開く。だが、その前に」

 

 彼の指先に、白い光が集約していく。

 ソフィアは目を丸めた。

 アレンの指先に集った光が、弾ける。光は水滴のように細かく散り、ソフィアの周りに八つ、浮かんだ。光が水滴から拳大まで膨み、ソフィアの周りをぐるぐると廻り始める。

 

「君には少し、眠ってもらう」

 

 子守唄のように穏やかな声が聞こえてくる。

 八つの光球が、ソフィアを包むように輝いた。甲高い、紋章術の発動音がソフィアの耳を打つ。光球が分子のように結合していき、ソフィアを捕える棒状のクリスタル結界が形作られる。

 そうして出来上がったのは、氷づけられたように結晶内に閉じ込められたソフィアだ。青透明のクリスタル越しに、怯えたソフィアの顔が映っている。

 

「さようなら。ソフィア・エスティード」

 

 アレンは告げて、踵を返した。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 空気が緊張で収縮する。

 マリアは迷わず発砲した。

 乾いた音。一拍遅れて、白い風がマリアの頬をかすめる。マリアは瞬かない。吸い込まれるように模造(イミテイティブ)ブレアを見据え、

 

「!」

 

 息を呑んだ。撃ち抜いたブレアの額は無傷のまま、光弾はブレアをすり抜けあらぬ方向に跳ねていく。

 

「非力ね」

 

 鼻にかかったブレアの声、と同時、視界が激しく揺れた。首がねじ切れんばかりに頭が弾む、頬が燃えた。ついで浮遊感。マリアが息をつく。側頭部を(なぐ)られ、地面に叩きつけられたのだ。

 さらに腹に鈍痛が走った。呻く。

 マリアは首をひねってブレアの蹴りを(かわ)し、両掌を勢いよく地面に当てて、首跳ね起きで立ち上がった。

 

「ほら」

 

 黒い。

 マリアは目を疑った。ブレアの背に、巨大な触手が浮かんでいる。アレンと同じだ、禍々しい巨人の手が、両腕を交差させて防御するマリアの身体ごと薙ぎ払う。

 

「か、はッ!」

 

 岩盤に背を打ち付け、息を吐く。目の前に火花が散った。

 すさまじい威力である。歯を食いしばらねば、意識を手放すところだった。

 眼を見開いたブレアが、さらに苛烈に攻め込んでくる。触手はすでに消えていた。相手は素手だが、拳に衝撃波のようなものが宿っていて、間合いが掴めない。

 ミラージュから叩き込まれた体術で捌きはするも、接近戦では勝負にならなかった。

 

「パルスエミッション!」

 

 マリアはトリガーを絞り、物質改変能力(アルティネイション)でレーザーを五発の光弾に変えて早撃つ。連射し、ブレアとの間に弾幕を張った。咲き乱れる花火のような鮮烈な弾光が薄闇を裂く。

 まるで昼間のように明るくなった。

 十数発の蒼白い光弾が、巣を攻撃され昂奮した蜂のごとく大挙し、ブレアに襲い掛かっていく。

 さらにバックステップで距離を――有利(アドバンテージ)を取る。

 そこから、

 

追尾光線(エイミングデバイス)で眉間を狙い撃つ!)

 

 マリアは跳び退りながら、弾幕の向うにいるブレアを探る。

 

「!」

 

 そのとき、咄嗟に横っ跳びに身を伏せた。その数センチ脇を、白い疾風が鎌首をもたげて奔っていく。轟音。空気そのものが根こそぎ風に刈り取られるように、空寒い音がした。

 浅い呼吸の中、背後で、岩盤が叩き割れる。心臓が狂ったように激しく脈打った。

 驚きでマリアがふり返ると、パルスエミッションの弾幕をあっさりと叩き割ったブレアが、嫣然と微笑みながら突進してきた。

 

(そんなっ!)

 

 足止めにすらなっていない。ブレアの指先が白く光っていた。それで疾風を起こし、岩盤を叩き割ったと理解する前に、マリアは片膝立ちで鋭く構える。

 ブレアが距離を潰すまで数秒。

 両手持ちで発砲した。

 

「外さないっ!」

 

 エイミングデバイスが駆る。弾速は牽制に使ったパルスエミッションより速く、対象を確実に貫通する。

 ――当たる。

 重く、ドンッと音が弾けた。

 瞬くと、鼻先三寸手前にブレアが迫っている。

 

「無駄よ」

 

 やはり止まらない。

 激しく視界が揺れ、マリアの頬骨が悲鳴を上げた。

 

(蹴られた――!?)

 

 呼吸を奪われた。そのショックでふらついたマリアの頸に、さらに拳が落ちる。

 マリアは膝を折り、頭上で受けた。両腕をクロスさせて衝撃を受け止めるも、鉄球を落されたような痛みに首が震え、意識が離れかける。

 

(――強いっ!)

 

 確信すると、迂闊に距離を保っていられないことに気付いた。遠距離戦ができない。それでもどうにか、拳を流してバックステップする。

 ブレアから嘲笑が起きた。

 

「こんな程度が、あなたのアルティネイションなの? あの方を脅かす存在が、このものだなんて――皮肉ね」

 

 逃げるマリアを責め立てるようにブレアはなじる。

 

「好きに、言って、くれるわね」

 

 腕を振りながら、態勢を立て直す。

 ブレアは模造と言うだけあって、瞳に表情がない。他人を嘲っていても、驚いても、彼女の眼だけは決して変わらない。空虚な人形だ。

 

(負けられないわ。こんなのに)

 

 歯を食いしばる。

 自分の能力(アルティネイション)が通用しない。それはエリクール二号星でフェイトと出合ってから続いており、マリアの戦績は芳しくない。

 

(ここなら独りよ。だから、大丈夫――)

 

 そうなる理由は、分かっている。

 マリアは誰より「共鳴」を恐れていた。

 フェイト、マリア、ソフィアが集結することで発揮される紋章遺伝子の力。

 

 マリアは顕現しやすいからこそ、つねに制御と暴走を綱渡りしてきた。まだ完全な暴走は一度もない。タガをかけるくらいの理性はある。だが、力を小さく使うのではなく、このように相手を斃すためだけに、殺傷するためだけにアルティネイションを使い果たそうとすると――インビジブルを思い出す。

 圧倒的破壊の末路。

 自分が「人間ではない」ともっとも強く感じた、あの交戦経験。

 

(それでも、出来るわ。出来るはずよ。私は、恐れたりしない)

 

 額に紋章力を集約させる。エクスキューショナーを退けるために行使した力。

 「生きる」という明確な目的があれば、失敗することはない。ルノワールでは巧くいった。自分に言い聞かせ、アルティネイションを練り直す。

 いままでのように中途半端な能力の顕現でなく、戦艦すらをも破壊する力をイメージして。

 それに対する恐怖を、押し殺して。

 

「哀れなお人形さん」

 

 ブレアの放った一言が、マリアの耳にこびりついた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ブレアの先導でファイアーウォールを奥へ奥へと進んでいく。戦艦の整備工場を思わせるだだっ広い迷路は、ブレアの知識をもってしても完全解明とはいかない。

 

「また、スイッチによる切り替えが必要のようね」

 

「三つ前の部屋だな。戻るぞ」

 

「もう!」

 

 口惜しそうに、ブレアはロックされた扉を叩いた。このファイアウォールには数か所、スイッチが設置されていて、そのON、OFFにより進める方向が逆転する。進める扉は透明な水色をしているが、先に進み、戻ろうとしても、閉じた扉は青くくすんだ色に変わっていて、びくともしない。

 敵を足止めるのに効果的なトラップだった。どれだけ最短距離でファイアウォールを進もうとしても、うまくスイッチを起動させねば通路往復は免れない。

 さらに通路上にはオーナーが放った警備マシンが闊歩しており、それらを壊していくのも、なかなか骨が折れる作業なのだ。

 

「ったく、こいつら、鮫野郎と良い勝負のしつこさだな。しかも火力や装甲はこっちの世界より格段に高ぇときた」

 

「ですが、ブレアさんの先導は間違ってないはずです。警備マシンの数が、徐々に増えてますから」

 

 頭を掻くクリフにナツメが続くと、ネルが短刀をしまいながら溜息を吐いた。

 

「それは良いけど、敵が増えるのは嬉しくないね」

 

「この程度でへたれてんじゃねえよ、クソ虫が」

 

「なんだって?」

 

「フン」

 

 睨み合うアルベルとネルを、ロジャーがぴょんと跳ねて押し止めた。

 

「チョーット待ったぁー! オイラを差し置いてネルお姉さまにちょっかい出そうなんていい度胸だぜっ! このへっぽこプリン!」

 

「八つ裂きにされてぇか! クソダヌキ!」

 

「んだとぉー!」

 

「むッ!? これが世に聞く、三角関係というやつですか!」

 

 ナツメが得心したように手を打った。

 

「言ってる場合かよ……」

 

 クリフが頭を抱える。

 そのとき、

 

 斬っ!

 

 アルフが無名(カタナ)を一閃し、警備マシンを両断した。トロッコモンスターほど巨大な蜘蛛型マシン『クラブガンナー』は、口角に取り付けられたマシンガンを狂ったように天井に向けて掃射し、左右に分かれて爆散していく。

 熱風が通路に吹き荒れ、アルフの銀髪を撫でた。アルフは納刀するや、敵が居なくなったのを確信して先に進んでいく。

 他を寄せ付けない、冷徹な空気だった。アルベルたちが口を閉ざし、アルフを見る。

 しばらくの間、駆動音だけが皆の耳に木霊した。

 

「あ、あの。アルフさん。ありがとうございます」

 

 気を取り直してナツメが礼を言う。

 アルフはふり返らず、ああ、とだけ答えた。

 

「って! お前はお前で口数減り過ぎだろっ! さっきから暗いんだよっ!」

 

 クリフが声を張り上げると、アルフは足を止め、片眉を上げた。敵がいないのを察しているからか、考え込むように宙を見据えて、

 

「……がおー」

 

「突っ込みづれぇよっ!? そんなボケ、どう反応しろってんだ!」

 

「面倒くせえな」

 

 眉間に皺を刻んだアルフは、長い溜息を吐いて、あらためてふり返った。

 

「ギャグセンスねえな~。アルフ兄ちゃん」

 

 ロジャーが足元で、しみじみとつぶやく。するとアルフはびっくりしたように目を開いて、ゆっくり、どこか哀しげに亜人の少年を見下ろした。

 アルベルが鼻を鳴らす。

 

「だが、テメエの言ってることは間違っちゃいねえな、アルフ。こんな七面倒臭い場所、とっとと過ぎるに越したことはねえ」

 

「だから、そのためのスイッチ作業だろ。まったく。アンタたちは少し辛抱って言葉を覚えな」

 

「最初にへばった女がよく言う」

 

「なんだって?」

 

「だぁーっ! だから、その無限ループをやめろーっ!」

 

 クリフが声を張り上げると、アルフが首を振った。

 

「なにかしゃべれと言ったり、しゃべるなと言ったり」

 

「鬱陶しい阿呆だな」

 

 アルベルもすかさず合いの手を入れる。さらにロジャーが、ニカッ、と白い歯を見せた。

 

「いわゆる“こうけっとう”ってやつだぜ。な? デカブツ?」

 

「その喧嘩買ったぞ、チビ介!」

 

「んだぁ、デカブツーー!」

 

 

「――先が、思いやられるね」

 

 ネルが、ため息混じりにしみじみ言った隣でナツメが、首を傾げている。

 

「あの。我々ってたしか、肩に銀河の運命とか、ソフィアさんやマリアさん、フェイトさんの安否とか、いろいろかかってるはずですよね?」

 

「阿呆。この迷路のど真ん中で、運命もクソもあるか。どっちが前か、決めるのが先だ」

 

 アルベルが不遜に言い放つ。その口ぶりから、途中で道を覚えるのをあきらめたらしい。

 アルフが賛同するように頷いた。

 

「ちょうどいいや。なら、スイッチ一つずつあたっていくのも面倒だし、二手に分かれようぜ」

 

「ほぅ?」

 

 興味をそそられたようにアルベルがふり返る。

 ブレアが目を白黒させながら、慌てて押し止めた。

 

「ちょっと待って。皆がバラバラに行動するのはあまりに危険よ。ここはオーナーの開発ルームでもあるんだから」

 

「そうさ。それに、ブレアの先導なしにいまどこにいるのか、分かるってのかい? アンタたち」

 

 アルベルが「任せた」と言わんばかりにアルフを見る。

 アルフは不敵に薄笑って、

 

「勘」

 

「却下だよ! この馬鹿っ!」

 

 ネルの判断は早かった。

 アルフが不服げに眉を寄せるも、クリフがさらに追い打ちをかける。

 

「そもそも迷子になる確率百パーセントじゃねえか! あの三人に続いて、これ以上はぐれるとか洒落になんねえぞ!? こんなトコで!」

 

「困ったなぁ~」

 

「暢気に言ってる場合じゃねえぜ? ナツメ姉ちゃん」

 

「むむぅ」

 

 顎を撫でつけながらナツメが頷くのを余所に、クリフとネルが断固、アルフの意見を却下する。

 アルベルが柄に肘をやって、横柄に胸を張った。

 

「なら、この状況をさっさとどうにかしろ」

 

「だ・か・ら、慎重になんなきゃいけない時だって言ってるだろ……! アンタは少しでも私たちの話を聞いてたのかい」

 

「ったく、さっきからいい加減にしろってんだ。ぁあ?」

 

 殺気立つネルとクリフに、アルフは手のひらを見せて、言った。

 

「作戦ならあるぜ」

 

「なに?」

 

 一同が眉を上げる。

 

「少なくとも、スイッチのある部屋を覚えてる男が一人、このメンバーの中にいるだろ?」

 

「クリフさん、ですか?」

 

「そ」

 

 ナツメの問いにアルフが頷いて、クリフを見る。目を丸くするクリフから、さらにネル、アルベル、ロジャー、ナツメと視線を流して、

 

「班分けは口論が起きやすい二組を別々にし、クリフがいない方にブレアをつけ、先に進めばいい」

 

「ちょっと待ちな。たしかにそれなら進攻は早くなるよ。けど、この先ずっとスイッチの切り替え部屋が続くとは限らないんだ。仕掛け上、手数が必要になったらどうするんだい」

 

「気合」

 

「却下だよっ! だからなんで、そんな行き当たりばったりな作戦なんだいっ!」

 

 アルフは片眉を上げた。

 

「それを言ったら、オーナー説得うんぬんだって行き当たりばったりじゃねえか」

 

「次元が違うだろうが、次元が! つーか、お前も納得したんじゃねえのか? フェイトの話」

 

「したよ。だから、そのコンセプトに則ってこちらも『気合』でどうにかする作戦を――」

 

「それを作戦とは言わないんだよっ! というか、一度大雑把になったらトコトン大雑把だね!? アンタ!」

 

「一応、これにも根拠が――」

 

「うるさいよっ!」

 

 ぴしゃりと叱られ、アルフは不服そうに押し黙った。

 

「フン。ぐだぐだ面倒くせえ」

 

「今度はなんだよ?」

 

 声を張り過ぎて、疲れたクリフがアルベルをふり返る。

 

「要するに、ぶった切ればいいんだろうが。こんな扉」

 

「バール遺跡でやろうとした例のアレかい……」

 

「まあ、今の状況じゃ、一番マシな案か?」

 

「やめた方がいいぜ」

 

 アルフが、クリフたちの合意を止めた。

 

「あ? どういう意味だ?」

 

「今度はなんだい」

 

 水を差されて不服そうなクリフとネルが、ぞんざいに問う。

 アルフはファイアウォールの特殊金属の扉を一瞥し、

 

「腕がもげるほど痛い想いするだけだ」

 

「やったのかよっ!? すでに!」

 

「実はいまも痺れてたり」

 

 腕を振りながら、アルフが頷いた。確かによく見ると、指が変な形で固まっている。

 ロジャーが両腕を組んで、首を傾げた。

 

「ん? ってことはあのデッケエ物音、アルフ兄ちゃんの仕業だったのか?」

 

「ちょっと待ちな。それってここに来てすぐの話よね?」

 

「つまり、みっともなくて黙ってたのか。阿呆」

 

 アルベルにまでトドメを刺されて、アルフは目を大きく見開いて、押し黙った。

 ナツメがぱちぱちと瞬きながら、問う。

 

「ということはもしかして、さきほどまで口数が減っていたのも、その所為だったりします?」

 

「……まさかー」

 

(図星ですかーっ!?)

 

 ナツメまでむっつりと口を真一文字に結んで押し黙った。いままで視線が合わなかった理由も、こういうどうでもいい事情からだと思えてくるのが、アルフ・アトロシャスの難しい所だ。本音と冗談の境界が、いまいち掴めない。

 

「ま、冗談はこれくらいにして」

 

 アルフは声音を落し、場の空気を一新させると一同を見やった。

 

「とりあえず、二手に分かれようぜ。その方が効率がいい」

 

「だから、ここは慎重に行くべきだって言ってるだろ。そこのブレアだって」

 

「まあ、聞けよ。確かに、未開の地に戦力を分散して進むのは愚かだ。けど、俺たちが相手にしてるのはアレン・ガードだろ?」

 

「アレンさんなら、分散しても大丈夫なんですか?」

 

「というより、あいつなら仕掛けはある程度使うが、本命じゃない。必ずどこかで正面衝突を挑んでくる。――そういう性格だろ?」

 

 クリフは低く唸って両腕を組み、押し黙った。ネルもマフラーに口許をうずめて、一考する。

 一理ある話だった。

 

「オ、オイラ! 絶対なにがあっても、ネルお姉さまと一緒じゃなきゃヤだぜ!?」

 

 ロジャーが慌てて挙手する。

 『二手に分かれるなら』と、勢い込んで主張しているのだ。

 ナツメが人差し指を顎に当てて、中空を見据えた。

 

「と、いうことは。クリフさんと団長が、同じグループってことですね」

 

「マジかよ!?」

 

 口端を歪めるクリフに、アルベルが、フン、と鼻を鳴らす。

 

「なら、ナツメ。お前はアルベルたちと行け」

 

「ほぇ?」

 

「バランスいいだろ。その方が」

 

 一同を見渡して、アルフが言う。ネルが硬い表情で、手を挙げた。

 

「ちょっと」

 

「なに?」

 

「回復役が、私とアンタで被るのはどうかと思うんだけど」

 

「ネルおねぇさまぁああああっっ!」

 

 本能的に、自分をチームから外しにかかっていると察したロジャーが声を張り上げた。

 アルフは数秒、押し黙って

 

「活性剤」

 

 試験管入りの道具袋をクリフに手渡した。軍用の箱型ウェストポーチである。見た目は布製品と変わらないが、耐久力は特殊繊維で出来ているため、電磁ボム程度の衝撃なら無傷で済む。

 ネルが、なにか言いたそうに口を開閉させた。

 

「じゃ、これで話は終わりだ。行こうぜ、ブレア」

 

「ほ、本当に大丈夫なの?」

 

「多分ね」

 

 アルフはそう言って、ブレアを連れてスタスタと歩いていく。それを感激しながら追っていくロジャーと、どうにかメンバーチェンジを試みるネルが、騒がしくも隣の部屋へと移っていった。

 

 

 

「ホントに大丈夫なのか? あいつら」

 

「ネルさんは、ロジャーくんが苦手なんですか?」

 

「まあ、ちょっとだけ、な」

 

 クリフが答えると、ナツメは不思議そうに瞬いて、去って行ったネルたちを見つめた。

 

「愚図愚図してねえで、行くぞ」

 

「って、おい! どっちが前か分かんねえくせに先々行くなっつーの!」

 

「阿呆が」

 

「ぁあ? なんだと気障野郎」

 

 互いに睨み合いながら、一つ前のスイッチの部屋へと戻っていく二人。

 残されたナツメは、不思議そうに首を傾げた。

 

「あれ? 揉めない組み合わせのはずなのに、――あれ?」

 

 素朴な疑問は、しばらく晴れそうにない。

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